中央改札 交響曲 感想 説明

テオリア星系戦記 第15話 敗北
埴輪


「以上が、生存者からの情報だ。」
 銀翼突撃部隊の概要を説明し終え、アクセルが全員を見渡す。
「データから考えて、真正面からの攻撃ではロックバスターだろうがなんだろうが、効果はほとんどないと考えていいだろう。」
 説明を受けていた人間がどよめく。最も、顔色一つ変えない人間もいるが。
「ここまでで、なにか質問はあるか?」
 質問の手は上がらない。
「ならば、編成を発表する。」
「まず、この部隊の隊長は、シンシア・マクガルド中佐とする。」
 どよめきが走る。最も、なんの反応も示さない人間も結構いるが。
「反対意見は後でまとめて聞く。続けるぞ。」
 次々と配置を発表していく。
「さて、反対意見を聞こうか。先に釘をさしておくが、隊長選定に関しては、功績と年齢についての意見は聞かんぞ。功績は十分だし、若いからって必ずしも能力がないとは言い切れん。」
 その言葉で、手を上げようとした幾人かが手を下げる。
「それと、ひいきしてる云々も無しだ。本当にひいきするつもりなら、こんな厄介な任務なんざ押しつけないからな。」
「反逆者が隊長、というのはどうでしょうか?」
 最後まで手を挙げつづけていた若い士官が、指名を受けて、意見を言う。
「反逆者?」
「ええ。先の内乱において、上官の意見を無視して、味方に刃を向けています。」
「だから?」
 その言葉に顔をしかめる士官。
「今この場に諸君等の上官としている。それがすべてだ。」
 やり取りに苦笑するシンディ。彼女としては、これだけ不満に思う人間がいる時点で、指揮官なんぞ真っ平だ、という感じなのだが。
「シンディ、どうするの?」
 横に座っていたシェラが、こっそり耳打ちしてくる。
「そうね。とりあえず揺さぶってみるか・・・。」
 苦笑をかみ殺しながら、シェラに返事をする。優雅な動作で立ち上がると、アクセルの横に歩いていく。
「正直に聞くわ。こんな小娘の指揮が受けられるか、と思っている人は手を上げて。」
 真正面から聞かれても困る。当然、正直に手を上げる人間などは少数である。
「別段、処罰をするとかそういうことは言わない。あなたたちの命にかかわることでもあるし、本当に正直に答えてもらいたいのだけど?」
 真剣な眼差しに押されて、全体の半分ほどが手を上げる。
「そういうことですので中将、私が指揮官、というのはやめておいたほうがいいと思います。」
 それを聞いたアクセルが、小さく鼻を鳴らす。
「どいつもこいつも度胸がねえな。多少の無茶を怖がるとはな。」
「賢明と言えば賢明でしょうね。正直、今までやってきたことは、自分でも正気だとは思えませんから。」
 違う意味でざわめく。
「状況そのものが正気じゃなかったからな。」
 肩をすくめるアクセル。
「やっぱり、いつも通り1個小隊でことに当ろうかと思うのですが。」
「それがいいかも知れねえな。腰抜けが何人集まっても、単なる烏合の衆だ。」
 挑発の内容よりも、1個小隊で当ろうと平気で言い出す神経のほうにざわめきが大きくなる。
「お前等もいいのか?」
「中佐が無茶を言い出すのは、いつものことだ。」
「状況が絶望的、なんてのは慣れっこよ。」
「問題ない。」
 ASチームの台詞を聞いて唖然とした空気が流れる。この隊長にして、この部下あり、と言ったところか。
「まってくださいよ。俺達がいつ、嫌だって言いました?」
 カズトが、不敵に笑いながら反論する。
「俺のチームは、はなっから気合充分だっていうのに、腰抜け扱いされてほっぽり出されるなんざ、割に合わないですよ。」
「悪いな。中途半端な人数がいても意味がねえんだ。」
「だったら〜、1個中隊では〜、どうでしょう〜?」
 セリアが口を挟む。
「少々きついが、まあできん事もないだろう。」
「いいえ、そんな少数でやる必要はありません。」
 ベテランの一人が口を挟む。
「ヒュー・ラックフィールド、志願します。」
 にやっと笑う。
「これで2個中隊です。お手並み拝見と、いきましょうか?」
「シュウジ・ビンカートン、志願します。」
 不満そうになにか言おうとした先ほどの仕官を、ひとにらみで黙らせる。
「ゲイリー・マッカラン少尉。文句は、後で聞こう。」
 その様子に、苦笑を浮かべるアクセル。
「1個大隊か。十分だな。」
 だが、まだひと波乱あることは間違い無い。何はともあれ、なんとか戦力は整ったようだ。


