きっかけは、至極単純。
First imposition
「お主が1-5の氷雨皇か?」
「……あぁ?」俺と夏姫の昼食は大抵がパンだ。
この高校に入学して早1ヶ月。暖かい陽気に誘われるようにひときわ賑やかな屋上の一角に
焼きそばパンを頬張っていた俺の目の前で綺麗な女生徒が唐突にそう、切り出した。こんな1年見た事あったっけな…
綺麗、と言うか無機質な感じがする。夏姫に似ているな、とぼんやり思った。「お主が氷雨皇か?」
ぼけっと焼きそばパンを齧っている俺に女はもう一度尋ねてきた。
とりあえずパンを咀嚼して飲み込んでから返事を返す。口に物を入れながら喋ってはいけない。「…そうだけど?」
「そうか、私は1-3に在籍する久嶋桜子と言う。お主に少しばかり聞きたい事があるのだが時間は空いているか?」
「空いてるって言えば空いてるが…」
「では少々失礼する」久嶋桜子はそう言うとおもむろに俺達の前に腰を降ろす。長く切りそろえられた黒髪がぞろりと揺れた。
「で、何か用か?」
「うむ、実は先日iMacと言う物を購入し、それが今日我が家に届くのだ」
「ほぉ」
「だが我が家にパソコン、と言う物を触った事がある者は居らぬし、初心者がいきなり触って壊してしまっては
元も子も無いであろう」
「はぁ」
「それでPCに詳しいと言われる桝田教諭に尋ねてみたのだ。我が学年で最もパソコンに詳しい人物は誰であるか、と」
「…………」
ちょっと嫌な予感。
「そこで学年一のパソコンオタクでMacも使いこなせると言うお主の名が出た訳だ。私が頼みたい事の察しはつくな?」
「誰がパソコンオタクだ」
つか、そこで俺の名前出すなよ先生。
なんだよガッコで一人も持って無いとか言われたMac持ってた位で
なんだよちょっと授業で2時限かけて打ち込む筈だったデーター演習を30分で終らせた位で
高校のHPをついでに作らされてから桝田先生には気に入られたらしく、事ある毎に呼び出されている俺である。
しかし校内放送使って毎日呼び出すのだけは止めて欲しい、マジで。心の中で少し毒づいてどうしたもんかと思案する。
大体Macのセットアップなぞ簡単なのだ、物凄く。コンセントを差し込んで電源入れて、後はパソコンの指示に従って
情報を入力していけばよいのである。
「それくらいなら自分で…」
「更に」
びしっと久嶋が俺の声を遮った。
「プリンタの接続とインターネットへの接続もやってしまいたいのだ」
「……………………」
「都合よく明日は土曜で休みだ。一晩かけてでも終わらせたい」ちっとも人に物を頼む態度ではない表情と声で久嶋が一言。
「お主ならできるのだろう?」
n
n
n
と、言う事で
結局押し切られる形でパソコン設置を引き受けてしまった俺は、授業終了後久嶋家へ行く事となってしまった。
久嶋と一緒にバスに揺られて1時間ばかり。タラップを降りて辺りを見回す。
同じ県内ではあるのだが、ほとんど聞いた事の無い地名で勿論訪れるのも今日が初めてだ。
緑が多く人の少ない、のどかな田圃道が続いている。そんな道を徒歩5分程の処に久嶋の家はあった。
『櫻姫神社』「神社かよ…」
「うむ、こっちだ」
しみじみと境内に咲き誇る桜を眺めつつ、俺は久嶋の案内で舎宅の方へと向かった。
古びて風格を醸し出している神殿と違わず家の方も立派である。古めかしいのにボロいと言うよりは味のある家だ。
重々しい音を立てて木造の戸を引き、ぎしりと音を立てる長い廊下を渡り、部屋まで通された。
畳という雰囲気に合うように茶や赤を基調としたシックなベッドやソファが置かれている。
ローテーブルを脇に立て掛け部屋のど真ん中には俺と同じオレンジと白のiMac箱。
奥にはあそこにiMacを置くつもりなのだろう、正座して使える低いパソコンラックが既に設置されていた。
「でわ、後は頼むぞ氷雨皇」
「へいへい」
俺一人にやらせるつもりかよオイと思わないでも無いが、ここまで来てしまったものは仕方ないと
諦めてさっさと箱の開封に取りかかるのだった。「久嶋、コンセントどこだ?」
「こっちだ」
「……………届かねぇ………延長コードを…」
「そんなものは無い」
「買ってこいーーーーーッ!(泣)」
