中央改札 交響曲 感想 説明

テオリア星系戦記 第16話 新型
埴輪


 連日、ニュースではガルバード帝国軍の報道ばかりが流れている。
「何も出来ないのって、結構歯がゆい物ね・・・。」
 雑誌をぱらぱらめくりながら、シンディが言う。トレーニングを終えたばかりらしく、髪の毛が濡れている。
「だな・・・。」
 シンディの呟きに、のんびりと答えを返すグレイ。彼等が事実上敗北した時の報道も、結構酷い物があったが、戦況はそんな報道がかすむほど厄介な状態である。
「そう言えば、一つ噂を聞いたんだが・・・。」
「なに?」
「AS−0シリーズを量産するんだと。」
「へえ・・・。」
 どうやら、戦局はそこまで押されているらしい。
「コスト、あうの・・・?」
「どっかの誰かさんの無茶に付き合ってる内に、十分採算があうようになったんだと。」
「へえ・・・。」
「最初のロットのロールアウトが、もうじきだってさ。」
 とはいえ、性能だけで行けば革命軍が投入していた最新型、シャールのほうが上なのだが・・・。
「あ、その噂、聞いたことがある。」
 シェラが割りこむ。
「どうも、アタシたちが使ってたオリジナルよりも、性能的には上になるんだって。」
「普通、量産型がオリジナルに負けてちゃ、量産する意味がないでしょ?」
 呆れて言うシンディ。
「只、サイフレックスについては、パイロットに依存してる性能が多すぎて、総合性能はオリジナルほどは行かないそうだけど。」
「ふーん・・・。」
 とは言えど、今足りないのは火力であり、機体の性能ではない。更に言えば、シュヴァイクでも無人機ぐらいは撃破出来る。かなりの工夫と努力と腕が必要だが・・・。
「さて、俺達はいつまでこうしていればいいのやら・・・。」
 いまいち、士気の上がらないブリーフィングルーム(別名、憩いの広間)を見て呟くグレイであった。


 グレイロックに4つのコンテナが搬入されたのは、約束した日の3日前であった。
「予定より、早くない?」
「馬鹿野郎、最終調整が必要なんだよ。」
 シンディの台詞に、苦笑しながら突っ込みを入れるアクセル。
「それとも、ぶっつけ本番で使うつもりだったのか?」
「そんなに、操作系なんて変わらないでしょう?」
「そりゃそうだと思うがな。」
 だが、乗用者などとは比べ物にならないぐらいデリケートなシロモノだ。シェイクダウンだけでなくパイロットとの調整もしっかり行っておかないと、まともに使えはしない。
「てな訳で、とりあえず基本設定をするから、全員を集めてくれ。」
「了解。」
 5分とかからず、全員が集合する。
「お前達のために、新型のAS−1シリーズを用意した。とはいえ、結構ぶっつけになってる部分もあるから、せめて調整だけはしっかりしておきたい。」
 後ろで、コンテナが開かれる。中から出てきたのは、見た目にはAS−0シリーズの面影を残しつつ、更に洗練された印象を与える外見の機体であった。
「ふーん? これが?」
 シンディが聞く。
「ああ。まず、アルの機体が緑のヤツ、AS−13デューブレイドだ。」
 緑と白で全身を飾った、巨大な剣を持つ機体だ。最も、剣と言ってもどうやらエネジーソードの類のようだが。
「コンセプトは、AS−03と同じか?」
「ああ。基本的に、コンセプトはAS−0シリーズと同じだ。」
 見た目通り、格闘、白兵戦を主体としている、と言う事である。
「で、シェラのヤツがAS‐15シュツルムプリンツェズィン、赤いやつだ。」
 巨大なバーニアに全身のスラスター、そしてきわめつけは巨大なキャノン砲という、鋭角的な印象を与える機体である。情熱的な赤い衣に身を包んでいる。
「グレイのが黒いヤツだ。AS−17フェストハルゲンという。」
 甲冑を思わせるがっしりとした装甲に身を包み、黒衣のパワードシェルはたたずんでいた。
「ってことは、私のはあの青いやつ、ね。」
「ああ。AS−19グランセイバーだ。」
「でも、武器がついてないんだけど・・・。」
「すぐ分かる。そういうわけだから、各員指定された機体に乗り込んでくれ。」
 言われたとおり、新型に乗り込んでいく。まだシートカバーも外れていない。正真正銘の新品だ。
「まずは基本設定からやっていく。先に言っておくが、こいつ等はお前たちに合わせて造ってある。相互での乗換えはできねえ。」
「どうして乗り換え出来ないの?」
「一部のシステムの調整の問題だ。特にグランセイバーはシンディ以外にゃ起動もできねえ。他のは戦闘ぐらいまでは出来なくもないが、使える武装が極端にへる。つまり、事実上の専用機だ。」
「へえ、豪気だねえ。」
 感心したようにグレイが言う。
「乗換える必要もあるまい。」
「そうだな。」
 指定された操作を行っていき、マッチングを取っていく。
「でも、ずいぶんマッチング設定の必要な項目が多くない?」
「そう言うシロモノだからな。」
 シェラの問いかけにあっさり応えるアクセル。それから、軽口を叩きながら次々に設定をしていく。
「後は、さっきもシェラが言ったようにマッチング調整だ。気長にやってくれ。」
 そう言って席をはずすアクセル。彼等の作業は、まだ続きそうだ。


