未来への旅人 夢と現実月虹
闇、何処までも続く闇。
360度何処を見回しても闇は続く。
上も下も解らない立っているのか浮いているのかさえも。
そんな中、闇とは違う部分が在る。
色が違うわけではない。しかし、決定的に“なにか”が違う。
それを見つけた瞬間辺りの闇が晴れ代わりに灰色の世界が広がる。
そしてだんだんと世界ができる、草木が現れ川が現れ世界ができる。
しかし、すべて灰色で構成されている。
そんな中人が居る。男二人、少女一人。
男の内一人は二十歳くらいの青年、少女は十歳ぐらいだろう。
もう一人はわからない。
その三人も例外無く灰色だ。
男たちは何かを話している、しかし声は聞こえない。
話が終わると青年が突然土下座をする。いや、何かを懇願しているのかもしれない。
立っていた男は少女の方を見た。
少女は二人を見ていない。いや世界すら見ていない。
その瞳は虚ろで、その顔の表情からも何も感じ取れない。
男が少女から視線をはずし未だ頭を下げている青年を見る。
男は口を開き青年に話しかける、しかし声はやはり聞こえない。
だが、青年には聞こえたらしく頭を上げその表情には歓喜の色が見える。
男が再び口を開いた瞬間、世界が歪み始める。
そして一瞬の間に場面が変わる。
そこは、何かの研究室らしき場所。
部屋には物が溢れ、机には何か得たいの知れない液体が入ったコップがあったり、何かの資料らしき紙の束や本が散らかっている。
部屋の奥にに先程の男がいる、その男の視線の先にはカプセルがあった。今いる位置からでは見えないと思っていたら、不意に自分がカプセルに近づいていく。不思議に思いながらもカプセルの中を覗くとそこには・・・・先程の青年がいた。
その隣にあったもう1つのカプセルも覗くと、青年と一緒だった少女がいた。
二人の体には到底人間にはあり得ない物がついており、それが何かを探し求めるかのように蠢いていた。それは、あたかも寄生虫が自分の心地よい苗床を探すかの動きであった。
ふと、思い出したかのように男を見やると、そこにはこの惨状を見て嫌悪感を表すではなく、逆に喜びに口元を歪める男がいた。
ふと、自分の思考が停止した。口元・・?
確かに自分は認識した。“口元を歪める”男だと。
先程までは口はおろか、目も鼻も見えなかった筈だ、そんな事を考えていると男に顔でき始める、その光景を数秒間見ていると完全に男に顔が出来上がる。その顔を見て驚愕する。確かに先程、口を喜びに歪めていると言ったが、その顔全体には喜びだけではなく嘲り、狂喜、など様々な表情が浮かんでいた。
男の顔をどれくらい見ていただろう?その男の歪んだ口元が少しづつ開いていき“笑った。”声は出してはいない、だが確かに笑ったのである。その様子を見ていると世界が消え始めた、男も部屋も何もかもが消え始める。
そして再び、辺り一面の闇が広がる。
だんだんと、自分の意識が途絶え始める。
薄れ行く意識の中、一つだけ気がかりが残った。
・・・・それは、先程驚愕した理由・・・・
・・・・男の顔が狂喜に彩られていたからではなく・・・・
・・・・男の顔が世界を見ていた“自分” ・・・・
・・・・ファバルの顔だったからである。
「・・・・は!・・・・くそ!またあの夢か!」
ファバルが毒づく。
「・・・だが、男の顔が見れたのは今回が初めてだな・・・・。」
ファバルがあの夢を見たのは今回が初めてではなくエンフィールドに来る前からも見ていたのである。ただ、男の顔は今まで見ることは無かった。男の顔を見ようとした途端に夢から覚めてしまうからである。
「ここは・・・・そうか、ジョートショップか・・・・。」
ファバルは自分に起こった事を整理し始めた。
ファバルは三日程前、牢屋に投獄された。罪名は“美術品の窃盗”である。無論ファバルにはそんな事をした覚えはないが、自分の部屋に動かぬ証拠がある限り無罪にはならない。
ただ、気になる事がいくつかあった。仮に自分が犯人だったとしよう、美術品が盗まれたのが牢屋に入る二日前の夜。夜だと断定できたのは美術館から怪しい人影が出てくるのを通行人に見られたからだ。ただ問題になるのは、その証言から不可解な事がある。その怪しい人影の姿から虹色の光を見たという。確かに、この街で虹色の模様のついた服や光を発する物などを身につけている者などそう多くは無い。その証言から、自分を疑うのも理解できる。そして、自分の部屋を捜索した所証拠品が押収された。
ここまではいい、だが盗みに入った時に何故、自分がやったと証拠を残すような格好で盗みに入る馬鹿がどこにいる?証拠品もすぐに見つかったと言うが、自分であればすぐ見つかるような手元に置いたりはしない。
しかし、いくつ自分が疑問点を挙げても無実にはならない。証拠品があり、判決も有罪だと決定している。それは、牢屋にいれられた時から解っていた事だ。自分に降りかかる処分も甘んじて受けるつもりだった、最悪の場合には脱獄する気でもあった。
ただ・・・・
ただ、唯一の誤算はアリサさんが保釈金を払った事だ。
それも、一万ゴールドの大金をたった一年間の期限付きで。
一年間の間に無実の証明、もしくは、一万ゴールドの大金を集めなければジョートショップの土地は売り払われてしまう。
自分の無実を証明するのは、事実上不可能だ。可能性はゼロではないが。
この街から逃げるという案は最初から無い。
では、どうするか?
答えは簡単だ、金を集めれば良い。幸い、旅の途中で作り上げた道具がまだ残っている。それに、捕まった日にショート科学研究所の使用契約は済んでいる。交渉ではなく“契約”だ、これがあれば例え犯罪者といえども使用はできる。
一年間、何とかギリギリで間に合うだろう。ジョートショップの仕事と研究品を売り払う事をすれば。
売る所の候補は科学研究所と魔道師組合、あと・・・マリアだろうな。
そんな事を考えていると階段を昇ってくる音が聞こえた。音からしてテディだというのが解る。恐らく、食事の用意ができたので起こしに来たのだろう。
「小難しい事は後で考えるとして、今はメシを食うとするか。」
そう言って、服を着替え始める。
テディが部屋に入り声を掛けてきて、俺はそれに答え、テディの後について行く。
そんな中、俺はある事を考えていた。
俺は、記憶を無くす前何をやっていたのか?
夢の中に出て来た男の顔が自分であった事。
そして・・・・
俺は、人に庇ってもらえるような人間なのか?
俺は、陽の光を浴びて暮らせるような人間なのかという事を・・・・