中央改札 交響曲 感想 説明

テオリア星系戦記 第13話 突撃 その3
埴輪


 援軍の大艦隊がたどり着いた時には、すでに基地攻めは終りに指しかかっていた。
「遅い!!」
 開口一発、アクセルが言う。
「無茶を言うな!!」
 彼らが到着したのは作戦開始から25分後であった。カズト達の到着から、約15分が経過している。
「実際のところ、これだけの艦隊を30分以内に到着させるのが、どれだけ無茶だと思っているのだ?」
「しらねえな、そんなこと。さて、遅れた分、がんがん働いてもらうぞ。」
 とは言えど、基地のほうは別段援護は必要ないだろう。絶え間無く爆発が起こり、山ほどの救援信号と脱出艇が出ている。全部回収、となると涙がちょちょぎれるほど忙しい。
「しかし、これを本当に1個小隊でやったのか?」
「ああ。紛れもなく、な。」
 援軍なぞ、必要だったのだろうか?
「俺達の役目は、基地を攻めることじゃねえ。基地を潰しに行った連中の、退路の確保だ。」
 その退路の確保のために、二人の援軍は、先ほどから獅子奮迅の活躍を見せている。
「今日1日で、今までどつき倒した数と同じぐらい沈めてるぜ・・・。」
「いくらでも出てきますぅ〜。」
 本部をあっさり放棄した共和国軍と違い、何がなんでも死守する構えらしい。正直、ここまで痛めつけられては、死守する意味があるのかどうかも疑わしいが。
「突入した連中も、似たような数沈めてるんだよな・・・。」
 しかも、要塞からの援護付きである。考えるだけでもぞっとする。
「本気であいつら、人間か?」
「私達も〜、そういうことを言われてるみたいですぅ〜。」
「化けもんなのは機体なんだけどな・・・。」
 ぼやきながら、密集している位置にロックバスターを叩きこむ。すでに、今日何発目かも数えていない。衛星軌道上から都市を破壊できる火力の武器も、すでにありがたみが地に落ちて久しい。もはや、惑星破壊砲でもない限りは有難いと感じないだろう。
「やだねえ、火力のインフレってのは。」
「私に言われても困りますぅ〜。」


「適当に暴れろ、か。」
 基地の表層に着地したアルが、ポツリと呟く。
「ならば、適当に暴れるか。」
 地面にロックバスターを向けると、引き金を引く。反動で浮き上がるが、その頃には大穴があいている。見事に向こう側が見えている。
「外れ、か。」
 ぶち抜いたのは、倉庫らしい。様様な物が吸い出されていく。その後、適当に何箇所かに風穴をあけていく。
「では、この辺か?」
 次の衝撃は洒落にならないものであった。スティルバースが、思いっきり宙に浮く。基地の3割ほどが消え去る。
「どうやら、弾薬が誘爆したらしいな・・・。」
 平然と呟く。
「今派手なことをやったのは、アルか?」
 両腕のないドラグーンが現われる。
「ああ。」
「位置関係によっちゃ、やばかったな。」
「探知機に味方の反応のない位置を選んだ。」
 ここまで基地機能が壊れてしまうと、通信妨害だのなんだのといった物はほぼ無意味である。
「誘爆してりゃ、一緒でしょうが。」
 後方から、シェラが突っ込みを入れる。
「適当に撃ったら、弾薬庫だった。」
「確認もせずに、適当に撃たないでよ。」
 シンディもエグイが、さり気にこいつもエグイ性格をしている。
「爆発影響範囲には、味方は誰も居なかった。問題ない。」
「こんな馬鹿げた衝撃が来たら、他のところにいても危険だって。」
 呆れて突っ込むグレイ。
「お前達も隊長も、その程度のことでどうにかなるほどやわだとはおもえんが?」
「隊長の言いそうなことを言わんでくれ。」
「それで隊長は?」
「まだだ、というより集合時間までは5分ほどあるな。」
 その時、通信が入る。
「みんな、そろってるみたいね。」
「ああ。」
「じゃあ、先に帰って。基地の破壊自体は、そろそろいい具合だから。」
 怪訝な顔をする3人。
「で、隊長はどうするの?」
「後始末が残ってるから、もうちょっと残るわ。」
「だったら、俺達も・・・。」
 グレイの言うことをさえぎって、シンディが言葉を続ける。
「ドラグーンは両腕が無くなってるし、スティルバースは、今の衝撃であちらこちらに異常が出てるでしょ。スプライトもそろそろ武器が無くなってるみたいだし。」
 3機の状態を的確に言い当てる。
「一端引いて。後は外の掃除をして欲しいの。」
「隊長のほうは?」
「突入時にそれほど武器を使ってないし、ダメージもほとんどゼロだから、単独でもしばらくは大丈夫よ。それに・・・。」
 何かを殴る音が聞える。空気があるので、音が聞える。
「ザコばかりだから、弾なんか使わないし。」
 どうやら、敵を殴り倒した音らしい。
「そう言うわけだから、こっちは気にしないで。」
「分かった。先に帰投する。」
 そう告げると、そのまま出ていった。


