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テオリア星系戦記第五話 光埴輪


「異常?」
 AS−09サイフレックスの資料とともに現われた整備長が、アクセルに報告をする。アクセルと同年代ぐらいの、叩き上げの「おやっさん」である。
「はい。明らかにそうとしか思えない記録が残っていまして・・・。」
「見せてみな?」
 資料を読み進めていく。これと言って問題になる個所は存在しない。しばらくして、ある単語に目が止まる。
「長時間の発光現象を確認!?」
「はい。魔法を使ったためだというのは確かなのですが・・・。」
 マジックブースターで魔法を使うと、パワードシェル全体が薄く発光する。色はパイロットにより千差万別、なのだが、魔道兵器に関してはどう言うわけか、誰が使っても兵器の属性の色に発光する。そう言う意味では、魔道兵器を搭載している機体よりも、魔法を使ってくる機体のほうが怖い。何が飛んでくるか、推測できないからだ。
「だが、魔法を使うことによる発光現象は、発動の一瞬だけだ。種類や持続時間には、一切関係ないぞ。」
 大体、マジックブースターの役割など、パワードシェル戦のために魔力を拡大することと、パワードシェルの感覚部での制御補助である。そんな無駄なエネルギーはどうほじくり返しても出てこない。
「わしもこの目で見たわけではないんでよくわからんのですが・・・。」
「あ、おっちゃん。ちゃんとサイフレックスのマジックブースター、整備してる?」
 シェラが口を挟む。
「いわれんでもやっとるわい! 大体あの隊長、ちょっとなれてきたからって、無茶な魔法の使い方をやりすぎおる!!」
 頭に青筋を立てるおやっさん。
「無茶な魔法の使い方?」
「何度言っても、倍速と属性付与の魔法をやめようとせんのですよ。一度など、ダイヤモンド製の刀身の剣で相手を殴り倒したと聞いたときには、目を丸くしましたね。」
「おいおい、エネジーソードに実体を与えてるのか? それも、出てきたビームを片っ端から刃にかえるようなやり方でか? 何考えてんだ?」
 呆気に取られるアクセル。やりたいことはよく分かる。その有効性もである。実体にかえてしまえばアンチマジックも対ビーム装甲も意味がない。だが、シンディがやっている魔法の使い方は、実はとてつもなくデリケートなシロモノである。
「さすがに呆気に取られたのが、あたし達に滅茶苦茶な威力の氷の魔砲弾を撃たせておいて、ほぼ同時に倍ぐらいの出力の火炎放射をしたときかしら?」
「どうやってだ?」
「エネジーシューターに3回ぐらい属性付与するんだって。どうやら、かさねがけしたら効果が高くなるらしいの。」
「それでか、やけに戦艦が沈むのが速かったと思ったら・・・。」
「うん。推進部があっさり消滅。メインのジェネレータにも損傷入っちゃって降伏か自爆かしか選択肢がなかったの。で、相手はあっさり自爆。折角降伏勧告したのに・・・。」
 呆れるしかない。
「だが、やってることは滅茶苦茶でも、やり方自体は有効なんだよな、これ。だれもビビってやらなかったことを、ビビらずにやっただけで・・・。」
「うん。そうなんだよね。それで、アタシもちょっと面白い趣向を考えてみたんだ。まだ、練習中だから実戦で使えるかどうかはわかんないけど。」
「あまり、整備調を困らせるなよ。っと、そうだ、忘れるところだった。サイフレックスが長時間発光するってのは本当か?」
「交戦状態になってから五分ぐらいすれば大体光ってるよ。よく見ないとわかんないぐらいだけどね。魔法云々より、シンディの体調とかテンションのほうじゃないかとあたしはにらんでるんだけど?」
 かなり無茶苦茶な言い分である。
「テンションはともかく、体調で光られるのも困るぞ。」
「だって、マジックブースターの完全な作用なんて、分かってないんでしょ?実際のところ、平均取った時点で理論値より3割は誤差が出てるって話だし。」
 返す言葉もない。正直、通常エネルギーの変換と魔力の増幅、この二つの原理しか分かっていない上に、そもそも、魔力とはの時点でまだ誰も解明できていないのだ。せいぜい、昔思われていたのとは違い、処女性は関係ないらしい、ということ程度しか分かっていない。生命の誕生と並ぶ、大きな謎の一つである。
「そこらへんは、今後の調査に期待、ということにしておいてくれ。」
「はいはい。」


