みそか月なし千とせの杉を抱あらし 貞享元年(1684)8月30日
   「甲子吟行」の途中、伊勢神宮参拝の時の句。
 *芋洗う女西行ならばうたよまむ   貞享元年(1684)秋
   「甲子吟行」のとき西行谷で詠んだ句。
 *蘭の香やてふのつばさにたき物す  貞享元年(1684)秋
   「甲子吟行」の西行谷の帰り茶店で詠んだ句。
 *蔦植えて竹四五本のあらし哉    貞享元年(1684)秋
   「甲子吟行」の帰途、廬牧の草庵を訪問したとき詠んだ句。
 *梅の木に猶やどり木や梅の花    貞享五年(1688)2月上旬
   網代民部雪堂邸で詠まれた句。
 *紙きぬのぬるともをらん雨の花   貞享五年(1688)2月上中旬
   路草亭(久保倉右近)にて。
 *此山のかなしさ告よ野老堀     貞享五年(1688)
  (山寺の)   (ところ)=やまいもの一種
   伊勢市中村町の菩提山神宮寺にて、芭蕉の訪れた頃は荒れていた模様。
 *盃に泥な落としそむら燕      貞享五年(1688)
   伊勢市楠部町にて、古市より宇治、中村に向かう時に通る途中の村。
 *物の名を先とふ芦のわか葉かな   貞享五年(1688)
   竜尚舎(竜野伝左右衛門ひろちか、神道家)にて。
 *いも植えて門は葎の若葉かな    貞享五年(1688)
   草庵、二乗軒にて。
 *暖簾の奥ものゆかし北の梅     貞享五年(1688)
 (のうれん)
   園女亭にて。
 *神垣やおもいもかけず涅槃像    貞享五年(1688)
   外宮の館にて。
 *御子良子の一もと床し梅の花    貞享五年(1688)
  (おこらご)
   神域の子良館にて。
 *何の木の花とはしらずにほひかな  貞享五年(1688)
   神路山にて。
 *はだかにはまだ衣更着のあらし哉   貞享五年(1688)
        (きさらぎ)
   神路山にて、このあと杜国と落ち合い吉野の旅に出かける。
 *月さびよ明智が妻のはなしせん   元禄二年(1689)
   島崎又玄宅にて。
 *たふとさにみな押しあひぬ御遷宮  元禄二年(1689)
   外宮の遷宮を拝して。
 *秋の風伊勢の墓原猶すごし     元禄二年(1689)
   伊勢市中村町周辺にて。
 *門に入ればそてつに蘭のにほひ哉  元禄二年(1689)
   守栄院にて。

 以上年代順に並べてみました、初期の作は漢文調の句もみえ芭蕉の句の変遷も窺える。ただ全体に軽く即興風の口調が多く伊勢での句はあまり評価されていないのが残念だ。個人的に好きな句は「此の山のかなしさ告げよ野老堀」「神垣やおもいもかけず涅槃像」「秋の風伊勢の墓原猶すごし」など、とくに「秋の風・・・」の句は広がりと強さを感じさせて呉れる、奥の細道の後半北陸での弟子の墓参りの時の句「塚も動け我が泣く声は秋の風」に通じる珍しく感情の高揚した句として親しめる。