「さて、司令部は・・・、こっちか。」
 エネジーバスターを撃ちこみ、更に通路を作る。エネルギー兵器は、撃ち方さえ注意すれば弾数を気にしなくていい。凄まじく、楽だ。
「右手後方から1機。」
 影から飛び出してきた敵の攻撃をかわし、バックパックとコクピットの隙間を正確にぶち抜く。拳を引きぬくと同時に、崩れ落ちる敵の新型。
「雑魚がいくら出てきても、同じことよ。」
 パワードシェルの弱点、それはコクピットの後ろに制御装置が集中していることである。基本的にバックパックに阻まれるので、ここを潰すということはコクピットを潰す、と言う事であるが・・・。
「更にもう1機。」
 その気になれば、コクピットに傷一つつけずに制御装置だけをぶち抜く、などという離れ業も出来るようになる。一撃で勝負がつき、爆発も起こらないから安全でもある。もう1機、制御系を破壊されて各坐する。
「さてと・・・。」
 頭のなかで、基地の内部構造をスキャンする。もう少し進んで右折、のようだ。無論、パワードシェルの通れるような通路はないので、砲撃でつくる必要はあるが。
「後ろから砲撃、3秒後に着弾。」
 5歩移動して、ダメージを受けない位置に移動する。そのまま、作った通路に飛びこむと後ろから来た新手の背後を取る。
「邪魔よ。」
 振り向くか否かの時間で制御系をぶち抜かれる敵3機。ぶち抜かれる寸前に悪あがきで放った弾を、マジックブースターの光で干渉してそらす。
「邪魔が入る前に・・・、行きましょうか。」


「AS−09、まっすぐこちらに向かってきます!」
「くそ、小娘が・・・。」
 報告を聞いた総司令官は、そのまま身を翻す。
「あの、どこへ・・・?」
「思いあがったバカを、叩き潰してくる。」
「総帥!?」
「お前らは、適当にやれ。」
 それを聞いて、絶句する。
「お、御身自ら出られるのですか!?」
「他の者ではとめられんのだから、仕方が無かろう!」
 そう言い捨てると、格納庫に歩いていく。この組織はもはや駄目であろう。だが、再起を図るにしても、後のために障害は取り除く必要がある。
「くそ! 迎撃隊は何をしている!?」
「全て、制御系を破壊されたようです!!」
 衝撃が走る。モニタに何者かが割りこみをかけてくる。
「降伏しなさい。今なら、命の保障だけはしてあげる。」
 シンディが、降伏勧告をしてくる。共和国軍の凛々しき勝利の女神、そのかすかに押さなさの残った美しい顔がモニタに映し出されている。
「AS−09、こちらにロックバスターを向けています!」
 至近距離で、正確にこちらを捉えているのが分かる。引き金を引かれた瞬間、司令部は完全に消滅するだろう。
「それとも、これ以上無益な殺し合いを続ける、というの?」
 少女の強い瞳が、彼らを縫いとめる。
「分かった、降伏しよう・・・。」
 それを聞いたサイフレックスが、ロックバスターをおろす。それを確認して、通信機に指を伸ばし・・・。
 司令部が消滅した。


