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テオリア星系戦記4 出撃埴輪


 いつものように模擬戦が終り、自室に戻ろうとしたシンディに、アクセルが声をかけた。
「サイフレックスについて、なにか問題点はないか?」
「う〜ん、今の所、相手がビームに対する対策を施していたら、ちょっとしんどいって事かしら?」
 その辺は、開発段階からわかっていることである。だからこそ、普通では考えられないような出力になっているのだ。第一、主力がビーム兵器である、というのはASシリーズに限ったことではない。
「ほかには、ないのか?」
「う〜ん、今のところは。別に調子のおかしいところもないし。」
「ならいいが・・・。」
 だが、実戦が1回だけ、しかもダメージも塗装を焦がす程度でしかないので、他の問題点などわかりはしない。
「おう、そうだ。お前さんが頼んでたもん、落として来たぞ。」
 ディスクと書類の束を投げてよこす。
「あ、ありがとう。」
「書類はディスクをプリントアウトしたもんだ。わざわざ端末とにらめっこするのも面倒だろ?」
「ええ。助かるわ。」
 早速書類をめくる。
「練習にゃ、トレーニングルームを使えよ。あそこなら結界もちゃんとはってあるし、的もいくらでもあるからな。」
「了解。」
 書類に目を落としたまま、トレーニングルームに向かう。
「しかし、魔道書まで要求するとは、なかなかにふるってるな。」
 どうやら、魔道書もプリントアウトできるような時代らしい。


「やっぱり、中級魔法は結構難しいわね。」
 光の柱を3本ぶったてたあたりで、シンディがため息をつく。
「まずは補助かしら・・・。」
 初歩の魔法はすべて使えるが、補助に関してはほとんど意味がないものである。逆に、攻撃魔法は初歩でも十分だ。
「だったら、ここらへんかな?」
 移動系の魔法の欄に目を落とす。特に、最初の欄に書かれた倍速の魔法に。
「まずはこれからね。」
 意識を集中し、術を発動させる。感覚的には、なにも変わらない。
「どれどれ。」
 軽くサンドバッグに拳を叩きこんでみる。凄まじいスピードで拳がめり込み、大きく跳ねる。
「なるほど・・・。」
 すべてのスピードが跳ねあがるため本人にはよく分からないが、どうやらちゃんと効果は出ているらしい。
「倍速の魔法か・・・。」
「あら、アルじゃない。貴方もトレーニング?」
「ああ。」
 それだけ言うと、的のほうに歩み寄る。
「そうだ、組手でもしない?」
「今はやめておけ。倍速の魔法は肉体にかなりの負荷をかける。慣れないうちはあまりそういうことはしないほうがいい。」
 どうやら、格闘家風の外見に反し、かなり魔法にも詳しいらしい。
「へえ、そうなの?」
「ああ。倍速が今一歩メジャーではないのは、肉体の負荷を押さえられるようになるまで、かなりの訓練が必要だからだ。無論、パワードシェルにおいても同じことが言える。」
 凄まじく詳しい。
「それだけ詳しいってことは、使えるんだ。」
「ああ。接近戦を行う上で、これほど便利な魔法はないからな。」
 実際、瞬き一つの時間で、サンドバッグの表面に無数のクレーターを穿てる様になる魔法だ。使いこなせれば、非常に強力な武器になる。
「じゃあ、もう少しこれの訓練をしとくべきね。」
 何事もなかったかのように再び魔法の訓練に戻るシンディ。
「・・・呆れたタフさだな。」
 まるで疲れを見せない彼女を見て、さすがに呆れたような顔を見せる。
「私、こう見えても魔法のコントロールは得意なの。」


