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ある魔術師の物語 第5話
埴輪


「おやっさん、ちょっとプリム借りていい?」
「ああ。そろそろ飯の時間だ。問題ない。」
「じゃあ、ちょっと借りるね。」
 忙しい時間が終り、やっと食事という所で、プリムはファナに呼び出された。
「どうしたんですか?」
「ン、ちょっとあなたにお誘い。」
「お誘いって・・・?」
 まかない食を盛り付けた皿を手に、プリムはファナのテーブルのところへ移動する。ちなみに体格に見合った量で、ファナなどはどうして彼女があの怪力を維持しているのか時折不思議になる。
「冒険へのお誘い。」
「へ?」
 食べる手を止めて聞き返す。いまだかつて彼女にそう言うお誘いはなかった。自分では無理もないと思っている。
「実はね、今回の仕事、魔術師が二人必要なのよ。で、フィールドワークが出来る手ごろな知り合いが思いつかなくってね。」
「それで私、ですか。」
「そう言うこと。」
 料理を口に運びながらしばし考えこむ。唯一誇ることが出来るのはオーガすら一撃で倒せるその魔法の腕だが、悲しいかな知識が伴わない。また、魔術師ゆえの防御の薄さもあり、それをカバーできるほどの経験もつんでいない。足手まといにはなりはしないだろうか?
「大丈夫。一つ誇れる物があればなんとでもなるから。」
 プリムの考えを見透かしたようにファナが言う。
「本当ですか・・・?」
「ええ。エネルギー・ボルトでオーガを倒すことが出来る魔術師がどれだけいると思うの?」
「さあ?」
 どうしたものか考えこむ。とりあえず、師匠に相談するのは意味がないだろう。他の導師と違い、彼は冒険者として魔術の腕を磨くのも認めている人だ。
「そうですね・・・。足手まといになってもいいのなら。」
「ありがとう。そう言えばプリム、あなた冒険者として必要な物、持ってる?」
「え〜っと、シーフのツールと旅用の鞄類ぐらいなら・・・。」
「なら、他に必要な分はあたしが用意しといて上げる。その服じゃ危ないから、ちゃんとした革鎧を買っておくこと。」
「いくらぐらいしますか?」
「魔術師が使える鎧なんて、そんなに頑丈な物じゃないから、200もあれば十分よ。」


「とりあえずの注意事項だけど、プリムは鎧が薄いから、出来るだけ前に出ないこと。」
「言われなくても分かってます。」
「その剣の破壊力は惜しいんだけど、今はまだ、エネルギー・ボルトのほうが多分、威力は大きいだろうから。」
 命中率も考えると、なおさらである。グラスランナーには、まずかすりもすまい。
「しっかし、ごっつい剣だな・・・。」
「俺の剣とそう大差ねぇな。」
 カルドとレインがあきれてつぶやく。一体ファナ達は何を考えていたのだろうか?
「で、どう言う仕事なんですか?」
「ああ、さして難しくはない。ソーサラーが二人って言うのも、同時にディスペル・マジックをかける必要があるからだ。」
「それだったら、コモン・ルーンでもいいんじゃありません?」
「センスマジックがないと、かける場所がわからない。第一、コモン・ルーンのディスペルなんぞ、効果が薄すぎる。」
 確かに、きちっと修行した魔術師の魔法はコモン・ルーンより強力だ。駆け出しの魔法ですら、コモン・ルーンの魔法よりも強力である。
「ま、折角の未盗掘のダンジョンだ。せいぜい稼ごうぜ。」


「なんか今回、楽だな・・・。」
「ああ。嬢ちゃんの魔法で一発でけりがつくからのう・・・。」
 3度、モンスターに遭遇したが、いずれも一発でけりがついた。オーガですら眠るスリープ・クラウドに、ゴブリンクラスが耐えられるわけがないのだ。
「そう言えば、ゾンビとかが出てこないな。」
「ネクロマンサーが作った洞窟ではない、ということかのう?」
「あの・・・。」
 プリムの呼びかけに、足を止める一行。
「他の部屋とかは、調べないんですか?」
「ああ、あれは前に来た時にあさってある。」
「最も、大した成果はなかったわ。」
 それにしたって、駆け出しに比べれば十分過ぎる物なのだが。
「で、前に最深部の扉を開けられなくって・・・。」
「プリムに出向いてもらった、ってこと。」
 納得するプリム。しばらく歩くと、問題の扉にぶち当たった。
「これ、ですか?」
「ああ。どこの魔法をディスペルしにゃならんかは俺にはわからん。適当に調べておいてくれ。」
 レインの言葉を受け、センス・マジックで周囲を見渡す。扉以外に2箇所、ぽつんと魔力を発している場所がある。
「ここと、そこですか?」
「そだね。じゃ、あたしは左をやるから、プリムは右をお願いね。」
「はい。」


