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学園幻想曲 懇親会埴輪


 その学校は、一風変わった学校であった。幼等部から大学院までの一貫教育を行っている学校であり、広大な敷地を有している。世界各地からさまざまな学生が集まるその学園は、創始者のポリシーゆえに、学園そのものに名前がついていなかった。それゆえ、学園は単に『学園』と呼ばれるようになった。


「しかし、見事に知り合いばっかりだ。」
 さくら亭の一角で、懇親会に出席したクラスメイト達−ちなみに、今回は全員出席している−を見渡して、アインが呟く。
「お前は顔が広いからな・・・。」
 呆れたようにルシードが言う。彼の場合、ほんの一握りしか直接の知り合いは居ない。
「しかし、今年はアインと同じクラスですか・・・。」
 苦笑する総司。彼が密かにアインをライバル視しているのは、結構有名な話である。最も当のアインは気がついていないが。
「ま、クラスメイトっていっても、いくつかのイベントとホームルームだけなんだし、気にすることもねえんじゃないか?」
 早速料理に手をつけた紅蓮が言う。この学校のクラス編成システムはかなり独特で、毎年中等部から大学院までのすべての学生をランダムにクラス分けするのである。おかげで、一つのクラスにさまざまな年齢、学年の学生が集まることになる。結果として、クラスの意味はホームルームといくつかのイベントに限られてしまう。
「しっかし、なんで毎年毎年こんな面倒なクラス編成するんだ?」
「創始者が、どうせ単位制で同じ学年の人間でも受ける授業にばらつきがあるんだったら、いっそ全学年をまぜて幅広い人脈形成をしたらいいんじゃないかって言う意見を言ったんだそうな。」
 ルシードのぼやきにアインが答える。
「じゃあ、なんで初等部から下は入ってないんだ?」
「中学はいるまでは、同い年ぐらいの人間とのコミニュケーションが大事、なんだって。」
 それゆえ、単位制、スキップが適用されるのは中等部からだ。
「何堅い話してるの〜?」
 そこに、いつのまに酒を飲んだのか、思いっきり酔っ払っている由羅が乱入してきた。
「あら〜、マリーネまで居るじゃないの〜。なんで部外者がいるの〜?」
「無理言って割りこませてもらったんだ。さすがに遅くなりそうだし、食事の用意も間に合いそうになかったしね。」
「店屋もんでよかったんじゃねえのか?」
「・・・私、そういうのよく分からないから・・・。」
 黙々と食事を続けてたマリーネが、ポツリと呟く。まだまだ微妙に生活力の足りない娘である。
「まあ、この子が僕の娘だって知っておいてもらうのも、こっちとしては結構重要だしね。」
 穏やかな目で血のつながりのない娘を見ながら、アインがいう。しっかり父親の目である。
「アイン、お前渋すぎ。」
「アイン、君ってホントに今年20歳?」
 そんなアインに、紅蓮と朋樹が同時に突っ込むのであった。


「しかし、アレフも本気でまめだよな。」
「とか言いながら、さりげなくシーラといちゃついてんじゃないよ、ったく。」
 ブスッとした顔で、志狼とシーラを見るアレフ。ちなみに、懇親会を発案したのはこいつだ。
「でもお前、ルシアと付き合ってるのに他の女に手を出していいのか?」
 アーシェがアレフに突っ込む。
「ぎくっ。」
「俺だったら、あいつと誰かと二股なんて怖い真似、絶対にしないが。」
 さりげなく、ルーが突っ込みを入れる。ちなみに、話に上がったルシアは、輝羅と一緒にメルフィ達と話をしている。輝羅もルシアも凛々しいタイプの美女で、女性としてというよりは人間としてもてるタイプである。
「アレフく〜ん、絶対そういうのはよくないよ〜。」
「ボクもそう思う・・・。」
 由羅がマリーネのほうに行って解放されたクリスとリオが、一応突っ込む。
「しかし、うちのクラスは全体的に有名なのが多い気がするな。」
「有名なのって?」
 志狼の言葉に、シーラが疑問符を浮かべる。
「とりあえず見えてる範囲でイヴにフローネにシェリル。この3人は図書館に入り浸ってるし、それぞれいろんな噂があるから。」
「由羅と更紗はライシアンだから目立つし、そう言う意味じゃ種族不明のメロディも同じだな。後、ティセなんかはルシードのことを『ご主人様』ってよんでるから、なんか妙な噂が流れてるし。」
 アーシェも補足する。他にもマリアとエルの犬猿コンビとか、アーキス姉妹だとか、コーレイン兄妹だとか、所謂目立つ人間ばかりが集まっている。
「きわめつけはあいつか?」
「アインくん?」
「ああ。なんか他の連中と話してみて分かったんだが、このクラスの人間の全員と知り合いらしい。」
「類が友を呼んだのか?」
「かもな。」
 そんな話をしている彼らの視界の端では、調子に乗ってトリーシャやルーティを口説いていたヒロが、パティから鉄拳制裁を食らっていた。


