―ピピピピピ ピピピピピ ピピピピピ

夢の中で電子音がしたと思ったら
それがだんだん現実の音へとすり変わってゆく。

・・・・・朝だ。

心地よい眠りを妨げている耳障りな音を、目覚まし時計を叩くことで止める。
朝は苦手だ。
低血圧な事に加えて寝るのが遅いのだ(つまりは自業自得なのだが)。

こうやって目覚まし時計を止めるまでは恐ろしい早さで動けるのだが……
問題はここから

「…………ねむ………」

まだ眠いと訴える頭を無理矢理覚醒させ、無理矢理体を動かす。
朝っぱらから重労働だ。
俺だってこんな日曜日に早起きしたくもねぇんだが
隣で寝てる阿呆は目を覚ました時、食う物がないと酷く機嫌を悪くするときた。
横でぶちぶち言われるだけなら耳に入れないで放っとけばいいんだが
手まで出してくる乱暴者のためしょうがない。後に自分で片づけをするのがこれまた虚しいのだ。
俺以上にねぼすけな阿呆は、しっかりとベッドの半分以上と毛布を占領して(言っておくが俺のベッドだ)眠りこけている。
まだ姑くは起きないだろう………

階段を降りて薄暗い廊下の電気を付け、リビングへ入る。
眩しさにしぱしぱする目を擦りながら時計を見るとAM7:30
日曜に起きるにしては絶対早いよなといつも思う。
取り敢えずは朝食の準備だ…

手始めに冷蔵庫からバターとベーコンに卵を二つ取り出す。
ベーコンをちょっと大きめのざく切りにしてからフライパンを出し、ガスコンロに火を付けた。
フライパンが暖まるまでの間にパンを2枚をトースターに放り込んで3分と設定。
ちょうど熱されたフライパンにバター20gを(一切れ10gづつに切れてるバターは便利だといつも思う)
放り込んで、少し溶けた頃合にベーコンも放り込んだ。

じゅうじゅういってるベーコンを一ケ所に固めてそこへポンと卵を割り落とす。一際じゅうっと音が大きくなった。
卵が固まらない内にフライパンを少し担げて黄身を動かす。綺麗に真中に持ってくるのには結構コツがいるのだ。
軽く塩胡椒を振って火を弱くし、かぽっとフライパンに蓋をした。
目安は黄身が半熟になる辺り。

これをもう一回繰り返しでベーコンエッグを2コ完成させる。

ちょっと前にチンと音を立てたトースターからトーストを取り出して
出来たてを乗せた。

そしたら次は小さい手ナベに水200cc弱。これもガスコンロに置いて火を付ける。
あっという間に沸騰するから、そのちょっと手前でアールグレイの葉っぱを匙2杯………おまけにもうちょっと。
(何でかっつーとミルクティーは茶が濃い方が旨いからだ)

沸騰し過ぎないよう気を付けてたまに匙でぐるりとかき回す。

茶が抽出されたら牛乳をどぱっと。
俺的には白っぽくてミルクティーかこれとか言う位牛乳臭い方が好きなんだが
阿呆は濃い目の方が好みなので、仕方なくまだ紅茶の色が強く残ってる辺りで入れるのを止めた。
茶漉しで濾して

ミルクティーも2杯分完成。

時計を見るとAM7:45

我ながら素晴しい手際さだ。
サラダも作る余裕はあるんだが
面倒臭いからやめた。

そろそろ阿呆を叩き起こす時間だ。

2階にある俺の部屋のベッドの上に現在寝ているのは
その元来の所有者たる俺では無く、色素の薄い肌にくせの強い茶色の髪。
同じ15歳にしてはやけに大人びた少女がすやすやと言おうか…微動だにせず静かに眠っていた。(いつ見ても気持ち悪い)