「整備のほう、出来てる?」
「バッチリです、と言いたいところなのですが・・・。」
「どうしたの?」
「フィンを4枚に増やす作業に手間取ってまして。」
 どうやら、2枚では足りなかったようだ。
「サイフレックスに限らず、そろそろオーバーホールが必要ですな。」
 クリップボードを見ながら言う。
「無茶ばかりしてきたから、ね。」
 苦笑を浮かべた後、再び真剣な顔に戻る。
「サイフレックスの反応が、また遅れ出したわ。」
「どれぐらい、ですか?」
「体感速度で平均3秒。」
 空気が凍りつく。
「それはまた、豪快な・・・。」
「正直、すでに限界を超えています。」
「分かってる。だから、マジックブースターのリンクを、今の倍程度までは上げておきたいの。」
 げんなりした表情で、例の女性整備士が言う。
「今でも、セブンス・ナインの領域ですよ。」
「だったら、9を15個並べるところまで持って行きましょう。」
 無茶苦茶である。だが・・・。
「分かりました・・・。」
 納得するのが、グレイロックの連中である。


 謎の敵、銀翼突撃部隊と、ある程度の距離を置いて対峙する。
「さて、ゲイリーって小僧がバカな真似をしなきゃいいんだがな。」
 先ほども、シンディと衝突している。
「とりあえず、相手の出方を見ましょうか。」
「消極的なことを・・・。」
 言った端から、ゲイリーがかみついてくる。
「ありゃ、長生きできないタイプだな・・・。」
「確実に、ね。」
 二人の様子を見て、呆れたように言うグレイとシェラ。
「大物を釣り上げたいから、餌になってくるわ。あんまり私の近くにいないこと。」
「ちょっとまってください。指揮官が自らおとりになると言うのは・・・。」
 ヒューが、慌てて割りこむ。
「この中で、一番目立つ機体はどれだ?」
 間違いなく、蒼白く発光しているサイフレックスであろう。4枚のフィンが、更に光を大きく見せている。
「分かりました・・・。」
 不承不承、納得する。十分散開したのを確認してから、やや突出気味に前に出る。無論、一気に下がれる程度の距離は保っているが。
「・・・きた!!」
 凄まじい光の本流が、サイフレックスがいた空間を焼き尽くす。だが、光が到達する頃には、サイフレックスはかなり大きく位置を変えており、掠りもしない。
「かなりの火力ね。」
 とりあえず、置き土産をしてから戻る。
「やっぱり、ロックバスターも大して効いてはいない。とはいえ・・・」
「何か分かったのですか?」
「半分以上は、無人機ね。」
 耳を疑う。
「それと、どうやらバリアの性能は、デル・ヴィーロよりは悪いみたいね。攻撃と同時に展開は出来ないみたい。出力の問題かしら?」
「ということは、相手の攻撃にあわせて、こっちの攻撃を叩きこむしかない、と?」
「確実な方法としては、ね。ただ・・・。」
 ここで、言葉を切る。
「なにか、気になることでもあるの?」
「トップの能力が分からない。」
「さっき、攻撃して来たのでは?」
「いいえ。指揮官機と副長機は全く動いていないわ。」
 散発的に来る攻撃をかわしながら、分かったことすべてを伝える。
「少し、調子が悪いみたい・・・。前みたいにはっきりとは見えない・・・。」
 やはり、ある程度追い詰められないと、うまくは行かないようだ。
「分かっていることだけで対策を立てるしかないでしょう。」
「そうね。」
 カウンターで攻撃を叩きこんでみる。タイムラグがあってダメージにならない。
「さっきみたいにおとりになるから、来る瞬間を見切って攻撃して。」
「了解・・・。」


