輸入権の話

このページは、2004年6月の著作権法改正(施行は2005年1月から)によって認められることになった、音楽 CD の輸入権について、日記の記述から感想などを若干編集してまとめたものです。

関連記事

以下は全て ITmedia (内のライフスタイル)の記事です。

特集「輸入音楽CDは買えなくなるのか?」

  1. あらゆる輸入音楽CDに規制を?――危険な著作権法改正が進行中 (2004/5/12)
  2. 「副作用」は覚悟していた――文化庁に聞く著作権法改正の舞台裏 (2004/5/13)
  3. 「求めたのは還流阻止。CDでは他に方法がなかった」――レコ協に聞く (2004/5/17)
  4. 日本のCD価格は安くなる?――法改正がもたらすエンドユーザー利益の真偽 (2004/5/19)

2004/5/13

上記記事はいずれも ITmedia のものですが、やけに気合の入った特集を組んでいるようです。正直なところこういった動きについては、既に参議院を通過している状況で今更感がないわけでもないですが、あるいは衆議院を通過する前に逆転ホームラン(何)を狙える可能性があるんですかね。

(今回の著作権法改正の)目的としては、海外で(たいていは国内より安く)販売している分のみを規制するためとは言っていましたが、そもそも国内の会社にだけそのような権利を与える事は法的に不可能で、海外の会社が同じように(日本を含む)国外で販売している分をも規制できるような形にしかできないんでしたか(行使するかどうかは別ですが)。

以前にも書いたことがありますが、この手の(特に著作権がらみの)規制だの法律だのの問題点は、(権利を守るという)お題目を額面どおりに実行するのではなく、技術的・物理的な問題から、あるいは意図的に、しばしば本来の範囲を超えて、もしくは直接影響がないと思われる範囲にまで行使されているのではと思われることが目立つあたりではないかと。

コピーコントロールやコピープロテクトなんかもそうですが、作り手の権利を守るという事について反対する人はあまりいないと思いますし、本当にその目的だけが達成されるのであれば不満が出ようはずもないんですが。だからといって、切れるはずの著作権が何回も法を変えてまで延長されたり、あるいは動作保証もないような製品を買わされたりとなると、それはなんぼなんでもおかしくはないですかと。

それと根本的な考え方として、本にしろ音楽にしろ、代償なしに利用する行為を一切禁じて、何もかもに網をかけて利益として計上してしまおうというのがそもそも無理があると思いますし、それが仮に可能だとしても果たして長い目で見て本当にプラスになるのかどうかという。

音楽関係でとりあえず思いつくところでは、歌詞の引用や(いわゆる耳コピの) MIDI ファイルなどですか。それらによって元々の楽曲に興味を持ったり、あるいは気になって探していた音楽にたどりついたりした人も多かったんじゃないかと思うんですけれど。それだけで満足したり、逆にそれでも興味を持たない層というのは、どこまでいっても客にはならない人たちでしょうし。

2004/5/22

以下はこの件に関する自分の感想です。といっても法的にどうこうといったところまで踏み込むだけの知識は持ち合わせていませんので、一ユーザーとして単純に感じる疑問などをつらつらと。

まず一連の件は、日本の音楽 CD が海外、特にアジアで(現地の物価水準に合わせるとの名目で)国内より安く販売されており、それらを国内の利用者が購入することを禁止したいという業界(?)の要望によって、現在は違法ではないその行為を著作権法の改正で禁じてしまおうとしたことから始まったわけですが。

価格差の妥当性

まず最初に思うことは、そもそもその価格差は妥当なのか、ですね。他の商品、例えばパソコンやゲーム機の部品、おもちゃや洋服など、いまや MADE IN JAPAN でない製品は巷にあふれており、それらは国内で安く販売するために海外で生産されているものが多いのだろうと思われますが、 CD に関しても同じようなことが行われているにも関わらず、なぜか国内の価格は高く維持されているわけで。

尤も CD (というか音楽)の場合、価格についてはコストや利益だけでなく、作品に対する対価といった側面があるんでしょうけれど、ここで生じる疑問点として、国内盤であろうが海外盤であろうが、正規に販売されている商品を購入するのであれば、著作権者の側から見れば何の問題もないのではないか、というのがありました。で、そういった疑問に対しては ITmedia の特集の第3回に以下のような文章が。

「アーティストは一般的な国際契約ルールに従えば、外国でレコードが販売された場合、ロイヤリティは大体2分の1である。韓国や中国などはほとんど、レコードは日本の3分の1の価格で販売されているので、アーティストのロイヤリティは6分の1になる」

要するにアーティストの取り分も減っている(から国内盤を購入してほしい)ということのようですが、そもそもそこまでしなければならないような地域で商売する必要があるのかという気がしますし、逆の言い方をすれば、国内のユーザーはディスクそのものに対して3倍の額を、(価格に含まれるロイヤリティでいえば)6倍の額をアーティストに支払っているということになるわけですが、そもそもそれらの割合は絶対に崩して(国内や海外の価格に反映させて)はならないものなのかという根本的な疑問が。

洋楽 CD への影響

それと事態が進むにつれてクローズアップされている感があるのが洋楽 CD への影響ですね。このあたりについては以前から、「(輸入盤が安かろうとどうしようと)邦楽なんて聴かないから関係ない」ではすまされないと危惧されてはいたんですが。

