中央改札 交響曲 感想 説明

時と運命の織りなす螺旋 第二話
GGG


時と運命の織りなす螺旋
第二話『タクト、捕まる』
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タクトがジョートショップで住み込みで働くようになり、それなりの月日が流れ、知り合いや仲の良い友人も出来た頃、事件は起きて…いや、起こされた。






「タクト=エスチェード!キサマをフェニックス美術館盗難容疑で逮捕する!!大人しくお縄に付け!!」
突然逮捕する!などと言われれば普通誰でも困惑するだろう。しかし残念ながら、彼は普通できなかった。
「はぁ?連日の激務でついに頭にボウフラでも沸いたのかアルベルト?」
「んだとてめぇ!?」
憐れみの含んだ視線でアルベルトを見やる。
「何だ、その憐れみを含んだ視線は!?人をバカにしてんのか!?」
「してる。で、おっさん、用件はできるだけわかりやすくかつてみじかにお願いするぞ。」
まるで何事もなかったかのように、それでいてどこか偉そうにリカルドに用件を訪ねる。横で叫いているアルベルトは無視。
「昨夜、フェニックス美術館で大規模な盗難事件があった事は「知らん」…そ、そうか、ともかく盗難事件があったんだ。そこで君に良く似た人物を見た、と証言する人物が数人現れので、容疑者として君の名前が挙がったわけだ」
「ふんふん、で、証拠は出たのか?」
「ああ、見つけてくれと言わんばかりに部屋の真ん中に盗まれた美術品が置いてあった。」
「まさかとは思うが…それだけの事で俺が犯人だと思ってんなら、ここの自警団は長くないぜ?俺と同じ背格好の人間なんざそこら辺にごろごろいるし、だいたい俺がなら証拠なんか残さないで盗んだその日に闇市ででも戦利品を売っぱらってさっさとこの街を出ていくっつーの。」
「テメェ!ふざけやがって…!」
アルベルトが激昂して掴みかかろうとして動こうとしたが、それよりも速くアルベルトの喉元に手刀を突きつける。
「五月蠅い、黙ってろこの猪突猛進莫迦が。」
不安そうな顔でこちらを見ているアリサに気づき、すっとアルベルトの喉元から手刀を引く。もちろんリカルド達と殺り合う気はなかった。が、一瞬だけ漏れだした『力』、その凶悪なまでの威圧感に歴戦の戦士であるリカルドでさえ僅かに飲まれかけた。
「…確かにその通りだが、我々としても他に容疑者が居ない以上君が最有力容疑者であることに代わりはない。君には一度自警団事務所まで来てもらう事になる。取り調べのために事務所まできてくれないか?断ってもいいがそのときは強制連行させて貰うことになるが…」







リカルドはこのときあることを頭の隅で考えていた。彼の性格は一言で言うなら、破天荒で周りの人間をからかう事を無上の喜びとするような感じだ。かといって、無闇に人を傷つける事はせず、むしろ周りの人が傷ついていると、自分のことは放ってでも、助けるような、そんな人柄の彼が果たして本当にこのような事件を起こすのか、と言うこと。
もう一つは先ほど感じた今までに感じたことない威圧感のこと。それは殺気でも闘気でもない、明らかに異質なものだった。この任務に同行しているのは4人。直属の部下アルベルト、第三部隊隊長カール・ノイマン、そしてその部下ウィル、自警団でも最強を誇るの実力者たち、このメンバーなら相手がよほどの化物でもない限りまず捕縛できる自信があった。しかし先ほどの威圧感を感じたリカルドに、タクトが本気で抵抗してきた場合、無事捕縛できる自信はなかった…