「また、ずいぶんとデリケートな・・・。」
 シンディが呆れたように言う。
「とにかく、システムを起動させてください。」
 言われたとおりに、システムを起動させる。次の瞬間、慌ててシステムを切る。
「な、なに今の・・・。」
 寒気がするほどの一体感、引きずりこまれるような感覚。思わず、身震いをする。
「ど、どうかしました?」
 それには答えず、通信機でアクセルを呼び出す。
「なんだ、シンディ?」
「一体、何をつくったの・・・?」
「それは、本番までのお楽しみだ。しかし、ずいぶん怯えてるようだが?」
「引きずりこまれるかと思った・・・。」
 青ざめるシンディに、ふむと一つ呟くと、
「とりあえず、ゲインを絞ってから起動してみたらどうだ?」
「そうする・・・。」
 言われたとおり、ゲインを絞ろうとする。その時・・・。
「どうやら、貴公にあった服を手に入れたらしいな。」
 ラムザスの通信が、シンディのもとに、いやグレイロック全体に入る。
「シンシア・マクガルド殿。貴公に改まって勝負を挑みたい。数は問わぬ。互いに、最もやりやすい編成で一勝負、しようではないか。」
 シンディの顔が険しくなる。
「アクセル・・・。」
「なんだ?」
「マッチングって、最低どの程度取れてればいいの?」
「そうだな・・・。今のままでも全兵装は使えるはずだ。」
 それを聞いたシンディがうなずく。
「そちらの都合にあわせてもいいが、あまり長引くのも困る。貴公らのすぐ近くで待っているので、なるべく早く出てきて欲しい。」
「レーダーに敵影多数!!」
 どうやら、言った通りすぐ近くに部隊を展開しているらしい。
「総員、出撃準備!!」
 シンディが間髪入れずに叫ぶ。
「待て! シンディ!!」
「連中がこちらを攻撃してくるとは思わない! でも、他の人間が手を出す可能性はある!」
 ぐっと詰まるアクセル。
「だが、まともに調整もせずに出ても・・・。」
「この程度マッチングが取れてりゃ、通常戦闘ぐらいはこなせる。」
 アルが割りこむ。
「大体、突入戦とかの時に比べてはるかに状態はいいよ。」
 シェラも同意する。
「全く、好戦的な連中だ・・・。」
 グレイもなにかを言い出しそうだったため、アクセルは苦虫を噛み潰すような顔になる。
「そう言うわけだから、総員出撃!!」
『了解!!』
 こうして、新型機の初陣が始まった。


