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ブルーフェザー、離反する!? その1埴輪


「まだ許可は下りないの!?」
 魔物の攻撃をかわしながら、ルーティが悲鳴を上げる。
「せめて、結界ぐらいはれたらなあ・・・。」
 魔法弾を握り潰しながら、アインがぼやく。彼自身はこいつらの攻撃など全く効かないが、建物を含め、周囲はそう言うわけにはいかない。
「このままじゃ!」
 フローネが焦りを含んだ声でゼファーに呼びかける。だが・・・。
「許可は下りないそうだ。」
 ゼファーの冷静な声が彼らの希望を完全に潰した。
「なんでだよ!?」
「このままじゃ、被害が広がりすぎるぞ!!」
 だが、ゼファーはいとも簡単に言ってのける。
「理由は単純、ここが市街地だからだ。」
 本末転倒なことを言われ、頭を抱えるルシード。
「まずいね。」
 アインがポツリと呟く。
「今だって十分まずいじゃねえか!!」
「そうじゃない。相手が大技を使いそうなんだ。」
「なんだって!?」
 こうなれば、始末書覚悟で魔法を使うしかない。
「フローネ、アイン、結界だ!」
「もう遅いよ。気付くのが遅かった。」
 魔法はすでに発動していたのだ。
「があ!!」
 巨大な竜巻が暴れまわり、周囲をなぎ倒した。


「なんでだよ!」
 ルシードが新任の部長に詰め寄る。
「なにがだ? あの被害なら、始末書と減棒はむしろ当然だと思うが?」
「ちがう! 俺が言いたいのは、なんで許可を出さなかったんだ!?」
 今回も、アインとメルフィが先手を打って許可申請は行っていたのだ。だが、土壇場まで待たされた挙句の果てに、結果はNOだ。
「市街地でお前たちが暴れれば、周囲に被害が出たからだ。」
「だったら、結界ぐらい許可したらどうだ! 今回の被害だって、最初に結界さえ張ってりゃほとんど出なかった代物だ!」
「魔物が大技を使う前に始末すれば済むことだ。」
 例の魔法テロの一件以来、ロイドは少しはこちらの立場と必要性を認めたのだが、この部長は魔法の必要性をほとんど認めていないらしい。
「ほう、じゃあ、例の事件のときみたいに、重戦車並の破壊力の有る魔法でも沈まないようなヤツだったら、どうすんだよ? 大技使う前に倒すなんて、ほとんど不可能だぜ?」
「そのために、新人を配属したんだと、ロイド前部長から聞いたのだが?」
「あいつもぼやいてたぞ。魔法も気功もほとんど許可制になってるから、まともに戦えないってな。」
 今回、結局最後まで立っていたのはアインだけだった。直前の訓練の疲労と度重なる魔法のダメージで、サイクロンに耐えられる人間はいなかったのだ。結局、アインが最後まで食い下がって何とかしとめたが、現在、ブルーフェザーは空同然である。
「魔法が許可制って言うのはしょうがない。だったらせめて、回復魔法と結界ぐらいは常時使えるようにしてくれないか? 今のままじゃ、とても安心して任務を遂行できねえ。」
「却下だ。」
 考えるまでもない、といわんばかりの態度で部長が切り捨てる。
「なんでだ!?」
「一つ自由を許したら、無制限に自由を許すことになるからだ。」
 それを聞いたルシードがやってられるか、とばかりに出ていく。
「あと、予算委員会からの要請で、そちらに回す予算を減額することになった。」
「なに!?」
「当然だろ? ろくに事件もおきず、おきたらおきたで甚大な被害を出す無能な部署に、何故それほど多額の予算を割かねばならない?」
 その言葉に、怒る気力すら沸かなくなったルシードは、さっさと保安局を出ていくことにした。


