中央改札 交響曲 感想 説明

ある魔術師の物語 第二話
埴輪


 街道沿いのどこぞの宿場町、その中の一軒の宿で、プリムは皿洗いをしながらファナの歌う歌を聴いていた。皿洗いをしているのは、経費削減のためである。
「ちょっとこっちの手が足りない!皿洗いはいいから、料理を運んでくれ!!」
「はぁい!!」
 手際よく洗った皿をまとめながら元気に答えるプリム。そのまま、山ほどの料理を盛られた皿を載せた盆を軽がる片手で持ち、空いた手で持てるだけのジョッキを持つ。
「むりするなよ!!」
「大丈夫です!!」
 言葉のとおり、危なげなく運んでいく。その姿に、思わず感心する宿の主人。
「別にわざわざ働かなくてもいいのに。」
「働かざる者、食うべからず、でしょ?」
「ファナと違って、別段あんたの収入になるわけじゃないんだよ?」
「これで、収入相応になりますよ。」
 手を休めず、ミリアムに答えるプリム。
「元気だねぇ。」
 あきれたようにつぶやくレイン。手には、先ほどプリムから受け取ったジョッキが握られていた。ここで一曲終わり、ファナの元におひねりが飛んでくる。
「結構、こう言う仕事に向いてるみたいだね。」
 カルドが感心してつぶやく。実際のところ、プリムは決して器用なほうではない。それどころか、不器用と言ってもいいほうに入るだろう。だが、ながきに渡る修行と家事労働のおかげで、不器用さを補える程度には色々な技術が身についていた。
「お前さん立ちも見習わんと行かんな。」
 ガヴェインが、そろって家事能力の低い女性陣2人に向かってそう言う。
『ほっといてよ!!』


「そう言えばプリム、他にどんなことが出来る?」
「とりあえず、野外の罠とかが、ちょっとだけ分かります。あと、弓矢の使い方も教わりました。使ったことないけど。」
 レンジャーとしての訓練も、さわり程度にはつんでいるようだ。
「へぇ、結構色々できるんだ。」
「師匠が、フィールドワークの人でしたから。」
「勉学としては、一番適切かもね。」
 その後、島ではどんなことをしていたかを中心に盛り上がる女3人。
「モンスターって、そんなに出てきたの?」
「それほどは出てきませんでしたよ。平均すれば5年に一度くらいのはずです。」
 平均すればと言う単語に興味を引かれる2人。
「どう言うこと?」
「去年、海流の関係で大量に海洋性のモンスターが岸辺に来たんです。それが計6回ほど。で、ここ30年ほどはそういったことは無かったそうです。」
「なるほど、それで平均して5年に一度、か。」
「なんか、平均の取り方間違ってる気がする。」
 島の特産品やらなにやらでひとしきり盛り上がったあと、3人は眠りについたのであった。


