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テオリア星系戦記 第8話 防戦
埴輪


 短い休暇の後、シンディは再びいくつかの作戦行動に参加することになった。
「で、必死こいて生き残った結果がこれだもんね〜。」
 記者や何やらを、機密を盾にとって追い返している様を見て、シェラが呟く。
「もう、いい加減にして欲しい・・・。」
 シンディがぼやく。また増えた撃墜マークが、彼女の戦果を物語っている。騒がれるのもしかたが無いだろう。
「まあ、そうぼやくなシンディ。」
 苦笑しながらグレイが宥める。
「今の状況を考えると、誰かを旗印に上げたくなるのも無理は無いな。」
 アルが、無表情に言う。
「で、なんで私な訳・・・?」
「そりゃ当然、こういうのは若くて綺麗な女の子が一番だからだろ?」
「結局、見た目な訳ね・・・。」
 だとしても、いまいち嬉しくない。大体、軍の中では美人に分類されても、共和国全体ではたいした事が無いはずである。シンディとて、自分の容貌にそこまでの自惚れはない。
「いま、軍では美人だっていっても、絶対値で言えばたいした事ない、とか考えたでしょう。」
「・・・・・・なんでわかるの?」
「シンディの考えそうなことだから。」
 苦笑するグレイ。肩をすくめるアル。
「あと、若いから必要以上に騒がれてるだけだ、とか考えてるんじゃねえか?」
 いつのまにか入ってきていたアクセルが、あっさりシンディの考えを見ぬく。
「なんで、みんなして人の考えてることがわかるのよ・・・。」
「わかるからだ。」
「アクセル、答えになってないぞ。」
 アルに突っ込まれて、肩をすくめるアクセル。
「シンディも、黙って立ってりゃ絶世の美女なんだがな。」
「実体は、結構熱血系だもんね。」
「このほっそい腕で握力100キロ超えてるし。一体どういう体の構造してるんだ?」
「生身、パワードシェル、どちらにおいても単独で1個大隊程度の戦力に換算できるな。」
 好き勝手言う4人。
「そう・・・。あなた達が私のことをどう思ってるかよおっっっっっっっく分かったわ。」
 ジト目で見ながら言う。
「まあ、そう言うわけだから頑張ってくれ、大尉どの。」
 さらっと、無意味にまとめるアルであった。


「新型?」
「ああ。どうやら、向こうさんもこちらに対抗する気になったようだな。」
「厄介ね・・・。」
 データから推測されるスペックを見て、眉をひそめるシンディ。
「汎用型でこれだけの性能をたたき出してるとなると、正直数で攻められたら厳しいわね。」
「厄介なことに、量産型なんだよな・・・。」
 どう見ても、サイフレックスの性能を上回っている。こちらの優位点の一つである、彼我の絶対的なまでの性能差が無くなるわけである。
「とりあえず、こっちも一応新兵器は有るには有るんだが・・・。」
「新兵器?」
「と言っても、お前さんも1度使ってるものだがな。」
「もしかして、ロックバスター?」
 問われて肯く。
「呆れた・・・。2発撃ったら行動不能になるような武器が使い物になるとでも思ってるの?」
「その辺は大丈夫だ。新型モジュールの開発に成功した。さすがにシュバイクにゃ積んでもまともに使えんが、お前さん達の機体なら2発撃って動けるぐらいまでは性能を向上してある。」
「それでも、まだまだ厳しいわね・・・。」
「1発撃ってから数秒置くぐらいの撃ち方なら、エネジーバスターぐらいの使い方も出来るぞ。」
 その言葉に考えこむ。
「やっぱり、あまり当てにしないほうがいいわね。結局は、いつかはジェネレーターを冷まさなきゃいけなくなるし。」
「まあ、な。」
 とはいえ、正攻法では、これが限度といえば限度である。
「ちなみに、そのモジュールの信頼性は?」
「ロックバスターの場合、連射した時の破損確率は0.003%。ただし、ジェネレーターに負荷をかけるような撃ち方をした場合、たとえばロックバスターなら3連射で28.36%、4連射で67.49%まで跳ねあがる。」
 要するに、ロックバスターを冷却時間をおかずに使った場合、3連射以上でジェネレーターがオーバーヒートする可能性がある、と暗に言っているのである。
「また、微妙な数値ね・・・。」
 少し考えこむ。
「砲身の耐久性は?」
「エネジーバスターとどっこいだ。ただし、サイズについては、どうしてもある程度でかくはなるがな。」
