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テオリア星系戦記 第1話 初陣埴輪


 テオリア星系にあるセラフィールド共和国。現在この国は内戦状態にあった。革命軍を称する集団が、いくつかのコロニーと5つある居住惑星の内2つを丸めこみ、独立を訴え始めたのだ。
 無論、火のないところに煙は立たず。共和国の首脳側にも、色々な問題は存在し、特に植民地とも言えるコロニーに対する対応ははっきり敵に回してくれ、といわんばかりのものであった。とはいえ、両者の規模の差はあまりにも大きく、すぐに内戦は終結するものと考えていた。
 だが、内戦は長期にもつれこみ、次第に激化していった。理由は簡単、相手に、規模の差を補うだけの技術力があったのだ。現在戦場で主流となっている人型機動兵器、パワードシェル。これの性能、特に量産機の性能において、共和国側は大きく遅れを取ってしまったのだ。
 だが、共和国政府に負けず劣らず、革命軍側の評判も悪かった。民間、軍属関係なく、輸送船の類を無差別に叩き落したからである。それゆえ、惑星間の物資の移動がまともにできなくなり、経済は混乱していた。惑星上に住む人間には直接危険は訪れない戦争だとは言え、そんな戦争に、誰もが飽き飽きしていた。


 セラフィールド共和国、首都惑星パルティアル。そこの衛星ステーションから、1隻の輸送船が出発した。堂々と軍のマーキングが施されている。だが、何をトチ狂ってか、護衛船の姿はない。
「・・・・・・。」
 その輸送船の船室で、一人の女性が窓に映る星空を見つめていた。少女、と呼んでもいいかもしれない程度の年齢である。長い金髪に青い瞳。女神のようなという形容詞がぴったり来る綺麗な容姿をした彼女は、残念ながら色気の欠片もない軍服姿であった。
「・・・・・・。」
 シンシア・マクガルドと言う名の彼女は、小さくため息をつく。子供っぽい反発心で父親に反抗し、士官学校に入学、最優秀の成績で卒業したものの、今後の展望が、全く見えていないのである。
「私は、結局何がやりたかったのかな・・・。」
 すでに配属も決まってしまったいま、それを言っても仕方が無い。だが、士官学校での教官達の態度、設備の質、その他もろもろの諸事情が、シンディから軍に対する希望を根こそぎ奪っていた。
「シミュレータでもやって、気を紛らわせてこよう・・・。」
 殺風景な自室に居ても、はっきり言って何の進展もないのである。ならば、まだ外のほうがマシだ。
 部屋を出る。居住区を出て、格納庫近くの訓練室に入る。ロッカールームでパイロットスーツに着替え、シミュレーターにもぐりこむ。輸送船とは言っても、さすがに軍の船である。ちゃんと、こう言った設備はあるようだ。
「メインシステム起動、システムチェック、オールグリーン。マジックブースター、リンク開始・・・。」
 パワードシェルの起動手順をマニュアル通り行う。士官学校時代に何十回と行った行為だ。今では考えなくてもできる。
「出撃準備完了。これより、シンシア・マクガルド、出撃します。」
 そう言って、スロットルレバーを押しこもうとした瞬間、衝撃が走る。
「何? 何が起こったの?」
 多少慌ててシミュレータの電源を落し、転がり出る。あの中にいては、名にも出来ない。
「何が起こったんですか!?」
「革命軍のパワードシェルに襲われた。アンチ・ビーム・システムのおかげで何とか持ってはいるが・・・。」
 アンチ・ビーム・システムとは、現在、エネルギー兵器として主流になっているビーム兵器を無効化するシステムである。だが、現段階では、あまりに高出力の攻撃は防げないし、魔道兵器や運動効果兵器には無力である。さすがに、単純な対ビーム装甲よりは大きな効果があるが。
「こちらから迎撃できないんですか?」
「所詮機銃しかない輸送船に、貴官は何を求めるんだ?」
 事実、輸送船など普通は非武装、せいぜいつんであって機銃程度が普通である。兵器というのは金がかかり、積荷も圧迫する。最も、これまでは宇宙で襲われることなど皆無だったため、機銃程度があれば十分だったのだ。
「コンテナにつんであるパワードシェル、あれは動かせないんですか?」
 新型を輸送するついでに自分が運ばれることぐらいは、シンディも知っていた。
「残念だが、パイロットがいない。大体、こんな所に回すパイロットがいれば、素直に護衛がついているさ。」
 軍の人手不足は深刻である。特にパワードシェル乗りの数が減っている。最前線で戦っているのだから当然である。最近では出し惜しみが多くなり、輸送船に護衛がつかないことも結構当たり前になっている。
「パイロットなら、ここにいます。」
「無茶を言ってはいかん。貴官はまだ配属されていない。第一あれは機密だと聞いている。新米を乗せるわけにはいかん。」
 残念ながら、今回は相手のほうが上官に当る。とりあえず少尉と呼ばれてはいるが、シンディが実際にその階級を得るのは目的地に着いてからである。セラフィールド共和国軍の場合、士官学校出の人間は配属の辞令ではなく、任官の辞令を持って、はじめて階級を得るシステムになっている。
「でも、私はこんな所で死ぬつもりはありません! 第一、機密だといったところで、破壊されてしまえば何の意味も無いはずです!!」
「いいじゃねえか、船長。この娘の言うことももっともだ。俺の権限で許可する。」
 横から、誰かの通信が割りこむ。割りこんできたのは、筋肉質で頭が見事に禿げ上がった、中年ぐらいの男であった。
「あ、あの・・・。」
 突如割りこんできた顔に、シンディは見覚えがあった。最も、直接面識はない。単に、自分と違って私服で乗船していたので覚えていただけである。
「3番コンテナだ。傷をつけるなとは言わねぇ。」
 真面目な顔で言った後、不意ににやりと笑って、
「壊すなよ。」
 それだけ言って通信を切る男。
「今の人、一体、何なの?」
 一瞬、呆然とするシンディだが、すぐに我に帰る。そのまま、言われたとおりの場所に移動する。こうして、シンシア・マクガルドは任官前に初陣を飾る羽目になったのだ。


