起章
扉が開くとき
闇。
全てのものを覆い、全てを等しくせしもの・・・。
絶対的なものがそこに存在した。
《 ・・・来たれ、アースの光・・・
我が闇に導かれ、この世界に出でよ》
男の声がした。
様々な時を重ね、いくつものときを刻んで来た、年老いた低い声だ。
闇に紛れ、姿は見えない。
いや、これが『声』なのかと言うこと事態曖昧だ。
それ程、この空間は満ちていた。
彼の闇、負の感情に。
《 出でよアースの光
時空の門を超え、我が前に現れ出でよ!!》
彼が今、用いている言語が何であるか・・・。
それは判らない。何故なら、この闇の『基』である彼の放つ言葉である。彼の意思こそが、この闇の全てである。
彼の意思が形をとり、『声』というイメージで呪を紡いでいるのである。言語の形など無意味だ。
彼の言葉は続く。
心なしか、言葉に熱が入り始めている。
《 時空の門よ・・・!!
扉を開け放てっ!!
時空の路よ!!
光を我が世界へっ!!》
意思の声だけが響く。
ひどく孤独な世界。
これを彼が故意に創り出したとしたら、彼は何を望み、創り上げたのだろう?
尋常でない。
《 EARTH!!》
彼はひときわ力の強い呪を放つ。
光が、現れる。
彼の世界に。
彼の闇の中に。
《 おお・・・。
これが、アースの・・・》
彼は感激にむせ、意思の形を最後まで形どれない。
だが、彼の感動はすぐに絶望に変わった。
「 ・・・・。」
「 ・・・・・」
光の中に、二つの強い存在を認めたからだ。
彼の考えでは、起こらないはずのことだ。そして、それは何らかの失敗を意味する。
そんな彼の絶望を感じたのだろう。一つの存在が口を開いた。
「 わたしは女神アースの称号を持つもの。
・・・貴方ですね。わたしを召喚したものは・・・」
女性らしい。
気品のある、優雅な口調だ。
彼は失望の内に答えた。
《 そうじゃ。わしじゃ・・・。》
女神は感心して言った。
「 これほどの闇・・・。
創り上げるのには、さぞ苦労したでしょうねぇ・・・。
一体、何を犠牲にしたのですか?」
まるで世間話でもするような気楽さだ。・・・女神自身、そのつもりなのだが、彼にとってはそうはいかない。
《 全てじゃっ!!》
彼は怒鳴る。
怒りをあらわにし、対象を女神と、もう一つの存在異界の者に向ける。
「 ・・・・」
女神は何でもないように、平然とその場に留まる。だが異界の者は元々意識を失っているのか、逆らう様子もなく、あっさり吹っ飛ばされた。
《 地位も名声もっ!! 親もっ!! 妻、娘・・・
全てじゃっ!!》
女神は優雅に、冷淡に応じた。
「 そう、それはご苦労なことで・・・。でも、素晴らしいですわ。
それだけのことで、ここまで闇を脹らます事ができるなんて・・・。賞賛に値しますわ。
ほんと、知性のある生物は面白いこと・・・」
「 ・・・・。
ずいぶんと、おしゃべりが御好きなようですね。貴女は。」
異界の者が初めて口を開いた。
声に刺がある。どうもこの女神にはあまりいい感情を抱いていないらしい。
「 あらあら・・・。
しかられちゃいましたね。雪兎ちゃんに・・・。
そうでしたわ。こんなことをしている場合ではありませんでした・・・。早く済ましちゃいましょうね、雪兎ちゃん」
「 私に振らないでください。」
「 ・・・・冷たい・・雪兎ちゃん・・・。
お姉さんのこと、嫌い?」
「 ・・・・・」
雪兎は答えず、目の前(?)の存在に目を向けた。
自分がこれと同じであると思うと、気が滅入る。
「 いいわいいわ・・・。さっさと終わらして、帰るんですから・・・。 OPEN!!」
女神は呪を一瞬で解き放つ。彼が放ったものなど比べようが無いほど、強力なものだ。
《 わしは・・・行けるのか・・っ!! アースの元へ・・・》
「 ・・・・」
彼のことばに、苦笑いをうかべる雪兎。だが何も言わなかった。
代わりに女神がいった。
「 気をつけて行きなさい。」
《 何に気をつけろと言うのだ!? 魔法のない世界など、容易くわしが・・・・》
彼は馬鹿にして言った。
同時に彼と雪兎の身体は光に包まれる。
それぞれの世界に送りだされるのだ。もう、後には引けない。
この二人が祖国をみる日はもう、ないだろう。
女神は続けた。
微笑を絶やすことなく。
「 向こうは真空状態ですから気をつけて下さい。
雪兎さんも、地上二・三千メートル上空ですから気をつけて・・・」
《 なっ!?》
「 ・・・・」
光に包まれ、二人の姿は消える。
女神は独り呟いた。
「 ガトーの方は無理でしょうけど、雪兎ちゃんはどうかしら・・・?
魔法も教えましたし、大丈夫でしょう・・・。
いいおもちゃを見つけたものですわ」
END