中央改札 交響曲 感想 説明

未来への旅人9 影の蠢き
月虹


日が傾き、街の声が小さくなっていく。


人々が別れの挨拶を告げ、家路へ歩き始める。


今日の終わりの準備をするために、


そして、何気ない明日の準備を始めるために。






そんな中、とある家の一部屋で白いティーカップを片手に紙の束を読んでいる男が一人佇んでいた。

それだけならば誰も気には留めないだろう、だが男が居る部屋はもう夜もまもなく来るだろうというのに明かりが付けられていなかった。

有るのは、男の前にある円卓の上のカンテラだけ。
だが、そのカンテラも男の読んでいる紙の束を照らすに留まっている。

男が一息つくために紙の束を円卓に置き、ティーカップ内の紅茶に手をつけた。
男が飲み終わるとカチャ、という音と共に置かれた。


「いい、ご身分だな?」
 その声に男は驚き辺りを見回す、だがそれも一瞬でやめる。
 その声の主を見つけ、ホっと安堵のため息をついた。
 声の主はまるで闇が人を作るかのように現れた。
「・・・・・・」
 男は立ち上がりながら何かを言った。
「いや、俺は寄る所があるんでな。遠慮しておくぜ。」
 しかし、声を掛けられたもう一人の人物はその言葉を断った。
「それより、用件を先に済ませるぜ。」
 そう言うと、その人物は椅子に座った。
 互いに顔は見えない、円卓の上にあるカンテラの光よって僅かに見えるくらいだ。
 男にとってその人物の解る事は、男である、眼帯のような物をしている。そして、自分の協力者である事だけだった。


「おおまかな事はそっちでも連絡はついてるだろう?」
 眼帯の男が男に尋ねる。
 男も円卓の上にある紙の束をチラリと見て頷いた。
「“火種”が本格的に動き始めた。予想通りだな。」
 男が無言で頷く。“火種”、ふたりの間でしか解らない言葉が飛ぶ。
「このまま行けば“火種”は炎になる前に消し止められるかもな・・・だが、そんな事はさせるつもりは無いんだろう?」
 男はその問いには答えず、先を促した。
 眼帯の男もそれを気にすることなく話を続けた。

「そういえば、“飼い犬”の“リーダー犬”が単独で嗅ぎまわってるぜ。」
「・・・・・?・・・・!!」
「そう、奴だ。気付かれる訳は無いが気を付けた方がいいぜ。」
眼帯の男の言葉は男にとって理解不能な言葉だった。
だが“飼い犬”の単語に覚えがあり、そこから連想される“リーダー犬”を思い出した。そして、眼帯の男もそれを肯定した。
「まあ、奴についてはそれほど心配する事も無いだろう。逆に下手に手を出してあんたに対する奴の疑惑を膨らませる事はしない方がいいだろう。」
その言葉に男も無言で頷いた。
男は手元の紙の束に目を向けるとそのまま黙り込んだ。


場に少しの静寂が訪れた。


「・・・・・そういやあ、“迷子の小猫”が見つかったらしいじゃねえか?」
「・・・・・」
その静寂を破ったのは眼帯の男だった。
だが、男はその言葉に無言だった。
「フッ、だんまりかよ。まあいい、俺様もそっちの件に関してはちょっかいを出す気はねえしな。」
眼帯の男はそう言うと席を立った。
男も一呼吸遅れて席を立とうとする、が
「一つ・・・忠告しとくぜ。」
眼帯の男の言葉に再び腰を下ろす。
「あいつ・・・“火種”の事を甘く見ない方が身の為だぜ。」
「・・・・・」
男は答えない。
眼帯の男も期待していた訳でもないらしく、何も言わなかった。
「・・・それと、中途半端な腕の奴を使うんじゃねえ。危うく消しちまう所だったぞ?」
「!!」
眼帯の男の言葉に驚き、後ろにある扉をみた。
確かに扉の向こうには自分を守るガードがいる。
ただ、眼帯の男が言ったように中途半端な腕ではなく、気配を殺す事に関しては自分の部下のうちかなりの力量を持っている。
しかし眼帯の男は気付いた。理由を問おうと視線を戻すと、眼帯の男は消えていた。



そう、影も形も無く・・・・消えていた。










「・・・・・不気味な男でございますね。」
眼帯の男が消えてから少し経った後、男は呟いた。
「しかし・・・いざとなれば切り捨てればいいだけの事でございます。」
そう言うと、紙の束を整え、席を立った。
そして円卓の上にあるカンテラの火を消した。と、同時に扉が開いた。
扉の向こうに居る部下が男の気配を感じ取り開いたのだろう。
男は扉に向かい歩いて行った。


己の目的を完遂するために。




























「ククク、役者は揃った。後はどんな舞台に仕上がるかだ。」
夜・・・・・太陽が沈み、闇が世界を支配する時間。
そんな中、眼帯の男は闇と同化するようにエンフィールドを歩いていた。
「うまく踊れよ・・・道化師のごとく。」
眼帯の男は唇を大きく歪め、これから起こる事を楽しみにしていた。


「・・・しかし、“迷子の小猫”・・か、あいつがこの事を知ったらどう思うだろうな・・・・いや、記憶を失う前のあいつだったら、か。まあどっちでも一緒か、楽しみだ。ククク・・・ヒャーハッハッハッハ。」
狂ったように笑い声をあげて、眼帯の男は闇へと消えていった。









エンフィールドに静寂が戻る。

そして、今日という一日が終わり・・・明日という一日が始まる。
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