SLEEPING MURDER
第三話 黒い天然ときまぐれな風
人生一寸先は闇、俺はこの数刻で思い知った。
俺の過去を知る変態チックな奴に燃やされるし気がつけばジンの奴にはめられてなぜか
何でも屋で働くことになってるしさらに、今。
「変な犬に町を案内されてるんだからなあ」
「犬じゃないっす!!」
「さらにつっ込みまでいれられながら万物の流転性をしみじみ感じる今日この頃。」
「うう・・意味不明っす・・。」
なぜか物凄く疲れた様子なので声をかける。
「大丈夫か、ポチ。」
「ポチじゃないっすよ!!」
「ああそっか、犬じゃないんだったっけ。」
一応は話を聞いていたらしいまともな発言にテディの表情が明るくなる。
「そうっす!ボクは魔法生物っすよ。」
「なんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに。」
それを聞いてテディは思わずうめいた。
「数分前自己紹介したじゃないっすか・・」
「悪い、聞いてなかった。」
すがすがしいばかりに即答されため息をはくテディに追い討ちをかける。
「で、結局名前は?」
「テディっす・・」
「そうかあ、テディってゆーのか、・・ん、どうしたなんだか元気ないぞ?」
「なんでもないっすよ・・。」
加害者の能天気な発言にまた目の前が暗くなるが、クロウの表情からどうやら本当に心配してるらしいことを知り、少し元気になる。
「(・・ちょっと天然なだけで別に悪い人じゃないないんすね。)」
とりあえず自分を納得させたテディを見てクロウが声をかける。
「ところでひとつたのみがあるんだが。」
「な、なんすか?」
思わず身を硬くするテディをいぶかしげに見ながらクロウは続けた。
「お前の絵を書かしてほしいんだよ。」
「絵っすか?いいですけど・・なんでですか?」
「ああ、まあ趣味みたいなもんなんだが、旅先で見た珍しい遺跡とか動物を描いて保管してるんだよ。」
「そうなんすか。」
返事をしながらテディはクロウの意外な一面に驚いていた。
「ああ、で、どうだ。」
「え、ああもちろんいいっすよ。」
「そっか、ありがとう。」
ぺこっとおじぎするクロウにさらに驚き慌てるテディ
「そんな、別にお礼なんていいっすよ。」
そういいながらもテディの中でクロウの印象は黒くて変な人から、ちょっと天然だけど、悪い人じゃないぐらいまであがっていたと言う。
大衆食堂さくら亭の中でジンは一人虚空にしゃべりかけていた。
「何?テリトリーの展開をしてくれない?はあっほっとけ、どーせわすれてるだけだ。」
緑髪、緑眼、女と言っても通るようなととのった顔を持つ男が一人でしゃべっているのはやはり少々いやかなりめだっているが本人はきにもとめない。
「で、アリサとは・・うんうん、言い感じだな。」
エリアルからの報告は実にたのしげなものだった。自分に重傷を負わせた相手になんの危惧も抱かないのは問題だが、アリサの家に住む事は了承したみたいだしそれにその時、今まで感じたことのない感情を感じたらしいしな。
「未来への期待、と言う奴か。ふっ、本当に楽しくなりそうだ。」
そうつぶやいているとき、店の中に客が入ってきた。
「いらっしゃーい。あ、トリーシャにエルじゃない。」
おや、あれは確か昨日クロウを発見した子達じゃないか。お、向こうもこちらにきずいたようだ。とりあえず挨拶しておくか。
「やあ、昨日はどうも。」
俺の挨拶にトリーシャと呼ばれた少女は好奇心に満ちた瞳を向けながら答えた。まあ目の前で見たこともない方法で人が癒されるのを見たんだししかたないか、実際あのお嬢様なんかその場で騒ぎだしたし、アリサがいなけりゃどうなってたか。
「こんにちは、ジンさん、あの人はどうしてるの?」
「さあ、とりあえず怪我は治したし、もうじきここにくると思うけど。」
