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テオリア星系戦記 第11話 突撃 その1
埴輪


 戦艦グレイロックが大量の補給品と退院したての怪我人を乗せて出港したのは、本部の放棄から1週間後であった。
「しかし、治るものね・・・。」
 潰れたはずの左手を眺めながら、シンディが呟く。
「そりゃまあ、最新鋭の医療設備だからな。」
 アクセルが苦笑しながら言う。
「前の怪我もどこにも残ってないし、ずいぶん調子もよくなったわ。やっぱり、たまにはゆっくり休まないとね。」
「しばらく、無茶が続いたからな。」
 正直、普通なら何度死んだか分からない。
「さすがに、何時までも続けてはいられない。」
 真面目な表情で言う。
「なら、とっとと予定の調査ポイントに向かおうか。」
「サイフレックスの修理は?」
「完璧に仕上げた。新品同様だ。」
 どうやら、相当無理をしたらしい。
「とは言えど、どこに無理が残ってるか分からん。修理を過信するな。」
「了解。」
 内側から歪むような使い方をしていれば、当然といえば当然である。
「それと、今まで休んだ分、少しばかり忙しくなるがいいか?」
「ええ。」
「なら、整備班の所に行ってくれ。」


「どうですか?」
 若い女性の整備員が聞いてくる。
「まだ、αリンクの当りに歪みが残ってるわね。」
「じゃあ、αMAXを5ポイントずらして・・・。」
 マジックブースターの調整は、ずいぶん手間がかかる。本来、こんなにデリケートな調整はしないのだが、今までが今までだけに、可能な限り調整をしておこう、ということになったのだ。
「今度はσシンクロが捩れ出したわ。」
「げげ・・・。」
 すでに、マジックブースターの各パラメータは標準の15倍に達している。だが、まだ高まろうという様子すらある。しかも、何かが一致するたびに数値が跳ねあがり、どこかが狂う。
「修正しました。」
「ごめん・・・、δゲインとεフェーズが、大幅に変わってる・・・。」
「勘弁してください・・・。」
 イタチゴッコもいいところである。しかも、現状では、この辺の数値がいくらよくなろうと、直接には性能は上がらない。そもそも、すでにパーセンテージで行くとコンマ以下で0が四つは並ぶ程度の狂いでしかない。数値が大きくなっているから大きく狂っているように見えるだけである。
「大体、こんなに細かく調整する必要があるの?」
「しっかり調整すれば、余剰エネルギーによるダメージは防げるんじゃないか、とのことですから。」
 データを取りながら、その若い整備員が答える。
「本当に?」
「どちらかというと、余剰エネルギーの抜き方を考えたほうがいい気はしますけどね。」
 正直、シンディも同意見である。
「まあ、それについては、今即席で造ってるものはあるんですが。」
「そこらへんは任せるわ。メカニックについては、私は素人だから。っと、またαリンクが狂った・・・。」
「・・・・・・。」
 自分たちの作業が、いかに無謀か思い知った二人であった。


「お疲れ様。」
「なんか、まだリンクしてるような気がする・・・。」
 シェラにこぼすシンディ。
「で、どんな感じなんだ?」
「・・・これでも読んでて。」
 資料を渡し、ぐったりと突っ伏す。
「まだまだ、目標には届いてねえな・・・。」
 アクセルが呟く。
「目標?」
「ああ。」
「何、企んでるの?」
「当面は秘密だ。っと、他の人間も、手が空いてるなら同じようにマジックブースターの調整をしといてくれ。」
 その言葉に顔を見合わせるアルとグレイ。
「なんのために?」
 アルが聞く。
「まあ、今は直接は関係ないがな。」
「データ取りでしょ?」
 それぐらいは分かる。
「ああ。ちょっと、シンディだけじゃたりねえんでな。」
「まあ、無駄にはなるまい。」
 とりあえず、納得するアル。
「そう願うね。」
 苦笑するアクセル。結果は、どれも予想以上にえげつない物になるのであった。


