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ブルーフェザー、離反する!? その2埴輪


 ブルーフェザーのメンバーが全員辞表を提出してから、3日がすぎた。辞表は拍子抜けするほどあっさり受理された。また、彼らの事務所はどこぞの貴族が買い取ったらしい。
「で、いつになったら俺達の事務所が戻って来るんだ?」
 アインが手配したアパートの一室。そこでアインとルシードは話をしている。
「今、改装中。とりあえず、営業開始は今月末だね。」
 元々足りていなかった部屋数を増やしているのだ。ちなみにアインは、ヒロが使っていた部屋に仮住まいしていた。
「1月も遊んでるのか・・・。」
「仕事辞めた人間なんて、大体そんなもんだと思うよ。」
 因みに現在、月の頭である。
「しかし、あいつら帰ってきたら驚くだろうな・・・。」
「そりゃまあ、驚くだろうね。ソウイなんか特に・・・。」
 アインの言葉に首をひねるルシード。
「どう言うことだ? ソウイのことなんか、話たことあるか?」
「いや。でも、ソウイは一度、300年前に来てるからね。その時あってるんだ。」
「そーいやそんな事もあったな。」
 苦笑するルシード。過去に行ったかと思えば、何ヶ月もかえってこなかった。
「しかし、なかなか奇遇な話だな。過去に行ったときに因縁のある相手が、入れ違いに配属されてるんだから。」
 ルシードの言葉に、穏やかに微笑を返すアイン。
「世の中なんて、そんなもんだよ。」


「何でも屋・ブルーフェザー、今月末に開店するから、よろしく。」
 リーゼとシェールにチラシを渡して、アインが言う。
「え? じゃあ、ブルーフェザーのメンバーが保安局を辞めたのって、本当のことなの?」
「うん。商売の許可も、魔法免許もちゃんと取ってあるよ。」
 しかし、いきなりである。
「あらあら、大変ね・・・。」
 リーゼが人事のように言う。いきなりすぎて、リアクションに困っているのだ。
「今月末って、間に合うの?」
「改装が終るのがそれぐらいだからね。ま、なにかあったら言ってよ。今でも一応仕事は請け負ってるから。」
 それだけ言うと出ていく。
「何でも屋ねえ・・・。」
「アイン君はともかく、他の人につとまるのかな?」
 能力の高さはともかく融通が利かないルシードを筆頭として、いまいちなんでも屋ができそうなメンバーが思い当たらない。
「あら、ルシード君は案外器用に何でもこなすわよ?」
 リーゼがフォローする。
「うーん、でもルシード君、無愛想だから・・・。」
「ゼファーさんもいるし、なんとかなるんじゃないの?」
「やっぱりそうかな?」
 無責任な噂話をする二人であった。


「おや、アインじゃないか。」
「いらっしゃい、アイン・・・。」
 威勢の言い声で話し掛けるジラと小さな声で照れくさそうに言う更紗。丁度昼飯時なので、結構客入りも多い。
「ランチかい?」
「それもあるけど、ちょっと宣伝にね。」
 そう言ってチラシを差し出す。
「”何でも屋・ブルーフェザー”?」
「うん。ちょっと色々あって、メンバーみんなで保安局を辞めてね。で、新しく仕事をすることになったんだ。」
「どうしてまた、何でも屋なんだい?」
「大昔にしばらく、何でも屋をやってた時期があったんだ。それで、ちょっとだけノウハウがあるから、他の仕事よりはマシだろうって考えてね。」
 真の理由ではないが、一応説得力はある。
「しばらくは開店セールで格安で仕事を受けるから。どこも相手にしてくれないような仕事でもO.k。よろず、受けたまわりますってね。」
「ようするに、人材派遣みたいなもんかね。」
「そんなところ。」
 アインとジラの会話を聞いていた更紗が、おずおずと声をかけてくる。
「じゃあ、お願いしていい?」
「なに?」
「アインのオカリナ、聞きたい・・・。」
「O.K。」
 あっさりうなずくと、オカリナを取り出す。しばらく、笛の音があたりに流れる。
「・・・ありがとう。」
 はにかみながら更紗が礼を言う。優しく微笑みながらアインが頭を撫でる。嬉しそうに目を細める更紗。
「おやおや、まるで親子みたいだね。」
 外見年齢からいけば恋人どうしでもよさそうなのだが、どうしても親子のようにしか見えない。
「こんな年寄りがお父さんじゃ、更紗に悪いよ。」
 苦笑するアイン。実際の年齢は、言っても誰も信じない。街によっては、証言してくれる人もいるのだが・・・。
「そうだ、アイン。注文は?」
「日替わりランチ。」
 アインは、ちゃんと昼食にありつけたようだ。