 互いに地道にじりじりと撃ち合っている内に、変化の兆しが訪れる。
「・・・・・・!!」
 ゾクリとした感触がシンディを襲う。凄まじいプレッシャーがかかる。
「一度下がって!!」
 全軍に通達する。何事か、と怪訝に思いながらも、素直に下がる兵達。だが・・・。
「我々が圧しているのに、何故下がらねばならないのですか!?」
「理由を説明してる暇はないわ! 死にたく無かったら、早く下がって!!」
「ここは攻める時ではないんですか!?」
 ゲイリーが、やはり噛みついてくる。彼に従う小隊が、全員残っているのだ。
「臆病者でもなんでもいいから、下がって!」
 だが、すでに彼等は突出しすぎて下がれそうに無い。また、下がる気もない。
「やはり、話にならないな。」
 シンディをせせら笑いながら、一気にスロットルを踏みこむ。
「ああ、もう!!」
 舌打ちしたいのを必死にこらえ、彼等が少しでも生き残れる可能性を考える。
「手のあいてる人は、彼等の退路を確保するのを手伝って!」
「なんでバカのために、こんな苦労を・・・。」
 持てる火器を全開で叩きこみ、囲んでいる相手に地道にダメージを与えていく。だが・・・。
「駄目! 来る!!」
「何が来るって!?」
 嘲笑うような声。それがゲイリーの最後の言葉であった。何の前触れもなく、機体が四散する。誰もが、何をされたのか分からない。
「だから・・・、言ったのに・・・。」
 泣きそうな声で、小さく呟く。始めての部下の戦死。
「グレイ、シェラ、アル・・・。」
「分かってる。」
 アルが、シェラとセットで副官のほうに移動を開始する。グレイは、すでに敵の指揮官になにかを叩きこむ準備をしている。
「他の人は、私達が接近するための援護をして!」
「了解しました。」
 静かだった攻撃が、いきなり激しさを増す。また、プレッシャーが来る。斬撃を飛ばして、注意を引く。
「位相兵器か・・・。案外、侮れないな。」
 銀髪の男が、通信を送ってくる。
「どうやら、貴様が指揮官のようだな。ならば、叩かせてもらおう。」
 白銀の指揮官機からのプレッシャーが自分に集中するのが分かる。
「来なさい! そんな攻撃は通用しないことを、教えてあげる!!」
 圧力がかかる。全てをねじ伏せようとする意思。こちらを否定し、存在しないことにしようとする力。
「くう!」
 だが、原理が分かってしまえば耐えることもできる。
「ほう? コキュートスを防いだか・・・。」
「単なる幻術なんかに、引っかかってあげない。」
 突如、指揮官機を氷の龍が襲う。
「小賢しい!」
 龍を振り払う。その隙をついて斬り付ける。腕一本を切り落とす。
「やってくれるな・・・。私はラムザス・アレクトール。貴公の名を聞こう。」
「シンシア・マクガルドよ。」
 次の一撃を決めるために、じっと相手を見る。
「・・・!!」
 斬撃をかわしそこなう。左腕が切り落とされる。見えていたのにかわせなかった。微かな、だが致命的な遅れ。厳しい戦いを覚悟しながら、シンディは相手を睨み付けた。