「・・・・・・?」
「どうかしましたか?」
「今、近くを何かが通らなかった?」
 近く、と言ってもサイフレックスの傍には自分しかいない。
「何も通ってませんけど・・・?」
「待って・・・。」
 マジックブースターの稼動状態を、テストから戦闘モードに切り替える。クリアに状況が見える。
「アクセル中将!」
 通信機をオンにして、ブリッジにいるアクセルに通信を入れる。
「どうした、大尉!」
「本艦は現在、ステルスモードでしょうか!?」
「ああ。・・・敵か?」
 うなずくシンディ。
「こちらには気がついていないようです。進路は・・・。」
 それを聞いて一つうなずく。
「どうやら、お前さんの予想がドンピシャだったようだな。」
「どうなさいますか?」
「無論、尾行だ。」


 数時間後、目を見張る状況が目の前に展開されていた。
「よもやここまでとはな・・・。」
 補給基地があるとしたら、それなりにがっちりした作りにはなっているだろうと予測はしていた。だが・・・。
「これほどの規模があるのに、何故誰も気がつかなかったんだ・・・?」
 共和国軍本部をはるかに上回る規模の工場兼基地が、彼らを威圧していた。
「もしかして、補給を潰すつもりで、本部を見つけちゃったのかしら・・・。」
 となると、この規模の部隊で攻めるのは難しいだろう。
「どうする?」
「援軍を呼ぶのは・・・、無謀ね。」
 通信をした瞬間に傍受され、総攻撃を食らうに決まっている。
「じゃあ、どうする?」
「装備をできるだけ整えて、奇襲をかけましょう。何時までもステルスが有効だとは限りませんから。」
 アクセルの問に即答するシンディ。
「アタシも隊長に賛成。引くも攻めるもリスクは同じ、だったら少しでも相手に打撃を与えられそうなほうに賭けたい。」
「俺も隊長に賛成だ。そもそも、数で攻めるよりも少数精鋭での攻撃のほうが、こちらの被害は少ないかもしれないしな。」
「異議はない。」
 小隊全員が同意見のようだ。
「だったら決まりだな。全機、早急に出撃準備を整えよ!」


 ハンガーでは、整備員達が慌しく動き回っている。
「ステルスコートを、そんなに信頼しないで下さい。一撃食らったら完全に位置がばれますから。」
「分かってる。」
 放熱フィンのようなパーツのついたサイフレックスを起動する。
「ロケットブースターの稼働時間は?」
「約五分です。」
 どの機体も、いつになく重装備である。
「みんな、準備はいい?」
 各自から返事が返って来る。
「それじゃあ、出撃!!」
 4機のパワードシェルが一斉に出撃し、内乱に終止符を打つための戦いの火蓋が、切って落とされた。


「要塞まで、現状で後2分!」
「どうやら発見されたようだ!」
 要塞からの砲撃が始まる。パワードシェルが、わらわらと発進する。
「隊長! 最初の一撃はアタシがやっていい!?」
「任せる!」
 返事を聞くと同時に、じっくり狙いを定めていたロックバスターの引き金を引く。
「行け!!」
 破滅の光が、第一陣の半分と砲台を3つ、消滅させる。
「もう一丁!!」
 今の結果から修正をかけ、更に引き金を引く。第一陣が全滅し、更に砲台を一つ、無力化する。
「やっぱり、本拠地らしいな!」
 出てくる数が尋常ではない。
「スピードを落としたら負けよ!」
「どのみち、加速できるのは後2分だ。」
 すでに、普通のパワードシェルの出せる速度を、はるかにぶっちぎっている。当然、その分コントロールは難しくなっている。
「新手が出てきたぞ!」
 瞬く間に接敵する。切りかかってきた相手を剣を使ってそのまま弾き飛ばす。新手が更に道をふさごうとする。
「隊長! 避けてくれよ!!」
 グレイの叫びと同時に、大きく身を翻すシンディ。掠めるほど近くをロックバスターの光が通りすぎる。避けるほうと撃つほう、双方によほどの腕と度胸がなければできない芸当に、成す術もなく全て巻きこまれる第2陣。
「ち! こいつでも無駄か!!」
 至近距離で直撃を受けたやつ以外、どれ一つとして沈まない。さすがに、無事ではないが。
「基地も、桁外れの防御力だ!」
 このままでは、突入前にエネルギーを使い果たしてしまいかねない。不意に、スティルバースが加速を緩める。速度の緩んだスティルバースにわらわらと生き残りが集中する。
「アル!」
「先に行ってくれ。」
 無茶な台詞に驚く。
「アル!!」
「ちゃんと追いつく。それに・・・。」
 拳で1機粉砕しながら言う。
「たまには見せ場があっても、バチは当るまい。」
「無茶は隊長の専売特許よ! あんたが真似してどうすんのよ!? いいえ! 無茶を通り越して無謀よ!!」
「少なくとも、シェラが残るよりは勝算はある。」
 口論する二人に割りこんだのは、シンディだった。
「勝算は、あるのね?」
「ああ。スティルバースだからこそできる、奥の手が、な。」
 すでに、敵の数が多すぎて振りきれない。全滅させれば問題はないが。
「わかった。10分よ。10分で合流しなさい。」
「了解した。」
 3機仕留めながら、淡々と返事をする。すでに、他の3機は見えない。どうやら、シェラも納得したようだ。いや、させられた、というのが正しいか・・・。
「そう言うわけだ、グレイロック。援護を頼む。」
「わかった。巻きこまれるなよ。」
「問題ない。」
 この戦闘で何度目かの、ロックバスターの光が走った。


