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テオリア星系戦記 第17話 帝国
埴輪


 ガルバード帝国の、謁見の間。
「シンシア・マクガルドの部隊の、データは取れたか?」
 玉座に座る男が、重々しく口を開く。
「はい。半分は推定になりますが・・・。」
 新型の初陣から2週間。シンディ達の名は、ガルバード帝国にまで知れ渡っていた。
「聞かせてみろ。」
「は。まず、4機共通して言えるスペックとして、惑星破壊砲クラスの出力を有している物と思われます。また、最低でも秒速一万キロクラスの推力を有しているものと見られます。」
「・・・無人機や一般兵では、話にならんわけだ・・・。」
 並んでいた幹部の一人が呟く。
「また、うち2機は超新星爆発クラスの火力を持つ兵器を有しているようです。」
 ざわめきが広がる。
「化け物、だな。だが、その火力が120%活かせる状況など、無いも等しいだろう。」
 実際、それだけの火力だと、障害物が多い星系内ではまともに使えない。また、撃てる状況になってしまった場合、対策を考えるだけ無駄である。
「それと残念ながら、シンシア・マクガルドの機体に関しては、十分なデータを取ることは出来ませんでした。」
「あれだけのドローンを無駄にしておいて、十分なデータが取れなかった、だと?」
 幹部の一人が、冷たい目を調査員に向ける。
「残念ながら、ドローンでは、大抵において最初の一撃で勝敗が決してしまい、そうでなかった場合も、格闘型にいいようにあしらわれるのがつねとなっております。」
「分かっていることだけでも、申してみよ。」
 皇帝らしき男が、静かに言う。
「は。とは申しましても、せいぜい、常に強力なフィールドを発生させている、ということと、そのフィールドを様々に変化させて攻撃を行っている、ということだけです。最大射程、UNKNOWN。最大火力、UNKNOWN。防御力、UNKNOWN。何もかもが謎に包まれています。」
「常勝不敗だった我が銀翼突撃部隊が全滅したのだ。このままでは、終るまい。」
 皇帝は、玉座から立ち上がると、次の指令を出した。
「レンドリア。貴公が出られよ。」
 美貌の青年に向かって、言う。その言葉に、ざわめきが広がる。
「いきなりレンドリア将軍を、ですか!?」
 ガタイのいい男が、それを聞いて顔色を変える。
「強者に強者をぶつける。なにか問題でも?」
「レンドリア将軍が出るまでもありません! このゴルドバめが!!」
 それを、先ほどの青年が手で制す。
「陛下はこのレンドリアを指名されたのだ。貴公らには、私が失敗した時の後詰を頼みたい。」
「ですがレンドリア将軍! 敵のデータが不明な今、どんな不覚を取るかわかりません!」
 ゴルドバが言う。
「あなたを失うわけにはいかないのです!!」
 レンドリアと同じぐらい若い将軍も、それに口添えをする。
「私がたとえ敗れて死のうとも、それによってデータが分かればそれ以上の被害は防げる。」
「将軍!!」
 それを聞いていた皇帝が、苦笑を浮かべる。
「これでは、余が悪者のようではないか。」
「そんな、滅相もない!!」
「それに、だ。万が一にも、これ以上有能な部下を失いたくはない。確実に生還できる者を選ぶ、ではいかんか?」
 そう言われてしまっては、反論できない。
「そう言うわけだ。任せたぞ。」
「は!」


