中央改札 交響曲 感想 説明

EVERLASTING EVERYDAY 第3話「お目覚めですか?」
柊真


――ジョートショップ――

あれから3日たった。
男は未だに目を覚まさない。
だが、明らかに血色は良くなってきてるし、回復してきているのは確かだろう。
男を助けた連中も心配だろうが、それぞれに用事がありここに居るのはアレフだけだ。

――ピクッ

僅かにだが、男が動いた気がする

――ピクピクッ

やはり動いている
しかし、これはどちらかと言うと痙攣かもしれない。

まぁ、アレフにはそんな判断はつかないから、男の変化を見ている。

と、イキナリ男が跳ね起きた、そりゃあもう何かでバウンドしたかのように。
しかし、すぐに自分の置かれている状況に気付き、不思議そうに周りを観察している。
当然と言えば当然だろう。
が、アレフにはそんなことを観察している暇はない。
すぐにアリサに知らせる為に飛び出した。

「ちょっと待て」
男に呼びとめられた気がしたがそんな事は後でもいい。

しかし男にとってはそれは大事なことだ。
呆然としつつもこれまでの状況を思い出す。
(確か、あの森でオーガをしとめたんだよな・・・
それで喰おうとしたんだけどそこで意識が・・・・
だとするとここは?というか何故に生きてる?)

考えていると誰かが近づいてくる気配を感じた。
さっきの銀髪の男だろうか。
なんにせよ用心にこした事は無い。
ドアに集中する、
が、入ってきたのは若い、綺麗な女性だった。
「もう大丈夫なの?」
と妙に優しい笑顔で問い掛けてくる。
なんというか、これには逆らえそうも無い。
「え?あ、はい」
何故か素直に頷いてしまう。

「森で倒れてたのをご主人様が助けてくれたッスよ〜」
妙な声が聞こえる。
気付かなかったが何時の間にかさっきのヤツも戻ってきてる様だった。
けど、どう考えてもアイツの声じゃない。
しかし、よく見ると先ほどの女性の近くに、空飛ぶステキな犬がいる。
・・・・・・
疲れて幻覚でも見ているんだろうか?
目を擦ってもう1度よく見てみる。
・・・
やっぱり居る。
やはりここは聞いてみたほうがいいのだろう。
「あの、そこにいる空飛ぶステキな犬は何なんですか?」
先ほどの女性に聞いてみる、が、答えは意外なところから返って来た。
「犬じゃないッス!テディッス!」
「・・・やっぱり疲れてるんだな。犬が喋ってるように聞こえる」
「だから犬じゃないッス!」
「テディ、落ちついて。まだ自己紹介も済ませてないでしょう?」
あの女性もテディと言っている。
面倒なので空飛ぶステキな犬は便宜的にテディとしておこう。
「私はアリサ=アスティア、お仕事はここ、何でも屋ジョートショップの店長さん」
何時の間にか自己紹介が始まってたらしい。
「え〜と、そこのテディ?ってヤツの話だとオレを助けてくれたって・・・」
「う〜ん、そういう事になるのかしら?もっとも私はあまりお役に立てなかったけど・・・」
「そんなことないですよ、オレがここに居るってことで既に十分助けてもらってます。
それで、他にも助けてくれた人居るんですよね?その人達の名前教えてもらえますか?」
「それはもちろん。だけど、その前にあなたのお名前も聞いておきたいわ。」
しまった。
完全に忘れてた。
「ス、スイマセン。オレはセシ・・・」

――ぐるるるる、ぎゅおぉぉぉ

・・・・・

「・・・・・」
「・・・・・」
「えっと・・・・」
「・・・先にご飯食べたほうがいいかしら?」
「・・・・・スイマセン、御願いします・・・・」
「じゃあ準備してくるから、ちょっと待ってってね。」
「はい・・・・」
そう言うと彼女―アリサさん―はテディを連れて部屋を出ていった。



一人残されたおれは、
・・・・
訂正。
銀髪の兄ちゃんが入り口近くに持たれかかってた。
「おい、そこの兄ちゃん」

無視

「おい」

更に無視

なんだコイツ、さっきからずっと突っ立ったままだし・・・





寝てやがる。
立ったまま寝るなんて器用な真似を。

仕方ない、これからのことでも考えるか。
傭兵なんてもうやってられないし、それにこれまでの街でも仕事なんてないに等しかったからな・・・
助けてくれたヤツラに礼もしなきゃならんし、この街で仕事探してみるか。

とか色々考えてるとアリサさんが部屋に入ってきた。
「ご飯準備できたけど、下まで降りられる?」
流石にそこまでハラ減ってるワケないだろう。
「大丈夫ですよ、その程度なら。」
オレがそう答えるとアリサさんは銀髪の兄ちゃんに近づいて
「アレフクン、ご飯できたわよ、食べるでしょう?」
あの兄ちゃん、アレフってのか・・・
だが残念ながらヤツは寝ている。
「アリサさん、ソイツ寝てま・・・」
「勿論、アリサさんの作った料理、食べないわけないですよ。」
・・・
起きやがった、なんつーヤツだ。
「じゃあ先に降りてるから2人ともすぐに来てね」
またしても笑顔を残して彼女は去って行った。
さて、すぐに降りないとな。
立ちあがろうとするが、足に力が入らず崩れ落ちる。
まさかここまで衰弱してるとは・・・・
「そこの兄ちゃん、悪いけど肩かしてくんねぇか?」
アレフと呼ばれていた青年に声をかける。
「ん?どうしたんだ?」
「いや、身体にまったく力がはいらねぇ。」
「仕方ねぇな。ほらっ」
アレフに助けられ、なんとか階段を降りていく。





