中央改札 交響曲 感想 説明

学園幻想曲 アイドル・パニック
埴輪


 その学校は、一風変わった学校であった。幼等部から大学院までの一貫教育を行っている学校であり、広大な敷地を有している。世界各地からさまざまな学生が集まるその学園は、創始者のポリシーゆえに、学園そのものに名前がついていなかった。それゆえ、学園は単に『学園』と呼ばれるようになった。


「ねえ、聞いた聞いた!?」
 朝、ホームルームがはじまるまでの時間。思い思いの場所で談笑していると、トリーシャがそんなフレーズとともに駆け込んで来た。よくある光景である。
「なんだよトリーシャ。今日はなんだ?」
 ビセットが、面倒くさそうに聞く。トリーシャの噂話は、大体6から7割ぐらいが誇大広告である。そう言う意味では、ピートの大変だ、と同じレベルである。まあ、3、4割は当てになるので、ピートよりはマシかもしれないが。
「あのねあのね! あのビッグアイドルのエリス・クロードがコンサートにこの町に来るんだって!!」
『ええ〜!?』
 クラスメイトのほとんどが、こう言う反応を示す。それも無理もないだろう。エリス・クロードは、シーラやルシードと言った、その手のことには疎い連中でも知っているぐらい、有名な人物である。無論、人気も凄い物がある。
「でねでね、今日からチケットが発売されるんだ!」
 この学園がある街は、都市としては大きい。だが、学園以外にメジャーな物があるわけでもないので、コンサートだの興業だのとはあまり縁がない。
「コンサートができそうな場所って言ったら・・・。スポーツドームかな?」
 朋樹がトリーシャに聞く。
「そうだよ!!」
 皆、結構興奮しているようだ。因みに、コンサートは二週間期ぐらいらしい。こう言うコンサートは、二ヶ月ぐらい前からニュースが流れるのが普通だから、今回の場合はどうやら、急遽決まったようだ。
「みんな、何そんなに興奮してるの?」
 一人、完全に蚊帳の外なアインが、比較的蚊帳の外なルシードやルーなんかに話し掛ける。
「もしかしてお前・・・。」
 ルーが、呆れたようにアインを見る。
「しらねえのか?」
 ルシードも呆然として呟く。
「よもや、俺でも知ってる人間を知らない奴がいるとは・・・。」
 やはりよく分からない。テレビはニュースぐらいしか見ない上に、芸能がらみははっきり言って興味を持っていないからだ。
「お前、歌とかは聞かないのか?」
 アーシェも一応突っ込んでみる。
「聞くには聞くよ。」
 ただ、最近の歌手の歌は区別がつかないので、聞いていないだけである。
「こいつ、重傷だ・・・。」
 紅蓮が頭を抱える。
「朋樹・・・。」
「なに?」
 トリーシャ達の騒ぎに混ざっていた朋樹が、紅蓮の呼びかけに応じて寄ってくる。
「これ、アインに貸しちまっていいよな?」
 CDを見せて言う。
「ああ、いいよ。」
 あっさり了承する。基本的に彼は、又貸しO.Kなのだ。
「ってな訳で、これがさっきから話題に上がってた、エリス・クロードの歌のCDだ。」
「ふ〜ん?」
 とりあえず受け取る。
「しかし、天使の歌声と言われてるエリス・クロードをしらねえとは・・・。」
「浮世離れしてるにも、ほどがあるんじゃないか?」
 結局、それでその場は終ったのだった。


 数日後の放課後。因みに、同じクラスでも、放課後の時間は一致しない。それゆえに、終了のホームルームも存在しない。イベントの前ぐらいには終日ホームルームの日もあるが・・・。
「・・・・・・。」
 いつも絵を描いている公園で、楽譜を見ながら、アインがコードの確認をしている。肩からかけられているのはクラシック・ギターである。
「・・・・・・。」
 マリーネが、それを興味深そうに見ている。養父がギターをはじめたのは数日前である。だが、そのきっかけまでは知らない。
「・・・・・・なに?」
 とりあえず、演奏をはじめながらマリーネに聞く。
「・・・どうして、急にギターをはじめたの?」
「アレフにせがまれてね。」
 はじめて数日とは思えない器用さでギターを演奏する。コードもほとんど間違えないし、特殊な技術が必要なところも見事にこなしている。
「・・・どうして?」
 楽器なら、オカリナの演奏がかなりの腕前である。それで問題ないのではないか?
「オカリナだったら、弾き語りができないからだって。」
 どうやら、アレフはアインの声に注目していたらしい。独特の涼やかな声に。
「・・・・・・。」
 何となく納得する。しかし、相変わらず何をやらせても上手い男だ。
「・・・・・・。」
 不意に、演奏が止まる。ギターを肩からはずす。
「マリーネ、これ見てて。」
 立ち上がると、そのままどこかへ移動する。
「・・・・・・。」
 ここでぼんやりしているのも何となく心細いので、マリーネはギターと楽譜を持って後を追うことにした。


