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SLEEPING MURDER第五話
クーポン


「うーん今日も疲れたな−」
あれから二週間程経ち拘束具の男も現れずクロウは日々せっ
せと働いていた。
「そりゃ一日三軒も仕事引受りゃ疲れるに決まってるぜ。ちょっと
働き過ぎじゃないか?」
 横からアレフが半ばあきれた口調でいってくる。この男とは何故か妙に気が合い仕事の後さくら亭でつるむのは知り合った日からの日課と化している。
 「いや、全然。昔四十八時間ぶっつづけで炭鉱でバイトした時か
らすれば少ないくらいだ」
「はあ・・すげーなそりゃ」
 今度は本気であきれているらしが、それならこちらも言いたいことを言わしてもらおう。
 「いや俺からすればアレフのほうがよっぽどすごいと思うぞ」
「なんで?」
 「だってお前ほとんど働いて無い癖に金に困った様子が全くないからさ」
 これは本気で前々から疑問だった。俺は毎日だいたい三つ仕事を受けているため移動が多く、結構知り合いに合う。仕事で知り合ったトーヤ医師や自警団のリカルドのおっさんなどはもちろん元傭兵であきらかに世俗の仕事が苦手そうなリサでさえ仕事をしている、が、この男が仕事をしているところなど見たことはない、そのくせ身なりの物にかなり金を使っている。一度エリアルの探索能力を使うことを本気で考えたこともあるぐらいだ。
 「あ、ああまあな」
 あいまいに流そうとするアレフにそうはさせじとかまをかけてみる。
 「まさか女に貢がせてるんじゃ・・」
 「そんな事するか!」
 怪しいなあ、まあでもこれ以上言っても怒らせるだけっぽいし引き下がるとするか。それにそろそろ帰らないと夕食作って待ってくれてるアリサさんに悪い。
 「ならいいけど・・さてそれじゃそろそろ帰るかな。パティ」
「なによ」
勘定をと思ったのだが、返ってきたパティの声はあからさまに不機嫌そうだった。
 「いや、勘定」
 それを聞いてパティは黙って金を受け取り早々に離れていった。
 「うーん、パティの奴やっぱまだ怒ってんのかな」
  そもそも事の起こりは俺がこの町にきた初日。アルベルトにここでからまれたことにある。いや、アルベルト自体はアマラの力で秒殺したので店に被害もでなかったし俺的には満点のできだったんだが・・パティは何故か俺とアルベルトが喧嘩して、しかもおれがその場から逃げ出したと理解したらしい実際はあいつが俺に一方的に絡んできて俺はこれ以上騒ぎを起こさないために立ち去っただけなのだと言うのに。で、当然怒りをあらわにする彼女にその辺の理屈を説明してやったが、これがまた逆効果だったらしく、パティの怒りをあおるだけだった。結局トリーシャやエルの説明でその時の誤解はとけたのだが、未だにパティはあんな感じの態度でいるわけだ。
「いや、お前が悪くはないってのはわかってるだろうから少し意地になってるだけだ。
ほっときゃなおるさ」
  なるほど、さすがアレフ女のことをよーく理解してる。
 「そっか・・それじゃあまた明日」
 「おう」
アレフに挨拶してから店を出て俺は家にむかった。
 「しっかし案外なじむのはやかったな」
 唐突に横から聞きなれた声したのでそちらを向くと案の定そこにはジンがいた。
 「そーかも知れないな」
 こいつがこんな風にに現れるのはいつものことだ。いちいち驚いていたらきりがない。
 「で、今の気分は?」
 「悪くない」
 「ほう」
 「少なくとも今まで見てきた町の中では一番だろうな」
 「そっか、良かったな」
 「ああ、良かったよ」
 それを聞きにきただけなら本物の暇人ならぬ暇精霊だが、多分用件は別にあるだろう。
 「・・自警団が家にきてる」
 しばらくの沈黙の後、ジンはポツリとつぶやくように言った。
 「ああ、ぽいなー。しかも完全武装」
 そのことならこちらもエリアルの力で察知はしていたが、ジンの様子からするとかなりやばそうだ、正確に誰がいるのか探ってみるとしよう。