その原因はといえば、輸入 CD について(法的に)海外の会社の製品と国内の会社の製品とを区別できないというか、要するに輸入権を国内の会社にだけ与える(ことによって保護する)ことはできないという理屈のようで。つまり「アジアの安い CD の逆輸入だけを禁じる」ことは著作権法では不可能で、今回のような改正がなされると、その網は日本の会社がアジア以外の地域で販売する製品海外の会社の海外(つまり日本)の製品にまで及ぼすことが(その意思があれば)できてしまうわけです。

これについては最初の頃のニュース記事に、世界市場をまたにかけるあちらの大手はそのようなことをしないだろう(から安心してほしい)といったニュアンスの、希望的観測か何なのかよくわからないコメントが付記されていましたが。この件についても特集の同じ回で触れられている RIAA (全米レコード協会)と IFPI (国際レコード産業連盟)のパブリックコメントによれば、どうも輸入権を行使する気満々ではないかとの観測も。

もちろん RIAA はそのつもりでも各レーベルがすぐに行使するかとなるとそれは別問題ですが、その可能性が残るのは間違いありませんし、いつ行使されるかわからないとなると(輸入盤を)販売するほうも及び腰になるのではと、特集記事の中でも指摘されています。いわば自主規制ですね。

というより、えげつない会社ならさっさと輸入権を行使して、海外向けは安価な CD で日本向けは高価でしかも CCCD なんてことをあっさりやりそうに思うんですが。

再販制度(再販売価格維持制度)との併用

これまたよく指摘されている点ではありますが。なんだかんだいっても輸入権に関しては、多くの国で認められている権利ではありますし、それが日本でも導入を目指す論拠の一つとなっているわけですが(※2004/7/6追記−ただし輸入権は EU 域内では行使できない模様)、しかしそういった国々でも、輸入権と再販制度による保護の両方が認められている国は存在しないとのこと。

最近はいろいろと議論されることも多い再販制度ですが、個人的にはもう少し(期間や運用等)柔軟な形で残していてもいいんじゃないかとは思います。ただし各業界や企業が「文化を担うに相応しい」といえるような活動を行っていれば、の話ですし、ましてや輸入権云々については、海外の例を引き合いに出すならそれこそ再販制度による保護とどちらか一方を選択すべきではないかと。

コレクターズ・アイテムとしての輸入盤

今までの議論とは少し方向性が違いますが、国内盤以外の製品を購入する人の中には、低価格だけが目当てではない人も少なくないのではと。世の中には(音楽に限らず)同じ製品をいくつも購入する人だっているんですし(笑)、ましてや違うバージョンであれば(たとえ違いがジャケットやブックレットの言語だけであっても)、それらをコレクションするなんてのは熱心なファンなら言うほど珍しい行動でもない気がするわけで。

実際に自分も「 MATRIX 」のサウンドトラックを買いに行ったときに、海外盤と日本盤が並んでいるぶんについてはどちらを購入するか少し迷いましたが、なんなら両方を購入していろいろと見比べてみようかとちらと考えたことが(笑)。

もし国内で販売される製品だけしか購入を許されないとなれば、そういったコレクションもできなくなりますが、そんなファン心理に配慮するとも思えないですし、かといって国内盤を所持しているなら海外盤も購入してよい、なんてことになってもそれはそれで妙な話ですし。

そういった意味では本来 DVD のリージョンコードなんてのもアレなんですけれど、そこまで話を広げても何なので。

音楽の対価

最後はまあ茶々のようなものですが。世の中みんながみんな、新品で 3,000 円の CD を購入して聴いているわけでないことはいうまでもなく。特に日本では(海外の事情は知りません)レンタルショップなんてのが幅を利かせていますし、他にもそれこそ友人同士で貸し借りしたりして、そういったルートで音楽に触れた後に、あらためてお金を出して購入する人もいれば、(手元に音楽の入った CD-R や MD などが存在するにも関わらず)正規の商品を所持していない人もいると思われるわけで。

そうやって考えると、最終的な所持形態(メディア)や音質には違いがありますが、少なくとも一人がアルバム一枚に出す金額は、当然のことながら 3,000 円には届かないでしょうし、あるいは現在の価格や状況についても、どうせレンタルや貸し借りで済ませるから(元が CCCD だろうが少々高価だろうが)構わないと考える人が多いのかもと、ふと思ったりしたことでした。

2004/6/3

先月末からの文部科学委員会での審議中には、いろいろな問題点が示されたことから、参議院へ戻されるか、悪くとも何らかの修正を盛り込めるのではといった希望的観測も一時流れたようですが、結局議論の内容とは無関係に(何処かの誰かの)予定どおり、衆議院でも委員会と本会議を通過しました。

与党はともかくとしても、社民党や共産党ですら賛成にまわり、積極的に反対する議員は民主党の一部だけという状況ではさすがに如何ともしがたいとは残念ながら以前からの予測どおりだったわけですが。おそらくは何のことやらわかっていない、あるいは海賊盤と正規にアジアで販売されている商品との区別がついていないセンセイ方も多かったであろうことを考えるとどうにもこうにも。

とにもかくにもこれで海外からの CD は、邦楽洋楽を問わず(絶対とはいえないにしても)入手しづらくなることが予想されるため、その分はみな邦楽の国内盤を唯々諾々と購入し、コピーコントロールディスクによって違法コピーも撲滅、またネットに対する監視や摘発を強化することでファイル交換も減少し、それらの成果によって正規品の売り上げもさらに上昇、「著作権侵害」の歌詞引用や MIDI ファイル、あるいは街角での演奏なども一掃されつつあるということで、今回の著作権法改正を積極的に推進した方々の目には、きっとバラ色の未来に包まれた音楽業界が映っているんでしょう。