 光を前面に収束させ、爆発をはじく。いくつかの破片が光をつきぬけてくるが、全て装甲にはじかれる。
「裏切り者には死を、というわけ?」
「ふん。どのみち生き延びても屍同然の人生しか残っておらぬ連中だ。ここで引導を渡してやったほうが幸せだろう?」
 手前勝手な理屈をこねる。
「言ってくれるわね。」
 目の前に現われた、サイフレックスより一回りほど大きいパワードシェルをにらみながら言う。
「このデル・ヴィーロには貴様の常套手段は通用せんぞ。」
 そんなことは、言われるまでもなく気がついている。
「それで? それがどうかしたの?」
 一目で、こちらの通常兵器が効かない事ぐらいは分かる。ロックバスターとて、撃つだけ無駄だろう。
「そのバリアだかフィールドだかがなんだっていうの?」
 ロックバスターを捨て、エネジーソードを手に取る。
「ほう、一目でそれがわかるか。だが、分かったからと言ってどうなるわけでもあるまい。」
 キャノン砲を向けながら言う。
「私の理想はここに潰えた。それは認めよう。だが・・・。」
 キャノン砲が火を吹く。ロックバスターと同レベルのビームが、サイフレックスを襲う。
「私は再び立ち上がって見せる! 理想を実現するために!」
「それで、何をしたいわけ?」
 その声に驚く。目の前に、無傷のサイフレックスが立っていた。
「貴様! 何故生きている!?」
「避けたのよ。」
 正確には、打点をずらして直撃を避け、更にビームを光でそらし、避けたのと同じ効果を作り出したのだ。
「ば、バカな!?」
 両手に持っていたキャノン砲を連射する。10発以上叩きこみ、いい加減ジェネレーターが熱くなってきた当りで、突如右腕が斬り飛ばされる。
「そろそろ鬱陶しくなってきたから、けりをつけさせてもらうわ。」
 剣を振りぬいた姿勢のサイフレックスが、蒼い光に包まれてたたずんでいた。無論、エネジーソードのビームの刃は生まれていない。
「な、何をした?」
「バリアの存在しない位置から切りつけた、只それだけよ。」
 さらっと言う。
「バリアのない位置だと!? そんなものがどこに!?」
「あなたには見えない位置、よ。第一、あなたには私の作った刃も見えていないんでしょう?」
「や、刃だと・・・?」
 そんな物は、どこにも見えない。
「見えていれば、何をした? なんて間抜けな質問はしないはずよ。」
 あっさり言う。
「くそ! 何故私の理想を理解しない!!」
「絶対なる秩序を築く、だったっけ?」
 冷めた目で相手を見ながら一歩踏み出す。
「わ、分かっていれば、何故・・・。」
「寝言は寝てから言いなさい。」
 目の前の相手、なんの価値も認めていないが如く言う。
「ね、寝言だと?」
「あなたの妄想に付き合うのも、いい加減うんざりしてるの。牢獄だか地獄だかで、一人で妄想に耽ってなさい。」
 更に、左腕も斬り落とす。まるで、空間そのものを斬られたかのような、凄まじい斬れ味である。
「な、なぜだ・・・。このバリアは全周囲型のはず・・・。破られた形跡もない・・・。」
 恐怖に顔をひきつらせながらいう。
「なのに、何故斬れる!?」
「我が剣に、斬れぬもの無し・・・。」
 淡々と告げる。
「これで、終りよ。」
 不可視の刃が、デル・ヴィーロの制御装置を破壊した。