「さて、いよいよ開店だけど・・・。」
「依頼とか、あるのか?」
「とりあえず、少しだけね。」
 そういって、10枚ほどの依頼票を見せる。
「まずは実績を作らないと行けないから、あえて少しだけしか集めてない。」
 その言葉に、当然だとばかりにうなずくブラムド。
「だが、その程度の量では、私とアインとマリーネで、あっさり終ってしまうぞ。」
「分かってるよ。だから、僕たちがやるのは半分ぐらい。残りはみんなに分担してもらう。」
 そう言って、適当に分担を決める。凄いのは、なんとティセまで駆り出していることであろう。
「じゃ、みんな頑張ってきて。」
 例によって例の如く、メルフィを残し、全員通信機を持って仕事に散っていった。


「だ〜、俺ばっかりこき使うんじゃねえよ・・・。」
 げっそりしながら、アーシェがぼやく。ブルーフェザーが離反してから、すでに仕留めたモンスターの数は五体を超える。単独で戦っているので、疲労も激しい。
「シャインフォード君、大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか・・・?」
 アインのヤツ、などとぼやいても後の祭である。
「いっそ、俺も辞めちまおうかな・・・。」
「何を言ってるんだ・・・。」
 苦笑するフレッド。
「とはいえ、ブルーフェザーってのは、俺たちが思っていた以上に大変な部署だったみたいだな。」
 レスターに聞えないように言う。
「怪物見てりゃ、分かりそうなもんだと思うが?」
 フレッドにぶっきらぼうに言い返す。口の悪さはルシードとタメであろう。
「それもそうだな。」
 苦笑する。そこに、
「大変です!!」
 ローワンがかけ込んでくる。
「どうした?」
「ミラ先輩のチームが、全滅しました!!」
「なに!?」
 驚愕するレスター。ミラのチームと言えば、強盗事件の陣頭指揮をしていたはずである。
「なにがあった!?」
「相手が魔法使いだったみたいです!」
「その程度のことでか!?」
 実際のところ、魔法を使う程度では、一捜の捜査員を一方的に全滅させたりはできない。ブルーフェザーのメンバーぐらい、魔法の扱いにたけていれば可能性はあるが。
「相手の数は?」
 面倒臭げにジャケットを羽織りながら、アーシェが問う。
「確認できたのは3人です! 一人が人質を取り、二人がこちらの監視をしています!」
「全く、面倒なことだ。」
 ぼやきながら出ていく。アーシェの平穏は、まだ遠そうである。


「一捜が全滅!?」
 次の日、新聞を読んだルシードが、素っ頓狂な声を上げる。
「強盗が出たらしいね。」
 アインが依頼票の整理をしながら何事もなかったかのように言う。
「あの手だれぞろいの一捜が? たかが強盗相手に?」
「全員魔法使いだったらしいね。どうやら、魔法の使い方ってヤツを心得てたみたいだ。」
 魔法使いでもない限り、魔法に対する抵抗力と言うのは極めて弱い物になる。また、魔法使いでも魔力の低い者は大体抵抗力が低い。ビセットなどはその典型例である。
「考えてみれば、今じゃあたし達には関係ないのよね。」
「そ。依頼が来ない限り、わざわざ出動はしない。ってな訳でブラムド、これお願い。」
「ほう? なかなか面白い依頼だな。」
 受けとって、目を細めるブラムド。
「同族の匂いがぷんぷんする。」
「そう言えば、ブラムドさんってどうして血を吸わないんですか?」
 ホラーマニアのフローネが好奇心で質問する。
「そんなことをすれば、神聖魔法が使えなくなってしまうじゃないか。」
 ヴァンパイアもロードクラス、それも何百年も生きているようなやつになると吸血行為をしなくても命を維持できる。その中でも彼は極めて変わっていて、神を信仰し魔法を使え、流水や日光、十字架、その他もろもろのヴァンパイアの弱点と呼べるような物は、一切合財克服している。人間に友好的なS級危険種族と言う、珍しい存在でもある。
「ま、無駄話はそのくらいでおいといて。フローネは今日は僕のサポート、ルーティはマリーネと、ルシードとビセット、バーシアは一緒にこの仕事をすること。今日はティセとゼファーは待機だ。」
 仕事を割り振る。まだまだ仕事の量が少ないので、一人頭の仕事量も少なくなる。まあ、メンバー全員が不慣れなので、これでいいと言えばこれでいい。
「じゃあ、解散。」
 アインの一言で、それぞれ仕事に移動しようとした瞬間、電話が鳴り響く。
「なんだ?」
「ちょっとまってて。場合によっちゃ編成を変えなきゃいけないかもしれないから。」


