労働基準監督署への申告の効果


「それで労働基準監督署が調査をした結果、アサシンの違法行為が確かめられたとするぜ。その場合に労働基準監督署は、いったい何をしてくれるんだい。ちゃんと菱田社長が労働法規を守るよう、強制をしてくれるのかな。我々に対する残業代などが未払いになっている分についても、きちんとアサシンが支払うようにさ」
   

「残念ながら、そういうわけではありません。いわば労働基準監督署というのは、ちょうど警察みたいなものですからね。ただ単に企業の違反を摘発し、それに対して刑事的な処罰を下すだけなんです。しかも労働基準法への違反に対する処罰は、まるで冗談のように軽いものでしかないんですよ。なにしろ最大でも半年間の禁固か、あるいは三十万円の罰金というように」

「何人もの人生を狂わせておきながら、わずか三十万円の罰金を支払うだけでいいのかい。だとすると労働基準監督署による調査だなんて、あまり効果は期待できそうにないなあ」

「確かに労働基準監督署の調査だけだと、大した効き目はないでしょう。しかし労働基準監督署が調査を行なえば、それなりの効果も結果として生じるんですよ。なにしろ公の機関によって、アサシンの違法が立証されるわけですからね。それによって我々は、アサシンが法律に違反していたことを間違いのない事実として主張できるようになるわけです」

「だってアサシンが労働法規に違反しているのは、まぎれもない事実じゃないか。それをどうして、わざわざ労働基準監督署に立証なんかしてもらう必要があるんだい」

「それが間違いのない事実だと知っている人は、まだ我々だけしかいないわけでしょう。今の時点で我々がアサシンの違法を唱えても、誰もが必ず信じてくれるとは限りません。事情を知らない人にとっては、それが単なるデマだという可能性も考えられるわけですからね。たとえば我々が何か個人的な恨みなどから、事実に反する中傷を広めようとしているんじゃないかというようにです」

「あ、なるほどね。そういう可能性だなんて、これまで全く考えてもみなかったよ。けれど言われてみれば確かに、そういう場合も世の中には多いんだろうな」

「その時点で我々がアサシンのことを公の場で非難した場合、逆にアサシンから営業妨害などで訴えられる可能性すら出てきます。事実に反する中傷や誹謗を行なって営業を妨害するのは、刑法で禁じられている犯罪ですからね。もちろん菱田社長たちの側が、あえて我々のことを訴えるとは思えませんけれど。事実関係を調べられたらアサシンの労働法規違反が明るみに出るだけで、やぶへびとなってしまうのが目に見えているわけですから」

「事実に反する中傷や誹謗は、法律に触れるというのかい。だとすれば事実に基づいてアサシンのことを非難するのは、かまわないわけだな」

「そのとおり。それは中傷や誹謗ではなく、正当な批判ですからね。それを禁じてしまうのは、言論の自由を認めた憲法に対する違反になりますし。労働基準監督署によってアサシンの違反が確認されれば、その事実を我々は自由に唱えることができるようになります。なにしろ我々の言っている内容が事実だと、公的な機関によって証明されたことになりますので」



 

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