「はなしてよ!!」
 少女の口から、高めの綺麗な声が辺りに響き渡る。女性としても小柄なその体の、何処からそれほどの声量が出てくるのか、不思議なぐらいの大声である。だが、たまたま今日はこの公園にはほとんど人が居らず、誰もこちらには来ない。
「ふ〜ん、来てくれないんだ。」
 やさしげな顔で、少女を囲んだ男の一人がそんなことを言う。
「こちらとしては、手荒な真似はしたくないんだけど・・・。」
 実際、言われてすぐに手を離している。だが、彼以外に四人の人間が彼女を取り囲んでいる。それもガタイのいい大男ばかりである。
「・・・・・・全く、それは立派な恐喝だよ?」
 少女が恐れ気もなく言い放つ。だが、残念ながら、似合わないサングラスのせいか、いまいち恫喝には向かない声の質のせいか、はっきり言って迫力がない。
「おやおや、僕を脅すのかな? 残念だけどまだ僕は犯罪好意はしていないんだよ。」
「多人数で一人囲んで、無理やり言うことを聞かせようとするのは、立派な犯罪行為だよ。」
 鬱陶しいので割りこむアイン。
「少なくとも、第3者が見てそう感じる状況なら、悪ふざけだったって言う言い訳は通用しないよ。」
 珍しく、頭を使った方法である。あまり賢いとは言えないが。
「厄介なのに見られたか・・・。引くよ!」
 どうやら、主犯格はアインの事を知っていたらしい。
「こんなの、たたんじまえば!!」
 巨漢は、アインを知らなかったらしい。いや、名前は知っていても、それが目の前の優男とはつながらなかった、というのが正しいか。
「ほい、正当防衛っと。」
 相手をあっさりひっくり返すと、首を極めて落とす。
「バカが!」
 貧弱そうな優男にあっさり仲間をやられて、いきり立つ残り3人。3秒経たずに全滅する。
「さて、警察に突き出させてもらおうか?」
 とりあえずポケットに入れていた、交換済みのギターのガットで巨漢どもをまとめて縛ると(因みに、ぐるぐる巻きにするような無駄なまねはしない)、主犯格の男の肩をたたく。
「くっ!!」
 やはり、もう少し仲間を選ぶべきだったと後悔しても後の祭である。
「といいたいところだけど、僕は第3者だからね。そこまで面倒なまねはしたくない。」
 そう言って、少女のほうをチラッと見る。
「ほっといたら? 次見掛けたら容赦しなかったらいいことだし。」
 こともなげに言う。ことの推移を見ていたマリーネが、少女の声に引っかかる物を覚える。
「はいはい。」
 あっさり手を話す。面倒くさがり、ここにきわまれりだ。
「さてっと。」
 マリーネが、ギターをすっと差し出す。ちゃんとケースに入れてある。どうやら、けちがついたからかえろう、という意思表示らしい。
「そだね。」
 ギターを受け取ったアインは、その意思表示に同意する。
「あ、ちょっとまってよ!!」
 アインを呼びとめる。振り向くアイン。
「なに?」
 面倒くさそうに聞く。サングラスと帽子を取った少女は、サファイアのような綺麗な瞳をアインに向けると、悪戯っぽく微笑んでいった。美人ぞろいの学園でも、彼女のレベルに達している人間は数えるほどである。どうやって収めていたのか、豊かな金髪が広がる。その顔を見たマリーネが、少し驚いたような表情を浮かべる。
「この辺、案内してよ。」
「どうして僕が?」
「だって、ここの地元の人で信用できそうな人って、他に知らないんだもん。」
「・・・・・・案内してくれそうで、信用できる人間を紹介するよ。」
 ひたすら邪魔臭がって、アインがそんな折衷案を示す。
「だめ! ボクは君に案内して欲しいの!!」
「面倒だな・・・。」
 本気で面倒そうに言う。
「・・・あの、お養父さん・・・。」
「なに?」
「この人・・・たぶん・・・。」
「知ってる人?」
 どうやら、アインは本気で知らないようだ。この人ならありえることだと考えながら、マリーネが推理を話す。
「たぶん・・・エリス・クロードさんだと思う・・・。」
「ありゃ、ばれちゃったか・・・。」
「だって、素顔だもの・・・。」
 二人のやり取りを聞いて居たアインが、再度、マリーネに聞く。
「知ってる人?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 思わず沈黙する二人。
「・・・私は知ってるけど・・・、相手は私を知らないと思う・・・。」
「ようするに、有名人って訳か。」
 やはり、分からないらしい。とはいえ、どうやらあの連中が単なるナンパではないようだということは分かる。
「わ・・・、なんか新鮮・・・。」
 ここまで虚仮にされるような反応を示され、思わず嬉しそうに言うエリス。
「そんなに有名なの・・・?」
「お養父さん、前にこの人のCD、聞いてたじゃない・・・。」
 さすがのマリーネもあきれて言う。
「え〜っと・・・、ああ、朋樹に借りたやつか・・・。」
 やっと思い出す。思い出せたのはひとえに、少しぐらいは興味があったからである。
「そういや、聞いたね。歌には魂がこもってるけど曲と歌詞には全然なあれか。」
 ぼろくそな評価である。
「本気で新鮮だなぁ・・・。」
 無茶苦茶嬉しそうなエリス。
「で、どうしてそう思ったの?」
「なんか、曲も歌詞も全然印象にのこんなかったんだ。歌ってる人間だけは印象に残ったけど・・・。」
 その程度の印象では、アインの関心を引くには弱い。
「へえ、厳しいんだね。」
「だってうちの学校、本物が多いから。」
 へ? という顔をする。
「ま、そういうこと。」
 その後、アインとマリーネの関係を聞かれ、学園以外の地元民にとっての名所などを(しぶしぶながら)案内する羽目になった。