 グランセイバーのシステムを起動する。低い唸り声をあげ、各部にエネルギーを注ぎこむ。いきなり吸い込まれそうになる。
「しつこい!!」
 シンディが一喝する。吸い込まれるような感触が消え、ある種の開放感を感じる。
「行くわよ! グランセイバー、出撃します!!」
 最初から蒼い光を全身にまとい、凄まじい加速で飛び出していく。
「シンディ! グランセイバーに武器はない! 武器は自分で作るんだ!」
 アクセルからの通信が入る。その間にも、次々と出撃していく。
「了解!」
 見ると、シュツルムプリンツェズィンが突出している。
「シェラ! 突出しすぎ!!」
「ってことは、これレーダーの故障じゃないんだ!?」
 逆噴射で、急激に速度を殺す。
「スロットル、1割も開いてないのに・・・。」
「とてつもない性能だな・・・。」
 自分が乗っているのが、とんでもない暴れ馬だ、ということはすぐに気がついた。
「なんとか乗りこなすしかあるまい。」
 無人機が数機、進路を妨害する。
「邪魔だー!」
 シェラが、手首に仕込まれていたエネジーシューターを発射する。バリアをぶち抜いて、2機沈める。
「うそ・・・。」
 撃ったシェラ自身が、びっくりまなこになる。
「ぼさっとしない!」
 シンディが激を飛ばしながら、掌に蒼い光を集める。
「えい!!」
 集めた光をサイドスローの要領で投げつける。1機撃破。
「とはいえ、武装の正体がわかんねえって言うのは、不便でしょうがねえな・・・。」
 ぼやきながら、グレイが適当にバズーカをぶっ放す。炎の帯が、敵を焼き尽くす。
「しかも、どいつもこいつも洒落ですまない破壊力だ・・・。」
「やはり、無人機ごとき出は相手にならんか・・・。」
 白銀の機体が、前に出てくる。後ろでごちゃごちゃ言っているようだが、完全に黙殺する。
「多分、この前みたいには行かないわ。」
「だろうな・・・。」
 桁外れに増した威圧感を受けながら、ラムザスが応える。
「シンシア・マクガルドよ、ラムザス・アレクトールとズィーベンがお相手致そう!」
「グランセイバー、受けてたつわ!」
 蒼い光を剣の形に固定し、切り結ぶ。
「く!」
 押しきられそうになって、衝撃波を叩きこむ。表面ではじけ散る。
「なに!?」
「効かない!」
 もう一本作った剣を、一つに束ねて大剣にする。
「くう!!」
 もう一撃、フェイントからの斬撃をヒットさせるものの、効果がない。蒼い光を貫いた物の、装甲表面ではじかれたのだ。
「降伏するなら、今のうちよ!!」
「そう言うわけにはいかん!」
「この分からずや!!」
 捕虜になるようなタマではないだろう。だったら、結論は一つである。
「これで、終わりよ!!」
 光の大剣が、ズィーベンを一刀両断にする。
「見事だ・・・。」
 それが、ラムザスの最後の台詞であった。


「あれは、一体なに?」
 戦闘中は無視していた疑問を、直接アクセルにぶつける。
「ぶっつけのわりには、偉く上手く動いてたな・・・。」
「質問に答えてない。」
「グランセイバーは、サイフレックスのデータをもとにした新システム、フォース・システムを採用した。ジェネレーターも基本的には、同じシステムだ。」
 システム名を言われても分からない。
「で、それはどう言うシロモノなの?」
「簡単に言うと、精神力をエネルギーにして、武器を形成するシステムだ。無論、そのままでは微弱すぎるから、増幅はしているが・・・。」
 額を押さえる。
「じゃあ、なに? そんなあやふやなシロモノで、あれだけの破壊力を出してたの?」
「ああ。だが、ジェネレーターまであやふやなのは、グランセイバーだけだぞ。」
「でも、変なシステムは使ってるんだろう?」
 グレイが割りこむ。
「どうしてそう思うんだ?」
 その言葉に、苦笑を浮かべて答える。
「どう考えても、既存のジェネレーターではあそこまでの出力は出ない。」
「エネジーシュータの出力が、ロックバスターを超えていた。最も、範囲はエネジーシューターの物だったがな。」
 二人の言葉に、あきらめたように言う。
「ああ。お前等の機体のジェネレーターは、動作原理からして別もんだ。」
「というと?」
「AS−13には超弦炉、AS−15には縮退炉、AS−17には相転移炉を積んである。」
 その言葉に、全員目が点になる。
「は? ちょっと待て・・・。」
「あのサイズまで小型化するの、大変だったぞ。」
「縮退炉に相転移炉に超弦炉、だと?」
 アルが眉を動かす。
「ああ。だから、どの機体も惑星破壊砲ごとき、何発でも撃てるぞ。それに、だ。AS−15の場合、出力を全部推力に回せば、瞬間的には光速を超えられるはずだ。」
「そ、相対性理論を無視してるよ・・・。」
「気にするな。ちょっとしたフェイクをかましてあるだけで、相対性理論を無視してるわけじゃねえよ。」
 どうやら、新型機は無茶な性能を抱えているらしい。
「まあ、AS‐19だけは性能の予測が全く出来ないんだが、な。」
「へえ?」
「何せ、武器を積んでいない、ジェネレーターも個人差がデカイ。どう予測しろ、と?」
「まあ、そうだけど・・・。」
 返事に困る。
「実際、期待値をしょっぱなからぶっちぎってたしな。」
「そう言うシステムなんでしょ?」
「まあな。さて、今のままじゃ70%程度の性能しか出てないはずだ。とっとと調整をすませて来い。」
 こうして、新型の初陣は、敵味方共に鮮烈な印象を与えて幕を閉じた。
中央改札 交響曲 感想 説明