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テオリア星系戦記 第3話 親交埴輪


「よし、全機帰艦しろ。」
 アクセルの言葉に、次々と着艦する。
「大分、指揮も板についてきたじゃねえか。」
 帰ってきたシンディに、アクセルが声をかける。
「う〜ん、まだいまいち掴めきれないわ・・・。」
 パイロットスーツのままのシンディが、髪をかきあげながら首をひねっている。
「なにがだ?」
「みんなの実力。相手がAIじゃ、100%がわからないの。」
「それはそうだが、他に手だれが集まっているところなんぞ、そうはないぞ。大体、普通だったらあれで100%がわかるもんだ。」
 それに対して苦笑を返す。確かにこちらが4機1小隊に対し、相手は36機1大隊。大体100%が分かる戦力差である。
「彼我の機体性能差およびパイロットの力量差が大きすぎるの。第一、あんな見え見えな動きじゃ、圧勝して下さいって言ってるようなものよ。」
 現在のAIは動作は正確だが、その正確さが仇になり一流どころのパイロットならあっさり撃墜できてしまう。戦術にしても、セオリー通りにしか動いてこない。
「所詮、今のAIじゃ戦争はできないって事ね。」
 あっさり結論を出す。
「だが、軍のお偉いさんは、兵力不足を補うためにAIによる部隊を作ることも、真剣に考えてるみたいだぞ。」
「・・・なぜ、戦場での主力がパワードシェルに移ったのか、もう忘れたのかしら?」
 戦場での主力が戦艦からパワードシェルに移った理由は簡単である。マジックブースターの能力を、パワードシェルのほうが発揮しやすいからである。人型である理由も同様だ。AIではマジックブースターは意味をなさない。
「実際、現状を何とかするには、2つに1つしか方法がねえのも事実だな。」
「兵器の性能を上げるか、人間に頼らない兵器を数作るか、か・・・。」
 そして、シンディ達は間違いなく前者の目的を達成するための部隊である。
「全く、どうしてそんな真似までして、同じ星系の人間どうしで喧嘩しなきゃならないのかしら・・・。」
「そういうのは、向こうさんに言ってくれ。先に喧嘩を吹っかけてきたのは向こうだ。」
 肩をすくめるアクセル。ため息をつくシンディ。はっきり言って、とっととこんな物資と時間と命の無駄遣いは終らせたい。特に今回のような意味を感じないことに関しては・・・。


「でも、さすが士官学校出の少尉さんねぇ。」
「AIの動きを読んだ程度じゃ、誉めてもらうほどでもないわ。」
 シェラの言葉に、苦笑交じりに答える。基本的に、彼らは食事は共に取るようにしている。そのほうがお互い親睦を深めるのに丁度いいからだ。
「ま、小隊で中隊を相手にできるってのは十分じゃねえか? 結局、あれがうちの軍の標準的な力量なんだし。」
「それが一番の問題よね。機体性能差とメンバーの力量差を考えても、士官学校を出たばっかりの新人に小隊程度の戦力で叩きのめされるのは問題だわ・・・。」
 頭が痛い、といわんばかりのシンディ。だいたい、いくら向こうは機体が旧式でパイロットがAI、こっちは新型でパイロットも凄腕と言っても、戦力差9倍は負けてしかるべきなのだ。
「それだけ、ASシリーズの性能が凄まじいと言うことだ。」
「ごめん、私、貴方達なら多分、シュヴァイクでもあれぐらい勝てると思う。」
 無表情なままのアルの言葉に、苦笑しながら突っ込みを入れる。
「性能については同感なんだけどね。ここしばらくの模擬戦でわかった。貴方達、単なるベテランじゃないでしょう?」
「じゃあ、何だって言うんだ?」
「所謂エースパイロット。転換訓練の分を差し引いても、単なるベテランにしては凄腕すぎるわ。」
「アタシ、ベテランじゃないよ。たぶん、パワードシェルに乗り出してからまだ1年って所じゃないかなぁ?」
 首をかしげながら言うシェラに、間の抜けた表情を返してしまうシンディ。
「それはまた、すごいわね・・・。」
「シンディほどじゃないよ。だって、実戦1回だけなんでしょ?」
「ええ。」
「で、あれだけ冷静にこっちに指示出してきて、自分は牽制も含めて無駄弾を一発も使わない。出す指示は全部的確。相手がヘボAIでも凄いんじゃない?」
 手放しで誉める。
「無駄弾が出てないのは偶然で、指示が的確なのは、相手がセオリー通りしか動いてこないから。定石を知っていれば、それを崩してやればいいだけだもの。」
「チェスの名人の言い分だな。」
「私の同期は、みんな私と同じ事を言ってたけど?」
 つまり、士官学校もトップクラスになると、優秀な人材が集まっているようだ。
「結局、本気で2つに1つしかないみたいね・・・。」


