読書ログ

世界史書籍についての内容メモです。



令和6年1月13日

三佐川亮宏『オットー大帝-辺境の戦士から「神聖ローマ帝国」樹立者へ』中公新書,中央公論新社
 

オットー1世の一代記で,伝記的な性格の強い本です。なので,神聖ローマ帝国の通史やザクセン朝に関する概括的な内容を期待して読むと,苦行を強いられるかもしれません。ひたすら身内との戦いが延々と語られます。少し源頼朝っぽい印象を受けましたが,源頼朝と違うところは,身内を屈服させてきちんと一族をまとめあげていくところでしょうか。オットー1世自身のルーツの部分,ザクセン朝の前史や,オットー1世死後の神聖ローマ帝国の歴史,オットー1世の事績が神聖ローマ帝国史にどのように意味付けされるか等はオマケのように最初と最後についているだけです。文章の中に組み込まれる形で史料が多く引用されるので,わかりにくいです。ですが,これも諸刃の剣なのでしょう。オットー1世に関する簡易資料集だと思うと,オットー1世研究をこころざそうとするもの,初学者から大家まで,必携の書といえるかもしれません。



令和6年1月2日

三崎良章『五胡十六国 中国史上の民族大移動【新訂版】』東方書店
 

最初の出版は2002年ですが,まずまず新しい書籍だと思います。五胡十六国の一般書として,あとにもさきにも貴重な存在でしょう。2012年に大幅な改訂を行った新版は,もともと文献中心だった初訂版を改めて考古学的な情報をふんだんに追加しています。とはいえ,十六国の歴史を網羅的に列伝風に描写した箇所は他に類をみない希少価値を本書に与えています。ただし十六国の歴史を個別に述べているため五胡十六国時代を時間軸にそって通観するには難しいし,同じ事件が何度も繰り返しでてくるのも,ちょっと冗長な印象です。
「民族」をキーワードにした筆致は90年代の流行で,今となっては古臭い語り口に感じられますが,当研究所の見解としては,やはり「民族」という視点は大事,ただし「民族」という概念をどう扱うかについては新しい手法が望まれているのではないでしょうか。そう思う次第です。




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