食卓には夢のようなご馳走が広がっていた。
少なくとも男にとっては。
やはり、こうなると聞かざるを得ない。
「コレ・・・食べていいんですか?」
「勿論、あなたたちの為に作ったんですもの。それに食べてくれないとお料理も悲しむわ。」
「そう言うこと、怪我人が遠慮するなって。」
そう言う兄ちゃんは既に食べ始めている。
オレもならって席につく。
「いただきます・・・」
恐る恐ると言った感じで料理を食べる
「・・・・・・」
瞬間思わず箸がとまる。
「どうしたの?お口に合わなかったかしら・・・」
アリサさんが悲しそうな顔で聞いてくる。
そんな顔をされてはいと言える男が居ようはずもなく、
また料理自体もかなりうまい。
「そんなことないですよ、アリサさんの作る料理がマズイはずないじゃないですか。」
とまぁ兄ちゃんに先を越された。
「そうです。オレもここ2ヶ月マトモなメシ食ってなくて、それで久しぶりにこんなうまいもの食べたから思わず・・・」
「そう、よかった・・・」
そういって彼女は微笑んだ。
やはり彼女には笑顔が一番似合う。




――1時間後
男はまだ喰っていた。
既に一般家庭の3週間分はゆうに超えているだろう。
アレフは30分ほど前に一般的な量を食べすでに食事を終えている。
しかし、見ている方が胸焼けを起こしそうな見事な喰いっぷりだ。
そこへアリサが厨房から出てきて
「まだまだあるから、たくさん食べて早く良くなってね。」
と。これだけ見れば無理矢理アリサに食わされていると見えなくもないだろう。



――更に1時間後
まだ喰っていた。
アレフは既に歓心を通り越し呆れ、更にそれすらも通り越し尊敬の念さえ抱きはじめていた。
その時初めて男の動きが変わった。
「アリサさん、もういいです。」
ようやく終りか、と思ったら大間違い。
まだ目の前のテーブルには一般家庭の2日分ほどの量が残っている。
が、その程度の量男にかかればものの5分でカタがつく。

「ご馳走様。」
とかのうのうと言い放ちやがる。
が、それに対してアリサは
「お粗末様です。でも栄養取らないといけないからもうちょっと食べたほうが・・・」
・・・何かがズレている。
「でも病みあがりだからこの程度にしてかないと・・・・」
こちらの方が更にズレていた。
因みにこの食事で使った食材はさくら亭の3日分に相当する。
どこにあったのかは謎だ。

「で、自己紹介の続きだけど。」
取り敢えず一息ついてから話を戻す。
が、どうやらアレフはまだ旅だったままのようだ。
「そこの空飛ぶステキな犬がテディだったよな?」
「だから犬じゃないス!テディッス!」
「だからテディって言ってるだろ。」
「で、お〜い。兄ちゃん」
アレフはまだ帰って来れてない。
「確か兄ちゃんはアレフって名前だったよな?」
「あ、ああ・・・。アレフ=コールソン。職業はナンパ師だ。」
アレフよ、それは多分職業とは言わない。
男もあまり良い印象は受けてないようだ。
見た目とまったく同じだな、と言う程度で。
しかし、
「でも、あなたを見つけてから3日間、アレフクン殆ど着きっきりで看病してたわよ。」
「そうなのか?」
「死なれでもしたら後味悪いからな。」
明らかに照れ隠しである。
「ふ〜ん。」
そのまま流してやるが、男の中でアレフは以外に良いヤツだ、と位置付けされた。
「ん、じゃあオレだな。セシル=クライン、職業、元傭兵。現在失業中。ってとこかな?」
「セシル?女みたいな名前だな。」
刹那、アレフの意識が吹っ飛ぶ。
なんの事はない、セシルの右フックがアレフを襲ったのだ。
しかもアゴを掠めるように。
まず間違い無く脳震盪を起こしている。
「だめよ、セシルクン。いきなり人を殴ったりしちゃ。」
「スイマセン、条件反射で・・・」
これでセシルを責めるのは酷というものだ、どう考えてもアレフが悪い。
「ところで、他の人達にもお礼言っときたいんですけど」
「それも良いけど、まだちゃんと疲れも取れてないんだから今日はゆっくり休んで。それでまた倒れたりしたら元も子も無いでしょう?」
アレフを無視して話を進める二人。
良い根性している。
「それはそうと、失業中って言ってたわよね?働く当てはあるの?」
「いえ、残念ながらまったく・・・」
「じゃあウチで働かない?」
「へ?良いんですか?」
思わぬ誘いに困惑するが、実際明日の食費も無い身なのでそれはかなりオイシイ。
「ええ、私一人でやってるからどうしても断らなきゃいけない依頼が多くでちゃうの。」
「それなら喜んでやらせてもらいますけど・・・」
(そうなると宿を探さないとな)
「どちらかと言うと住み込みで働いてくれた方が嬉しいんだけど・・・」
「へ?」
どうやら聞こえてたらしい。
オイシイ話ではあるのだが流石にこれはマズイ。
「男の人が居てくれた方が安心だし・・・」
「いや、でも。」
そちらの方が危ない可能性があることには気付いてないのだろうか?
「だめ?」
微妙に目が潤んでいる。
あきらかに反則技である。
これで断れる男など居ようはずもなく。
「分かりました・・・」


こうして失業者セシル=クラインは職にありつき、餓死の危機を逃れたのである。
ちなみに、まだアレフは気を失ったままだがこの際気にしてはいけない。




――後書き
アリサが微妙に壊れてます
というかこのペースだとタイトル通りに日常が続くかも・・・
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