「ルシード、災難だった様だな。」
 アーシェこと、アシュレー・シャインフォードが、怪我でぼろぼろのルシードを見て声をかけた。ヴァレス室長も一緒である。
「アーシェか・・・。あの部長、話にならねえ。」
「どう言うことだ?」
 さっき言われたことを、静かな怒りを込めて語る。それを聞いたアーシェも顔をしかめる。
「本気で、あたらしい部長は何もわかっちゃいないな。」
 彼も元ブルーフェザーだ。第一捜査室、通称一捜のメンバーでは、ヴァレス室長とフレッド捜査員、そして彼だけがブルーフェザーの重要性を理解していると言える。
「あの部長、魔物の被害をなめてるとしかいいようがないな。」
「そのようだな。」
 どうやら、彼もなにか言われた口らしい。
「とはいえ、実際のところブルーフェザーの一般の認識が薄いのも事実だ。わざわざ何故独立して部署を設置しなければいけないのか、という声は毎年出ている。」
 昔は独立した部署が必要なほど、頻繁に事件が起きていたのだが、ここ何十年かは年に数件しか魔法がらみの事件は起きず、年によってはゼロのときもあった。その結果が交代要員も居ない今のブルーフェザーである。
「何を怒ってるんだ、ルシード?」
 何かの手続きに来たアインが、怪訝そうな顔をしている。
「ああ、ちょっとな・・・。」
 あったことを包み隠さずに話す。いずれ話さねばならないことである。
「それは無謀な話だね。アーシェ、感じてるでしょ?」
「ああ。」
 どうも空間が不安定なのだ。何が現われてもおかしくない。
「仕方が無い。本当の大事になる前に、なんとか手を打たないとね。」
「どんな?」
「ちょっとあくどい手。」
 どうやら、ろくな手ではないようだ。
「とりあえず、他の部署の協力も欲しい。何せ、周囲にずいぶんな迷惑をかけるって確信があるから。」
「あくどそうだな。」
 アーシェが苦笑する。
「と言うか、迷惑をかけることが目的だからね。そう言うわけだから、ヴァレス室長。協力と言っても難しくない。単に僕たちがいなくてもなんとかなるようにしてくれればいいから。」
「ずいぶん無茶な注文だな。」
「無茶をするからね。」


「と言うわけだから、みんなに辞表を書いて欲しいんだ。」
『辞表!?』
 いきなりのアインの台詞に、ルシードも含めて皆が驚く。ちなみに、メンバーで今まともに動けるのはアインとルシードぐらいである。辞表を書く必要のない人間がこの場に二人いるが、その二人は驚いていない。一方は驚くほどではないと考えており、もう一方はよくわかっていないのだ。
「別に、他の部署に転属できるんだったらそれでもいいけど、一番効果的な手段をとりたい。大丈夫、みんなの生活は保証するから。」
「・・・何を考えている?」
 不審そうにアインを見る。
「だから、迷惑をかけるんだよ。」
「お養父さん、またアシュトンさんに無理言ったの?」
 紅茶を飲んでいたマリーネが苦笑する。メンバー以外の一人である。お養父さんと言うが、アインとマリーネは10歳ぐらいしか離れていない。彼らが生きてきた年月からすれば、誤差ですむぐらいの差である。
「そう、無理でもないよ。公爵家が300年以上かけて蓄えた資金のほんの一部を使うだけだから。」
「お金以外のところで無茶したんじゃないの?」
「無茶になるかどうかは、彼の外交手腕だね。」
 どうやら、準備は着々と進んでいるらしい。
「あの〜。」
「どうしたんだい、ティセ。」
「辞表って、なんですか?」
 その言葉にガクっと力が抜ける一同。ちなみに、アインとマリーネは平然としている。
「辞表って言うのは、お仕事辞めますって上司に宣言するための書類のことだよ。」
「じゃあ、ご主人様、お仕事辞めちゃうですか!?」
「厳密には、今の仕事を辞めるわけじゃない。保安局を辞めるだけ。」
 あっさり言うアインに、今度はメルフィが食って掛かる。
「アインさん! 保安局を辞めてどうしようって言うんですか!?」
「何でも屋をはじめる。今までとそう仕事内容は変わらないでしょ?」
 思わず激怒しそうになるメルフィに、アインが飄々と続ける。
「依頼があれば出ていけばいいんだ。結局、今までの出動要請が、仕事の以来に変わるだけ。」
「許可はどうするんです!?」
「保安局員じゃなければ、免許があれば許可は要らない。立場的には僕達は魔物ハンターってことになる。」
 アインの考えがようやくわかった。
「お前、面白いことを考えるな・・・。」
「これなら、ルシアやブラムドの力を借りることもできるしね。」
 ルシア、ブラムドというのはアインの古い知り合いで、所謂神様とヴァンパイア・ロードである。ちなみに、二人とも今この街に来ている。
「面白い。やってやろうじゃねえか!!」
 ルシードの言葉で、全員の心が決まった。
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