葵館文庫
猫的文章論 |
-------------------------------------------------------------------------------- 序 ええと、葵館などで、ノベルやSSの募集をしたり、リレー小説を企画したりで、たくさんの文 章をいただくようになりました。 たいへん嬉しいのですが――ひとつだけ難点が。 みなさんの書式――というか表記の方法が、バラバラだ、ということです。 これはページに文を載せる「編集者」としては、ひじょうに困った事態なのです。 例えば、無言を表す「……」という表記。左記のように書く方もいれば、「・・・」と書く方 もいます。「・・・」と半角三つの方も。 さらに、「・・・・」など四つや五つを並べる方もおります。 これだと、文字数が合わないし、同じことを表すのにいろいろなパターンがあっては、読む方 も混乱してしまいます。なにより、読みにくい。 かといって、統一するべく修正すると、作者の意思を曲げる恐れもありますし、なにより、そ れに要する時間と労力が、ハンパではありません。 実際の出版業界では、そうした表記方法には、ある程度の決まり事があり、「そうしなければ ならない」わけではないのですが、そうした方がすっきり読みやすいためか、おおむねそのよう に表記される作家の方が多いようです。 また、たまに違う表記の文章を読むと、私的には、やっぱりひっかかります。 そこで、その「決まり事」をここで載せてみたいと思います。 それに沿って書いて下さるかどうかは、皆様それぞれの考え方にお任せいたしますが――。 -------------------------------------------------------------------------------- 表記について では、まず基本からいってみたいと思います。 ・書き出しと新しい段落は、最初の一文字を空ける。 ・会話文は例外として、行頭から「で始める。下げる作者もいるが、私は下げない方が好き。 また、下げない作者の方が多い。 ・句読点「、」「。」や感嘆符「!」、疑問符「?」などは一文字ぶん。 ・「……」や「――」は二文字ぶん。 (「…」は「・・・」と打って「変換」で出る。「―」は「ー」で「変換」) ・「!」や「?」の後は「ヤック! デカルチャ!」のように一文字空けると、たいへん読 みやすい。ただし文末は別。 ・句読点は、行頭には置かない。ただし「!」や「?」などの記号は別。 ・会話文の終わりは、そこで文が終わるため「ほう。」のようになることが多いが、見た目 がスッキリするので、「ほう」と句読点を省く作者が多い。私もその方が好き。 ・引用文は、全文を二字下げにして区別する。ただし、短いモノは「」で文章に含めた方が 読みやすい。 ――こんなトコですか。 -------------------------------------------------------------------------------- 文章論 ここからは、個人的に「読みやすい文章」についての考察です。……っても、文章論の本で感 動したり納得した言葉を並べるだけですが――。 「――わかりやすい言葉以外は使うな。ぜんぶ、ひら仮名で書いてみて、そのままでわかる 言葉を使え。最小の漢字で書き、漢字は画の少ないものを使え。改行を多くしろ。やさしい 言葉で怒れ――」 ――これは、花森安治という方の言葉(抜粋)だそうですが、まったく見事だと思います。私 が普段、読みやすいようにと気をつけていたことを、キッチリ簡潔にわかりやすく一言にまとめ てくれていました。要するに、やさしい言葉で書け、ということですね。 あんまり見事なので、私の文章作法における座右の銘です。 花森先生は、「いい文章を暗記しろ」ともおっしゃったそうです。何事も、マネから入るもの ですからね。絵だって、模写から入るもんですし。 「書くということは、なんでもない。短い句で書くのだ。動詞が一つ、主格が一つ、属詞が 一つ、さ。…………それから、もし形容詞が一つ欲しかったら、俺のところへ聞きにこい」 これは、ラ・ジュスティスという新聞の、クレマンソオという猛虎とよばれるほどの名物記者 に、新米記者(後に彼の股肱の秘書となるマンデル)が「記者の心得」をたずねたところ、得ら れた答えだそうです。 短く簡潔に書くこと。形容詞の乱用は避けること。このふたつの訓戒ですね。 むろん、花森先生のは雑誌の記事の、クレマンソオのは新聞記事の文の書き方であり、これが そのまま小説の文体作法として当てはまるかというと、その限りではありませんが――しかし、 読者に読みやすくあるように、というのは、他人に読まれることを前提とした文章には、共通す る作法であるべきだと思います。 その意味においては、たいへん参考になるかと思うのですが、いかがでしょうか。 -------------------------------------------------------------------------------- この項は、下記の本を参考に書かれました。 ・板坂元 「キラリと光る文章技術」(ワニの本) ・尾川正二「原稿の書き方」(講談社現代新書) |