 不意に、警報が鳴る。思いっきりベッドから跳ね起き、ベッドの脇に吊るしてあったジャケットを羽織りながら格納庫に急ぐ。
「お前さんが一番最後とはね。」
「すいません、寝てました。」
「まあ、休めるときに休んどくのは悪いことじゃないが・・・。」
 そういいながら、チラッとシンディを見るアクセル。
「ずいぶん疲れてるみたいだな。」
「ちょっと、はしゃぎすぎました。」
 いくらタフだとは言え、肉体に負荷がかかるような魔法を5回も6回も使えば倒れてしかるべきである。
「出れそうか?」
「大丈夫です。さっき寝た分でずいぶん疲労は抜けました。それに・・・。」
「それに?」
「戻ってきたら、たっぷり休みますから。」
 にっこり微笑んで言う。すでに、いつもの彼女だ。
「よし、じゃあいってこい!」


「今回のお前らの仕事は、所謂援軍だ。」
「どこかが襲われてるんですか?」
「ああ。グレン中隊が訓練中に襲撃を受けた。生き残ってるのは第1小隊、通称サンフィッシュチームだけだ。母艦も撃墜されたらしい。」
 それを聞いて、驚愕の表情を浮かべる。
「1個中隊がそんな簡単に壊滅するんですか!?」
 因みに、1個中隊はパワードシェル12機が基本であり、そこに偵察機などパワードシェル以外が4機つく場合も多い。
「訓練中だったからパワードシェルにはろくな装備がなくてな。その上、相手はどうやらクリムゾンタイプによる1個中隊だったらしい。」
 クリムゾンタイプというのは、革命軍が開発したパワードシェルのうち、重火力タイプを指す。性能はブラインより上だ。
「生き残っている人達の編成は?」
「ヴァルスが1機、シュヴァイクが3。ちなみに、全員凄腕だ。」
 そうこうしている内に発進準備が整い、次々とカタパルトから射出されていく。
「今回は敵を殲滅する必要はねえ。生存者の確認と回収だけを考えろ。」
「了解。」


