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未来への旅人10 日常の一場面
月虹


「お兄ちゃ〜ん。はやく、はやく〜〜。」
「ローラ、そんなに急ぐ事ないだろ。」
 丸いサングラスを掛けた男、ファバルは自分の少し前にいる少女、ローラにそう話し掛けた。
「だってせっかくのデートなんだから、ゆっくりしてたら日が暮れちゃうもの。」
 飛び跳ねるように・・・事実飛んでいるのだが、体をファバルに向け、少し怒ったような顔つきで返事を返した。
(なあこれってデートだったか?)
(いえ、、確かアリサ殿のおつかいであったと思うでありまス。)
(そうやなあ、ウチもそうだと思ってたんやっスけど。)
(・・・だよなあ。)
 ファバルは小声で自らの両肩に乗っている黒と白の不可思議な生物に話し掛けた。
 すると黒い方のコクバが返事をして、間をおかず白い方のアメリがそれに追従した。
 2匹の考えと自分の考えが同じだったのでローラの言葉に頭を捻る。
「まあ、心配してくれてるんだろうな。・・・多分。」
 ファバルは数日前の事を思い出していた。













『お前なあ、少しは休んだらどうだ!?』
 ダン、という音をたててアレフが机を叩いた。
『・・・何の事だ?』
 そんなアレフに不思議な顔を向けて疑問を口にするファバル。
『何の事だ?じゃない、働き過ぎだ!!』
『そうだよボウヤ。責任を感じるのは悪くないけど根を詰めすぎるのはよくないよ。』
『そうですよファバルさん。休みも全然取ってないですし。』
 アレフの言葉に一緒に居たリサとクリスが追従した。
 いや二人だけではないジョートショップの中にはファバルの知り合いの主だった者達が詰め掛けていた。
『無理をしている覚えは無いんだが・・・』
 ファバルは自分が無理をしているつもりはなかった。
 たしかに自分のできる範囲内の仕事しか手を付けていない。
 休みもしっかりと取っているつもりだ。ただし週の休んでいる時間が24時間を切っていたが。
 その事を他の人間がどう取るかは考えてもいなかった。
『ファバルクン、もう少し休まないと体に悪いわ。』
『ご主人様の言う通りっス!!』
 アリサが心配そうな声で、テディが少し怒ったような声で話し掛けてくる。
『大丈夫ですよ、アリサさん。自分の体は自分がよく知っています。』
 とアリサに返事を返す。その声音は確かに大丈夫そうではある。サングラスに隠れて目は見えないが、顔色も悪そうには見えない。
『今大丈夫でも、倒れたりしたらどうするのよ!?』
『そうだぜ、オレと遊べなくなっちまうじゃねえか。』
『そうよ、マリアの手伝いも出来なくなるじゃない。』
 始めのパティの言葉はともかく、
 後のピートとマリアの言葉にファバルは苦笑した。
『ピートやマリアはあんな事を言ってるがここに居る皆、それにシーラやシェリル、エルにトリーシャにメロディ達だって心配してるんだぞ!?』
 皆を代表してアレフが声をかけてくる。
 ファバルはそれを聞いてその場にいる全員に目を向けると、責めるような視線、心配そうな視線などをファバルに向けていた。
『・・・でもなあ、俺にはこれぐらいしかできないんだよ。一年間働き通せばなんとか保釈金の額には達するだろうからな。』
『どうして?再審請求もあるのよ、お兄ちゃん。』
 ローラの言葉にファバルは首を横に振った。
『再審はあくまで再審にすぎない、たとえ街の人の信頼が得られても俺の無罪が立証される訳じゃない。』
 その言葉に皆、あっと声をあげる。
 ただアリサとリサ、マリアとピートはそれに反応しなかったが。
『アリサさんとリサは気付いてたみたいだな。・・・マリアとピートは意味が解らなかったみたいだな。』
『ちょっとそれ、どう・・『たしかに、気付いてはいたけどね。』』
 マリアが文句を言おうとしたが、リサがそれを遮るようにファバルの言葉を肯定した。
 ファバルがアリサを見ると首を振り無言で肯定した。
『確かに、ボウヤの言う通りだけどね。』
『リサ!?』
 リサの言葉にパティが驚きながら顔を向ける。
 いや、パティだけでなくその場に居た全員がリサに顔を向けていた。
『だけどねボウヤ。それが無理をして良いという訳じゃあ無いんだよ?』
『だが俺は、アリサさんにずいぶん迷惑を掛けている。俺にできる事と言えばこれぐらいしか無いんだ。』
 リサの言葉にファバルは拳を固めて言い返す。
 だがその言葉を聞いたリサは突然ナイフをファバルに突き向けた。
『だからあんたはボウヤだっていうのさ!迷惑を掛けたく無い!?ふざけるんじゃないよ!!』
 ファバルはナイフを向けられても微動だにしない。
 というより、ファバルはナイフを向けられた事より、なぜそこまで怒りをぶつけるのかが理解できなく悩んでいたのだ。
 周りの者もまさかナイフを抜くとは思わなかったらしく、少々のパニックに陥って居る。
『ボウヤ、あんたはねえ迷惑を掛けてんのさ。それもアリサだけじゃなく皆に・・・心配っていう迷惑をね。』
 リサは周りの事などまったく気にしていないように言葉を続ける。
 その言葉を聞いたファバルは手を口にあて俯く。
 サングラスと手のせいで表情は伺えないが、雰囲気から苦い顔しているだろう解る。
 それを見たリサはナイフを逆手に持ち、腰に収めた。
『そ、そうだぜお前が迷惑掛けたくないってのも解るがアリサさんの事も考えたのか?』
 ナイフを収めたリサを見て安心したのか少しどもりながら、ファバルに話し掛けた。
『・・・だが限界ぎりぎりなんだよ。これ以上は休めば保釈金に足りなくなる。』
 アレフの言葉に俯いたままファバルは答える。
『俺の計算からすれば一年中働き通してやっと稼げる額だ。』
『また繰り返す気か?解った、俺も手伝うぜ。』
 アレフの言葉にファバルが驚き、声を上げる。
『それは!!』
『俺が勝手にやるんだ気にするな。それにここに来る前から決めてた事だしな。』
 その言葉にリサ達が頷く。
『皆理由は様々だけどね。』
『言っとくけど、アリサおばさまの為だからね。』
『ボクも精一杯手伝います!!』
『へへっなんか面白そうだしな、オレも手伝ってやるよ。』
『あたしも手伝ってあげるね、お兄ちゃん。』
 リサ達が次々に声を掛けてくる。
 そして、その場に居たアリサはファバルに微笑んでいた。
『・・・皆、すまない。助かる。』
 それを見たファバルは照れくさそうに、
 そして申し訳無さそうにアレフ達に声を返した。
『大丈〜夫☆マリアの魔法に任せておけば、心配なんて要らないわよ☆』
『『『『『『『『それは止めろ!!』』』』』』』』
 マリアの言葉にアリサ以外、皆それぞれニュアンスが違うがマリアに対し制止の言葉を投げかけた。
 当然マリアは不満そうな顔をみせたがジョートショップ、しかもアリサの居る時にいつものように反抗して魔法を使うことはなかった。