「結構、手間取ったな。」
「意外と固い魔法だったわね。」
 疲労の度合いが明らかに違うファナとプリムを見ながら、レインとミリアムがそう論じる。
「ちょっと休みましょうか?」
「あ、大丈夫大丈夫。後一つ二つは魔法が使えるから。」
 ディスペル・マジック程度では大して消耗しないとはいえ、3回連続で3倍程度に拡大すれば、疲れもする。彼女の精神力は、持ってせいぜいエネルギーボルト3発であろう。
「仕方がない。わしの分を分けてやろう。」
 ガヴェインの魔法で、精神力を分けてもらう。
「じゃあ、いこうか。」
 そう言って、レインが扉を開けようとする。重い。
「くそ、重い!!」
「手伝います。」
 プリムが横から一緒に押す。力のかけ方の効率は明らかに悪いが、もとのパワー差のおかげでレインと大して変わらない力がかかる。
「あ、動いた。」
 重々しい音を立てて扉が開かれる。そして、飛びのく二人。
「なんだこいつは!?」
「フレッシュゴーレムみたいです!!」
 正体を看破し、即座に攻撃を叩き込む。ごつい大剣がうなりを挙げ、相手の腰の関節部に叩き込まれる。どんな偶然か、きっちりヒットする。
「プリム! さがれ!!」
 さすがに重さの勝利か、深深と剣は食いこんでいる。だが、致命傷までは至らなかった。あっさり剣を放し、後ろに下がるプリム。その瞬間にゴーレムの拳がうなる。
「でりゃあ!!」
「うりゃ!」
 両手剣が、続いて斧が叩き込まれる。なかなか倒れない。出遅れたミリアムが加わるが、最初のプリムの攻撃ほどにはダメージが行っていない様だ。
「エンチャント・ウェポン!!」
「スネア!!」
「エネルギー・ボルト!!」
 ファナ、カルド、プリムが魔法で援護し、その後の連続攻撃により、ようやく相手をしとめることに成功した。


「おお、お宝が山ほどあるぜ!!」
「やっぱり、一番いいものはここに隠されていたか。」
「魔法の物は半分ぐらいですね。」
 どうやら、今回はあたりだったようだ。自分にちょうどいいサイズの魔法剣を見つけて喜ぶレインとミリアム。ガヴェインも、見つけた馬鹿でかい斧を軽く振って確かめている。ちなみに、呪いがかかっていないことはプリムとファナが既に調べている。
「そうだ、プリムもなんか欲しい?」
「お前さん、分け前を取ってないじゃないか。」
「え〜っと、今回はあまり働いてないから・・・。」
「ここまでの分は、とっくに分けてるんだ。気にする必要はない。」
 そういわれても、武器はまだ必要ないし、魔術師である以上、ここにある鎧は使えない。他のマジックアイテムは正体不明で、ギルドにうっぱらうのが一番くさい。
「じゃあ、この魔晶石をもらいます。」
 そう言って、手近な魔晶石を一つ拾い上げる。後は売り払って、全員で等分割するのだろう。ふと、なにかが引っかかるプリム。
「どうかした、プリム?」
「えっと、なんでもないです。」
 何かに呼ばれたような気がしたのだが、気のせいだろう。そもそも、隠し扉のたぐいもなさそうだ。
「じゃ、もらうもんもらったし、帰ろうぜ。」
「今日は宴会よ!!」
 景気のいいことをいいながら、部屋を後にする一同。最後に一度だけ部屋を振り返るプリム。すべて持ち去ったため、後にはなにも残っていない。やはり何かに呼ばれたような気がするが、今の自分ではわからない。
「ま、いいか。」
 そのまま、みんなに続いて出て行く。オランについた頃には、綺麗さっぱり違和感については忘れていた。だが、彼女はまだ知らない。この遺跡には隠された部分があることを。そして、そこには彼女を待っているものがあることを。
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