 少し厳しい話である。
「ロックバスターの撃ち分けは出来るの?」
「とりあえず、3モードで撃てるように調整はしておこう。」
 その言葉で、とりあえず方針は決まる。
「だったら、人数分早めに用意しといて。隠し技程度には使えるでしょうから。」
「分かった。」


 それは、唐突に訪れた。グレイロックの船体が激しく揺れる。
「何が起こったの!?」
 最初の衝撃と同時に格納庫にかけこみ、サイフレックスのコクピットに飛び込んだシンディは、開口一発状況を尋ねる。
「奇襲をかけられた!!」
 どうやら、シンディが嫌がっていた事態に陥っていたらしい。
「だから嫌だったのよ・・・。」
 ぼやきながらも、サイフレックスの起動を行う。
「敵は何機!?」
「新型ばかり16機だ。」
「4個小隊? また中途半端ね。」
 とりあえず用意されていたロックバスターを引っつかみ、カタパルトに機体を固定しながら呟く。
「サイフレックス、発進します!」
 この状況では、狙い撃ちされることは避けられない。仕方がないので、出撃と同時にエネジーシューターを乱射する。
「頼んだぞ!」
 祈るようにアクセルが呟く。次々と出撃していく彼らを、只見守るしかない。
「数が多い!」
 自分達より性能のよい兵器、4倍の数。ひたすら不利である。
「ちっ、かてえな・・・。」
 高出力のビームも、ほとんど効果は上がっていない。かなり厳しい戦いになりそうだ。
「せめて、間合いを詰めないと・・・。」
 全てにおいて相手に劣っているわけではないのだ。少なくとも、この数の差で簡単に追い詰められていない以上、自分達のほうが腕は上のはずである。さらに、これといった指示を出さなくても、こちらの動きだけで、何を考えてるか全体に伝わるほどのチームワークもある。後は作戦次第だろう。
「大層な噂の割に、歯ごたえのない連中だな。」
 不意に通信が入り、指揮官らしい男が、通信画面に現われる。
「そう思うんだったら、サシで勝負したら?」
 全ての攻撃を紙一重で回避しながら、シンディが皮肉を返す。
「なぜ、そんな真似をしなければならない、シンシア・マクガルドよ。」
「だったら、歯ごたえがないとかほざくんじゃないわよ、単純な物量作戦しか出来ない指揮官さん。」
 隙をついて一気に間合いを詰め、一体を斬り捨てる。だが、致命傷には至らなかったようだ。
「数に勝られただけで何も出来なくなるような無能な女に、そういう事を言われたくは無いな。」
 多少むっとしたらしい。なんにせよ、シンディはこの手の手合いの台詞は頭っから気にしていない。先ほど仕留めそこなった相手のバーニアを破壊して無力化する。
「それで、何の用? 今忙しいから、あなたみたいな三流の相手をしてる暇はないんだけど?」
 更に隙をついてもう一体との間合いを詰め、今度はロックバスターの砲身を叩きこむ。そうこうの表面を銃口がぶち抜いたのを確認すると、エネジーバスターモードに切り換えて、躊躇わずに引き金を引く。あっさり爆発する。
「さ、三流だと!?」
 僚機が一撃で爆散させられたことすら目に入っていないらしい。馬鹿を無視して周囲に視線を走らせる。今ので合計5機目らしい。5機落とす間にドラグーンがインパクトキャノンを破壊されて、スプライトの左手が無くなっている。スティルバースは比較的軽傷だが、いずれにしても自分達が押されているのは確かだ。サイフレックスとて、肩の対ビーム装甲が、完全に剥がれている。
「少しばかり顔がよくて戦果が高いからといって、いい気になるな!!」
「言いたいことは、それだけ?」
 動き回りながら、あるタイミングを待つ。一撃必殺で無いと、逆転は難しい。そして、すぐにそのタイミングは訪れる。
「行け!!」
 ロックバスターを放つ。タイミング的には6機巻きこめるはずだったのだが、直撃したのは3機だけだった。これで、何秒かはロックバスターは撃てない。サイフレックスのジェネレーターも、少々熱くなりすぎている。討ち漏らした相手のうち1機を、シェラ達がかろうじて撃墜する。
「その大口、すぐに叩けなくしてくれるわ!!」
 その声とともに突っ込んでくる隊長機。必死になって回避運動を取るが、ロックバスター発射による負荷が、サイフレックスの起動性を奪っていた。直撃は避けたものの、左腕を切り落とされてしまう。
(このままじゃまずい!)
