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ある魔術師の物語 第3話
埴輪


 オラン、フォーセリア最大級の都市。
「おっきい・・・。」
「そっか、プリムはこう言う所、初めてだったよね。」
「はい・・・。」
 人の多さに目を丸くする。視界内を歩いている人数だけで、島の人口を超えている。
「こんなに一杯住んでるんですか・・・。」
「住んでるのは8割ってとこじゃないかな?」
「????」
「行商人やら、他を拠点にしてる冒険者なんかもいるから。」
 やや納得。人口と住民が一致するとは限らない。特にこう言った大都市では、それが顕著である。
「とりあえずは、宿だな。ラッセルさん、何処泊まるんだ?」
「ああ、こっちだ。」
 ラッセルの行き付けの宿に移動する。彼らの常駐している宿とは別の場所らしい。
「さて、これが報酬だ。受け取ってくれ。」
「どうも。」
 全員、報酬の入った袋を受け取る。
「あの、これ、多くないですか?」
「そりゃまあ、駆け出しよりは多いだろうね。」
「私駆け出し・・・。」
 その台詞に、全員嘘つけと視線で言う。
「オーガを倒せりゃ駆け出しとはいわねぇ。」
「でも、大ダコよりは弱いですよ。」
「大ダコがどれほど強いか知らないでしょ、あんた・・・。」
「えーっと・・・・。」
 相対的には分かっているようだが、絶対的な観念では分からないらしい。
「で、プリムはどうすんの?」
「とりあえず、賢者の学園に言ってみようかと思います。」
「あ、私も付き合う。プリム一人じゃ、絶対迷うと思うから。」
「だな。」
 さすがに、おのぼりさんにはきつい街だ。


「ここが魔術師ギルド、別名賢者の学院だよ。」
「立派な建物ですね。」
「まぁね。世界最高の魔術師、マナ=ライが治めてる学校だからね。」
 そう言って、すたすたと中に入っていくファナ。きょろきょろしながら後に続くプリム。どうも、気後れしているらしい。
「さて、入学関連は・・・こっちだっけ。」
「あら、ファナじゃないの。」
「こんにちわ。」
 黒髪の女性とであう。
「そうだ、たしかレミーさん、入学とかの手続きもやってたよね。」
「ええ。」
「じゃあ、この娘のこと、頼めるかな?」
「へ?」
 小柄なファナより更に小柄な少女の存在に気がつく。最も、年のころを考えると、大分成長は早いほうかもしれない。短い金髪と大きな目が印象的な、可愛らしい顔立ちの少女だ。
「誰? このかわいい娘は?」
「プリム・フォーサイトって言うの。師匠に捨てられて、田舎の島から出てきたんだ。」
「で、この学院に入りたい、と。」
「はい。」
 小さくうなずくプリム。小動物を思わせる風情だ。
「じゃあ、テストを行うから、こちらに来て。」
「はい。」
「必要無いとは思うけどね。」
「でも、師匠に捨てらるような娘でしょ?」
 あきれたように言うレミー。
「ま、やってみれば分かるよ。じゃあ、私は先生のところに顔出してくる。終ったらつれてきて。」
「分かったわ。」


「じゃあ、こっちよ。」
 授業料などの話を聞いて、とりあえず一通り暮らしていくめどが立ったプリムは、とりあえず彼女に従う。既に試験は終っている。文句なしの合格である。
「そうだ、貴方の師匠の名前を教えていただけないかしら。」
「はい。ロゼッタ・フォーサイトです。」
「聞いたことのない名前ね。最も、そういった無名どころにこそ、とんでもない人物が転がっているのもまた、事実だけど。」
 目の前の少女に答えるレミー。彼女の考えでは、プリムはその典型例である。
「そうね・・・。確かガブリエル師はいま、とくに生徒は教えていなかったはずね。」
 一つの部屋の前で立ち止まり、レミーがそうひとりごちる。クエスチョンマークが飛び散るプリム。
「普通は、入学早々直属の導師なんてつかないんだけど、貴方は飛び級ってことになるから。」
 私塾出身の魔術には往々にしてあることだが、入学した段階で既に正魔術師並か、その手前程度の能力を持っていることがある。そういった人物の場合、入学と同時に導師がつくことになる。
「ガブリエル師、少々よろしいでしょうか?」
「ああ、かまいませんよ。」
「将来有望な人材が入学して来たので、指導をお願いできないでしょうか?」
「ああ。現在はこれといって弟子もいませんから、かまいませんよ。」
 初老の、感じのいい人物である。導師というから、きっと凄い魔法が使えるに違いない。
「貴方が、私の弟子になる方ですか?」
「はい。プリム・フォーサイトと申します。よろしくお願い致します。」
「フォーサイト? もしや、貴方はロゼッタ・フォーサイトという人物を知っているのでは?」
「私の師匠ですが・・・?」
 その答えを聞いて、少し考えこむガブリエル。
「そうか、遠見のロゼッタの愛弟子ですか・・・。」
「師匠のこと、ご存知なんですか?」
「ええ。稀代の魔女です。これは、私の手におえないかもしれませんね。」
 ガブリエルは、中堅よりもやや高いレベルの魔術師である。魔術師としての実力は、「知らぬもののない」クロードロッドよりも上である。その彼にして、この意見である。
「とりあえず、マナ・ライ師に相談することにしましょう。どうせ彼女のことだ。まともな育て方はしていないでしょう。」
「ははははは・・・。」
 ガブリエルの台詞に乾いた笑いを浮かべるプリム。とても、エネルギー・ボルトでオオダコを倒したことがあるなどとは言えない。最も、すぐばれることではあるが。
「あの、出来れば何か、お金になるお仕事はないでしょうか?」
「お金?」
「はい。入学金と授業料で、生活費がほとんどないんです。魔晶石は手放したくないし・・・。」
 魔晶石は、魔術師にとっては時に命綱となる。よほど追い詰められない限りは、手放さないほうが無難である。
「そうですね・・・。しばらくは修行しながら、冒険者の店でアルバイトでもしたらどうでしょうか?」
「アルバイト?」
「ええ。正魔術師以上になれば授業料は関係なくなりますし、導師以上になれば学院の仕事で食べていくことも出来ますが・・・。」
 その先は簡単である。
「私のような駆け出しには、どちらも無理だと・・・。」
「ええ。貴方のような見習の授業料は、意外と重要な収入源なんですよ。それで、冒険者の店でアルバイトをしておき、場合によっては冒険者としての仕事もする。」
「冒険者として仕事をしているあいだの修行は?」
「無論、正規の修行は止まりますね。」
 只でさえ、正規の修行が遅れているのだ。これ以上遅れたら一人前になれるのはいつの日になることやら。
「ですが、冒険者として仕事をするのも、立派な修行ですよ。魔術以外に何か技能を得てくるぐらいが一番です。」
 世の中には、ソーサリーそるジャーと呼ばれている人種がいる。彼らは、冒険者として修行し、魔術と剣術両方に高い能力を得たのだ。
「そうですねぇ・・・。古代王国の扉亭の主人とは旧知の間柄です。夜の一番忙しい時間帯だけ働かせてもらえるように取り計らっておきましょう。」
 こうして、プリムのオランでの生活が幕を開けたのであった。
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