「あれ?何だコレ」
ヒマなのでいつものように足を向けた如月骨董品店の店内で村雨はおかしなモノを発見した。
「薬・・・か?」
ちょこんと村雨の方に顎をのせて後ろから覗き込んでいるのは、村雨にくっついてきた龍麻である。
牛黄丹や地息丹のような回復アイテムとは形が似てはいるが、明らかに色が違う。
それは見るからに怪しく毒々しい紫色の丸薬で。
「見るからに何かありそうだよな」
「如月、何だコレ?」
村雨にぴったりとくっついている龍麻に眉をしかめつつ、店内の品物整理の手をとめて如月は
2人を振り返った。
村雨がひらひらと振る手のひらにおさまっている瓶の中の丸薬をしげしげと眺めて、如月は首をひねる。
「・・・・・これは見た事がないぞ?」
「は?何でだよ」
「ついにボケたかー?翡翠ちん」
「・・・・・・・」
われらが黄龍に少しばかりの殺意を抱きつつも如月は村雨の手から瓶を受け取った。
「おかしいな、この店にある物は皆僕がチェックしているのに」
瓶をかざして中を見直してみる。小振の丸薬がまだ幾つも入っていた。
まだ新しい物のようだが、怪しい物は置いておくと危険なのでこのまま処分してしまおうと
とりあえず如月は店内から茶の間の座卓の上に瓶を移動させておいた。


そこで、その問題は終わり・・・・・イヤ普通はその筈なのだが。

「そうは問屋がおろさないんだよな〜♪」
台所でそうひとりごちるのはもちろん我らがリーダーにして
杏子に続く(いや、それ以上かも知れない)トラブルメィカァ緋勇龍麻様その人である。
龍麻は見るからにこの怪しそうな薬の効果がとてもとても気にかかるようだ。
その根源は「面白そうだから★」といわんばかりの好奇心なのだからもう手が付けられない。
さてどうしようかと龍麻は思考を張り巡らせた。
今ここに居るのは自分と村雨と、如月。今回の犠牲者は…
「・・・・・やっぱここは如月かな〜」
カメだし、まあ死にゃせんだろ♪と矛盾した思考で天使のような悪魔の笑みを浮かべながら
丸薬をひと粒ポンと如月の湯飲みの中に落とし・・・まあオマケとばかりに
もう一つ薬を落として、そこに茶を注ぎ入れた。

「み・な・サ・ン、お茶が入りましてヨ〜」
どこかで聞いた事あるなぁこの台詞、とか思いつつも龍麻は湯飲みを3つ盆にのせて茶の間へ入る。
茶の間から縁側の方には村雨がヒマそうにだらしなく胡座をかいて煙草をふかしているし
如月はまだ店の方で品物の整理をしていた。
「お、サンキュ先生」
「俺の入れた茶だからな、味わって飲めよ〜」
「へーへー」
ずず・・・・と村雨が2つある湯飲みの片方をとり啜る。
薬を入れたのは確か左の方。
「おーい、翡翠も飲めよ」
店の方へと身を乗り出して、ニカーっと龍麻は△ボタン愛押し並の笑顔で如月に湯飲みを差し出した。
しかし如月は知っている、龍麻のこの笑みに何度酷い目にあわされたかを。
今度は何をしでかそうと云うのかは考えなくとも。
「また被害者は僕かい」
「ちっ、バレたか」
「わざとだろう」
ちえーっとは言いつつ全く悪びれたふうもなく龍麻はちらりと縁側を見た。
そこには2人に気付きもせず(気にしてないだけかもしれない)のんびりと村雨が茶を啜っている。
その村雨を見つめる眼差しに、冷たい声で如月が容赦なくツッコんだ。
「もちろん(僕の)村雨まで巻き込もうとしたら容赦しないよ」
「イヤン、ひすリンv」
「・・・・・・・・・・・・・・」
二人の間に氷点下の風がごうごうと吹き荒れた。
わざとやってる龍麻は相変わらず楽しそうで如月は玄武変一歩手前である。
「だってお前飲んでくれないしよー、諦めて飲んでくれるか?」
「そう云う問題じゃないだろう、君が諦めるか、自分で飲んでくれたまえ、人を巻き込むな」
「大丈夫だろ、村雨運強いから」
そう云う問題かッ?!と声を張り上げようにも、龍麻は忍者も裸足で逃げ出す身のこなしで村雨に近寄り、
茶をぐいっと口に含んでトントン、と村雨の肩をつついた。
「おー、なん・・・」
だ?と云いかけて視界が急回転する。天井が見えるので、押し倒されたらしいと理解するのにたっぷり3秒。
その間にニコリと笑った龍麻の顔が近付いてきて・・・・・・唇を塞がれた。
「んッ・・・・?!」
突然の事に目を見開く村雨が抵抗する前に、手首を掴んで押さえ込む。
舌を絡めとって口の中の茶を村雨の口にゆっくりと移した。
きつく目を閉じる村雨の咽がコクリ、と音をたてて茶を飲み下す。それを見て満足げに龍麻は目を細めた。
「はぁッ・・・・」
「うーわー村雨色っぽい・・・」
好き放題口内を犯されて、ようやく解放された村雨が、顔を少し上気させて息をつく姿に
龍麻はにやりと笑う。少し口からこぼれて伝う液をぺろりとなめた。
「・・・何の冗談だ?先生」
少し咽せたらしく、ケホケホと咳き込みながら村雨が身を起した。
格段驚く風でもなく、怒りを見せる風でもなく、げっそりと龍麻を見ている、こんな事をすればどうなるか・・・・
「いーやーちょっとネ」
「四神覚醒・玄武変」
全く悪びれもせず、にゃはーと笑う龍麻だったが
後ろで今までに聞いた事がないくらい低い声を耳にしてゆっくりと立ち上がった。
これ以上ここにいたら殺されかねない、いやもう向こうは殺す気満々なのだが。
「四神が黄龍に攻撃してどーするよ」
「飛水流奥義・瀧遡刃ーーーーーッ!!!」
龍麻が立ち去る暇も与えない位素早い手付きで如月が技を放つ。カメでもキレた!
おそらく柳生も一撃であの世行きであろう如月の渾身の技を、難無くかわしつつ
じゃぁな〜と本当に面白そうに龍麻は笑いながら帰っていった。
「さて、どうなるか明日が楽しみだな♪」

一方、屋内で奥義がぶちかまされた如月骨董品店。
ぜえぜえと肩で息をつく如月を、もう誰か助けろと言わんばかりの眼差しで村雨は見つめていた。
二度と来るなと如月の背中がおもいっきり叫んでいる。
「・・・・・・・・・・旦那?」
「何だ」
恐る恐る声をかけると、即座に身も凍るような(村雨にしてはどうって事ないのだが)如月の声が返ってきた。
如月、恐ろしく目がマジである、ずかずかと足音も荒く村雨に近付いて、がしっと村雨の肩を掴んだ。
「もう龍麻に近付くな、見かけたら逃げろ」
「オイオイ旦・・・」
口を開こうとして、その言葉は口から出る事なく塞がれた。
龍麻のとは違うひんやりとした感触が口元にあたって、するりと舌が入り込んでくる。
そのまま息ができなくなる位長い間唇を貪られる。

「苦い」
「いや俺の方が苦いんだがよ」
口の中に広がった味に如月は眉をしかめた。良薬は口に苦し。
それ以前に薬効が不明なのだが…
「龍麻め…」
苦々しく舌打ちした如月に取り敢えず今の処身体に変調は無いのだからと村雨は肩をすくめた。
「ま、死にゃしねぇさ」


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ちゅーの嵐(笑)