 周囲を確認すると、先ほどのロックバスター以降、数は減っていない。敵もこちらのロックバスターを警戒して、広く散開している。完全にジリ貧状態になってしまったようだ。


「すまん! 弾切れだ!」
 弾薬の消耗の激しいドラグーンが、戦線離脱する。弾薬の補給にかかる時間を考えると、かなり致命的かもしれない。
「ごめん! こっちも弾切れ!」
 どうやら、底をついたのは弾薬だけではないらしい。普段からすれば、まるで亀のような動きで戦線を離脱するスプライト。
「悪いが、戦闘不能だ。」
 スプライトのカバーをしたため、完全に戦闘能力を失ったスティルバースが、辛うじて戦線を離脱する。各人の腕が悪いわけではない。腕と機体性能と数、それらの総合がシンディ達をわずかに上回ったのである。
「これまでのようだな、シンシア・マクガルド!!」
 勝ち誇って言う敵の指揮官。それを聞いていたシンディが、突然笑い出す。
「あはははははははは!」
「気でも狂ったか?」
「違うわ! 心底おかしくなったのよ!!」
 笑いながら言う。相手の攻撃を片手でかわしながら、片手でキーボードの操作を行う。神技のような操縦である。
「私は、一体何を遠慮してたんだろうってね!!」
 どちらの手も一切止めずに、シンディが言い捨てる。
「シンディ! 一体何をしてる!?」
「火器管制に、割りこみをかけてるのよ。」
 その言葉に、猛烈にいやな予感がするアクセル。
「早々、巻きこまないようにはするけど、そっちでも注意しててね。」
 静かな口調で言う。
「シンディ! 無茶は止めろ!!」
「言ったでしょ、もう遠慮はしないって。」
 なにかを悟りきったような、すがすがしい表情で言う。
「な、何をする気だ・・・?」
「そうね。最悪、一緒に地獄に行く羽目になるかもしれないかな?」
 プログラムの入力を終え、コンパイルを行う。すでに、サイフレックスの発光現象は常軌を逸したレベルに入っている。
「と、特攻か・・・?」
「あら、それじゃあ1機しか葬れないじゃない。」
 何を言っているんだろう、という表情でシンディが言う。
「な、何をしている! 早く撃ち落せ!!」
 もはや、光は物理的な防御力すら伴っている。新型機といえども、普通の武器の火力では、傷一つつかない。
「残念ね、時間切れよ。」
 書き換えが終了したことを告げるメッセージを見て、シンディが笑顔で言う。それは戦場には似つかわしくない、綺麗な笑みである。
「よ、よせ、シンディ!!」
「すぐ出撃するから、無茶は止めてよ!!」
 アクセルとシェラの制止も聞かない。片手で構えたロックバスターの引き金を、思いっきり引く。そのまま、体を180度ひねる。
「な、何!?」
 巨大な光の剣に薙ぎ払われ、一気に4機破壊される。
「ろ、ロックバスターの持続発射だと!?」
 顔面蒼白を通り越して真っ白になりながら、指揮官がうめく。
「た、退却だ!」
「あら、それを見逃すとでも思っているのかしら?」
 何時ジェネレーターが爆発してもおかしくない機体で、更に攻撃をかける。爆発が4つ、上がる。
「し、シンディ!!」
 グレイが悲鳴を上げる。
「どうやら、首の皮一枚で助かったようだな。」
 画面を凝視していたアルが、ポツリと呟く。あまりの高出力に、接続モジュールのほうが耐えきれなかったようだ。
「なんとか、今回も生き延びたみたいね・・・。」
 朦朧とした意識で呟く。生存が確定した瞬間、緊張の糸が切れ、一気に疲労とダメージが噴出して来たのだ。
「馬鹿野郎! 生き延びたみたいね、じゃないだろ!!」
 呟きを聞いたアクセルが怒鳴りつける。
「小言は後で聞くわ・・・。出来たら、早く回収して・・・。」
 力なく漂うサイフレックス。すでに自力航行などできはしない。
「戻ったら、1週間謹慎だ!!」
「了解・・・。」
 シンディの意識は、そこで途切れた。
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