「はあっ…ったく、わかったわかった。んじゃ、これは任意同行って解釈させてもらうけどいいよな?」
諦めたように溜息をつくと呆れたような声で訪ねる。
「ああ、構わんよ。」
そのリカルドの台詞で、取り敢えずこの場は従う事にするタクト。その様子を見ていたアリサが、不安げに声をかける。
「タクトくん……」
「大丈夫ですって、アリサさん。この程度の証拠じゃ少なくとも即有罪何て事にはなりませんって。証拠不十分で即釈放、はれて自由のみです。ほらおっさん、さっさっと行こうぜ。」
そう言って、リカルドを促し堂々と店を出て行く。しかしそんなタクトの姿を見ても、アリサは不安そうな顔をし続けていた。












「………っておいこら、何で俺はいきなり牢屋に放り込まれてるんだ?エンフィールドでは取り調べと逮捕は同義語か?それとも牢屋と取調室を併用しなきゃならないぐらいここの自警団の財政は厳しいのか??」
かなり不機嫌な様子でベットの上に寝っ転がりながらリカルドをジト目で睨み付ける。ちなみにさっきまでアルベルトも居たが、あまりに目障り…もとい、五月蝿かったため、チョークで落として黙らせた。今頃ベットの上で安らかに眠っていることだろう、冥福を祈ろう。(死んでない)
「まあそう怒らないでくれ。本来なら事情聴取の後裁判までは拘留、という予定だったのだが、先ほど君の逮捕命令が出されてな」
「詐欺だ。俺は取り調べって事で付いてきたんだぞ。自警団が詐欺って良いのかよ?せめて取り調べぐらいしよーぜ。」
「すまんな。後日裁判が行われ、君の処遇が決定する。それまで君には其処にいて貰う事になる。」
「おいおいおいおい…ずいぶんと勝手な話だな、泣くぞ…でだ、有罪判決がおりた時の俺の処遇は?」
「悪くて終身刑、良くてもこの街を永久追放になるだろうな…」
「ん、そっか。」
自分で聞いた割にはやけにあっさり引き下がる。リカルドはその引きのよさにおもわず聞き返してしまう。
「君は…本当にそれでも良いのか?」
「ん?まあ、もともと俺は根無し草無しの旅ガラスだ、追放されたった困りゃしない。まあできれば死刑は勘弁して欲しいが…アリサさん達には迷惑掛からないんだったら俺のことなんか別にどうでもいいし。」
そう言ってベッドに横になる。その様子から、本当にどうでもいいと言うことが見て取れる。暫くは呆れたような顔でそれを見ていたリカルドだっただが、タクトが本当にもう言う事はないを悟ると、牢屋を出て行った。















「おい、犯罪者…って何壁に落書きしてんだ!」
ちょうどタクトが暇つぶしに牢屋の壁に落書きをしていたところにアルベルトが牢屋に近づいてきた。
「落書きじゃない、芸術だ」
「何が芸術だ!いいから壁に落書きするんじゃねぇ!」
「なにぃッ!お前にはこの芸術の素晴らしさがわからないのか!」
かなりわざとらしく大げさリアクションを取る。内心、暇つぶしができて喜んでいたりする。






「………で、なんのようだアルベルト。俺も暇じゃないんだから早急に用件を述べろ。」
さっきまで壁に落書きし、用件を伝えようとしている奴をからかい用件を言わせようとしなかった元凶はひとしきりアルベルトをからかい満足したのか、話を本題に戻す。
「ぜぇぜぇ…はっ、そうだった。釈放だ、さっさと出ろ!」
忌々しげに言いながら牢屋の鍵を開けるアルベルト。その様子を怪訝に見ていただが、ふとアルベルトに質問する。
「釈放ってどういう事だ?昨日聞いた話では俺は裁判が終わるまで出れないはずだろ?どう考えても釈放なんてまずありえないことだぞ。」
「保釈金の10万ゴールドが支払われたんだ!………ったく、アリサさんも何でこんな奴の為に……」
アルベルトの忌々しげな呟きを耳にしたタクトは思い当たる節があった。そして、牢が開くや否や直ぐにアルベルトにラリアットを食らわせ、外に飛び出した。数十分後、壁に体が半分めり込んで気絶しているアルベルトをたまたま見回りに来たウィルが発見したとかしないとか。
















