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七月七日、午後2時過ぎ。
「よお」
カラリと戸が開いて、聞き慣れた声がかけられる。
彼が来るにしては少し時間帯が早い。この暑さの所為かもしれない。
「やあ、今日は早いんだね………って、どうしたんだい、ソレ」
僕の目にまずついたのは村雨が手にしていた黄色や橙でまとまった花束だった。
ん?と彼は肩に担いでいたその花束を見て顎で外を差す
「ああ…そこで壬生に会ったらくれた。」
………あの男……一度シメる(いや違う、身の程というモノを教えておくとするか)
「あっついな今日も」
忌々しげに眉をしかめて勝手に居間へと上がり込む。
縁側の戸は開け放されているので、居間の方は風通しが良くかなり涼しいのだ。
「夏だから仕方ないだろう」
苦笑して僕も居間の方に上がり、台所で麦茶を二つ煎れた。
「全く、夏生まれなのに何を言ってるんだい」
「るせぇ、それをいうなら京一だって冬生まれだろうが」
だるそうに座卓にへばりつきながらふと、座卓に置いた花束を見。
「旦那、花瓶あるよな?」
「ここに生けておくのかい?」
花に罪はないと分かっていても少しだけ眉を潜めてしまう。
チッ…手芸部め(←如月はそんな事言わん)。
「家まで持って帰ったら萎れちまうだろうが」
―どうせ今日はここに居るんだしよ。
「分かったよ、綺麗に生けてくれるかな、元華道部」
「へっ、あたりめぇだろ」
つんと花弁を指で弄びながら村雨は不敵な笑みで笑った。

「……そう云えば、この花、なんて言うんだい?」
小時間後。
暑いと言って縁側にごろりと寝そべってぼんやりと空を眺めている村雨に僕は問いかけた。
色とりどりの花達は綺麗に花瓶へ収められ、座卓の上に置かれている。
「ダリアだな。壬生が言うには俺の誕生日に咲き初めたんだと」
………くッ手の込んだマネを僕より先にやるとは、許すまじ元高校生アサシンッ
「で、花言葉が『移り気』なんだとよ」
一瞬僕の思考が止まった。村雨は……こっちを向いて相変わらず意地の悪い笑みを浮かべている。
目は笑っているけれども。
「あんまり情けないと余所へ移っちまうぜ?」
「それは困るな」
本心だった。苦笑して彼の頭に手をのばす。
「追い掛けはするけど、振り向かせる自信はちょっとないかな」
「なさけねえな」
「君が相手だからね」
つんと髪先をひっぱってみたりして、それからポケットに入れてあったモノを思い出して取り出す。
「村雨」
「んー?」
「ホラ」
手のひらにコロンと乗せたのは美しい翠のピアス。
「何にしようかと思ったんだけどね。お守りだよ」
「へえ…出来過ぎだな」
ニヤリと笑い、村雨はピアスを摘まみ上げて空にかざした。
「悪かったね、でもちょうどよかったかな?」
君がずっと僕の側に居てくれるように。僕がずっと君の側に居れるように。
「何で片方だけなんだ?」
「片方しか開けてないじゃないか、後は…まあもうひとつは僕のと云う事で」
「だっせェ」
そんな僕を見て少し笑い、それから徐に自分の左耳につけてあったリングを取って
こちらに放り投げた。
「村雨?」
「やる。持ってろ」
そう言いながら新しいピアスを耳につける。
「肌身離さず身につけてると霊力が溜まるってハナシだしな。こっちよりよっぽど効果あるだろ」
一際目を引く一点の翠色を指差して村雨は言った。
「言ってくれる…でも…まあ貰っておくよ」
貰ったピアスを大事に胸に仕舞い込んで、僕は彼の両脇に手をつき、村雨を真上から覗き込んだ。
「誕生日おめでとう、祇孔」
「おう」
七月七日、君の生まれた日。
「君が生まれてきてくれて、良かった」
「へッ、そうかい」
笑って、体を起こそうと身じろぎする村雨を僕はそのまま抱き締めた。
「おいおい、旦那」
「少しだけでいいから」
「ったく、しょうがねえな」
苦笑しながら村雨も僕の首に腕をまわす。
「誕生日に感謝なんざされんの初めてだぜ」
「いいじゃないか」
僕は笑った。
「本当のことなんだから」
そう言って顔を覗き込む。
村雨も…笑っていた。



……はっずかし(恥)
遅れまくったが…まあ誕生日おめでとうサメ。

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