「ずいぶん、スコアが溜まったな・・・。」
 アルが、シェラとグレイの戦績を見て呟く。
「不意打ちでビッグバン・キャノンを撃ってるだけ、なんだけどな・・・。」
 呆れたようにシェラが言う。ビッグバン・キャノンとはシュツルムプリンツェズィンに装備されている最大火力の火器で、最大効果範囲1天文単位、恒星すら跡形もなく吹っ飛ばせると言うシロモノである。
「おかげで、ここのところすごく楽よ・・・。」
 シンディが、面倒臭げに答える。
「フェイズマッシャーと言い、ビッグバン・キャノンと言い、どうしてこう、問答無用なんだろうな・・・。」
 グレイの呆れたような言葉に、苦笑を返すしかないシェラ。因みに、フェイズマッシャーとは所謂相転移砲のことであり、フェストハルゲンの武器の一つである。威力、範囲は大体ビッグバン・キャノンと同じぐらいである。
「笑い事じゃねえぞ。そこらへんの武器のせいで、デューブレイドとグランセイバーのデータがほとんど集まってねえ。特にグランセイバーのデータ不足は、かなり深刻だ。」
「造った張本人の癖に。」
 口を挟んだアクセルに、シェラが口を尖らせて言う。
「なんにせよ、いつまでも今の状態は続かないわ。」
「どうして?」
「指揮官クラスの人間は直接出撃してない。どうやら、最初の連中を派手に叩いたのが、相当効いてるみたいね。」
 眉を動かすアクセル。
「あの数で、単なる偵察だって言うのか?」
「ええ。全部無人機。それもAI操作。更に言うと、相手がどこから出てきたのかも全く分からない。」
 それについては、アクセルが答える。
「連中は、違う星系の人間だ。」
「違う星系?」
「ああ。」
 それを聞いて、真剣な顔で聞きかえす。
「相手は、星系間航行技術を持っている、というの?」
「ああ。お前さんが全滅させた先陣部隊、その母艦にワープ系のシステムが積まれていた。」
「なるほど、それだけ技術で遅れていれば、勝てはしないわね。」
 納得するシンディ。
「実際のところ、技術レベルで勝っている可能性があるのはこの部隊のシェルだけだ。グレイロックキャノンをぶち込んだ時にしても、せいぜい相手の油断をついただけだしな。」
 少し考えこむ。
「だったら、すぐに相手の本拠地に乗り込んで叩く、というのは不可能ね。」
「ああ。第一、連中もわざわざ遠く離れたテオリア星系を占領してどうするつもりか、ってのもよくわからんしな。」
「なんにせよ、しばらくは出てきた相手を叩くしかないってことね。」
「そうだな。」


 雑誌を読んでいたシンディは、ふと気になったことをアクセルに聞く。
「アクセル、どうしてAS−1シリーズのことを伏せてあるの?」
「あんなヤバイもん、堂々と一般公開できるか?」
「・・・・・・。」
 納得の一言である。
「もう一つだけど・・・。銀翼突撃部隊は、どうやってあんなに早く新型をかぎつけたのかしら?」
「どうやら、お前さんがマッチングのためにグランセイバーを起動させた時に出たエネルギー、あれを察知したらしい。」
 へ? という顔をするシンディ。
「ゲインの搾りが足りなかったせいでだな、暗闇でフラッシュでもたいたみたいになったらしいんだ。」
「迂闊だった、わけね。」
 一歩間違えれば、全滅の憂き目にあっていたに違いない。
「だが、実際のところ、自分で作っといてなんだが、予想以上に化け物じみたシロモノになってるな。」
「人事のように言わないでよ。」
 思わず苦笑を浮かべる。
「知るか。俺が作ったのは入れもんだ。中身が化け物じゃなきゃ、化け物にはならねえよ。」
「化け物って、俺達もか?」
「なんか、納得いかない。」
 グレイとシェラが、ブーイングをとばす。
「あの性能なら、よほど下手なパイロットでない限り、あの程度の戦果は出せるが? まあ、1機を除くが・・・。」
 アルも、とりあえず抗議の声を上げる。
「全力の7割も出して無えくせに、よく言うよ。」
「・・・みんな、なにか言いたそうね。」
 多分、一番納得がいかなかったのは彼女であろう。


