「で、どこなんだよその約束の荒野って」

悲しいかなお約束の台詞である。

『どこなんだろうねぇ』

スクリーンの中の男が一応のほほんと問いに答えはしたがまったくちっとも答えになっていない。
結局俺達は道を進む事もできずにアタマ寄せあって作戦会議、と言う事になってしまった。
「っていうかなんで事前に打ち合わせしとか無いんだよ」
「べろべろになるまで飲んじゃったから★」
「…………」
俺も飲んだ手前怒るに怒れない。でも一撃…一撃くらいはッ!
音遠を1発どついておいてから皆に倣って草の地面に腰を降ろす。隣には猫の姿に戻ったヴァイがちょこんと座った。

『まずはこの大陸の地図を表示するよ』

あすかのスクリーン映像が切り替わり、リアルタイムでスキャンニングされた地図が写し出されてゆく。
大陸の右上の、島が沢山集まっている半島の先端には今の自分達の所在地なのであろう赤い印が付いていた。

『ここが今の所在地ディアズ連合共和国』

思った通り赤い印がぴこぴこ点滅する。

『で、これが南のヴァリル王国、西のフィーメイル皇国、最後に北のフィリップ自治区というように大まかな国が4つ』

ディアズから時計周りに各地がぴこぴこと黄色く点滅した。

「hぁ………」
『まぁゆっくり覚えて』

あすかが苦笑して地図上に国名を表示したがそれは英語表記………読めねって(駄目人間)
辿々しく英字を発音している俺の隣ではヴァイがじっと地図を見つめながら徐に口を開いた。

「待て」
『ん、何?』
「これが現在のこの大陸の正確な位置か?」
『ほぼ正確なはずだよ』
「どしたの?ヴァイ君」
「……………」
少し考えてヴァイは睦美にパソコンをどこかへ繋げるよう指示した。データーアーカイブNo.003612、長い番号である。
「あれぇ?ヴァイ君これ…」
「スクリーンに投影してくれ」
「は〜い」
次の瞬間俺達中央部に出ていた地図スクリーンの隣にもう一つ画面が現れる。
右上が飛び出ていて、今俺達が居る大陸に似たような形の地図…いや…これは…
「…同じ大陸…?」
「そうだ。こちらはカインが以前ソフトメーカーから収集してきたデーターを基に作られた地図だ」
「ウチの会社で保存してたヤツか」
「トレント、この2枚をトレースできるか?」
「うん、今やってる」
睦美は顔も上げずに答える。最後にカタッと一際大きくキーを押す音が響いた。

『あらら…大分地形の歪んでる地区があるねぇ』

ゆっくりと重なった2枚の地図はほとんどの部分が重なっているが一地方酷く地形の変わっている場所があった。
Feemail Kingdom
黄色く点滅している印の下にはそう記されている。

それを目にする事に拠って当の黒猫は何やら納得したらしい。

「推論だが、パンドラはこの世界を書き換えていっているのでは無いかと思う」
「書き換え?」
「あぁ。データーソースの書き換えによって地形を調節しているのだろう」
「それで一番書き換えの進んでいるここが諸悪の根源、パンドラの住居にして『約束の荒野』じゃないのかって事かい?」
「恐らくな」
『それにしても単なるいちデーターが世界を書き換える程の力を持ち始めてるとなると厄介だねぇ』
神妙に呟くあすかの呟きに俺の頭にもぎょっと不吉な考えがよぎる。
「厄介って…もしかして俺らが排除されたりするかもしんないってか?」
『そう。今回は過去データを遡ってプログラムの隙間に潜り込んだから多分バレて無いとは思うけど』
「だがそれほど書き換えのスピードは速くも無い。まだ完全に力を得た訳では無いだろう」