〜ジョートショップ〜

「あ、タクトさん。出てこれたんっスね。良かったっス〜!」
バンッとドアを開けると、先に気付いたテディが話し掛けてくる。遅れてアリサもタクトに話し掛ける。
「タクトくん、大丈夫?いきなり牢屋に入れられたなんて聞いたから、凄く心配したのよ?ひどい事されなかった?」
ホントに自分の事を心配してくれた事は本当に嬉しいが、その前に確認しなければならない事がある。
「アリサさん、どういうことです!?なぜ俺のためなんかに保釈金なんて払ったんですか!終身刑や永久追放の保釈金は10万ゴールドはかかるはずです!」
「タクトさん詳しいっスね…」
「法律の関係の本は読破してるからな。それでどうやって10万ゴールドもの金を?ジョートショップには保釈金を払うほどの金は無いはずです!」
いつもの不真面目さはなく、エンフィールドに来てから今まで1度も見せたことのない真剣な表情でアリサに詰め寄る。
「それはね、親切な方がジョートショップの土地と建物を担保に10万ゴールド貸してくれるって言ってね、それで保釈金を払う事が出来たの。」
詰め寄るタクトに訳を話すアリサ。そのあまりにもあっけらかんとした物言いに、暫し呆然とする。はっと我に返ると、再びアリサに詰め寄る。どうやら本気で怒ったようだ。
「いっ、一体何を考えてるんですか貴方はっ!?ジョートショップは貴方の、貴方達の大切な思い出の詰まった場所でしょう!?それなのに、それなのに何で得体の知れない俺みたいな赤の他人の為に………!」
「タクトくん。」
尚も言い募ろうとするタクトを厳しい口調で遮るアリサ。しかしその顔には、何時もの優しい微笑が浮かんでいた。
「タクトくんはもう赤の他人なんかじゃないわ。たった一ヶ月しか過ごしていないけれど、貴方は私にとって大切な家族よ。…確かにあそこには大切な思い出があるわ。でもね、思い出よりも今の家族の方が私にとっては大切で、失いたくないものなの。」
こんな自分を、アリサは家族だと言ってくれた事は嬉しかった。だが、それなら尚更迷惑をかけてしまった自分が腹立たしい。その様子を見かねて、アリサが声をかける。
「まだ望みが無い訳じゃないわ、保釈金は一年の猶予を貰っているから、1年以内に返せば利子その他は無しで良いわ。それに…」
「再審請求制度ですか…確かそれで住民の過半数の支持を得る事が出来れば、裁判はやり直される…そしてそこで無罪を証明できれば、保釈金も戻ってくる、再審請求締め切りは保釈から一年…」
「ええ、その通りよ。だから一年がんばれば、何とかなるわ、きっと」
アリサの言葉を遮り、暫し考え始める。やがて結論を出し、顔を上げる。
「一年の猶予つきということであれば、10万ゴールドの方は何とでもなります。いざとなれば俺の持ってるモノを売れば、軽く10万ゴールド程度にはなりますし。でも俺的にはなるべくその手段は使わずに、やっぱりこの街で働いて稼いだ金で支払いたいですね、心情的に。再審の方ですが、支持を得る事自体は問題ありません…たぶん。真面目にこつこつやってれば、結果はついてくるでしょう。」
「それじゃあ…」
「ただそうなると、滅茶苦茶きつくなります。はっきり言って致命的に人手不足ですからね。通常業務をこなせる人間が後4、5人いれば俺達が業務の傍ら捜査を進める事が出来るんですが…。」
その台詞に落ち込むアリサ。せめて保釈金に関してだけでも何とかしようとタクトが決めた時、ふいに声をかけられた。