「先ほど、四人ほどを除いて全員が下がったのは、貴公の指示か?」
「ええ。全員は従わせられなかったけど・・・。」
 闘志の衰えぬ目で相手を睨み付けながら言う。
「コキュートスで4人しか仕留められなかったのは、始めてだ。効果範囲が分かっていたのか?」
 シンディの攻撃をはじきながら聞く。
「貴方の攻撃は、全部見えてる。どこが安全圏かも。」
「なるほど。だが、残念ながら機体性能がついて行かないようだな。」
 右足が斬り捨てられる。グレイの援護がないと思ったら、他の相手を牽制するので手一杯のようだ。
「実に残念だ。ガルバードに来れば、そのような不自由な目には会わずにすむ、というのに・・・。」
「お断り、ね。」
 サイフレックスをぶつけながら言う。
「心の底から、残念だ・・・。」
 周囲を見る。すでに囲まれていて、逃げ場はない。死者はあれから出ていないが、被害もバカにはならない。一つ、決意をする。
「全軍に通達。退却しなさい!」
「バカな事を!」
「大体、あんた達はどうするんだ!?」
 あちらこちらから、悲鳴が上がる。
「残念ながら、もはや突破することも出来ないわ。」
「まだだ! 俺達が残っている!」
「負け戦に付き合う必要はないわ。」
 そう、負け戦である。双方の被害を考えると、とても対等とは言えない。こちらは大事なパイロットが4人。それに対し、相手の被害は全て無人機である。
「グレイ、アル、シェラ、突破口をつくるから、引きなさい!」
「そいつは聞けねえな。」
 氷の牙で2機、粉砕しながらグレイが言う。
「折角拾った命だ、ここで死に急ぐことも有るまい。」
 アクセルが、突如割りこんでくる。
「突破口は、こっちで作ってやるよ。さっさと戻って来い。」
「どうやって!?」
「お前さんと同じさ。奥の手を使う。ただ、お前さんと違って、誰も死なないがな。」
 グレイロックのエネルギー反応が大きくなる。
「間違っても、射線上には立つなよ。」
「いったい、なにを・・・。」
 甲板が外に広がる。
「グレイロックキャノン、発射!」
 ロックバスターとは、比較することすらむなしくなるほどの出力のビームが、敵の密集地帯を焼く。
「惑星破壊砲か!?」
 ラムザスがうめく。
「どうだ、突破口は出来ただろう?」
 にっと笑ってアクセルが言う。
「了解・・・。」
 呆れながら、ドラグーンを掴んで一気に加速する。余剰エネルギーのおかげで、ドラグーンを抱えていてもスペック以上の加速ができる。
「今回は貴公らの活躍に免じて引こう。」
 白銀の機体が身を翻す。
「おう。とっとと立ち去りな。」


 着艦すると同時に、サイフレックスのもう一本の足も砕ける。
「どうやら、限界だな・・・。」
 アクセルが呟く。内部からの圧力と戦闘のダメージで、すでに原型を留めていない。残りの3機も似たり寄ったりである。もはや、修理だなんだのレベルを超えている。
「く!」
 出てきたシンディが、壁を叩く。初めての敗北。悔しさに涙が滲む。
「・・・勝てなかったな。」
 正直なところ、連射の出来ないグレイロックキャノンなど、何の脅威にもならない。不意打ちだったからこそ、相手を追い返せたのだ。
「アクセル・・・。」
 結局、なにも出来なかった自分がもどかしい。その上、指揮のまずさで死人すら出している。色々なことに、泣けて来る。
「先に言っておくが、サイフレックスをもう1機造った所で、結果は同じだ。」
 分かっているが、そう簡単に割り切れるものでもない。すでに堪え切れなくなって溢れ始めた涙を悟られまいと、下を向く。
「2週間待て。2週間で、お前達にふさわしい物を用意してやるよ。」
 嗚咽をこらえる少女の肩をぽんと叩くと、アクセルが言葉を続ける。
「今日のところは盛大に泣きな。」
「うん・・・。」
 その後、その日は誰もシンディの姿を見なかった。
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