中央改札 交響曲 感想 説明

ブルーフェザー、離反する!? その3埴輪


 ヒロ・ソールとソウイ・ソールは、見慣れた筈のその建物に、違和感を覚えた。
「なあ、兄貴・・・。」
「なに?」
「ここ、こんなにでかかったっけ?」
「僕の記憶が正しければ・・・、一回りは小さかったはずだけど・・・。」
 自信なさげに言うヒロ。
「俺達がいない間に、なんか動きがあったみたいだな・・・。」
「うん・・・。」
 一回りは大きくなった建物に呆然と見入っていると、中からルシードが出てくる。
「ヒロ、ソウイ、帰ってきたのか?」
「はい!」
「もう、実家での用ってやつはいいのか?」
「ああ。バッチリだ。」
 にっと笑って親指を立てるソウイ。
「じゃあ、とっとと荷物を置いてこい。状況を説明してやる。」
 状況、と聞いて顔を見合わせる二人。
「そうですね。お願いします、ルシード先輩。」


「そう言えば、他のみんなは?」
「ああ。今は仕事だ。俺は早く終ったから戻ってきて訓練してた。あと、メルフィは俺に留守番を任せて、今買い出しに出てる。」
「仕事?」
 状況が全くわからない。
「そーいや、ティセは?」
 先入観から、ティセは仕事をしていまいと考えてしまうソウイ。
「仕事。あいつ、案外使えるみたいでな。あと、メルフィは俺に留守番を任せて、今買い出しに出てる。」
 ティセの仕事、というのが全く想像できない。
「で、仕事って言うのはなんですか?」
「そうだな、ちょっと説明しといた方がいいな。」
 そういって、ここ3ヶ月のことを説明する。
「てな訳で、今俺達は何でも屋をやってるわけだ。とは言っても、今までとあんまりかわらねえ。よその応援か、正式な仕事かの違いぐらいだ。」
 ルシードの説明を聞いて、黙りこむ二人。
「アインだって・・・?」
「ああ。」
「・・・いや、あいつな訳ねえか・・・。いくらなんでも300年前の人間が・・・、でも、ルシア姉ちゃんも言ってたし・・・。」
 ぶつくさ呟きながら考えこむソウイに、苦笑を浮かべるルシード。
「そんなわけだからヒロ、辞表を提出してきてくれ。別に、第一捜査室に移動でもかまわねえが。」
 考えこむヒロ。アインというのが誰かは知らないが、その新人がこんな暴挙に出た理由もわからなくはない。現在の状況は、実際にブルーフェザーを廃止した場合をシミュレーションしているようなものである。
「俺、過去でこう言うことをしでかしそうなやつに、散々な目にあわされた・・・。」
 ソウイがげんなりしながら言う。そのとなりで考えこんでいたヒロが、
「わかりました。辞表を提出してきます。」
 意を決して言う。実際のところ、こう言うやり方は余り好きではない。だが、前回のテロよりはマシだし、魔法犯罪を軽視する風潮は何とかする必要がある。そう割り切ったのだ。
「で、ソウイはどうする? ここの従業員になるか?」
「ああ。これで、居候だなんだって言われずにすむな!」
 ガッツポーズを取る。その横では、早速辞表を書き始めるヒロの姿があった。