「あれ・・・?」
 その二人組に一番最初に気がついたのは朋樹だった。
「あれ、アイン先輩じゃないかな・・・?」
「え・・・?」
 トリーシャが慌ててあたりを見回す。思わずそれに釣られるセシル。
「ん・・・? 確かにアインだな・・・。隣にいるのは・・・誰だ?」
 紅蓮も気がついたようだ。隣にいるエリス(オプションとして帽子とサングラス付き)をみて首をひねる。
「知らない女だけど・・・、なんか見覚えがあるんだよな・・・?」
 ビセットが首をひねる。因みに、マリーネはいない。疲れたからと言って、家に残ったのだ。
「しかし、流石と言うかなんというか・・・。」
 アインの様子を見た紅蓮が、呆れたように言う。
「あんな美人が一緒で、なんであんなにのほほんとしてられんだ?」
 ビセットがなんか悔しそうな、呆れたような複雑な声で言う。
「それがアイン先輩なんだって。」
 苦笑しながら突っ込む朋樹。身に覚えのある二人が納得する。よく見れば、アレフとは別の方面で細かい気配りをしていることも分かる。気を使われている当の本人もわからないようなところで。
「あ〜あ、俺もあんなふうに綺麗な彼女が欲しいな〜。」
 不用意な発言をするビセット。
「あのね、ビセット・・・。」
「まだ彼女と決まったわけじゃないと思うんだけど・・・。」
 妙に迫力のある声でビセットに突っ込みを入れるトリーシャとセシルであった。