 コンテナにあった機体は、シンディが今まで見た事も無いような優美なフォルムをしたパワードシェルだった。
「敵戦力は何体ですか?」
 コクピットに乗り込み、機体の出撃準備を行いながら、シンディはてきぱきと現状を確認する。
「4機、標準的な小隊だ。」
「機種は?」
「ブラインが4だ。」
 革命軍側の、最も標準的な構成である。ブラインとは、革命軍が開発した量産機で、テスト機が宇宙に溶け込んで視認しにくいことからこうなずけられたらしい。
「最も近い敵との距離は?」
「約300だ。現在の敵軍の配置を転送する。」
 データが転送されると同時に、発信準備が整う。だが、すぐに出てはいけない。この状況では狙い撃ちにされる可能性がある。コンテナ側から最も近い機体が離れた瞬間を狙って飛び出す。急激なGが体にかかる。
「機密というだけあって、加速性能も段違いね。」
 あっという間に、白兵戦の間合いに入る。泡を食ったブラインがエナジーソードで攻撃をかけてくるが、剣を振り下ろす前に、相手が横を通り過ぎてしまう。
「いくらなんでも、後ろががら空きな状態で白兵戦をするような真似はしないわ。」
 位置を制御して、敵をすべて正面に捉えた状態で、エナジーソードを振りぬく。彼女にしてみれば、これは牽制の一撃であった。いくら機密扱いの新型といえども、普通のビーム兵器で相手を一刀両断に出来る出力はないと考えていたのだ。だが・・・。
「何、この出力!?」
 シンディの予想を裏切って、新型機のエナジーソードは、あっさり相手のフレームを両断する。
「しかも、反応速度も運動性も、シュヴァイクとは桁違いだわ・・・。」
 それだけ、共和国の量産機・シュヴァイクの性能が低い、ということでもあるのだが、それを差し引いても段違いの性能である。どうやら、斬新なのはデザインだけではなさそうである。


「ほう、ちゃんと使いこなしてるじゃねぇか。」
「ですが、1機でどこまで出来るか・・・。」
「まあ、見てな。あの機体は伊達じゃねえし、あの嬢ちゃんもあいつを使いこなせるだけの腕はあるようだ。」
 モニターでは、新型機が残り3機からの集中砲火を優雅にかわしつづけていた。
「しかし、思わぬ拾いもんをしたかも知れねえな。」
 モニターでは、新型機から放たれた1条のビームが、敵のジェネレータを撃ちぬいていた。これまで、無駄弾は一切撃っていない。一撃で確実に1機、しとめている。
「人は見かけによらねぇもんだな。」


