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猫的文章論
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 ええと、葵館などで、ノベルやSSの募集をしたり、リレー小説を企画したりで、たくさんの文
章をいただくようになりました。
 たいへん嬉しいのですが――ひとつだけ難点が。
 みなさんの書式――というか表記の方法が、バラバラだ、ということです。
 これはページに文を載せる「編集者」としては、ひじょうに困った事態なのです。

 例えば、無言を表す「……」という表記。左記のように書く方もいれば、「・・・」と書く方
もいます。「・・・」と半角三つの方も。
 さらに、「・・・・」など四つや五つを並べる方もおります。
 これだと、文字数が合わないし、同じことを表すのにいろいろなパターンがあっては、読む方
も混乱してしまいます。なにより、読みにくい。
 かといって、統一するべく修正すると、作者の意思を曲げる恐れもありますし、なにより、そ
れに要する時間と労力が、ハンパではありません。

 実際の出版業界では、そうした表記方法には、ある程度の決まり事があり、「そうしなければ
ならない」わけではないのですが、そうした方がすっきり読みやすいためか、おおむねそのよう
に表記される作家の方が多いようです。
 また、たまに違う表記の文章を読むと、私的には、やっぱりひっかかります。

 そこで、その「決まり事」をここで載せてみたいと思います。
 それに沿って書いて下さるかどうかは、皆様それぞれの考え方にお任せいたしますが――。
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表記について

 では、まず基本からいってみたいと思います。

  ・書き出しと新しい段落は、最初の一文字を空ける。

  ・会話文は例外として、行頭から「で始める。下げる作者もいるが、私は下げない方が好き。
   また、下げない作者の方が多い。

  ・句読点「、」「。」や感嘆符「!」、疑問符「?」などは一文字ぶん。

  ・「……」や「――」は二文字ぶん。
   (「…」は「・・・」と打って「変換」で出る。「―」は「ー」で「変換」)

  ・「!」や「?」の後は「ヤック! デカルチャ!」のように一文字空けると、たいへん読
   みやすい。ただし文末は別。

  ・句読点は、行頭には置かない。ただし「!」や「?」などの記号は別。

  ・会話文の終わりは、そこで文が終わるため「ほう。」のようになることが多いが、見た目
   がスッキリするので、「ほう」と句読点を省く作者が多い。私もその方が好き。

  ・引用文は、全文を二字下げにして区別する。ただし、短いモノは「」で文章に含めた方が
   読みやすい。

 ――こんなトコですか。
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文章論

 ここからは、個人的に「読みやすい文章」についての考察です。……っても、文章論の本で感
動したり納得した言葉を並べるだけですが――。

  「――わかりやすい言葉以外は使うな。ぜんぶ、ひら仮名で書いてみて、そのままでわかる
  言葉を使え。最小の漢字で書き、漢字は画の少ないものを使え。改行を多くしろ。やさしい
  言葉で怒れ――」

 ――これは、花森安治という方の言葉(抜粋)だそうですが、まったく見事だと思います。私
が普段、読みやすいようにと気をつけていたことを、キッチリ簡潔にわかりやすく一言にまとめ
てくれていました。要するに、やさしい言葉で書け、ということですね。
 あんまり見事なので、私の文章作法における座右の銘です。
 花森先生は、「いい文章を暗記しろ」ともおっしゃったそうです。何事も、マネから入るもの
ですからね。絵だって、模写から入るもんですし。

  「書くということは、なんでもない。短い句で書くのだ。動詞が一つ、主格が一つ、属詞が
  一つ、さ。…………それから、もし形容詞が一つ欲しかったら、俺のところへ聞きにこい」

 これは、ラ・ジュスティスという新聞の、クレマンソオという猛虎とよばれるほどの名物記者
に、新米記者(後に彼の股肱の秘書となるマンデル)が「記者の心得」をたずねたところ、得ら
れた答えだそうです。
 短く簡潔に書くこと。形容詞の乱用は避けること。このふたつの訓戒ですね。

 むろん、花森先生のは雑誌の記事の、クレマンソオのは新聞記事の文の書き方であり、これが
そのまま小説の文体作法として当てはまるかというと、その限りではありませんが――しかし、
読者に読みやすくあるように、というのは、他人に読まれることを前提とした文章には、共通す
る作法であるべきだと思います。
 その意味においては、たいへん参考になるかと思うのですが、いかがでしょうか。
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 この項は、下記の本を参考に書かれました。

  ・板坂元 「キラリと光る文章技術」(ワニの本)
  ・尾川正二「原稿の書き方」(講談社現代新書)
 


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