「きりが無いな・・・。」
「そっちの隊長さんは、まだなのか?」
「さあ、な。」
 のんきに会話をしていると、基地からロックバスターの光が走る。10発ほど連続で飛んできたと思うと、突如それがやむ。沈黙。
「な、何があったんだ?」
 グレイが呆然と呟く。突如、通信が入る。
「革命軍に告げます。こちら、シンシア・マクガルド大尉。ただいま、この基地の制圧に成功しました。直ちに降伏してください。」
 淡々とした声で告げると、デル・ヴィーロの残骸と、司令部があったであろう場所を映し出す。事実上、1個小隊により、革命軍本部は壊滅したのである。
「もう一度告げます。直ちに降伏してください。今なら、人道に法った処分を約束します。」
 一大尉の約束できることではないが、この通信は星系全部に向けている。言ってしまった者勝ちである。
「なるほど、後始末か・・・。」
 だが、まだ敵はしつこく抵抗している。
「もう一度言います。降伏してください。今なら人道に法った処分を約束します。ただし、飽くまで抵抗する、というのなら・・・。」
 近くにあった小惑星が、突如真っ二つに切り裂かれる。
「こちらもそれ相応の対応を行います。」
 だが、戦闘は、まだ終らない。突如、革命軍の戦艦が1隻、真っ二つに斬り捨てられる。シンディが、降伏勧告を続ける。戦闘は終らない。5回繰り返し、シンディは冷静さという仮面をかなぐり捨てた。
「これだけ言っても、まだ殺し合いを続けたいの!?」
 大きくはないが迫力のある声に、そして強い意思を持った美しい瞳に圧倒され、戦場に静寂が訪れる。
「殺し合いを続けたい、という人は出てきなさい! 私が、相手をしてあげる!!」
 その一言と共に、自らがまだいる基地跡を切り裂く。蒼い光に包まれたパワードシェルが、切り裂かれた基地跡から現われる。突如、戦艦の一隻に爆発が起こる。致命傷ではないが、火器管制が不可能になったようだ。
「言ったはずよ。殺し合いを続けたい人は出てきなさい、と。こそこそせずに出てきなさい!」
 更に戦艦が火を吹く。今度は共和国軍側である。致命傷ではないが、的確に火器の制御を奪われる。
「ま、待て大尉! 何故味方まで!?」
「どちらの部隊だろうと関係ないわ。まだこんな馬鹿げたことを続けるというのなら、どこの所属だろうと、全て私の敵よ!」
 更に3隻、火を吹く。最初のほうで斬られた艦も含め、全て通常航行には支障はなく、単純に武器が使えなくなっただけである。そして、同様のことは出撃していたパワードシェルにも起こっていた。
「戦いが終るまで、何度でも言うわ。戦いを止めなさい。こそこそしても無駄よ! 誰が何をしようとしているか、私にはすべて見える。どうしても止めない、というのなら・・・。」
 もう2隻、火を吹く。10機のパワードシェルの制御装置が潰される。
「この場にいる全ての兵器の戦闘能力を奪う。」
 ついに、戦場から戦意が消える。立った1機のパワードシェル。今となっては、突出して優れているとは言えない性能の機体。だが、その場にいた誰もがその機体に、いやそれを操る少女に圧倒され、畏れを抱く。
「こちら、革命軍所属の戦艦ハンチバック。降伏する。」
 その一言を皮切りに、次々と降伏していく。こうして内乱は終わりを告げた。
「おーい、シンディ・・・。」
 動かないサイフレックスに通信を送る。
「アクセル、お願いして、いいかしら?」
「なんだ?」
「どうやら、そっちまで燃料が持たないみたいなの。」
 一瞬、グレイロックに沈黙が走る。戦を終わらせた勝利の女神が、一人の少女に戻った瞬間であった。
 そして・・・。
「分かった、回収するよ・・・。」
「ありがとう。」
 誰もが見とれるような笑顔を浮かべ、少女はグレイロックに答えたのであった。
中央改札 交響曲 感想 説明