「まったくお節介な奴等だよな。」
「・・・そうでありまスね。」
「ホンマ、ホンマやっス。・・・でもオヤビン内心嬉しそうやないっスか?」
 アメリの言う通りファバルの口は笑っていた。
 だがファバルもそれを隠そうとはしなかった。
「まあな、しかし・・・」
「「しかし?」」
 ファバルの言葉にコクバとアメリが鸚鵡返しに聞いてくる。
「しかし・・・“心配っていう迷惑” ・・・か」
「「・・・・・・」」
 ファバルの言葉にコクバとアメリは無言になる。
 まるで、ファバルを気遣う様に。
「やめだ、やめだ。俺らしくもない、失敗したら・・・やり直せば良い。それが俺の持論だしな。・・・さあて、行くか。」
「・・・了解でありまス。ボス。」
「そやなっス。・・・そんなのオヤビンらしく無いやっスね。」
 ファバルの言葉に調子を取り戻したらしく、明るい雰囲気でファバルに話し掛けるコクバとアメリ。
「そう言えば、ボス。その腰に掛けている袋はもしかして・・・。」
 コクバがファバルの左腰に掛けている袋に指を差してファバルに尋ねる。
 大きさとしてしてはあまり大きくない。
 そして歩く度に中の物が、カチャカチャと音を鳴らしている。
「ああ・・・実験の副産物さ。」
「子供達への土産ということやっスか?」
 アメリの言葉に無言で頷くファバル。
「そりゃあ喜びそうやっスねえ。・・・でも」
「良かったのでありまスか、ボス?」
「ああ、別段困るわけでもないからな。・・・それよりも急ぐぞ、ロ−ラが痺れを切らしてる頃だろう。」
 そう言うとファバルは急ぎ足で歩き出した。
 アリサの教会へのおつかいの品をなるべく乱暴に扱わない様に。
 そして、コクバとアメリはそんなファバルに振り落とされない様にしっかりと捕まっていた。
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