中央改札 交響曲 感想 説明

埴輪


「シンディ、これが今日からお前さんが生活する戦艦『グレイロック』だ。」
 シンディが連れてこられたのは、1隻の戦艦だった。
「この戦艦・・・・。」
「そ、最新鋭の戦艦だ。最も、こいつは小隊規模の運営だけを考えてるんで、サイズに比べてシェルの搭載数は少ねえがな。」
 どうやら、自分はとんでもないところに配置転換されたらしい。
「後でお前の同僚になる試験小隊の面子を紹介する。最も、階級はお前さんが一番上だから、自動的に指揮官もお前さんになるがな。」
 普通、パワードシェルのパイロットは軍曹から左官までで、平均的には曹長クラスが一番多い。
「階級だけで指揮官を決めるのはどうかと思いますが。」
「ま、それが軍ってもんだ。」
 そもそも、実戦経験が多ければ指揮官として優れているとも限らない。
「後、お前さんにはAS−09が与えられる。一度使ってるから問題なく扱えるだろう?」
「あの機体、AS−09と言うんですか?」
「ああ。コードはな。」
 ブライン、シュヴァイクのような名称はまだ決まっていないらしい。
「さて、とりあえずはブリッジだな。」
 忙しく人が行き来している。どうやら、この艦もさほど実戦に出てはいないらしい。まもなく、ブリッジに到着する。
「艦長、新人だ。」
「パワードシェル乗りが来るのかと思っていましたが・・・。」
「だから、パワードシェル乗りを連れてきたんだが?」
 やはり、軍人よりはお姫様のほうが似合いそうな容姿では、最も荒っぽい機動兵器のパイロットとは認識してもらえないようだ。
「まあ、リンバード中尉の例もあるんで外見で判断するのは愚かなことですが・・・。」
「この娘も、やっぱりそうはみえんか?」
「ええ。正直言って、前線に出すのは勿体無いですね。」
 そのやり取りに苦笑するシンディ。士官学校に入学した当初はいちいち突っかかっていたのだが、言うだけ無駄だとわかっているので何も言わない。
「そう言うわけでシンディ、こちらがグレイロックの艦長、トーマス・ジョブ大佐だ。トーマス、彼女はシンシア・マクガルド少尉。AS−09のパイロットだ。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
 互いに敬礼をする。
「そうそう、艦長。シンディを外見で侮らないほうがいいぜ。こう見えても、輸送中の戦闘で、初陣なのにブラインを4機仕留めてる。」
「それは、素晴らしい腕前ですね。」
「機体の性能に助けられただけです。」
 思うところを正直に言う。
「いやいや、機体の性能は関係ない。第一、初乗りの機体に振り回されずに戦える腕の人間と言うのは、そうは多くない。大抵はきちっと乗換え訓練を積まないと出来ない。」
 事実、急な乗り換えに対応できずに散っていった人間も多い。
「なかなか、期待できそうな人材ですね。」
「ま、いい具合に鍛えてやってくれ。シンディ、次、行くぞ。」
「はい。」
 一礼して出ていく。とりあえず、馴染めなくはなさそうだとシンディは判断した。