「なら、ジョートショップに証拠集めをしながら10万ゴールド稼げるだけの人材がいればいいんだよな?」












不意に背後から声をかけられ、声の方に向くと其処には…













「人手が要るんなら、俺が手伝うぜ。大船に乗ったつもりでいろよ」
自信満々の笑みを浮かべるアレフが…

「あたしも手伝うわ。いっ、言っとくけど、あくまでアリサおばさまの為に手伝うんだからね!」
少し照れ臭そうにしているパティが…

「私になにができるかわからないけど…おばさまや、タクトくんの力になりたい…」
精一杯自分の思いを込めてシーラが…

「あの…私も私にできることがあれば、手伝います」
内気ゆえか、赤くなりながらも言うシェリルが…

「どんな依頼だろうと、マリアの魔法でいちころよ!だからタクトは心配しないで大丈夫よ☆」
何時もの感じで、それでいてタクトの事を気遣っているマリアが…

「ま…暇つぶしぐらいになるだろうし、放ってはおけないからね」
ぶっきらぼうだがなものいいだが、顔は微笑んでいるエルが…

「アリサさんや坊やには結構世話になってるからね。ここらで恩を返しておかないとね。」
頼もしい限りの口調でリサが…

「ふみぃ、メロディ〜もおてつだいするの〜!だからメロディはいつものちょっぴり意地悪だけど優しいタクトちゃんでいほしいのお〜。」
純粋な笑顔を浮かべ、タクトを元気づかせようとするメロディが…

「俺も手伝うぜー!おばちゃんには世話になってるし、なんたってなんかおもしろそーだしなー!」
本当に面白そうにしているピートが…

「たいして役には立てないかもしれないけど…ボクもお手伝いします!」
自信無さげに、それでもしっかりした口調でクリスが…

「ボクには噂を集めるくらいの事しか出来ないかもしれないけど、一生懸命頑張るよ、タクトさん!」
父親が自警団団長だと言うのに、容疑者である自分を手伝うと言うトリーシャが…







「みんな………!」
そう、振り向いた其処には自分を信頼してくれている、仲間達がいた…






「タクトくん…きっと何とかなるわ、だって貴方にはこんなにステキなお友達がいるんですもの。」
「そう…ですね…俺にはこんなにも心強い仲間がいる………よし、こうなったら意地でも10ゴールド稼いで、絶対に俺を陥れた犯人を見つけだしてこの世に生物として生まれてきたことを後悔させてやるぜ!…くっくっくっ…楽しくなってきたぜ…」
そして感動のシーンも束の間、次の瞬間意地悪い笑みを浮かべ、いつものタクトに戻っていた。