 L4コロニー。シンディ達は久方ぶりの休暇を得ることが出来た。実際のところ、戦果が多大な割に物資の補給が少なく、さすがにそろそろしんどい、ということになったのだ。
「おいしいもの、あるといいけどね。」
「ま、なんだっていいさ。非常食よりはマシだからな。」
 長期戦になると、まともに食事を取る余裕もなくなる。それゆえ、固形の栄養食が非常食として支給されるのだが・・・、はっきり言ってまともに味に気を使ったシロモノではない。
「けど、こうなると余裕があるのも考えものよね。」
 前に補給をしてから3ヶ月は戦い詰めである。元々同型の戦艦に比べて機動兵器の数が3分の1であり、その差を食料や弾薬、エネルギーなどに回しているので、同クラスの戦艦の数倍は活動時間が長い。が、それも善し悪しである。
「しかし、久しぶりに降りてすることが買い物じゃなくて飯か。」
「買い物してどうするのよ。特に買う物だってないっていうのに。」
 これだ、といわんばかりに肩をすくめるグレイとアル。
「ま、買いたいものはあるけど。」
「買いたいもの?」
「紅茶の葉っぱ。前の補給のときに却下されたんだ。些細な嗜好品ぐらい大目に見てくれてもいいだろうに。」
 そう言えば、シンディの部屋に遊びに行った時も、出されたのは紅茶だったような気がする。
「小物とか、そういうのは買わないの?」
「買ってもしかたがないでしょ? 置く場所もあんまりないし。」
「あのまんまじゃ、シンディの部屋、凄く殺風景じゃないかな?」
「シェラのところみたいに、色々飾り立ててもしょうがないじゃない。あの部屋にいつまでも住むわけじゃないし。」
 実際のところ、戦艦内に与えられている部屋、というのは仮住まいもいいところである。いつ撃破されるか分からないし、人によっては半年と定住することなく配置転換される。
「うーん、そうかな・・・。」
 男どもの感覚はシンディに近いので、シェラの言い分のほうがピンと来ない。
「あ、あそこなんか良さそうじゃない?」
「そうね。」
「シンディ、奢ってくれるんでしょ?」
「なんで私が、って言いたいところだけど、いつもお世話になってるから、今日は私が出すわ。」
「やり〜。話せる〜。」
 はしゃぐシェラを見て、苦笑するシンディ。
「とは言っても、少尉の給料なんてたかが知れてるんだから、昼ご飯ぐらいしか無理よ。」
 運転席と助手席の二人にも言う。
「わ〜ってるって。」
「元々、そんな高いものを食う気はない。」
 最も、たいしたことはないと言っても、全然使う暇などないのだから、十分すぎるほどたまっているようだが。


「なにかしら?」
 港のほうが騒がしい。
「非常事態らしいな・・・。」
「とにかく戻ろう。」
「え〜? 折角これから買い物行こうと思ったのに〜。」
 シェラがふくれっつらになる。
「これはほっといて、はやく行きましょ。」
「だな。」
 ほっとかれたシェラはぶーたれているが、あっさり無視される。そして、港のほうでは・・・。
「なんで・・・こう・・・。」
 革命軍のマーキングが入った戦闘機が、共和国軍の船舶を無差別に攻撃していた。
「アクセル! パワードシェルは動かせる!?」
 戦艦に駆け込みながらシンディが通信機に向かって怒鳴る。
「スタンバイは出来てる! だが、相手は航空機だ! 白兵戦の武器でしとめるのはほぼ不可能だ!」
 パワードシェルには飛行機能はない。まだ、それほどの出力がえられないのだ。
「分かってる! でも流れ弾が怖いから、なんとか白兵戦でしとめてみる!」
 サイフレックスを起動して、シンディがいう。他の3機も動き始めている。
「とはいえ、大火力の武器は使えねえんだよな・・・。」
 ちょろちょろ飛びまわる戦闘機に照準をあわせ、トリガーを引く。ビームが着弾する。
「あんまり、ビームとかはよくないんじゃないかな?」
 もう一丁叩きこもうとしたグレイに、シェラが突っ込みを入れる。
「つっても、流れ弾の被害はガトリングとかミサイルのほうが大きいぞ?」
「外した時のダメージの問題よ。」
 たかがパワードシェルのビームごときでコロニーの壁に穴があくとは思えないが、確かに外れたときの一発の被害は洒落にならない。
「こう言うとき、案外武器がねえんだよな・・・。」
 ぼやいていると、視界の隅で妙な機動をするパワードシェルが有った。当然の如く、サイフレックスである。
「なんだ・・・? ありゃ・・・?」
「また光ってるよ・・・。」
 今までは薄く発光する、程度だったのだが、今回は全身をつつむように、はっきり発光している。
「隊長、何する気だ?」
 アルが、一応聞くだけ聞く。
「ジャンプして、叩き斬るの!」
 宣言通り、高く飛びあがる。
「嘘だろ・・・。」
 思わず、呆然としてしまう。飛行、というレベルではないが、パワードシェルの常識を超えた跳躍力である。あの青い光と、なにか関係があるのだろうか?
「どうやら、私の勝ちの様ね。」
 上昇中に3機、姿勢制御を行いながら、下降中に更に3機しとめる。スピードを殺さずに、更に再度ジャンプする。非常識なその光景に対応しきれず、あっさり革命軍は全滅する。
「で、結局あの光はなんだったんだ?」
 結局、謎は謎のままであった。
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