「そっか、それにしてもいったいあの時の緑の光はなんなの?ボクあんな回復呪文みたことないよ。」
その少女の言葉に後ろで所在なさげにしていた(エル、と言うらしい)エルフが反応した、
まあエルフなら知っていてもおかしくはないか。
「君は心当たりがあるようだな。」
とりあえずかまをかけてみることにしたが、本人より先にトリーシャが声をあげた
「え?エル何か知ってるの?」
友人からの言葉に後押しされたのか、エルはようやく口を開いた。
「昔、あれと同じものを集落で長老が使っていたのを見たことがある。」
やっぱりかと思いながら俺はその言葉を肯定する。
「うんうん、エルフの契約者は結構多いからな。」
「それじゃあやっぱりお前は精霊使いなのか」
「残念、ハズレ。」
惜しかったけどな、まあ魔法使えないんじゃしょうがないか。
「俺は精霊なんだよ。」
一瞬の沈黙の末まずトリーシャが声をあげた。
「う、うそ!?」
それにエルも同調する。
「ばかな!?普通の精霊が現出なんてできるはず・・まさか。」
「そのまさか。」
大方今ごろ俺の名前を思い出したってとこだろう。
「それでは改めて自己紹介をしよう。風の精霊ジンだ。」
「ジンってもしかして・・!?」
何かにきずいたトリーシャの言葉をエルが肯定する
「ああ・・風の大精霊の名前だ。」
呆然とした二人の顔は、結構おもしろかったりした。
「ま、大精霊なんて言っても他の精霊とそんなに変わるわけじゃない、せいぜい契約者の召還なしで好き勝手に地上にでれて少し風を起こせるぐらいだよ。」
「よくわかんないけど、それって十分すごいんじゃない?」
ジンがあまりに普通にしゃべるためか、トリーシャは逆に落ち着いてしまったようだ。
「そうでもないさ、のんきな契約者のおかげでいつも苦労がたえなくてね。」
「それはすまなかったな。」
自分たちの後ろから声がかえってきたのでトリーシャとエルがふりかえると黒髪、黒目、黒いコートに黒い靴、さらにはボタンまでも黒、と言ういわいる黒ずくめの男が立っていた。
「おや、来ていたのか、クロウ。」
さして驚いた様子もないジン、とゆうか彼からは玄関は正面なので入ってくるのがみえたのだろう。からかい半分のジンにクロウは憮然とした表情を浮かべた。
「そうゆー顔をされるとマジで全部嫌がらせなんじゃないかと思えてくるぞ。」
「ははは、そんなことはあるに決まってるじゃないか。」
なぜか爽やかに、きっぱりと言い放つジンを見てクロウがいきり立つ。
「やっぱりそうか!この外道邪道極道あとえーっと、とにかく悪人・・じゃなくて悪精霊め!」
「ふっ、いまさらそんなことにきずくとは・・あいかわらず蜜柑のように甘い奴よのう。」
「むう、なんか微妙だぞそれ、つーか案外酸っぱいだろ。」
「ふん、天然の蜜柑のあの酸味のきいた甘さがわからんとは・・かわいそうなやつめ。」
「くっ・・って酸味がきいてるってことはやっぱり酸っぱいんじゃないのか?」
「そんなことはない、・・たぶん。」
「たぶんてなんだおい。」
今までの流れをいっさい無視して突然始まった口げんかとも漫才ともとれるような言い合いに呆然とするトリーシャとエル。あまりの馬鹿馬鹿しさに口をはさむのもためらわれとにかくとまるのをまっていた。
「(うう、そういえばボクまだなにも食べてないよ・・。」
「(こんなのが、こんなのが大精霊でいいのか精霊界!?)」
二人の思考が結構落ち込みかけたとき救いの声はかけられた。
「クロウさん、料理たのんで来ましたよ。あ、ジンさんにエルさんにトリーシャさん。こんにちわ。」
「おう悪いなテディ。」
「今日はクロウの案内か?大変だな。」
テディがきたとたん口論をやめ普通に会話する二人。
「?トリーシャさんエルさんどうしたんですか。」
その時の二人の顔は疲れと驚きと安堵の交じり合ったなんとも複雑なものだったと言う。