 ベッドに横たわりながら、ぼんやり考え事をする。インターホンがなる。
「どうぞ。」
 音声認識により、扉が開く。人影が入ってくる。
「やっほ〜。」
 黄色い声が聞えてくる。扉が閉まる。
「あれ、寝てた?」
「起きてるわ。」
 体を起こす。休める時に休んでおく、が鉄則である以上、寝るのに早すぎる時間などはない。
「よかった。シンディと、ちょっとプライベートな話がしたくて。」
「プライベートな?」
「うん。だって、ご飯の時の話って、大体仕事の話じゃない。」
 確かに、戦術がどうだ、機体性能がどうだ、というような話しかしていないような気がする。
「だから、ね。」
「別にいいけど・・・。」
「らっき〜。」
 椅子をベッドの隣に移動させ、ちょこんと座る。そんな様子を見ていると、どう見てもちょっと発育の悪い、14、5歳ぐらいの少女にしか見えない。
「う〜ん、やっぱりシンディって、羨ましいプロポーションしてるなぁ・・・。」
 豊かな胸にくびれた腰、とてもりんごを素手で握りつぶせる人間のプロポーションではない。外見で惑わされる人間が続出しそうである。
「おかげで、どうしてもなめられがちなんだけどね。」
「いいじゃない。才色兼備って言うのは、シンディみたいな人を言うんだろうな・・・。」
 シンディの感覚では、明日死ぬかもしれないのに外見などに意味を求める気にはなれないのだが、相手はシェラだ。そこらへんは、シンディより若い感性を持っているらしい。
「で、シンディって、恋人いるの?」
「残念ながら、恋人居ない暦17年。士官学校じゃ、男は誰も近寄ってこなかったしね。」
「幼馴染とかは?」
「どれもパスしたいようなのばっかり。」
 どいつもこいつも根拠もなく男上位を信じる連中ばかりで、そのくせ能力的にはシンディに全く及ばない連中であった。男性不信になっていないのは、ひとえに弟やその友人達が紳士であったからだ。
「じゃあ、当然男性経験なし、か・・・。」
「シェラ、いつもそういう事考えてるの・・・?」
 シェラをジト目で見ながらシンディが突っ込む。あははと乾いた笑いをあげるシェラ。
「でもでも、そう言う人がいないのって、シンディぐらいの歳だったら、凄く不幸なことだよ?」
「かもね。」
 苦笑する。もっとも、恋人ができないのは性格に問題があることぐらい自覚しているが。
「折角それだけ綺麗なのに・・・。」
「外見だけで判断して無茶を要求してくるような人には興味ないから。」
「で、そうじゃない人は異性としてみてくれない、と。」
「そういう事。」
 

 気がつけば、ずいぶん時間が経っていた。シンディ自身、こんなにおしゃべりしたのは久しぶりである。
「あ、ごめん、ずいぶん長居しちゃった。」
 慌てて冷め切ったお茶を飲み干して立ち上がる。
「別にかまわないわ。私も楽しかったし。」
 後片付けをしながらにこやかに答える。因みに、お茶を入れたコップはプラスチック製の、味も素っ気もないものである。
「やっぱり、シンディも普通の女の子だったね。」
「そうかしら? 私は普通の女の子の出来そうなことって、何も出来ないわよ?」
 せいぜい料理が少々だが、それも材料を現地で調達することを前提とした野外料理であるため、とても普通の料理とは言えない。整理整頓はできるのだが。
「でも、意外と恋愛に興味があるところとかはやっぱり普通だよ。」
 それだけ言い残すと、部屋を出ていく。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
 シェラの後姿を見送った後、再びベッドに横になる。因みに、最近では彼女は、軍服の上着だけを脱いだ状態で眠ることが多い。いろんな事態に対応がしすいからである。
「普通、か・・・。」
 そう言われたのははじめてである。天才だなんだと持ち上げる人間や、冷ややかな目で見てくる人間はいくらでも居たのだが。
「結局、私はなんなんだろう・・・?」
 ひどく自分が中途半端な気がする。本当の天才、というのはそもそも、紙一重と思えるほど、自分達とは見ている世界が違う。かといって、普通だ平凡だと言うには価値観その他が違いすぎる。
「所詮、異端か・・・。」
 多分、普通に配属されていたら、すぐにたらい回しにされていたことだろう。輸送船のなかで、すでに突っ走っているのだ。
「今日は、なんでこんなにネガティブなことばかり考えてるんだろう・・・?」
 普通、の一言に触発されて、色々考えてしまう。
「まあ、いいか。結局、どこまで言っても私は私だし。」
 そう結論付けて目を閉じる。眠りはすぐに訪れる。夢も見ないような深い眠り。もしくは些細なことでも目が覚めるほどの浅い眠り。シンディは、眠りについた。
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