 ヒロがヴァッカス部長に辞表を叩き付けた帰り、久しぶりだと言うことでクーロンヌに寄り道することにした。実際には、そこでアルバイトをしている少女が目当てなのだが。
「いらっしゃいませ! ・・・あら、ヒロくんじゃないの。」
「ご無沙汰してます、リーゼさん。」
「いつ帰ってきたの?」
「ついさっきです。」
 リーゼと和やかに話をする。
「ごめんなさいね。シェールはいま、配達に出てるのよ。」
「そうですか・・・。」
 内心、少しがっかりするが、それを表には出さないようにする。
「どうする? 待ってる?」
「いえ、今日は出なおしてきます。」
 そう言って、クーロンヌを後にする。何となくぶらぶらと港公園のほうに歩いていくと・・・。
「あれは・・・。」
 ヒロが目的としていた少女、シェールがいた。青い髪の見知らぬ男と一緒に歩いている。場所が場所だけに、配達帰りとは考え辛い。
「誰だ・・・? あのひとは・・・?」
 ずいぶん楽しそうである。心なしか、シェールの頬が赤いような気がする。心の中のどろどろした物が、吹き出そうになる。
「あ、ヒロくん!」
 シェールがヒロに気付く。隣にいた男がヒロを見て、少し驚いたような顔をする。
「そっくりだな・・・。」
 懐かしそうな顔をする。
「なにが?」
「まあ、兄弟なら似ててもおかしくないし、子孫なら似てる人間が出ても問題ないか。」
 アインの台詞は、シェールにはやっぱりよくわからない。そんなシェールの様子を見たアインは、穏やかな微笑を浮かべる。
「で、きみとソウイ、結局どっちが神閃流を継いだの?」
「!!」
 驚愕し、次に目を細める。
「神閃流を知ってる貴方は何者ですか?」
 目の前の青年に対し、警戒するヒロ。手は、無意識に紅魔にかかっている。
「どうしたの、ヒロ君?」
 不思議そうな顔をするシェール。アインの言葉の意味は、全くわかっていない。
「失礼。確かにこんな事をいきなり言えば、それが当然の反応だね。」
 苦笑する目の前の青年。ヒロの中の猛々しい心が、その笑みを挑発と取る。理性の部分は違うと訴えているが、感情の部分は目の前の男を叩き斬れと訴える。そして、彼としては珍しいことに、感情におしながされてしまう。
「黙れ! それから彼女から離れろ!!」
 神速の抜刀術。だが、奥義ではない。そこまでやることは、理性が押し留めたのだ。
「危ないな・・・。」
 切っ先を掴んだアインが、苦笑しながら言う。驚くヒロ。とっさに峰のほうにひっくり返したとはいえ、あっさりかわされるとは思わなかった。
「だ、大丈夫、アインくん!?」
「うん。当らなかったし、当っても峰打ちだからね。」
 どうやら、目の前の男は見た目に反して、かなりの実力者のようだ。そこで、シェールが言った単語に気がつく。
「アイン・・・だって・・・?」
「そうよ! それよりヒロくん、ひどいじゃない!!」
 本気で怒っているシェール。胸が痛いヒロ。
「まあまあ、シェール。そんなに怒らないで。今回は僕が悪かったんだし。」
 穏やかに微笑みながら、アインがシェールを宥める。
「アインくん、こんなことされたんだから、ちょっとは怒りなさいよ!」
「どうして?」
 本気で理由がわからないらしい。攻撃されて怒らない人間、というのははじめてみた。
「どうしてって・・・、もうちょっとで殺されるところだったんだよ!?」
「だって、ヒロがそんな行動に出たのは、僕が不審人物そのものな台詞を吐いたからだし、当ったところで峰打ちだから死にはしないし、となりの人間に被害が行くわけじゃないし、怒る理由が思いつかない。」
 どうやら、本気で怒る理由が思いつかないらしい。そんなアインの様子に、ため息をつくシェール。怒りを持続できなくなったようだ。
「じゃあ、僕はそろそろ戻るから。シェール、後はヒロに頼んで。」
 自己紹介もしていないのに、完全に旧知の仲、みたいな感じになってしまう。ふと、妙な既知感に襲われる。気が遠くなるほど昔、あの穏やかな微笑とともに、彼に幾度も助けられたような気がする。
「どうしたの、ヒロくん?」
「なんか、あの人の事を知ってるような気がして・・・。」
「ふーん?」
 シェールが、よくわからない、という顔をする。
「で、あの人のこと・・・。」
「うーん、あたし自身、よくわかってないの・・・。」
 苦笑するシェール。ヒロが里帰りする前に比べ、幾分落ち付いたような印象を受ける。
「魔物に襲われてすっごい大怪我しちゃったのを助けてもらったことが、アインくんとの最初の出会いなんだけど・・・。その時から、なんか気になっちゃって・・・。」
 胸がちくりと痛む。
「最初から、あたしをあたしとして見てくれた数少ない人だし・・・。あたし、男の子みたいでしょって言ったら、なんて言ったと思う?」
「うーん・・・。」
 アインの事をよく知らないので、なんといったかが予想できない。
「そう言う女らしさがあってもいいんじゃない、だって。周囲がどうであれ、自分が女の子だって自覚してそれを捨ててなきゃ、十分女らしいんじゃないか、だって。無茶苦茶な理屈でしょ?」
 なんとも言えない。
「たぶん、好き、とかそういうんじゃないんだと思う。ただ、凄く気になるの。」
「へえ・・・。」