 そして翌日。休日であり、コンサート当日である。
「・・・どうして、僕はここにいるんだ?」
「そうぼやかない。マリーネちゃんの分のチケット、あげたでしょ?」
 そう、アインは何故かエリスの控え室に居る。
「何時、僕はきみの付き人になったんだ?」
 マネージャーを名乗る女性に用事があるらしいから来てくれと言われてついて来たらこの有様である。
「別に付き人にしたつもりはないよ〜。」
 口を尖らせて言う。
「の割には、しっかりリハーサルからつき合わせたじゃないか。」
 因みに、アインはリハーサルはひたすら傍観していただけである。
「アインくん・・・、ボクに付き合うの、嫌?」
「・・・まあいいけどね。どうせ急ぎの用事もないし。」
 単に久しぶりに絵を描くつもりだったのを邪魔されたのが、少し寂しかっただけである。
「あ、そろそろ始まるから、準備しなきゃ。」
「はいはい、頑張ってね。」
「何言ってるの? アインくんも準備するんだよ。」
「へ?」
 こいつは何を言っているのだろう? そんな疑問が頭をよぎる。
「なんで僕が?」
「だって、君も出るんだよ?」
「は?」
 なんで僕が? アインが多大な疑惑を抱える。
「たまには、リハーサルとか台本とか無視したいんだよ。」
「・・・そういうの得意な連中、紹介しようか?」
「だ〜め。」
 なんか、昨日あたりから成り行きに流されているような気がする。
「準備って何をすればいい?」
「そうだね・・・。上だけこれに変えてくれる?」
「・・・・・・やっぱりやめる。」
「そんな〜。」
 泣きそうな声を出すエリス。だが、
「じゃあ、僕はこれで。」
 アインが本気で帰ろうとする。
「どうしてさ〜。」
 別に趣味の悪い服ではないはずなのに、何故かアインが嫌がる。
「あのね・・・。エリスは僕をどうしたいわけ? 悪いけど、せいぜい付き合うのはこの一回だけだよ。」
 この後もなにか企んでいるだろう? と言外に聞いてくる。
「う〜・・・。」
「このままじゃいけないの?」
「・・・・・・分かったよ。」
 地味な気もするが、問題になるのはこのすっきりした美貌のほうだ。この際服装はどうでもいいや、と割りきる。
「じゃ、呼んだら出てきて。」


「みんな〜、元気ですか〜!?」
 お約束からはじめる。歓声が上がる。
「今日は私のコンサートに来てくれて、どうもありがとうございます。」
 うるさいほどの歓声が聞える。
「じゃあ、折角だからこっちで出来た私のお友達を呼びますね。」
 その言葉にざわめきが広がる。こっちに来たことがあるのか? とか、何時? とか、そんな言葉が聞えてくる。
「さ、出てきて!」
 しーん。数秒待つ。出てくる気配がない。袖では、のほほんと舞台を見ているアインがいる。
「あの・・・、そんな所で見てないで出てきて欲しいんだけど・・・。」
 アインのほうを見て、そう言う。因みに、ライブでマイクを持ったままなので、この間抜けな台詞は会場中に響き渡っている。しかも、酔狂なことにTVカメラもある。実は生放送まで入っているらしい。
「そう、あなただって!!」
 舞台の袖で、僕? という表情で自分を指差すアインに、思わず突込みを入れる。ざわめきが大きくなる。観客の幾人かは、こう言うことをしでかしそうな人間に心当たりがあったりする。
「・・・・・・なんだ、友達って僕のことだったのか・・・。他に誰かいるのかと思って期待したのに。」
 舞台に上がったアインが、そんなことをさらりと言ってのける。
「・・・そんな暇、あるわけないでしょ・・・。」
 憮然として突っ込みを入れる。因みに、会場は唖然とした空気につつまれていた。ほとんどはゲストとして出てきた人間の予想外の台詞からだが、一部は予想外の人物が出てきたからである。
「アイン・・・!?」
「人違い・・・じゃないよね。」
 紅蓮がうめく様に呟く。トリーシャも我が目を疑う。
「二週間前まで知らなかった人間のコンサートに出演するとは・・・、やりますね。」
 総司が妙なことで感心している。だが、こう言う反応は彼ぐらいなもんである。そんな彼らを横目に、舞台の上では妙な漫才が続いている。
「大体、私がそんなに軽い人間に見えたの?」
「昨日、さんざん引っ張りまわしたくせに。しかしなるほど、そうやって猫をかぶってるわけか・・・。」
「どう言う意味・・・?」
「だってさっきまでそんなおしとやかぶった口調じゃなかったじゃないか。そもそもほんの10分前ぐらいまで、自分のこと私じゃなくボクって言ってたし。」
 その言葉に慌てたように切り返す。
「そ、そんな事どうでもいいじゃない! そもそも、貴方だってその歳の癖に娘がいるなんておかしくない?」
「養子縁組は双方の意思の問題。ベルファールじゃ僕は成人と認められてるし、マリーネも自分で養子になるか否かを選べる年齢だ。他の人間にとやかく言われる筋合いはないよ。」
 そこまで言って、肩をすくめて言う。
「で、何時までこんな漫才もどきを続けるの?」
 この当りで会場が沸く。軽快なテンポでぽんぽんとやりあうその姿は、結構おかしい。
「あ、そ、そうだった。まあ、丁度頃合みたい出し、1曲目いって見ようか?」
 半分地に戻りながら、とりあえず進路を修正する。
「で、僕はどうしたらいいかな?」
「終るまで袖で見てて。」
「はいはい。」
 アインが退場し、演奏が始まる。妙にどきどきしている自らを落ち付けるように、全身全霊を込めて歌った。


