中央改札 交響曲 感想 説明

ある魔術師の物語 第1話
埴輪


「・・・・・師匠・・・・・。」
 げんなりした顔で、少女はつぶやいていた。まだ、夜が空けたばかりの時間で、当然ほとんどの人間はまどろみの中であろう。
「無責任だとは思ってたけど・・・・。」
 手の中の手紙を呆然と見つめながら、少女はつぶやく。髪型はショートカットで、小柄で華奢な体格をしている。年のころは14、5歳。まだまだ子供らしいところを各所に残している。将来が楽しみな、かわいらしい顔立ちをしている。
「どうしろって言うの・・・・?」
 まだショックが抜けないらしい。それもそうだ。手紙にはこう書かれていた。


「親愛なる愛弟子、プリム・フォーサイトへ
 そろそろ島にいるのも飽きたので、
 アレクラストうまいものめぐりに行ってくることにする。
 ここには戻らないので、残しておいた物は好きに処分するといい。
 ロゼッタ・フォーサイト」


 流石に、突然置き去りにされるとは思っても見なかったらしい。少女―プリムというらしい―が呆然とするのも仕方のないことである。
 突如立ち直ったプリムは、小屋の中を調べて回った。魔術師の住む家だけのことはあって、色々と怪しげな物―ただし、ほとんどがプリムには何の意味もないガラクタだが―があった。
「ええっと、お金が1500ガメルに、保存食と・・・。」
 処分と言っても、ほとんど買い手もつかないような古くてがたの来た家具ばかりだ。しかし、丁寧に探せば使えそうな物ぐらいは出てくる。
「あ、魔晶石があった。ラッキー。」
 そう言って、掌に収まる小さな結晶を手に取る。魔法を使うときの消耗を、ある程度肩代わりしてくれるこの石は、珍しいとは言わないが、貴重な代物ではあった。しかも、消耗品である。
「後は・・・。」
 とりあえず、持ち運びが出来そうな物で、価値のあるもの、利用頻度の高い物を集めていく。
「・・・・、ここで生活するのは、無理そうね。」
 魔晶石があったのに、魔術書がなかったので古代語魔法の独学は出来そうにない。そして、彼女の魔法の力量では、魔術師としての仕事もない。とどめに、所詮彼女のいる島は小さな島なので、労働力は余っている。
「島を出るか・・・。」
 そう結論を出す。島を出る船賃で、所持金の3割は消えるだろう。450と言えば、一月半は食いつなげる金額だ。だが、半年持たないうちに所持金が底をつくこともまた、目に見えている。魔晶石を金に替えたところで、2年が限界だろう。
「しかし、こうもいきなり独り立ちしなきゃならないなんて・・・。」
 魔術師の杖を持って、ため息をつく。棍棒としてみると、それは大して大きくはないが、魔術師の杖としてはかなり大ぶりな杖である。上手く振り回せば十分に凶器になり得るサイズだ。
 更に少女は、先ほど集めた物を荷造りしたものを背負う。かなりの重量があるはずだが、平然としている。
「今まで、御世話になりました。」
 15年間生活した小屋に向かって頭を下げる。そのままきびすを返して歩み去る。


「ここが大陸・・・。」
 名も知らないような港町に下りたって、物珍しそうにあたりを見渡す。島から出たのは、これが初めてだ。一応、小屋は幼馴染に譲り渡したので、もう帰る事はないだろうが、初めてははじめてである。
「困ったなぁ・・・。よく考えたらどうすればいいかまったく考えてなかった。」
 予備知識も何もない。とりあえず、なぜかあった大陸の地図で、島の位置と港町の大体の位置を確認する。
「・・・。オランね。」
 最も手近な大都市を目指すことにする。そこに魔術の学校があることぐらいは、彼女も聞いたことはある。最も、聞いたことがあるだけだが。家事と魔術以外の事を知らない以上、それ意外にはなにも出来まい。