「てめえ!!」
 事務所に戻ってきたアインを見て、ソウイがいきり立つ。
「アインって聞いたからもしかしたらと思ったが、やっぱりてめえだったとはな!!」
「やあ、ソウイ。元気そうだね。」
 対照的に、穏やかに語るアイン。
「ここであったが百年目! いざ、勝負だ!!」
「正確には300年と少し、ぐらいなんだけどね。」
 どこか間違った、いまいち噛み合っていない会話をかます二人。ソウイが飛びかかる。
「神風打!!」
 あいも変わらず、正面からの勝負が好きなやつである。ほぼ水平に動いている体の下に自分の体をもぐりこませると、自分の全身を相手の全身に絡ませる。
「蛇絡み・裏 八俣大蛇ってね。」
 本家本元だと、このまま全身の骨を砕いて投げ落とすのだが、とりあえずアインはそこまではやらない。単に、折れない程度に全身の関節を決めて、そのまま投げるだけである。
「ぐは・・・。」
 あっさり目を回すソウイ。
「全く進歩がない・・・。」
 とはいえ、酷といえば酷かもしれない。元々実力差がある上に、300年と言う年月が更にアインを鍛え上げている。ハンデが大きすぎるのだ。
「おいおい、あんまり痛めつけるなよ。明日から従業員になるんだから・・・。」
「飛龍脚食らって平気なんだから、大丈夫なんじゃない?」
 そんなことを言っていると、
「あ〜!! ソウイ!!」
「お養父さん、また・・・?」
 ルーティとマリーネが、どつき倒された(正確には投げ落とされた)ソウイを覗きこむ。がばっとおきあがるソウイ。
「きゃ!」
 ルーティが驚いて飛び退る。きょとんとするマリーネ。
「あ、あなたは!!」
 そのままマリーネの両手を握る。
「お、御久しぶりです・・・。」
 少し引き気味になりながら、マリーネが挨拶する。
「マリーネ、やっぱりマリーネなんだ!!」
 過去に行った時、一目で惹かれた少女。当時は12歳ぐらいだったので手を出せば犯罪だったが、今では外見も実年齢も逆転している。いくらラブラブやっても問題ない。
「凄く・・・、綺麗になった・・・。」
 20歳ぐらいの外見のマリーネは、歴史に十分名前が残せるほどの美人である。その気になれば、その美貌で国一つ傾けることも出きるだろう。本人に自覚はないが。
「それは否定しないけど・・・。」
 ぶすっとした表情でルーティが言う。ルーティのことを気にするマリーネ。
「あの、ソウイさん・・・。私みたいなおばあちゃんじゃなくて・・・。」
「マリーネがいくつでも、俺は全然かまわない!!」
「なによ、ソウイのバカ!!」
 そんな若者? 達の様子を、アインは苦笑しながら眺めるのであった。
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