泡うたかた沫
「旦那ー・・・・・っと」
日曜日の昼下がり、「閉店」の札が降りている如月骨董店の戸をくぐった村雨は
そこで奇妙なモノを目にした。奇妙な、と云うより珍しい光景である。
居間の畳の上で座蒲団に頭を預け、浴衣に身を包んだ当の主人が眠っていたのだ。
「へえ・・・寝てらー」
村雨は極力音を立てぬよう居間に上がり込み、如月の枕許に腰を降ろす。
取りあえず起こすのも勿体無いので、しばらく様子を見てみる事にした。
ひょいと如月の顔を真上から覗き込んでみる。
―長い睫毛、白い肌、サラリとした黒髪。
耳を澄ませてみれば微かに寝息が聞こえてくる。
いつも顔を合わせているというのに、こうやってまじまじと見てみるのも初めてな気がした。
(キレーな顔してるよなー)
そう思いつつツンと指先で頬を突ついてみる。
起きてたら技の一つでも飛んできそうなモノだが、よほど疲れる事でもあったのか
起きる気配は微塵も感じられない。
(・・・おもしれぇ)
悪戯っぽい笑みを浮かべ、今度は髪を指で絡めてとってみる。
サラリとした髪はすぐに指から滑り落ちてしまうが、その手触りが心地よかった。
笑いを抑えながらしばらくその髪を弄ぶ。
今如月の目が開いたらどうなるだろうか、自分が目の前にいてどんな顔をするだろう。
少しだけ目を覚ますのが待ち遠しくなって、何気なく頬に触れた瞬間。
ゾクリと嫌な感覚が全てを支配した。
氷のように冷たい如月の頬が、ピクリとも動かない固い瞼が不意に何かを思い起こさせる。
目の前の人物はただ眠っているだけ。分かっているのに・・・
「きさらぎ・・・?」
それはいつも自分達と背中合わせに存在するもの
どんな者にもいつかは平等に訪れる。彼にも、自分にも
「・・・・ッ?!」
突然視界が180度回転し、手首を抑えられた。
天井を背景に、ひどく眠そうな如月の顔が視界に入る。
「・・あんまり悪戯するものではないよ、僕は眠いんだ」
「・・いつから起きてたんだ?」
かなり不覚かも知れない。しかし本当に眠いらしい如月はそのままぎゅと村雨を頭から抱き込んですぐさま目を閉じてしまった。
「だ、旦那?!」
これは流石に苦しい。鼻の先にまつげが触れる程如月の顔が近くにある。
こんな細い身体のどこにこんな力があるのか、抜け出そうとすればするだけぎゅうと抱き締められてしまう。
「寝惚けてやがるな・・・」
「五月蝿いよ、君も少し眠りたまえ」
せめてこの腕だけでも何とかせねばともがいていると
「それと・・・・あんな死にそうな声を、出さないでくれ」
耳許で囁かれて息が止まった。目を向けると優しい眸がこちらを見ている。
講議の手が止んだのを察し、こめかみの辺りにキスを一つ落として如月は再び目を閉じた。
「・・どうしたモンかな・・・」
諦めてそう独白する。
せめてもう少し腕を緩めてほしかったのだが、どうせ聞き入れてはもらえまい。
仕方なく如月の胸に頭を預けると、静かに、だがしっかりと規則正しい鼓動が伝わってきた。
如月の寝息、心臓の音。
暖かい腕の中、まるで羊水に浸っているかの様な優しい水の気配に包まれて、村雨もゆっくりと目を閉じた。
泡沫の夢でもいい、少しでもこんな日常が続いてくれるように願いながら・・・
脱兎の勢いで逃げるッ!!(爆)
ナンだよーこのミョーにキラキラしたサメはよートカ言われても文句言えないジャン自分(死)
イエただぎゅーって抱いて眠りこける図を書きたかっただけなんですが………ゲフッ
■戻■