Warkin the Winter Wounderland.

宗教がどうだとか、そんな事に関係なく誰もが街に溢れる歌とイルミネーションで
自然と心躍る12月24日、クリスマス。

楽しげにはしゃぐ子供達、幸せそうに寄り添って歩いている恋人達。
日本はつくづく資本主義に踊らされている。
そんな事を考えながらいつもよりずっとずっと多い人の流れに逆らうように、村雨は新宿を歩いていた。
いつものように歌舞伎町でぶらぶらしたり、某骨董店へ足を運ぶのも悪くは無いのだが
冬の空気を身に浴びて、どこに行くでもなくただ、気の赴くままに街中を歩く。村雨はそれが嫌いではなかった。
つまり歌舞伎町から適当に歩いてきたらJR新宿駅の東口付近に居たと言う訳だ。
―人はそれを暇人と呼ぶ。

ぼうっとコートのポケットに手をつっこんで、何を考えるでも、何を見るでもなく。
たまに吐く白い息に意識を向け、雑踏に流されていたのだが
ふと、そんな村雨の思考に、聞き覚えのある声が唐突に割り込んできた。
鈴を転がしたような、高い、良く通る少女の声。

「ムラサメーーーー!」

そんなでかい声で呼ぶんじゃねぇよハズカシイと言いたい心持ちでゆっくり振り返ってみると
後ろ10M程から人込みをかき分けてまっすぐこちらへ走ってくるのは金髪の華奢な少女。
いつもの制服ではなく、クリスマスらしい赤いコートに白いマフラー。背中にはベージュのリュック。
胸にはちゃんと黒猫を抱えている。
軽やかな足取りで難無く村雨のもとへ到達したマリィ・クレアは開口一番
「Merry X´mas!!」
ニコリと村雨に笑いかけた。