「そ、そう言えばさ、タクト。さっき俺『達』が業務の傍ら捜査を進める事が出来るって言ってたけど、誰か他にもいるのか?」
不気味な笑みを浮かべるをタクトにちょっと引きつつも、さっき微妙に引かったことを訪ねるアレフ。
「ん、ああ。そう言えばみんなにはまだ言ってなかったっけ。ちょうどいい機会だし、紹介しておくか」
そう言うとその場から一歩下がり、印を結び呪文を唱える。
「闇にひるがえりて、全鬼」
複雑に重ねた手のひらを突き出し、それを返す。
「影にふりかえりて、護鬼」
タクトの影に渦巻いた闇が生まれ、それは斜め前と斜め後ろにズルッと分かれる。濃密な気配が周囲に出現する。
闇は更に蠢きその形を変え、すぅ、と天に向かって伸びる。
「闇と影、呼び出すは、我」
その言葉と共に闇は、シャン、と霧散する。
残ったのは、タクトに背を向けるように佇む二人の女だった。
一人は黒い髪を背中まで伸ばした道衣に袴姿の背の高い女性。
もう一人の背の低い少女は独特のひらひらとした民族衣装のような物を着込み、髪は白銀に輝き、瞳は血のように紅い。
「全鬼、護鬼。みんなに自己紹介」
誰もが驚愕の色を隠さない中、タクトは現れた二人の女へ目配せをする。
「承知しました、御主人」「理解した、マスター」
二人に共通しているのは、感情のない、冷たい声と表情。
「全鬼」「護鬼」
以上、自己紹介終了。
「ねぇ、タクト…その二人は一体…」
パティがあっけにとられながらも訪ねる。
「ああ、このふたりは…」
「私達は御主人の奴隷。」
「私達の身も心もマスターだけのもの。」
「ぶっ!!!」
言葉を遮られ、どう聞こうが誤解されること間違い無しの言い方に思わずタクトは吹き出す。
「ど、奴隷って…」
「タ、タクト!どういうこと!?」
「タクト!?」
「タクトさん!?」
「…もうちょっと考えてから言おうな、二人とも。」
みんなに一斉に詰め寄られ、全鬼と護鬼の頭をぽんぽんと撫でながら二人の自己紹介をし始める。思いっきり顔を引きつらせながら。
「この二人は俺の…そうだな、まあ使い魔みたいなものとでも思ってくれていい、厳密には全然違うんだけどな。他にもまだいるけどまたそれは後日と言うことで…んで、全鬼はどちらかというと武器の扱いに、護鬼は魔法の類を得意としている。まあこいつ等は基本的に何でもできるんだけどな」
極上の笑みを浮かべる。 
「………」 
「どうしたんだ?」 
「う、ううんっ、なんでもないよっ」
真っ赤になっている女性陣に首を傾げながらも、何とかごまかせたことにホッと息を付く。
「そうか。さて、今日から仕事に取り掛かってもらうわけだけど、幾つかの説明と、皆に聞いておきたいことがある。」
珍しく真剣な顔で皆に問い掛ける。
「先ず、皆は其々の用事を優先させる事。学校や仕事何かをサボるような事だけは絶対にするなよ。」
「でもそれでホントに大丈夫なの?」
パティが心配げに尋ねる。他の皆も同じような気持ちのようだ。
「ふっ、問題ない…。だいたい焦ってもしょうがないからな。あくまでジョートショップの手伝いは副業、ジョートショップを手伝っていて学校の成績が落ちた、何てなったら信用以前の問題だろ。」
タクトの返事に問いかけに頷く一同を確認し、次の質問に移った。
「あと給料の方は、歩合制でいく。」
「ちょっと待った。給料なんていらないよ、10万ゴールド稼ぐのには…わかってるだろう?」
途中でリサの突っ込みが入る。ほかの皆も頷いている。
「だが、働く者にはそれ相応の報酬を与えるが俺のもっとーだ。こればっかりは譲れない。」
誰も何も言わない。給料を拒むことは不可能だと全員が悟ったのだ。長くはないつきあいだが、タクトもこれで変に律儀なことあると言うことを全員知っているからだ。
「で、その月の稼ぎが平均を上回った場合は月末に支払われる基本給に上乗せする。基本給は働いた時間によって決めるから基本給に不満があれ言ってくれ、それなりに考慮する。さて、業務内容の説明はこれで終了。」
タクトは、再び皆の顔を見渡して言った。
「それでこの中で人間、まあ魔物相手でも良いから兎に角実戦経験のある奴は何人くらいいる?」
「私と…」
「アタシだけだね」
タクトの質問に答えたのは傭兵のリサと、マーシャル武器屋の店員エルだけだった。
「う〜ん、二人だけか…もうちょっといると思ってたんだけどなぁ…実戦経験者は俺を含めて5人…ちっとばかし厳しいか…?」
「なあ、実戦経験って、必要なのか?」
実戦経験者が予想以上に少ないことにちょっと落胆するタクトにピートが訪ねる。
「まあ手っ取り早く金を稼ぐなら魔物退治とかの依頼が収入はデカイ。戦闘ができる人数が収入の量に結構影響するけど、さすがに実戦経験の無い人間にそう無理はさせられないし。まあ全鬼と護鬼は基本的に戦闘要因に回って貰ってできる範囲で受けるようにするか…」
その呟きを聞き、アレフがタクトに問い掛ける。
「じゃあさ…実戦経験者が訓練つけてくれればいいんじゃないか?クリスとかトリーシャとかは魔法が使えるし、俺は申し訳ない程度だけど剣が使える。経験さえ積めばなんとかなるんじゃないか?」
「あたしもお願いするわ」
「俺もー!」
隣にいたパティとピートも同意する。
「いいのか?まあ危険な仕事をやらせる気はないし、できるだけ安全な依頼を選んで受けるけど、怪我をしないなんて保証はどこにもないぞ?最悪、命を落とすかも知れない。それでも実戦をしてもいいという奴は手を挙げてくれ。」
そう言うと、全員が手を挙げた。タクトはもう一度、全員をぐるりと見渡して、全鬼と護鬼に目を向ける。
「じゃあ誰がどのくらいの適正があるかどうかみせてもらっていいか?ってか見せろ。とりあえず公園にでも行くか。」