 その後妙な漫才もどきを続けながら数曲を歌い終え、終盤に差し掛かる。
「しかし、君って凄くマイペースだよね〜。」
 もはや完全に地である。辛うじて一人称は私のままだが。さっきから、アインにペースを崩されまくっている。
「なかなか粘るね。」
「なにが?」
 この時点で、アインのペースであることに、エリスは気がついていない。
「いや、何処まで私で粘るかな〜って楽しみにしてたんだけど、9割ぐらい地が出てるのに一人称だけ変わらないから。」
「う・・・。そう言われてみれば・・・。」
 口調も、すっかり普段の自分である。
「じゃあ、完全に地に戻ったら、一曲歌ってくれる?」
「あのねえ。これは君のコンサートでしょ? あんまり横着するんじゃないの。」
「いいじゃない。マリーネちゃんの分、チケットあげたんだし。」
 その台詞に苦笑するアイン。
「安くない?」
「うっ・・・。」
 実際、何時になく盛りあがっているのはアインのおかげである。
「じゃ、じゃあここまで地に戻した責任とってよ。」
「どうして?」
「ほほう? そういうことを言う?」
 会場からも歌えコールが出てくる。先頭を切っているのは、もちろん総司である。それに即座に呼応したのはヒロと紅蓮で、ルシードやアレフも悪乗りしていたりする。
「はいはい、分かったよ。全く横着なお嬢様だ。」
「あ、折角だから弾き語りでやってよ。」
「残念でした。オカリナじゃ弾き語りはできない。」
「あ、オカリナも出来るんだ。じゃあ、最後の一曲は君のオカリナをバックにさせてもらおうっと。」
 いいことをきいた、とばかりに言う。
「こらこら。」
 あんまりにも身勝手な言いぐさに苦笑しながら突っ込む。
「じゃ、ギターはもう用意してあるから。好きな歌を一曲歌ってね。」
 それだけ言うと、さっさと退場する。後に残されたアインは・・・。
「やれやれ・・・。」
 選択肢が残っていないので、仕方なく歌うことにした。


「すごいじゃない!!」
 はっきり言って、自分の歌よりよっぽど人を惹き付けられるのではないか、そんな気すらする。
「それはどうも。で、次が最後なんでしょ?」
「あ、そうだね。」
 アインが登場した時点で、すでにリハーサルの内容は意味がなくなっていた。しかも、アドリブに告ぐアドリブなので、スタッフも大変である。
「そうだ、折角ここまで掟破りやったんだから、最後も掟破りでいきたいな〜。」
「はいはい。付き合えばいいんでしょ、付き合えば。」
 呆れたように言う。
「で、なにかリクエストでも? あ、悪いけど最近の歌は全然知らないよ?」
「う〜ん・・・。じゃあ・・・。」
 出てきたリクエストは、結構古い歌で、彼女の年代の人間が知っているのは珍しい物であった。
「O.K、それでいこうか。」
 アインのオカリナが響き渡る。前奏が終り、歌が始まる。
「素敵・・・。」
 シーラがうっとりしたように志狼の手を握る。志狼も無意識にシーラの手を握り返す。二人とも、手を握っている意識すらなかっただろう。エリスが、真に魂のこもった歌の力を知った瞬間であった。


「本気で出てくれないの〜?」
「わがままに付き合うのは一度だけ。」
 苦笑しながらアインが言う。
「あ〜あ、勿体無いな〜。」
 アインの上から下まで見て言う。
「そう言う面倒なことはパスしたいよ。それに、たぶん僕よりも五年後のマリーネのほうがそういうのに向いてるだろうし。」
 面倒くさそうに言う。
「ま、しょうがないか・・・。」
 そう言って、バスのほうに移動する。バスに乗る前に振りかえって、
「じゃあ、次来たときには又付き合ってね。」
「いいよ。それぐらいなら。」
 そこで、別れの挨拶は終り、アインの非日常は終わりを告げた。翌日、エリスとの関係をさんざん聞かれて辟易するはめになるのは又別の話である。
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