まつりの後
「誕生日おめでとう、祇孔」
そういって秋月マサキは村雨に綺麗に包装された包みを渡した。
「は…?」
今日は絶対浜離宮へ来なさいといきなり午前中御門に呼び出され
一体何の用だと出向いてみれば……誕生日?誰の
「………お前の事ですから忘れているかと思ったら本当に忘れていましたね、村雨」
「うっせえ、そんな事一々覚えてられっか」
今日は七月七日………七夕だった気もするが、そういえばそんな日だったっか。
「ははは、だからわざわざ呼んだんだ。折角の誕生日なんだし
今日は一緒に過ごそう?久しぶりに泊まっていくといいよ」
「……そりゃあ、どうも」
にこやかに笑うマサキの申し出を、断る訳はなかった。
特に何をする訳でもなく、一緒に食事をして、雑談をした。
それでもいつも様々な予定に追い立てられているマサキにとっても、村雨にとっても
こうやって皆でのんびり過ごすのは久しぶりな気がして、そうして時は早々と過ぎていった。
―夜―
「何をしているんですか、村雨」
「何って、花見酒」
用を済ませ、そろそろ寝ようと廊下を歩いていた御門は、縁側に腰掛けている村雨を見つけて声をかけた。
御門の部屋の前の縁側。昔から一番気に入っていたこの場所に、寝間着の浴衣を身に付け
村雨はぼんやりと降ってくる桜を見つめながら酒を口にしていた。
「夏なのに、季節感のねえ所だぜ」
「不満なら帰りなさい」
「別にそんな事言ってねえだろうが…」
しれっと言い放つ御門に辟易しつつも、村雨は傍らの盆に置いてあったもう一つの盃を差し出す。
「お前も飲むか?」
少しだけ扇子を口元にやり、考える素振りを見せると、徐に腰を降ろした。
「まあ、お前の誕生日ですしね、仕方がないから特別に付き合ってあげますよ」
「へっ、言ってろ」
いっつも付き合って飲むくせにと思いつつ、盃を渡して村雨は再び桜に目を戻す。
ひらり、ひらりと絶える事なく散る桜。
ぼんやりと酒を口に運んでいたが、ふいにこの花が好きだと言っていた人を村雨は思い出した。
常に穏やかな笑みをたたえ、自分を名で呼んでいた彼を。
「懐かしいよな…」
「たかだか1年前じゃないですか、何を懐かしむんです」
唐突の呟きを、御門は的確に察したようだ。
一年前にはここに居た人。毎年必ず自分達の誕生日を祝ってくれた彼。
「今年はなかったな、タルト責め」
当たり前だけどよ、と苦笑しつつ、誕生日プレゼントとかぬかしながらにこやかに
大量のタルトを食わされるのが当たり前になっていた事を思い返す。(←遠い目で)
妹にはマトモなモノをあげていたから…やっぱ嫌がらせか?との疑念は消えないが。
「何だかんだと言いつつ食べていたじゃないですか」
「お前もな」
穏やかに笑っていて、虫も殺さぬ顔をして、妹に甘くて、いい性格してやがった。
それでも、思い起こしてみれば懐かしかった。たった1年前の事なのに。
彼は未だ目を覚まさない。宿星は変わらないのだ。
「またきっと食べれますよ」
「をい、誰が食べたいと言った、誰が」
「そんな顔してますよ」
「るせえ」
がっくりと肩を落としつつ、再び酒を口に運ぶ。
そうやって暫く黙々と盃を重ねていたが、桜を見上げて
「………来年は居るよな、絶対」
まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「当たり前でしょう、何を言ってるんですか」
自分達はどこまでやれるか分からないが、きっと戻ってくると信じている。
宿星は、変えられると。
ずるずると、酔ったのか村雨は縁側に寝転がった。
「ここで寝たら風邪をひきますよ。ああ、お前はひきませんか」
「一言多いぞお前…」
「嘘は言っていませんよ?」
「お前は…」
もう諦めたのか桜の隙間から見える星を仰いで、村雨は目を閉じた。
「来年にはアイツがいて、薫がいて、芙蓉がいて…」
「そうですね」
「お前もいるよな、絶対に……」
「……………そうですね」
眠た気な声で呟く村雨に御門は穏やかに返す。
「…おう」
御門の返事に安堵したのか、村雨はそのまま静かに寝息をたてはじめた。
その寝顔を見つめて、ふと笑みを漏らす。
「全く…驚かせてくれますね、お前は」
いつも他人のことばかり気にかけて、その言葉一つ一つに驚かされる。
御門は扇子を口元にあて、そっと呟いた。
「お前が、生まれてきてくれて、感謝していますよ」
誰にも届かなくてもいい、それでも彼が隣でいつまでも笑っているように、と
祈るように思う。
―翌日―
「やっぱり無いと寂しいかと思って」
でん。
そんな擬音が聞こえてきそうな位皿に盛られたタルトを目の前にして、村雨は硬直していた。
思わず脂汗がたらりと落ちる。
「…………マサキ、コレ………」
皆まで言わずともだが、それでも聞いてしまうのが人の性。
「毎年恒例だったからね」
なんの悪気もなく妹は兄と同じようににこにこと微笑むからよっぽどタチが悪い。
「今年は御門と芙蓉に協力してもらって作ったんだ。兄さまには及ばないかもしれないけれど…」
(またきっと食べられますよ)
………知ってやがったな御門……ッ
昨日の言葉を思い出して、恨めし気に睨み付ける。
そんなオーラなどさらりと受け流して、当の御門は涼し気に明後日の方を向いていた。
「僕のじゃやっぱり…ダメかな?」
「いや…食う、食えばいいんだろ…」
マサキにそんな事を言われて村雨が断るわけがない。
「良かったですね、村雨」
「おうよ………v(←遠い目で)」
やっぱ来年コイツ居なくてもいい…そう思いながらタルトを口にし始めた村雨を見て
冷ややかに、しかし少し楽し気に、御門は笑っていた。
―End―
--------------------------------------------------------------
だー、題名だけ思い付かなかった(死)
如村より先にできちゃってどーすんのよう(遠い目)
自給自足ミカムラ。俺は幸せです、誕生日おめでたうサメv
■戻■