「マリーネちゃん、体の調子はどうですか?」
「・・・今のところは、大丈夫・・・。」
 黙々と食事を続けていたマリーネに、ディアーナが声をかける。
「うーん、子持ちかあ・・・。」
 そこらへんの様子を見ていたローラが、何か考えこむ。
「何やってんだ、ローラ?」
「またいつもの癖か?」
 ピートとビセットが、そんなローラをからかう。
「うるさいなあ! お子様は黙っててよ!」
「さわがしいなあ。一体どうしたの?」
 なんかもめてるのを見て、ルフィーナが寄ってくる。成り行きでセシルも一緒である。
「ローラがまた、いい男チェックしてたんだ。」
「いい男チェック?」
「なんかそれっていかがわしく聞えるね。」
 などといいながら話を聞く。何の事はない。バレンタインに向けて、学園中のいい男をチェックする、というただそれだけのことである。
「とは言っても、フリーのカッコイイ男の人って案外いないのよね〜。」
「そりゃ、いい男なんだから、恋人の一人ぐらいいるでしょうけど・・・。」
「でも、このクラスは比較的例外が集まってるけどな。」
 いくらフリーのいい男でも、高等部の人間はローラにとっては対象外なのだ。
「そう言えば、あの子誰?」
「なんであんな小さな子が・・・?」
「アインさんの娘。この学校の初等部に編入してたよ。」
「へ〜、あれが。」
 興味津々の顔でマリーネを凝視するルフィーナ。そんな親友を窘めながらも、好奇心を押さえきれないセシル。
「あんまり、可愛くないね。」
「そりゃ、まだまだ健康体とは言いがたいからね。」
 アインの声に思わず振り向く二人。どうやら、トイレか何かで席をはずしていたらしい。
「それに、見付けたときはもっとひどかったんだ。骨と皮だけ、筋肉もかなり衰えててまともに歩けない。いつ衰弱死してもおかしくなかったんだから。」
「そ、そうなんだ・・・。」
 そのマリーネは、ディアーナに色々と質問されている。
「でも、やっぱり可愛くないなあ・・・。」
 こけた頬、やたらと細い腕、普通なら魅力的なはずの大きな瞳も、正直言って今の容貌では怖いだけである。そんなマリーネの顔をじっと見ていたセシルが、
「でも、将来すっごい美人になるんじゃないかな・・・?」
 と漏らす。
「どうして?」
「肉付きが悪いから怖い顔になってるけど、パーツパーツは凄く整ってるし、それに・・・。」
「それに?」
「小さい頃不細工だった子は大きくなったら凄い美人になるって、よく言うじゃない。」
 最後の言い分は、かなりいい加減である。
「なんにせよ、マリーネの今の仕事はとにかく食べて運動して、友達をつくることだ。」
 やはり、その外見のせいか、あまり人が近寄って来ないらしい。親としては、ゆゆしき問題である。
「そう言うわけだから、仲良くしてあげて欲しい。」
 それだけ言うと、またマリーネの傍に戻る。あれでは、確かに恋愛対象としてローラが躊躇うのも無理はない。アインが表だってもてないのは、その性格だけ出なく、確実にマリーネの存在も絡んでいる。
「やっぱり、アインさんは素敵な人だと思うな。」
「それは否定しないけど、あの歳でああも見事に父親に徹っせるっていうのがあたしには理解できない・・・。」
 ルフィーナ達の会話をよそに、アインはつかれて眠ってしまったマリーネを連れてさっさと帰っていくのであった。
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