〜陽のあたる丘公園〜


「で、これから何するんだ?」
公園について、アレフがタクトに訪ねる。
「まぁ簡単な適性検査と実戦に向けての最低限の訓練。アレフは剣が使えるんだったな…んじゃこれで良いかな、ほれ。」
タクトは全鬼がどこからとも無く取り出した剣を無造作に放る。
「これで良いって…こんなもん貰って良いのか?」
タクトが放った剣を受け取りながら、尋ねるアレフ。渡されたのは名剣には一歩及ばないが、それでも施された装飾を見れば結構な業物である事は素人目にも明らかだった。
「別に良い、どうせ俺のじゃないし。取って置いたって誰も使わん。だったらお前に使われる方がよっぽど優位気だ。」
「タ、タクトさん…なんだかアレフくんの顔色が悪いんだけど…」
ふと見るとアレフの顔からは見る見る生気が失せていく。しかも剣にはめ込まれた宝玉が紅く鈍い不気味な光を発していた。
「あ、それ魔剣らしいから気を付けろよ。で、アレフはそれで良いとしてパティは如何するか…。」
何か騒いでるアレフ達は無視して(酷ぇ)パティについて考える。
「あたし?あたしは武器なんか使った事無いわよ?あとあんな危ない武器はやめてよね。」
「ん、わかった。だとするとパティには…フライパン、包丁、まな板とか普段使ってる武器はどうだ?」

ドスッ!!!

