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学園幻想曲 剣道部の活動
埴輪


 その学校は、一風変わった学校であった。幼等部から大学院までの一貫教育を行っている学校であり、広大な敷地を有している。世界各地からさまざまな学生が集まるその学園は、創始者のポリシーゆえに、学園そのものに名前がついていなかった。それゆえ、学園は単に『学園』と呼ばれるようになった。


 剣道場。学園の部活としては比較的メジャーなクラブ、剣道部と長刀部が活動する拠点である。
「てや!!」
「めーん!!」
 広い道場を二つに分けて、2つのクラブが同時に活動をしている。ちなみに、空手や柔道などの拳法系クラブは、また別に活動場所を割り当てられている。
「やってるね。」
 何となく中を覗いたアインが、開口一発そう言う。
「なんの用だい、アイン・クリシードくん?」
 ややとげのある口調で、リサがアインに聞いてくる。
「単に、通りがかったから覗きに来ただけ。」
 おちょくってんのか? と疑いたくなるようなことをさらっと言う。
「あのねえ。」
「リサ、こいつ相手になにか言うだけ無駄無駄。リカルド先生やゼファーだって勝率が低いんだから。」
 とりあえず、口喧嘩でも始めそうな二人を窘めるバーシア。もっとも、アインのほうは単にのらりくらりとかわすだけであろうが。
「まあ、いいか。くれぐれも、邪魔だけはするんじゃないよ。」
「分かってるって。」
 ちょこんと端のほうに座って、二つの部活を眺めるアイン。マリーネのほうは友達の家に呼ばれたらしい。いい傾向だ。
「うーん・・・。」
 見ていていまいち、という感じである。が、下手に口出しをして喧嘩を吹っかけられたり、勧誘されたりするのも面倒なので黙っていることにする。
「なんだい、難しい顔をして。」
「言っていいの?」
「いいや、やめとく。どうせろくでもないことだろう?」
「うん。凄くろくでも無いこと。」
 あっさり肯定されて苦笑するリサ。正直、扱い辛い学生を一人上げろ、と言われた瞬間に名前が上がるのはこいつだろう。ヒロあたりのように真正面からひねくれているわけでもなければ、総司のように露骨に裏で何かをやっているわけでもない。
 こいつの行動原理、全てはその時の気分と感覚、である。
「で、結局何が言いたかったのかな?」
 二人の会話に気がついたバーシアが、アインに軽く質問をとばす。
「簡単なこと。銃弾を落せそうなのは、居ないなってね。」
「普通出来ないって。」
「うちの騎士団じゃ、出来ない人間はいないんだけどなあ・・・。」
 ポロッと漏らした言葉に、二人とも苦笑して黙殺する。こいつの場合、周囲からして別物だ。
「・・・パティの負け。」
 見るとパティと他の部員との試合がもめていた。
「負けって、どう言うことだい?」
「パティが踏みこみ終わる前に相手の面が振り下ろされてた。」
 リサはたまたま見ていなかったので、その判断が正しいかどうかは分からない。
「とはいえ、今から言っても収まらないだろうね。」
「パティの性格からいって、納得できないだろうし、白黒をはっきりさせたがる筈だ。」
 邪魔臭そうに言う。
「だったら、再試合が妥当だね。」
「まあ、頑張って・・・。」
「いや、ここはあんたに主審をやってもらう。」
「邪魔をするなって言ってたくせに?」
 苦笑するアイン。とはいえ、どうせ暇なので、たまにはいいかとか考えて審判を始める。