 注ぎにシンディが連れてこられた部屋には3人の男女がいた。
「よう、そろってるな。」
「アクセル、遅かったな。」
 がっしりした灰色の髪の男が、にやっと笑いながら言う。とは言っても、実際には30にとどいていないだろう。
「ちっとばかし途中でバカどもに襲われちまってな。」
 同じくにやりと笑い返す。どうやら、ここのメンバーはかなりフランクな付き合いをしているようだ。
「で、ちゃんと最後の1機は持ってきたのか?」
 無表情な男がぼそりと呟く。年齢的にはシンディと同じぐらいか、やや上か。
「ああ。パイロットつきで持ってきたぞ。」
「ほう、どうやら、相当いいパイロットを見つけたらしいな。」
「初陣で、ブラインを4機、仕留めた。」
 その言葉を聞いて、最後の少女が目を丸くする。実際はそういうことはないのだろうが、どう見ても14、5歳に見える。
「すっご〜い。どんな状況で?」
「さっき言ったとおり、輸送中に襲われた時にな。」
 無愛想な男が横から口を挟む。
「使った機体は?」
「AS−09だよ。」
 それを聞いて納得する。
「それでも凄い。ASシリーズって、まだ結構使う人を選ぶところがあるもん。」
 外見同様、口調も幼い。プロポーションも、シンディの正反対を行っているようだ。
「初陣ってことは、こんなかで一番下になるわけだ。で、どいつだ?」
 灰色の髪の男の言葉に思わず驚くシンディ。
「一番下って・・・。」
「やっぱり、シェラの年齢勘違いしただろう。こいつ、すでに20歳を超えてるぜ。最も、生体年齢ではお前さんの勘違いも無理はねえんだがな。」
 その言葉に納得する。多分、何処かの研究所の違法な研究の成果なのだろう。そこまで考えて、相手のこの情報をきっぱり忘れる。
「それから、お前発ちも勘違いしてるみてぇだが、お前達の隊長はこの娘だぞ。」
 それを聞いて驚きの声を上げる灰色の髪の男。
「そっちの美人さんがか? てっきりあんたの秘書かなんかだと思ったぞ。」
「期待に添えなくて残念だったな。シンシア・マクガルド少尉だ。」
 それを聞いて、先ほどシェラと呼ばれた少女がうめく。
「あうう・・・。」
「どうした、シェラ?」
「だってこの隊長さん、アタシより美人なんだもん。」
「いや、お前さんとは方向性が違うから気にすることじゃねえと思うんだが・・・。」
 思わずジト汗をたらしながら突っ込むアクセル。
「それに、胸だってこんなに大きいし・・・。」
 と言ってすばやくシンディの背後に回ると、軍服の上からシンディの胸を捏ね上げる。
「ひゃ!!」
 突然のことに思いっきり驚くシンディ。
「こらこら、そりゃ立派な痴漢行為だぞ。」
「別に、アタシそっちの趣味はないもん。それに、女の子どうしだから痴漢じゃないよ。」
「そう言う問題じゃないだろう。」
 無表情な男が、無表情なままそう突っ込む。
「・・・・・・。」
 思いっきり固まるシンディ。反応に困っているのだ。
「まあ、いい。とっとと自己紹介しろ。」
「へいへい。俺はグレイフォード・ワイズ。25歳。階級は曹長だ。グレイでいい。」
 灰色の髪の男が自己紹介をする。
「アルバート・ロン。23歳。曹長だ。俺もアルでかまわない。」
 無表情な男が淡々と言う。
「シェラ・イレヴンス。21歳、軍曹だよ。」
 キャピキャピ娘(死語)が嬉しそうに答える。
「シンシア・マクガルドです。歳は17歳です。」
「え〜!? まだ17歳なの!?」
「ええ。スキップしたから。」
 それを聞いたグレイが呆れたように
「筋金入りの天才だな。」
 と呟く。
「そんなことはないわ。ただ、実際のところ、シミュレーターでいくらいい成績を収めても、実戦で役に立たないって言うのはよくわかったけど。」
「そーいうもんか?」
 3人とも、シミュレーターなどほとんど使ったことがないので、よくわからないらしい。
「ええ。実機では、かかるGも姿勢制御の難しさも段違いよ。いくらコンピュータの補助があっても、やっぱり隙を見せないように回避する、なんてデリケートな操作は人間が制御しないといけないし。」
 シミュレーターでは、実機でできるような無茶な機動は出来ないようになっている。初陣で彼女が行ったような動きは、シミュレーターでは一切出来ない。
「それができるパイロットは、結構少ない。」
 アルが突っ込む。
「やっぱり、どんなことでも実戦にかなうものはないっていうのが、私の正直な感想。」
 肩をすくめて言うシンディ。
「けど、本当に貴方17歳?」
 胸をつつきながら言う。
「あのねぇ・・・。」
 つついてくる指を払いながら言う。
「だって、どう見てももっと年上よ。・・・でもないか。」
 よく見ると、顔にあどけなさが残っている。雰囲気は大人びているが17歳と言う年齢もあながち嘘でもなさそうである。
「にしても落ち付いてるな。」
 グレイが感心したように言う。
「取り乱したら死ぬもの。」
「いい答だ。」
 アルがはじめて表情を見せる。
「これからよろしくな、隊長。」
「シンディでいいわ。」
「今はプライベートな時間だからこう言う感じだが、作戦中はもう少し上下関係は厳しくなる。お前さんも隊長としての自覚だけはもっておけ。」
 多少厳しいアクセルの言葉に、一つうなずく。
「わかりました、大将閣下。」
「今はプライベートだって言っただろ。俺もアクセルでいい。さて、次は格納庫だ。残り3機を見せてやる。」


「これが、新型機・・・。」
 自分が乗った機体と明らかに同系統の機体が3機、ハンガーに収納されていた。
「左手の左側のがっしりしたヤツがAS−07ドラグーン、グレイの機体だ。右手の左側の華奢なヤツがAS−05スプライト、シェラがパイロットだ。右側がAS−03スティルバース、アルが乗ってる。」
「それぞれ違うコンセプトみたいですけど・・・。」
「ああ。ドラグーンは砲撃戦型、スプライトは高機動型、スティルバースは白兵戦型だ。」
 他の機体とは一線を隔す存在であることは、一目でわかる。
「で、お前さんの乗るAS−09は汎用型だ。どの距離でも戦えるように武装をつんである。」
「なぜ、それぞれ違うタイプを?」
「汎用機4機よりも、それぞれ違うタイプでチームを組んだほうが、戦術の立て方次第では大きな効果を得られるからだ。」
 汎用機というのは、なんでも出来るかわりに、能力の絶対値は低い。
「ま、とりあえずお前さんに決めて欲しいことがある。」
「なんですか?」
「AS−09の名前だ。やっぱり、使う人間の気に入る名前がいいだろう。」
 その言葉に、しばし考えこむ。格納庫では、AS−09がハンガーに納入され、先の戦闘で被弾した個所の装甲の交換が行われていた。
「別に今じゃなくてもいいぞ。」
 アクセルが苦笑しながら言う。
「サイフレックス。」
 ふと、頭の中で閃いた単語を呟く。
「なんだ、それ?」
「私の機体の名前。意味は知りませんけど。」
「O,K。わかった。」
 その後、幾人か自分が関わる相手を紹介され、シンディの配属初日は終った。
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