 「アルだけならまだしもリカルドまでいるとは・・ただ事
じゃないな」
 町中を動く自警団からなにかしらの事件が起きていることはわかっていたから家にも聞き込みかなんかできていたものとおもっていたが・・おっさんがきているとは、最悪俺が容疑者扱いされてても不思議じゃないな。
 「ふむ、でどうする?」
 「どうもしない、家に帰るさ。」
 まあ、まだ状況もわからないし、それを見極めてからでないと事は始まらないだろう。
 「そっか、それじゃあおれもいったんひっこむわ、俺がいるとややこしくなりそうだ」
 ジンも俺の考えを理解したらしくあっさりと引っ込んだ。
 「さて、それじゃあいってみますか」
 そうぼやきながら、俺は家へと急いだ。
 

 家につきいたっていつも通りにドアを開ける
「ただ今帰りました」
そういって家の中に入り外で感じていた通りの場所にアルベルトとリカルドがいた。雰囲気から察するにどうやら想定した最悪の事態のようだ
 「おかえりなさいクロウ君」
 アリサさんの表情や声色から疑心ではなく心配が伝わって来るのが嬉しかった。
 「やっと帰ってきやがったかクロウ!」
 とりあえずアルベルトは無視しておっさんに一言。
 「まずおっさん、なんのようかはしらんが正気か?」
 「てめえ!犯罪者のくせになにいいやがる!」
 「アル、止めろ」
 「し、しかし」
 「止めろといっている。」
 再度のおっさんの言葉いようやく黙るアルベルトしかし目だけはしっかりこちらを睨んでいる。つーか俺はなんでこいつにここまで嫌われてるんだ?
 「クロウくん、確かに夜中にこんな恰好でおしかけたのは悪いと思うのだが
なにしろ一大事なのだよ」
  む、どうやら俺の言葉を間違って解釈したらしい。説明の必要があるな。
 「いや、問題はなんでアルベルトを連れて来たかってことなんだが」  
「なんだと!」
 再び怒りだしたアルベルトをおっさんが視線で黙らせてから俺は言葉を続けた。
 「とまあこのように俺の言うことにいちいちつっかかってきて事が一向に前へ進まない上に場が険悪になる。そのぐらいのこともわかんねーのか?」
 「すまない、確かにその通りだ」
 「次からはきをつけるんだな、で、一体どんな容疑で俺は捕まえられるんだ?」  
とりあえず本題に入る、あちらさんは俺が事態を把握していることに驚いたみたいだが、おっさんはさすがにすぐに表情を戻し質問に答えてくれた。
 「宝石強盗だよ」
 「ふーん、証拠は?」
 「目撃証言により君の部屋を調べさせてもらったがベッドの上に盗まれた宝
石が発見された。」
 俺の部屋に?それに目撃証言だと?ふん、用意周到なことだな。
 「なるほど、良かったな簡単に事件が解決して」
 「ああ、お前が間抜けなおかげでな」
 「アル!」
 「す、すいません。隊長」
 アルベルト、学習能力ゼロかね君は?
 「クロウくん、すまないが自警団の事務所まで同行してくれないか?」  
ここまで証拠がそろっている以上それもしかたないか。
 「わかった。が、一つだけ聞いても言いか?」
 「うむ、なんだね?」
 「あんたは本気で俺がそんなまぬけだと思ってるのか?」
 この質問の返答によっては俺はこの場で逃げ出そうと思っていた。なにしろ証拠は完璧だ、おっさん辺りが少しでも疑問をいだいていないのなら俺はこのまま有罪になるだけ、それなら逃げたほうがましだろう。
 「思っていない、だが現時点で君が犯人だという証拠がそろっているのも確かだ」  
ふむならまだ望みはあるか。
 「なるほどな、それなら素直についていくとしよう」
 「すまない、助かるよ」
 「いいさ、それじゃあアリサさんちょっといってきます」
 「クロウくん・・いってらっしゃい」
 いってらっしゃい、か、良い言葉だな。できればもう一度聞きたいもんだ。まさにお先真っ暗の状況の中、その言葉はただ一つの光のように俺には思えた。
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