「へぇ、お嬢ちゃんもオランに行くのかい?」
 恰幅のいい中年の行商人と話をする。
「ええ。島じゃ半年と立たずに干上がりそうでしたから。」
 流石に幼馴染の一家は引き止めたが、いつまでも世話になるわけにも行かない。
「で、オランで何を?」
「とりあえず、働きながら魔術の学校に通おうかと。」
「ううむ、それは難しいと思うよ。何しろ、あそこは非常に厳しいことで有名だ。学費も高い。」
 それを聞いて思わず顔が引きつる。宿代と食費で40ガメル。手元には1000と少し残っているだけである。もし学費が1000ガメルを超えるようなら、なにも出来ないことになってしまう。
「そうさね・・・、お嬢ちゃんも魔術師だろう?」
「はい・・・。」
「ならば魔術師として嬢ちゃんを雇おう。」
「いいんですか?」
「ああ。袖すり会うのも他生の縁。なに、とって食いはせんよ。」
 商談が成立する。他のテーブルで盛り上がっていた男女の内一人がそれを聞いて文句を言う。
「おいおいラッセルさん、冗談じゃねぇぜ!こんな素人のガキの御守なんてごめんだぜ!!」
「とはいえ、こんなどう見ても武術の心得のない女の子一人で旅をさせる訳にもいかんだろう。」
「御人好しだね。しかもわざわざ金払ってガードしてやるなんてさ・・・。」
「ご迷惑なら・・・。」
「気にする事はないさ、お嬢ちゃん。あんただって魔法の一つぐらいは使えるんだろう?」
「とりあえずは・・・。」
「ならば、無駄金にはならんさ。」
 そう言って、さっさとまとめてしまう。その様子に、エルフの男がやれやれといった感じで肩をすくめた。


「ま、一応は街道だ。これと言った危険はないだろうよ。」
「だといいけど。」
 レインと呼ばれた戦士風の男に対して、やはり戦士風のミリアムという女が答える。二人とも年齢は二十歳過ぎか・・・。
「この辺は街道って行っても、あんまり管理が行き届いてないからなぁ。」
「カルド、めったな事言わないの!!」
 エルフの言葉に、眦を吊り上げて怒る女。黙っていれば美人なのだが、口を開けば暴力的である。
「おお、怖い。プリムは、こんな人見習っちゃだめだよ。」
「ええっと。」
 カルドと呼ばれたエルフの言葉に、どう答えていいか分からず思わず詰まるプリム。
「どう言う意味よ!!」
「そのまんまの意味じゃない?」
 もう一人の、ファナと言う名のハーフエルフの少女が突っ込みを入れる。どうやら、彼女も魔術師らしい。
「やっぱり、女の子のうちはかわいげがないとね。」
 ファナの言葉を聞いて、ふんとそっぽを向くミリアム。どうも、かわいげがない事は自覚しているらしい。
「そう言えば、どこぞの島から来たと聞くが。」
「はい。メディック島です。」
「ほう、あそこの地酒は美味いと聞いたが、そうなのか?」
「私に聞かないでください。」
 ガヴェインと言う名のドワーフにたいして、思わずっ突っ込むプリム。未成年に聞くことではない。
「へぇ、その年で飲んだことないんだ。」
「子供に言う台詞じゃねえよ、ミリアム。」
「そもそも、師匠も飲まない人でしたから。」
「そ、なら仕方がないわね。」
 そう言った次の瞬間、目を細める。
「何か、来ますね。」
「分かるんだ。」
「ええ、なんとなく。」
「なら、暴れるわよ。」
「分かりました。」
 会話が終った瞬間、何が来たかわかる。ゴブリンだ。どうやら、不意打ちを食らう事は避けられたようだ。
「万能なるマナよ!眠りをもたらす雲となれ!!」
 一番最初に反応したのは、驚くべきことにプリムであった。5匹いたゴブリンは、ばたばたとすべて眠りにつく。
「やるわね。」
「はぁ・・・。」
 小さな島とはいえ、沿岸部に出没するモンスターはいる。そう言った物を退治するのも、彼女達師弟の仕事であり、プリムの修行の一環でもあった。
「なるほどね。」
「道理で、こいつらを見ても怯えの一つも見せなかったわけだ。」
 プリムの妙な落ち着き振りに納得を示す戦士2人組。まったくの素人ではない事は理解したようだ。
「どんな魔法が使えるの?」
「ええっと・・・。」
 スリープ・クラウドなどは使えるようだが、ファイア・ウェポンなどになると使えないらしい。駆け出しと大差ないようだ。の割には、消耗した様子は見せない。ある程度高レベルな人間なら、スリープ・クラウド程度では対して消耗はしないが。
「あまり、疲れてないみたいね。」
「基本ですから。」
 その意味がわかるまでに、数日かかるのであった。
中央改札 交響曲 感想 説明