(なんとか家の中で延長コード発見)
「…………氷雨皇、これはどこが電源なのだ?」
「……………ここだここ(スイッチおん)………ホレ、そこに情報の入力しろ」
「む、キーボードを使うのだな」
(10分後)
「氷雨皇!mはどこだmは!」
「そこだっつーの!いい加減覚えろ!」
「……………さて、取りあえずパソの設置はこれでいいから次はプリンタだな。久嶋、ケーブルあるか?」
「ケーブル?なんだそれは」
「…………プリンタとパソを繋ぐ線だよ。付属してねぇのか?」
「そんなものは無い。だがそういば必要であると聞いて購入しておいたものがあったな(ごそごそ)」
「おっ、流石………ってコレSCSIケーブルじゃねーか」
「なに?使えないのか?」
「使えんわ!(泣)あーもう買いに行くぞ買いに!近所に電器屋は?」
「無い」
「…………(涙)」
取りあえず買いに行くのは明日にしてドライバを入れ、ケーブル繋ぐだけ、な状態にしておく。
「………最後はネットだが………」
「その前に夕餉だ」
久嶋の持ってきた膳には新じゃがと牛肉の甘辛煮に菜の花の胡麻味噌和え、白米
大根と麩の味噌汁と塩焼きの真鯛が美味しそうに湯気を立てていた。
「………イタダキマス(ぱちん)」
ここで一旦小休止。
「で、ネットだけどよ…(もぐもぐごっくん)プロバイダーに登録しとか無いと話になんないんだが(もぐもぐ)」
「(もぐもぐもぐ)案ずるな、既に登録済みでアカウントも取得済み、ついでにテレホーダイにも入っておるぞ(ずずずー)」
「お前用意だけはいいんだな…(ずぞぞぞぞ)」
「予備知識は詰め込んでおいて損は無いであろう?(もぐもぐ)」じゃぁなんでUSBケーブルで無しにスカジー買ってきやがるンだよ、とは言わないでおいた。
「んじゃネット繋げるか。久嶋モジュラージャックどこだ?」
「は?どこの怪物だそれは」
「…………………(嫌な予感)電話線繋ぐ穴」
「あぁ、それなら居間にあるが」
「………………(予感適中?)この部屋には………」
「無い」
「うがぁぁぁ!!(泣)」
「だから延長ケーブルを買っておいたぞ」
「早く言えーーーーッ!(涙)」
だんだん精神的な疲弊で壊れてきたなぁと実感できる自分が悲しい。
ちょっとこめかみを押さえつつコードをひっぱってなんとか居間のモジュラーにハブで接続。「じゃー後はリモートアクセスに情報入れるだけだな」
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
ぽちっ
つー--ぴぽぱぽぴぽぱぽぴぽ
ぴっ ぶーんぶーん ガーーーーーーーーーーーーッ………………………………………………
『接続パスワードを認識しません』
「…………………」
モデムの設定をいじくって再トライ
ぽちっつー--ぴぽぱぽぴぽぱぽぴぽ
ぴっ ぶーんぶーん ガーーーーーーーーーーーーッ………………………………………………
『接続パスワードを認識しません』
「…………………」
もう一度入力し直して線が繋がっているか確認してモデムの設定を見てコントロールパネルいじって再々トライぽちっ
つー--ぴぽぱぽぴぽぱぽぴぽ
ぴっ ぶーんぶーん ガーーーーーーーーーーーーッ………………………………………………
『接続パスワードを認識しません』
「な・ん・で・こう手前ェのパソは一筋縄で行かないかなぁ」
「お主の入力が間違っているのでは無いか?」
「お前の言った通りにちゃんと入れたっつーの。ちょっと設定情報貸してみろ」
「うむ」
「……………………………………仮パスワード切り替え日過ぎてんのに仮パス入れてんなよ(お疲れ)」
今度こそ繋がってくれよ、と願いを込めてreturnキーを一押し。ぽちっ
つ--ーぴぽぱぽぴぽぱぽぴぽ
ぴっ ぶーんぶーん ガーーーーーーーーーーーーッ………………………………………………
『ネットワーク接続を開始しました』
もう万歳する気力もありませんで死た。
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サクひーはじめてものがたり(謎)
サクさんは柚っぺの書く「online game」の方で活躍して(?)るですよ