村雨は予想だにしなかった事態に一瞬呆気にとられた。
いや、実際誰か仲間にでも会えたなら適当に飲みに行こうかくらいには思っていた、思っていたが。
「よりによって嬢ちゃんか・・・」
「ヨリにヨッテって?」
「いや…」
真神学園が新宿区内にあるのだからそりゃマリィの住む美里家も新宿近くにあるのだろう(実際どうだかは知らないが)
それ以前に新宿だしな、と訳の分からない理屈で自分を納得させて、次の瞬間何故にそうまで理屈こねてンだ俺はと
思わずつっこんでみたり。
ちっとも子供に好かれそうでない容貌の村雨に、何故だかマリィは良く懐いていた。
仲良しさんだな★と言うのは龍麻からの伝聞で、子供同士だからでしょうと言うちっとも嬉しく無い伝聞は御門より。
「なんだってこんな所に一人でいるんだ?」
「クリスマスプレゼント買いにきたノ」
「そういうのは事前に買っとくもんだろ」
「何買おうか迷ってタ」
どうやら出会って挨拶、ハイサヨウナラと帰す気はなさそうな勢いのマリィに村雨は結局付き合う事にして2人は街中を歩き始めた。
正確な目的地は目前の新宿駅なのだが。
にこにこと笑うマリィの歩調にあわせてゆっくりと歩きながら背中に担いでいるリュックサックに目をやる。
最近流行りである大きめなデニム地のリュックがマリィの歩みと共にガサリと音を立てた。
「今日はネ、マリィのオタンジョウビなノ」
「ほー」
「それでパパやママやオネェチャンがこれからオタンジョウカイ開いてくれるノ♪」
「オタンジョウカイねぇ……」
オタンジョウカイ、やけに懐かしい響きだ。
村雨はどちらかと言うと聞き手に回り易いが、淡白な反応しか返さない。
そうみえて実はちゃんと聞いている事をマリィは知っているので無反応でも気には留めていなかった。
一見兄妹に見えるかどうかの瀬戸際なこの2人組の仲の良さは、そこら辺にあるのかもしれない。
「ムラサメはどうしてココに?」
「あー?ヒマだったからよ」
「ムラサメはクリスマス一緒に過ごすヒトいないの?」
「居てどうする、居て」
思わず苦笑してぐしゃっとマリィの髪をかき混ぜた。
マリィの話を聞く内に、すぐ目前へと近付いた駅の方へと顎をしゃくる。
「ホレ、それより葵の姐さんが待ってんなら早くかえんな」
「Yes!、あ、ソウダ・・・・」
そのまま走り去るかと思われたマリィはおもむろに立ち止まり、リュックの中を漁りはじめた。
「・・・・?」
ひょい、と覗くとリュックの中には綺麗に包装された『プレゼント』達がいくつか収められている。
ごそごそとリュックの中を漁って、ようやく目標物を見つけると、それを村雨の目前(とはいっても目よりは
かなり下の方なのだが)に笑顔で突き出した。
「ハイ、コレ!」
目の前に、ずいと差し出されたのはマリィのリュックの中身の一つで、小さめの青い包装紙に包まれ
おまけにリボンがくるんと巻かれている紛う事なき『プレゼント』だ。
「Merry X´mas!ムラサメ」
「そうきたか」
「仲間だもんネ♪」
「仲間、ねぇ」
仲間、と言う事はまさか23人分買ったのかこの嬢ちゃんはと云う問いは敢えて避ける事として
村雨はひょい、とマリィに差し出された包みを取り上げた。
「有り難く頂戴しとくわ」
「いっておくケド、マリィは23コも買ってないヨ」
ダイスキな人だけなノ、と言ってマリィはまたニコリと笑った。
無邪気な笑みは、どうやらただ可愛いだけでは無いらしい。
「そうかいそうかい」
ダイスキ、ねぇと村雨はまた苦笑する。こちらも久しく聞いていない実に可愛らしい台詞に聞こえる。
とてつも無く白々しく聞こえたのはきっと気のせいだろう。なにせ村雨は相当な天の邪鬼だ。
「ヒトのコトバは曲げて取ッちゃダメなんダよ?」
「ハイハイ」
お見通しですかいと天を仰ぐそんな村雨の視界にふと入ってきたのは冬場に見られる何の変哲も無い雲。
「お」
「?」
しかしそんな空一面を覆う雲を見、村雨はにやりと笑う。これは・・・
「そうだな・・・嬢ちゃん、ちょいと目ェ閉じてな」
「ナニ?」
「ま、プレゼントのお返し、ってヤツだ」
「・・・・・?」
端から「お返し」など期待していなかったであろうマリィの目に疑問符が浮かぶのが見えた。
「ま、いいからいいから。1,2,3で目ぇあけてみろ」
「Yes」
一体どうしたのだろうと首をひねりつつマリィ目を閉じた。
イチ、ニイ、サン、と心の中で数えてからマリィはゆっくり目を開く。
楽し気な目の村雨がまず目に入り、彼の指差す方へ目を向けると・・・・
「コレハ・・・・?」
「今日は冷え込んでたからな。ホワイトクリスマスだ」
空に立ち篭める雲へ目をこらしてみると、つい先ほどまでカケラの変化も無かった空からは
白い粉雪が絶え間なく落ちて来るのが見えた。
ひらりひらりと花弁のようにゆっくりと舞い降りて、差し出したマリィの手のひらに降りてくる。
「ワァ…」
今まであまり外に出る事ない学園生活を送らされていた事に加えてここは東京、
雪もあまり降らない地にいるマリィにとって雪は大変珍しい。
はぁ、と手にとった結晶に息を吹き掛けて、溶けてゆく様を目をこらしてみてみたり
降ってくる雪を手にとっては、興味深気にしげしげと結晶を眺めている。
と、そんな自分を面白そうに見ている村雨にマリィがかわいらしく首を傾けた。
「ムラサメがコレ降らせたノ?」
「ま、そう云う事にしといてくれや」
冗談めかして笑うマリィににやり、と村雨も笑う。
それでも素晴しいまでのタイミングで降り出したのだ。運の力と言っても過言にはならないかもしれない。
「メリークリスマス、あとはハッピーバースデイ。ってか?」
いつも皮肉気な笑みしか見せない村雨に、一瞬柔らかな笑みを見つけてマリィはきょとん、と目を瞬かせた。
「ムラサメッって」
「あん?」
「笑うトカワイイね」
言葉が理解できなかったのか、驚いたのか呆れたのか村雨の表情が止まる。
「オイオイオイ…」
「来年もヨロシクネv」
「………ハイハイ」
兄妹に見える様な見えない様なこの奇妙な2人の関係は今後も暫く続きそうである。
取り敢えずはメリークリスマス。



続。
「あ、ソウダ、こっちはヒスイの分!」
そう元気よく言って、今度は翠色の箱を取り出したマリィをまじまじと見つめる。
ちょっと嫌な予感がした。ちょっとどころの話ではない。
「・・・・何で俺に見せるんだ?」
「モチロン、ヒスイにはオショウガツまで会えないカラ、ムラサメが届けるノv」
「・・・・確信犯か」
「これでムラサメも誰かとクリスマス過ごせるネ」
「できればもっと人選を選んでほしかったんだが」
「ウレシイと思うヨ?」
「そうかい・・・・」
どっちがだよ、と聞くのは止めた、子供に見えてもやはり中身は同世代のようで
「デモ、どうせハジメから行ってアゲル予定だったんだヨネ?」
にこーーっと笑う天使の笑顔を、侮れないと再確認させられる村雨だった。



一番最初に書きあがりましたマリサメ・・・・マリサメって言うんですかコレ。
村雨とマリィしか出てこないから多分そう、きっとそう。(爆)
ノーマルってやっぱ書いてて楽しいですね…

⇒-----------⇒---------⇒モドレ