 シンディ達と別れてから2分、それだけの時間をかけて第2陣を全滅させる。
「ジェネレーターの加熱具合は・・・、予想よりずいぶんマシなようだな。」
 機体の状況をチェックして呟く。弾薬もほとんど使わなかった。迎撃に専念すればこんなもんだろう、という予想は大当たりだったようだ。
「これより、再度突入を開始する。」
「了解した。一応援軍は求めたが・・・。」
「そんなあてにならんものを待っている余裕はない。タイムリミットまで後7分54秒しかない。」
 再度加速を始めようとして、視界の隅に引っかかる物を感じる。一気に前進させる。
「ほう? かわしたか・・・。」
「ロックバスターも、存外当てにならんな・・・。」
 見たところ、相手はろくな武装をつんでいない。どうやら、装甲厚に重点をおき、その頑丈さで相手を殴り倒すのがコンセプトらしい。
「貴様らの武装では、ロックバスターをも防ぐこの装甲はぶち抜けまい。」
 装甲厚が分厚い、すなわち重い、ということはそれだけで大きなデメリットである。だが、それでも武装を捨てれば、ある程度相手に接近できるスピードは得られる。
「どうやら、ロックバスターを防ぐことができれば勝ちだと思っているらしいな・・・。」
 確かに、現行の武器で、ロックバスターに勝る破壊力を持つものはない。だが、武器で無いものの中には、ロックバスターなど足元にも及ばぬ物もある。
 たとえば、シンディが使った不可視の刃のように。
「悪いが、御託を聞いている暇はない。後7分ほどしかないのでな。」
「俺が、7分もやると思っているのか?」
 拳が唸る。紙一重でかわし、エネジーランスをつきこむ。はじかれる。更に、シールドで殴りつける。はじかれる。
「なるほど、対ビーム装甲の固まり、というわけでもないか。」
 対ビーム装甲にもビーム以外に対する防御効果ぐらいはある。だが、対ビーム装甲だとしては硬すぎる。
「やはり、奥の手を使うしかないか。」
「そんな華奢な機体で、何をするつもりだ?」
 嘲笑うように言う。
「自由なる風は、全てのもを貫かん!」
 風の魔法を発動させる。
「集え、風よ! 吼えろ、拳よ!!」
 集めた風で、ナックルパートを覆う。そのまま突撃をする。
「砕け! ハウリング・ナックル!!」
 風を纏った拳がヒットし、凄まじいまでの振動が敵を襲う。内部の全てが共振し、中心から歪む。内部に発生した力に耐えきれず、装甲が裂ける。だが、すでにその時点で構成部品全てが大きく破損している。無論、パイロットも。
「やはり、他の機体では無理そうだな。」
 ノックバックを見て呟く。
「エグイ真似をするな・・・。」
「力技で装甲をぶち抜くのも、限界があるからな。」
 俗に言う、高速振動拳という技である。刃物でやった場合はのこぎりを高速で動かすのと同じだが、拳のような鈍器の場合は、殴ったのとはまた違った衝撃が内部に広がることになる。
「後、6分と少々か。」
「いけそうか?」
「問題ない。」
 それだけ告げると、今度こそロケットブースターを起動するのであった。
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