「ぐふっ!」

パティの鉄拳が鳩尾(みぞおち)に43°の角度でヒットする。
「まじめに考えてよね…?」
「じょ、冗談の通じない奴だな…そうだ、俺がパティに合いそうなのを適当に見繕うから、その中で自分が好きなのを選んでくれ。」
腹を抑えながら全鬼から短剣、斧、トンファー、ヌンチャクなど色々受け取り地面に置く。全鬼の持つ小さな手提げ袋の一体何処にそれだけ持っていたのか気になるパティだったが、そこはタクトの相棒。気にするだけ無駄である。
「う〜ん…じゃあこのハンマーとか。あたしに使えるかな?」
といって扱いやすさが最大の特徴である、バトルハンマーを手に取る。
「まぁ、俺的には結構扱いやすいと思うぞ。殴って良し、突いてよし。扱えもしないのに剣とか使うより100倍はマシだ。」
「ふ〜ん…足手まといになんてなりたくないしね。まぁ、やれるだけやってみるわ。」
そう言ってやる気を見せるパティ。タクトはその姿勢を好意的に見ていた。目的をもって修練に励む者は、成長するものだと彼自身、身をもって嫌と言うほど知っているからだ。
「で、次はピートとメロディ。身体能力は常人を超えているからとにかく戦って戦って戦いまくってくれ。全鬼とでも戦え戦闘の勘を嫌って程養える。」
そう言い二人には攻撃力を上げるためと、拳を痛めないためにグラブを渡す。
「クリスとトリーシャ、シェリルは護鬼に魔法の同時発動や合体魔法、呪文短縮を教えてもらってくれ、マリアは魔法の制御訓練。」
「ちょっと、なんでマリアだけ制御訓練なのよぉ〜!」
当然のごとくマリアからクレームが入る。
「ほ〜う、それを聞くか?マリア…ジョートショップにくる依頼内容にはマリアが魔法を暴発させた後の後始末っていうのも結構あんだけどな〜」
「うっ!!」
にこにこといつもとは違う笑顔を浮かべるタクトに頭を撫でられながら、ギクッとするマリア。そういえばここ最近、壊れた建物の修理をしているタクトの姿をよく見かける…。
「何か文句でもあるのかな?マリア?(笑顔)」
「うぅ、ないです…」
頭を撫でる手にギリギリと力をいれ、マリアを説得する。
「それでリサとエルだが、パティとシーラに徒手での模擬戦をほどこしてくれ。全鬼だとうまいこと指導できなさそうだから。」
そこでエルは不思議に思い、そして訪ねた。
「パティはいいけどなんでシーラまで?あの子は絶対魔術師向きだと思うけど。」
この場にいる皆の疑問だった。いわゆるお嬢様であり、ピアニストである華奢なシーラに白兵戦は無理だ、誰もがそう思っていたのである。
「あれっ?もしかして誰も気付いてなかったのか?今現在、俺達とリサ、エルを除いた中ではシーラが一番強いと思うけど。」
「「「「「な、なにぃ〜っ!?」」」」」
タクトの告げた驚愕の事実に、全員が揃って声を上げる。
シーラは真っ赤になって俯いている。
「シーラは肉体的に高いポテンシャルを持ってる。技術と度胸さえ身につければ、充分前線で戦える戦士に成長するぞ。」
「・・・・・・・・・(赤面)」
「たぶんシーラは先天的に丈夫でしなやかな筋肉を身につけてたんだろうな、まさにダイヤの原石だ。それに如何いう理由かは知らないが、護身術でも習ってたんじゃないか?身のこなしがはっきり言って達人レベル。」
それを聞いて益々驚くアレフたち。シーラは相変わらず真っ赤になったままで俯いている。
「うん、潜在魔力も強いし、実戦経験さえ積んで鍛えれば魔闘士としても超一流になれるな。」
「あ、あのタクト君、それ以上言わないで…。」
「まぁ俺にとってはどうでもいいことだし、その辺は本人が決める事だ。」
真っ赤になっているシーラを見て、取り敢えず言うのを止める。
意見を撤回する気はないようだが。
「じゃあ今日一日は此処で徹底的にしごいてやるから覚悟しろよ。あっ、それとこの二人の特訓は俺よりも厳しいからな…。」
全鬼と護鬼の担当になった者に一応忠告しておく。そしてタクト、全鬼、護鬼、リサ、エルの指導のもと、訓練を開始した。






追記
この日、十数回凄まじい爆発音と共に閃光が陽のあたる丘公園を覆い、遅れて大地が揺れ衝撃波と風が街に吹き荒れた。そして後日、爆発でむき出しになった地面をタクトが舗装していたとかいないとか。



あとがきという名のいいわけ

GGG:どうも、GGGです。今回はオリキャラの全鬼&護鬼の登場です。
タクト:何を早まったマネを…。
GGG:うるせぇ。ちなみに全鬼&護鬼の元ネタは前鬼と後鬼というのはすぐ気付くと思う。
タクト:まあ知ってる人は多いと思うぞ。
GGG:役小角の使役した鬼神だけど、実は鬼じゃなくて山人らしい。ちなみに前鬼、後鬼は「鞍馬天狗』としても伝わってる。
タクト:それが?
GGG:いや、何か設定に使えねーかなと思ってさ。
タクト:お前の文才じゃ無理だよ。
GGG:………そんなハッキリいわなくても
タクト:だって事実だろ。
GGG:………否定はしない。
タクト:だろ?
GGG:………それでは今日はこの辺で失礼します(泣
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