「はい、何でも屋・ブルーフェザーです。」
「強盗事件だ! すぐ出動しろ!」
 ヴァッカス部長の声である。相当焦っているようだ。どうやら、早速強盗が出たらしい。
「どうして?」
「どうして、だと!? それが貴様らの部署の仕事だからだろうが!!」
「悪いけど、今は保安局とは全く関係ない。命令なら第四捜査室に当ってくれ。最も、今は開店休業状態だろうけど。」
 実際、現在は里帰りをしている一名しか居ないので、動ける人間は一人もいない。
「貴様ら、第四捜査室だろうが!?」
「違うよ。辞表が受理されたいまじゃ、全く関係ない。大体、みんなが辞めてからもう一月は経ってるんだ。給料が出てない時点で、僕たちとそちらの関係はなくなっている。」
 どうやら、ヴァッカス部長は、自分が第四捜査室をほぼ廃止状態に持ちこんだことを忘れていたらしい。
「き、貴様・・・!」
「ま、せいぜい頑張って。」
 そう言って電話を切ろうとする。
「ま、まて! 分かった、正式に依頼する! 金額もそちらの言い値で用意する! だから頼む!!」
「はいはい、毎度ありがとうございます。後、当然ながら、そちらの指示は受けないよ。とりあえず、現場で働いてるメンバーと相談してことを進める。魔法の使用についても、こちらが各自で判断して行う。」
「分かった! 分かったから早く出動してくれ!!」
「了解。 そう言うわけだからみんな、予定変更だ。」
 どうやら、今の電話の内容は、全員に聞えるようにしていたようだ。
「わかった。」
 ルシードが返事を返す。
「それじゃあ、遅くても1時間後にはけりをつけるから。」
 それだけ言って電話を切る。
「じゃあ、行くよ!」


「あれが強盗団か。」
「なかなか、隙の無い布陣ね。」
 バーシアが感心したように言う。
「最も、本気でかかればあっという間だけど。」
 アインが、苦笑しながら相槌を打つ。
「本気でって、あんたいつも無茶苦茶なやり方するでしょう?」
「だって、ほかにやりようが無いからなね。」
 苦笑しながら、飄々と話をするアイン。そこにビノシュ室長が割りこんでくる。
「後30分でけりをつけるんじゃなかったの?」
 出動から現在まで、結構な時間が経っている。ほとんどは移動である。
「なんなら、すぐにけりをつけようか?」
「できるんだったらね。」
「じゃあ、けりをつけよう。」
 それだけを言うと、妙にいらいらしているルシードに声をかける。
「ルシード、ルーティ、水の戦陣結界だ。フローネは前に教えたエーテルの戦陣結界。ビセットとバーシアは人質の救出。ブラムドは四人めに警戒してて。僕が突撃、マリーネが攪乱だ。」
 てきぱきと指示を出す。
「僕が突撃を開始したら全員行動開始。」
『了解!』
 全員の返事がはもる。
「じゃあ、行くよ!」


「よわい。」
 呆れたように言うアイン。
「そりゃ、音速の突撃をかわせる人間なんてほとんどいないよ。」
 ビセットが呆れて言う。
「でも、なんで相手の魔法が発動しなかったの?」
 ルーティが不思議そうに聞く。
「確かに、普通戦陣結界を張っても、魔法の発動を防げるわけじゃないわよねえ。」
 バーシアも首をひねる。
「そりゃ、相手の魔力じゃ火の魔法が発動しないように結界を張ったからだよ。」
「どうして火だって分かったんだ?」
「相手の属性を見た。」
 特殊な結界の張り方といい、相手の属性を見る手段といい、やはり300年は伊達ではないらしい。
「で、ブラムド、そっちはどうだい?」
「アイン、このような機会をくれたことを、感謝する。」
 にやっと笑うブラムド。その姿が霞の様に消えると、相手を掴み上げる。
「他人の血に依存せねばならない下等な存在の癖に、何をいきがっている?」
 ヴァンパイアがヴァンパイアの首を掴むと言う、滅多に見る事のできない光景が展開される。
「き、貴様こそ闇の貴族の誇りを捨て、人間などに尻尾を振っているくせに何をえらそうに!!」
「強盗謎とつるんでいた貴様がそれを言うのか?」
「こいつらは、単なる僕だ!!」
 完全に呆れかえる。
「どうやら、真っ当に道を歩く楽しさと言うのが分からないらしいな。哀れなことだ。」
 それだけ言うと、指に力をこめる。
「さらばだ。」
 一瞬で、ヴァンパイアが完全に消滅する。
「神よ、愚かなる同族を裁く機会を与えてくださったことに、感謝します。」
 祈りを終える。
「では、引き上げるか。」
 結局、事件の収束は出動から40分後だった。
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