 指揮官用パワードシェル・ヴァルスが、次々と攻撃をかいくぐる。
「あわわわわ・・・・。」
 セリア・リンバード中尉はそのヴァルスのコクピットで、いささか緊張感にかける声を上げていた。ふわふわの金髪に緑の瞳の、ちょっと童顔な中尉さんである。とても、パワードシェルのパイロットには見えない。
「こっちに来ないで下さい〜。」
 どうも、聞けば聞くほど気の抜ける声だ。背後にマンボウが見えているのは気のせいだろうか?
「はう〜。」
 だが、そんなどこか間違ったパイロットの様子とは裏腹に、ヴァルスは素晴らしい機動で攻撃を次々と回避しつづける。破壊力を売りとしているクリムゾンの攻撃も、当らなければ意味がない。
「やめてください〜。」
 そう間の抜けた悲鳴を上げながら、氷の矢を発動させる。そう、パワードシェルは武器がなくても戦闘は出来るのだ。ただ、継戦能力が格段に下がるだけだ。
 ヴァルスがクリムゾンを1機しとめる。だが、12機中1機だ。チームの立て直しは出来たようだが、武器がなく、補給が出来ないのは痛い。
「えい、えい!!」
 何をトチ狂ったか、接近戦を挑んできたクリムゾンの頭部に、とりあえずパンチを叩きこむ。ヴァルスの手は相手を殴るようには出来ていないが、どうせ武器を使うわけではないので問題ない。頭部を破壊され、うろたえるクリムゾン。レーダーに新たな機影。
「敵の援軍ですか〜?」
「こちらASチーム、援護に参りました!」
 とりあえず、味方に通信を送る。チーム名はとりあえず機体の形式番号からつけられている。
「わ〜、助かりますぅ〜。」
 がくっと力が抜ける。何とか立ち直り、注意を促す。
「これより敵軍を迎撃します。一度後方に下がってください。」
「了解しました〜。」
 どうにも力が抜けそうになる。とりあえず、頭を潰され、まごまごしながら無闇に武器を乱射しているクリムゾンをしとめる。
「シェラ! 敵陣に突っ込んで、連中を挑発して! グレイはシェラの援護を!」
「隊長、無茶苦茶言うね。」
「スプライトの機動性と貴方の腕なら、あれぐらいいくらでもかわせるでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・。」
 ぼやきながら突撃する。華麗な動きで一発たりともかすらせない。
「しかし、人使いが荒い隊長だ・・・。」
 破壊力の高いエネジーバスターを、惜しげもなく牽制に放つ。相手の動きを邪魔するのも、立派な武器の使い方である。
「で、俺達はどうする?」
「相手の側面、もしくは背後をつく。」
「了解。」
 二手に分かれ、サイフレックスは背後を、スティルバースは側面をつく。
「隊長、相手は対ビーム装甲を装備してる。さすがのASシリーズでも、一撃ではけりをつけられねえ。」
「大丈夫。最悪、ナックルパート当りでしとめるから。」
「無茶言うねえ。」
 呆れたようにいいながら、グレイはエネジーバスターの変わりに、420ミリインパクトキャノンの照準を合わせる。エネジーバスターと違い、こいつは実弾兵器だ。対ビーム装甲の影響は受けない変わりに、さほどの弾数もない。
「ま、いっちょ気張っていくか!」
 インパクトキャノンが火を吹き、かなり離れていた1機が爆散する。相手の動きを読みきった、正確な射撃である。
「ああ、もうしつこい!」
 絡みつくように動き回っていた1機を、至近距離からのエネジーバスターで叩き落す。いかに防御力が高かろうと、弾倉に直撃すれば意味がない。
「やるわね、二人とも。」
 シンディが呟く。こちらは、出力の高い兵器はつんでいない。ならばどうするか? 答えは簡単、弾倉や制御系、エンジンなどを狙えばいいことである。パワードシェルの場合、コクピット=制御系ではないので、パイロットを殺さずに機体を沈黙させることも出来る。
「やっぱり凄い隊長だな。」
 瞬く間に2機の推進系を破壊したシンディを見て、感心した声を上げる。推進系の破壊は、宇宙空間では致命的である。姿勢制御のほとんどが出来なくなる。スラスターなどは全身にある程度散っているとはいえ、一番大きな物を壊すだけでも非常に効果は大きい。
「これで計5機か。大したことはないな。」
 エネジーランスで相手のジェネレーターを貫きながら呟くアル。返す刀でもう1機貫く。同時に爆発が四つ上がる。
「多勢に無勢、というのはもう少し個々の能力差が小さくないと当てはまらないか。」
 アクセルの呟きが終らぬ内に残りの火花が散り、宇宙は沈黙した。


 回収できた生存者は4人。脱出ポットのほとんどは発見できなかった。どうも、相手はそう言った人間も狙い撃ちにしていた節がある。
「他に生存者はなしか。」
 アクセルが苦い顔で言う。
「みたいです〜。」
 セリアが悲しそうに言う。
「しかし、手の込んだ奇襲だな。」
「敵も、それだけ必死になってるみたいね。」
 今となっては、一般人は誰も革命軍の理想など信用していない。となると、とっとと力に物を言わせて征服してしまうほかない、と言う事である。
「どうして、そこまでして勝ちたいんでしょうか〜。」
 シェラに通じる、どこか幼い顔を曇らせて、その外見に反した、華奢だが意外に豊かな体を自分で抱きしめるようにセリアが言う。
「どうして、仲良く出来ないんでしょうか〜。」
「お前さんとおんなじようなこと言ってるな。」
「今の戦争、誰が考えても無駄だもの。」
 結局、最後に残る物は民衆の政府に対する不信感である。
「本当に、こんな事何時までも続けるもんじゃないって言うのになあ。」
「ごたごた言っててもしかたが無いわ。結局、私達は私達の出来ることをするしかない。」
 今回の戦闘で散っていった人達に黙祷をささげ、戦艦グレイロックは帰路についた。
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