「エナジーシューターの出力も、ずいぶん大きい・・・。」
 この時代、エナジーとつく武器は基本的にビーム兵器である。
「これは、こんな機会じゃなきゃ使わせてもらえそうも無いわね。」
 冷静に妙なことを考えながら、攻撃をかいくぐる。実際のところ、彼女の考えは外れるのだが、この時、シンディが知る由もないことである。
「とにかく、とっととけりをつけないと、何時までも避けられるものじゃないわね。」
 手加減する余裕はないが、そう言うことを考える余裕はあるようだ。更に距離を縮め、至近距離から斬り付ける。剣で受け止められるが、そのまま押しこむ。相手のバランスが崩れたところを、腹部にシールドを叩きこむ。上半身と下半身が分かれるブライン。
「後1機!!」
 だが、残った1機は隊長機らしく、他の3機に比べ、多少は手馴れた戦いをしてきた。今の動きが止まった一瞬に、見事に攻撃を当ててきたのだ。
「しまった!!」
 衝撃に耐えながら顔をしかめる。だが、予想以上にダメージが少ない。
「対ビーム装甲まで付いてるって言うの!?」
 状況を確認すると、多少塗装が焦げた程度の被害しかないらしい。これで、シンディは完全に確信する。こいつは量産機ではない、と。いや、量産してもコストがあわないだろうと。


「初陣じゃ、これぐらいはしょうがねえか。」
 被弾したシンディを見て、苦笑する禿男。
「しかし、見事に実戦テストをこなしてくれるとはなぁ。まだ、データは完全じゃないが、思ったよりはいい性能に仕上がってる見てぇだ。」
 そう呟いた次の瞬間、最後の1機が爆散する。しばらく間があったのは、降伏勧告をしていたから、らしい。
「気に入った。今更だが、ちっとばかりねじ込んでみるか。」
 禿頭は、何か陰謀を企んだようだ。そのまま、どこかに通信をはじめる。
「おう、おれだ。今度の新人の配置、ちっとばかり変えてくれねえか? ああ。気に入った奴がいてな・・・。」


「ふう、疲れた・・・。」
 一見楽勝そうに見えても、実際にはずいぶん精神を消耗している。特に、使った事も無い、下手したら慣らしもしていないかもしれない機体で戦うのは、凄まじく消耗する。
「ほとんど機体性能のおかげとはいえ、やってみれば出来る物ね・・・。」
「機体性能だけでもねえぜ。」
 シンディの呟きに、例の男が応える。
「あ、これはどうも。あの時はありがとうございます。」
「いや、俺は助かる可能性が少しでも高いほうを選んだだけだぜ。あの調子じゃあ、いつ救援が来るか分かったもんじゃねえからなぁ。」
「それでも、私達が生き延びることが出来たのは、貴方の判断のお蔭です。」
「いや、あれを使いこなせたお前さんの腕だよ。もっと誇ってもいいぜ。」
 肩をバンバンたたいてくる。少し顔をしかめるシンディ。
「しかし、意外だな。」
「何がですか?」
「いや、パワードシェル操縦の腕といい、船長を説得しようとした時といい、もっと男勝りで熱血系なのかと思った。」
 その言葉に苦笑するシンディ。熱血系な部分も間違いなく、自分の本質としてあるからだ。
「女であることを捨てたほうがよろしかったですか?」
 悪戯っぽく聞いてみる。当然、そんなつもりは欠片もない。
「いや、必要ない。大体、そう言う人間ほどいざって時脆いからな。」
「100%そうとは限らないと思いますが?」
「まあな。だが、肩肘張ってるやつほど、なにかあったとき脆いことが多いのも事実だしな。」
「私には、肩肘を張って生きる理由は、今はありませんから。」
 別に、男に対する劣等感などない。出世に興味もない。最初は、女でも通用するところを父に見せつけてやろう、と思っていたのだが、軍の実体を知ってしまった今では、どうでもいい。正直にそれを告げると、
「ほう、ますます気に入った。実体を知ってもむきにならないところが実に俺好みだ。」
「失礼ですが、貴方の女になるつもりはありませんよ。」
「女房持ちがそんなこと言わねえよ。大体俺は、女房一筋だ。お前さんほど綺麗じゃないがね。」
「年齢の差でしょう?」
 誉め言葉をさらっと受け流されて、思わず苦笑する男。
「まあいいや。俺はアクセル・リューベリック。これからお前さんの上官になる。階級は技術大将だ。よろしくな。」
 自己紹介を聞いて、色々な意味で驚くシンディ。相手はテオリア星系の経済を牛耳る巨大企業の会長であり、階級的にも雲の上の相手であり、更に、自分の上官だというのだ。
「あの、私の上官は・・・。」
「分かってるって。俺がさっきねじ込んだ。よろしくな、シンシア・マクガルド少尉。」
 こうして、シンディの運命は回り始めた。
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