「おいナツ、朝だぞ」
「……………………………おぅ」
蚊の鳴く様な小さい声(というよりも音)が返ってたが、動きはしない。
「ナツ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ぐう」
「ぐうじゃねぇぇぇッ!!!」
思わず毛布をひっぺ剥がして怒鳴る。いつもの事だと思うとなんだか悲しい。
「メシが冷める紅茶も覚めるさっさと起きろ馬鹿」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは」
馬鹿に馬鹿と言われたく無いと言う目でそこだけしっかりとナツは反論を返してきた。
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い、言われんのがイヤならさっさと起きろ」
「はいはい・・・」
漸く起きる気になったのか、寝ぼけ眼のままナツは漸くのそりとベッドから這い出てきた。(アレな言い方だが這い出たという表現は正しい)
ナツ――志津丘夏姫は俺の小学校からの腐れ縁で一応は相棒という存在である。(何かをする時互いに何かしら利害が一致しあうカードを
提示しないと協力し合わない関係を果たして相棒と呼ぶのだろうか、取り敢えず金の貸し借りのときには必ず相棒という台詞が出てる気がする)
物静かで大人びていて、容姿端麗。幼い頃から剣道をやっている堅実な文武両道派。
と、学校でコイツのファン共は言っている「らしい」。(らしい、ってのは俺が直にそれを聞いた事が無いからだ。聞きたいとも思わないのだが)
しかしながら実体は協調性が無くて面倒くさがりで、理屈っぽくて手の前に口の出る、ついでに手も出る単なる嫌な奴である。天の邪鬼とも言う。
まぁ顔は置いといて俺達の間で殴り合いもしばしばだが剣道やってるから棒を持たれせばやったらめったら強い。
成績は俺と一緒につるむ位なんだから実はどっこいどっこいだったりするのは言わない方がいいんだろうか。
とりあえず皆誤解している、この阿呆はそんな御大層な人間じゃねぇと俺は声を大にして言ってやりたい。
じゃあなんでそんなのと一緒に居るんだと聞かれれば結局似た者同士とか類は友を呼ぶとかヤな言葉しか浮かんでこないのだが
きっとそんな性格のコイツに救われている部分もあるのだろう。‥‥‥‥‥多分(自信無し)。
ま、所詮は腐れ縁とかいう奴だ。そんな腐れ縁は毎週週末に誰も居ないこの家に泊りに来る。
下らない話で夜を明かしたり酒飲んだりネットしたりとやる事は色々だが毎回気がつけば窓の外が明るいのは既にお約束。
そして今日も、つい数時間前にベッドに潜り込んだばかりだったのでこの死人の様な状態も頷ける、頷けるのだが
それなら起きた時にメシがなくても怒ったりしないで欲しい。俺も眠いんだメシ位テメェで作りやがれと言ってやりたい。
確かになんでもできる様な顔しといて焼そばを作らせればゴムのように固かったり
得意料理はチ●ンラーメン(勿論湯を注いで3分のアレである)だったりして、おまけに俺の家の台所をめちゃくちゃに荒らしてくれ
トドメにはメシ作ってやったんだから後片付けはお前ねvと恩着せて結局掃除するのは俺、と言う事になるのが目に見えているので
そんなイタイ思いをする位ならと結局自分が作ってる辺り涙が出そうである。

「ひー、サラダは?」
「ねぇよ」
「作れよ」
「ヤだよ、テメェがやれよ」
「えぇーー」
「えーじゃねぇ!」
いつものように繰り返されるテンポの良い会話だけがリビングに響く。
静かなのを思い出してテレビのスイッチを入れると途端に音が室内に滑り込んだ。
「ちなみにひー、今日の予定は?」
「もっかい寝て、起きたら本屋行ってヒマ潰してカフェで茶」
「うし、付き合うか」
「はいはい」

所詮は腐れ縁だなんだと言ってはみても
こうやって自分の言いたい事を分かってくれて、向こうの言いたい事も自然と分かってしまう関係も
まぁ悪くはないかな、と思う空気の気持ち良い、静かな日曜の朝。

「げ、カネねぇ、貸してくれ」
「こないだ貸したランチ代返してくれたらな」
「……………………頼むぜ相棒」
「こう、お前の事を思って谷に突き落とすのも相棒の役目なのだよ★」

前言撤回。

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ひーさんは結局どこでも苦労性、と言う話(爆)