「どーしてあたしの負けなのよ!?」
「パティのほうが踏みこみが遅かったから。大体0.03秒って所かな?」
 再試合も、同じ結果に終る。
「なんなら、証明して見せようか?」
「どうやって?」
「二人とも、前に出て。」
 適当に竹刀を差し出す。
「このぐらいがいいかな?」
 少し思案する。
「じゃあ、さっきと同じタイミングで相手が動くから、その通りに対処して。あと、竹刀を振り下ろしたら戻さないこと。」
 先ほどよりかなり離れた位置関係にたたせる。
「ほい。」
 驚いたことに、本当に全く同じタイミングで相手が動く。反射的に同じように動く。そして・・・。
「ね、パティの竹刀のほうが上でしょ?」
「一体、今何をしたの?」
「幻術だよ。過去の映像を同時に再生した。」
 結局のところ、パティは3度やって3度同じ相手に負けてしまった。
「う、うそ・・・。」
「ま、いいんじゃないの? 負けたんだったら勝つまで鍛えれば。」
 アバウトなことを言うアイン。
「気楽なことを言うわね・・・。」
「別に、今は負けちゃいけない局面じゃないしね。」
 それだけ言うと、また試合場から出ていく。
「よく見えたね。」
 リサには、勝敗が分かった程度である。黒帯どうしの勝負などそう言うレベルだ。
「残念ながら、ピストルの弾よりは遅いからね。」
 大抵の物体はそうである。
「折角だから、一本どうだい?」
「やだ。」
 あっさり拒否する。だが、誰もこいつが弱いから逃げたとは考えない。残念ながら、過去4年にわたって、その実力は証明済みである。
「なんだ、臆病だね。」
「残念ながら、その手の挑発には乗らないよ。」
 自分の評価には無頓着な男だからこその台詞である。
「じゃあ、槍は?」
「できるけどやんない。」
 ひょいっと肩をすくめて続ける。
「大体、僕は練習相手には向かないし、剣道とかは専門外だ。」
「専門外って・・・。」
「僕の専門って、こういうのだから。」
 適当にあった槍を手に取ると、鞄から取り出したバインダーを宙に投げる。
「す、凄い・・・。」
 突きの連続だけで、10秒ほどバインダーを空中に固定して見せる。
「とまあ、大道芸には使えても試合には役に立たない物ばかりだ。出来るようになりたいんだったら教えてもいいけど?」
 全員、そろって首を横に振る。バインダーを空中で固定できるだけの速度の突きを連続で10秒など、どう考えても限界を超えている。しかも、突きがかすめていたはずなのに、バインダーはぶれてすら居なかった。
「アイン様、そういうことも御出来になったんですか?」
「化けもんだと思ってるでしょ、クレア。」
 苦笑して言うアインに、慌てて首を横にふるクレア。
「どっちにせよ、よっぽど鍛えない限りは大道芸どまりだ。せめて拳銃を防げないことには、ね。」
 何となくしらけた空気が漂う。
「なんだか、結局邪魔しちゃったみたいだね。じゃあ、邪魔者は退散するよ。」
 ひょいっと肩をすくめて言う。そのまま、何事もなかったかのように出ていった。


「あ、あのすみません!!」
「どうしたの、クレア?」
「私に、槍を教えていただけないでしょうか?」
 言われて答えに困る。
「さっきの見てなかったの?」
「ですから・・・。」
 少し考えこんで、聞く。
「あのこと、そんなに気にしてるの?」
「!!」
「だったら、槍なんか覚える以前の問題だよ。一人歩きをしない、危ないところに近寄らない、すぐ逃げる。これを守ってるだけでずいぶん違う。」
 それでも、どこか思いつめたような顔をしている。
「それに、さっきも言ったように、護身用として使いたいのなら、それこそ銃器を相手に出来ないと意味がない。」
「その、銃器を相手に出来るようになりたいのです!」
「なんで?」
 アインには分からない。そもそも、武道と戦闘術は目指しているところが根本的に違う。
「クレアは武道を習いたいの? それとも戦闘能力を鍛えたいの?」
「・・・・・・。」
 沈黙。どうやら、それが答らしい。
「はいはい、分かったよ。マリーネと同じようなメニューになるけど、いい?」
 相手の強情さに、折れる事にするアイン。
「ま、マリーネ様も?」
「体を鍛えないと、いつ倒れてもおかしくないからね。脂肪だけでなく、筋肉も圧倒的に足りてないし。」
 下手に鍛えても、後で困るのではないだろうか?
「まあ、あの状態のマリーネでも出来ることなんだから、多分誰でもできる。」
「よろしくお願いします。」
 この後クレアは、あまりの珍妙なトレーニングに、3日にして早まっただろうかと後悔するのであった。
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