「珍しいな・・・。」
「そうね・・・。」
 彼らがつぶやくのも無理はない。普通、一回の移動で2度もモンスターに遭遇する事は少ない。しかも、ここは街道である。
「ここらへんは、警備やらなにやらがあまり行き届いてないから。」
「片田舎だもんね。」
 各自、武装を準備しながら、敵が来るのを待ち構える。その後、全員が驚愕に目を見張る。
「オ、オーガだと!?」
「こんな街道近辺で!?」
 3体ほどのっそりと現れた鬼を、妙な物を見たという顔で見つめる一同。最も、さすがに怯えてはいない。駆け出しならともかく、彼らのレベルなら戦って勝てない相手ではない。
「万能なるマナよ、眠りをもたらす雲となれ!!」
 やはり、一番最初に動いたのはプリムだった。どうも、根本的にすばしっこさが違うようだ。ばたばたばたと眠るオーガ達。
「・・・・・へ?」
 信じられない物を見たという顔で、プリムを見つめる冒険者たち。それはそうだろう。よほどの偶然でもない限り、駆け出しの眠りの魔法で眠るほど、甘くは無い。しかも、こいつらは広く散開していて、普通の範囲でかけた魔法では、1体しか眠らない。
「どう言う・・・こと・・・?」
 こんなタイミングで、そのよほどの偶然、という奴が起こったのだろうか?
「まだ、来るぞ!!」
 カルドが叫ぶ。今の結果に気を取られていて、もう一匹いたオーガの接近を許してしまったのだ。とりあえず、防御は出来るが反撃は間に合わない。
「ちぃ!!」
 棍棒の一撃をかわすレイン。その直後に更にプリムから魔法が飛ぶ。
「万能なるマナよ! 敵を貫く光となれ!」
 スリープクラウドと並ぶ初歩の魔法、エネルギーボルトである。
「無駄に魔法を使うな!!」
 思わずレインが叫ぶ。だが、ここでも、魔法はとんでもない効果を示す。
「ぎゃあ!!!」
 オーガが一撃で沈む。どうやらクリティカルしたらしい。
「嘘・・・。」
 呆然とつぶやくファナ。いくらなんでも、エネルギーボルトで沈むほど、この怪物はやわではない。少なくとも、彼女の魔法ではそこまでの威力は無い。
「もう・・・、居ないみたいですね・・・。」
 その段階で、やっと魔法の構えを解くプリム。
「どう言う・・・こと・・・?」
 確かに、オーガは勝てない相手ではない。だが、駆け出しの魔術師が放った初歩の攻撃魔法では、仕留めるどころかダメージを与えることさえ難しい。
「どうか、しました?」
 平然としているプリム。さすがに多少の疲れは見せてはいるが、ガヴェインから精神力を分けてもらうほどでもないようだ。
「プリム・・・、一体どう言う修行をして来たの・・・?」
「えーっと・・・、一番よくやらされたのはストーン・サーバント10体を魔法一回で全滅させる、でした。」
 思わず、くらっとする。ライトニングを使っても、魔法一回では厳しい。
「本当にそれをやったの?」
「はい。今なら、魔晶石なしで20体はいけます。たまに空振りするけど・・・。」
 思わず頭を抱える。どう考えても普通ではない。力量だけなら自分より遥かに上だ。
「一体どう言う修行だよ・・・。」
 あきれて言うカルド。
「え!? これが基本じゃなかったんですか!?」
「そんなこと、誰もやってないって。」
「でも、師匠がそういってましたよ。『これが出来ないようじゃ、駆け出しにもなれないよ』って。」
「絶対嘘。」
 げんなりしながら答えるファナ。
「貴方の師匠って、一体どう言う人?」
「無責任な人、です。」
 どっと脱力しながら質問したミリアムに、引きつりながら答えるプリム。どうやら、15年かけて担がれていたらしい。
「大ダコ相手にひたすら魔法をぶつけたあの特訓は一体・・・。」
 どっと落ちこむプリム。でっかい汗を浮かべるレインとミリアム。
「他に何やらされた?」
「物置に閉じ込められて、杖なしで鍵を開けさせられたりとか、幻覚をかけられて、自力で解かされたりとか、あと鍵が無くなったからって、鍵代わりをさせられたこともありました。後は、包丁に魔法をかけて鱗の硬い魚を調理したり・・・。」
 どうやら、基礎の魔法は一通り使う訓練をしたらしい。どれも常識外れなやり方だが。
「基本って、そう言うことだったのね・・・。」
 最初は、精神力が常識外れなのかと思ったが、どうやら、常識はずれだったのは技量のほうだったらしい。
「師匠!! せめてもう少し魔法のバリエーションを教えてくれてもよかったじゃないですか〜!!」
 私の青春を返せ〜、と夕日に向かって叫ぶプリム。彼女にとっては不必要に鍛えられたことよりも、魔法のバリエーションのほうが重要らしい。
「そう言う問題で、片付けないで欲しい・・・。」
 自身喪失気味のファナのつぶやきが、むなしく風に乗って流れるのであった。
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