 その連中は、唐突に現われた。
「戦艦グレイロックに告ぐ。決闘に応じられよ!」
 正面から宣戦布告をしてくる。
「考えやがったな・・・。」
 周囲にステーションなどがあるため、大口径火器で一掃、という手段は使えない。
「で、どうしたもんだと思う?」
「受けて立つしか、選択肢は無いわね。」
 踵を返し、ハンガーに向かう。
「しょうがねえか・・・。」
 各員に戦闘態勢を整えさせようとする。
「アクセル。」
 シンディから通信が入る。もうグランセイバーのコクピット内だ。
「なんだ?」
「こちらから通信、入れられる?」
「ああ。で、なんて送るんだ?」
「指揮官どうしの一騎打ちならば決闘に応じるって、送り返しといて。」
 さらっと爆弾発言をする。
「シンディ!!」
「派手などんぱちは出来ないんでしょ? だったらこれが一番じゃない。」
 理屈はわかる。残念ながら分かる。だが・・・。
「そろそろ仕事をしなきゃ、給料泥棒になっちゃう。」
「シンディ、いくらなんでもそいつは・・・。」
「そんなに、私が信じられない?」
 じっと見詰めてくる。
「私とグランセイバーの出した結論が、そんなに気に食わない?」
 小さく息を吐く。
「分かった。今回は、全部お前さんに任せる。」
「ありがとう。」


「さすがは音に聞えしシンシア・マクガルドだ・・・。」
 思わず感心してしまう。
「将軍、どうなさいますか!?」
「受けて立つ、と伝えてくれ。」
 レンドリアは、微笑みながら応える。
「御意!」
 自らの愛機のもとに歩いていく。
「久方ぶりに、血が騒ぐ・・・。」
 25歳にして幾多もの修羅場を潜り抜けた美貌の将軍が、歓喜にふるえる。
「シンシア・マクガルドよ・・・。貴公は我が宿敵に足る相手か?」
 胸が高鳴る。まるで恋人に会いに行く時の様に、心がうきうきする。最も、恋人云々というには少々物騒ではあるが。
「セイクリッド・エッジ、出るぞ!!」
 純白の機体が、唸りを上げて出撃する。宇宙が広がる。セラフィールドもガルバードも、宇宙は同じだった。


 プレッシャーが近付いてくる。どうやら、馬鹿正直に1機で出てきたようだ。とはいえ、こちらも単機で出てきているので人のことは言えないが。
「貴公がシンシア・マクガルドか?」
「人に名を尋ねる時は、まず自分が名乗るべきなんじゃないかしら?」
「これは失礼した。私はレンドリア・コーウェル。第1師団団長をさせていただいている。」
「シンシア・マクガルド。セラフィールド共和国宇宙軍機動兵器隊、ASチーム所属。階級は少佐。」
 そこまで言って剣を構える。
「最も、こんなことはとっくに調べはついているでしょうけどね。」
「ああ。手に入るデータは全て手に入れている。だが、資料も存外あてにはならんな。」
「どうして?」
 レンドリアのほうも剣を抜く。
「実物が、これほど美しいとは思わなかった。あの資料は、ずいぶん御粗末な映像を使っていたようだな。」
「こっちもちょっと意外だったわ。貴方みたいな大物が、しかもこちらの挑戦に応じて単機で出てくるとは思わなかった。」
「貴公がこれほど勇敢だとは思わなかった。これも資料には無かったことだ。」
 互いに剣を打ち合わせる。
「では、いざ尋常に・・・。」
「勝負!!」
 真剣勝負の幕が、切って落された。


 ぶつかり、切り結び、又はなれる。幾度となく繰り返される競り合い。
「見事だ!!」
「ありがとう。」
 蒼い光の刃と白銀の刃が競り合う。もう、何度めになるだろうか・・・。
「同じパターンばかりも、芸がないかな?」
 シンディが呟き、思いつきで1発、叩きこんでみる。
「煉獄の炎よ、枷より出でて焔となれ!!」
 距離をとって詠唱を完了させる。
「フレア・ガイスト!!」
 蒼白い炎が、幾筋もの火柱となってセイクリッド・エッジを焼く。
「ぐう!!」
 煉獄の焔を辛うじてマントで払いのける。
「見事な技だ! ならば私も応えなければなるまい!」
 剣を振るい、魔法陣を描く。
「来れよ、勇者の魂よ! 我が力となりて敵を打て!」
 白の光があふれ出る。
「リーン・カルナシオン!!」
 光がグランセイバーを焼く。青いフィールドを貫き、装甲に焦げ目をつける。
「技、ね。」
 体勢を立て直しながら、相手を素直に賞賛する。
「じゃあ、こういうのはどうかしら!」
 同じ魔法を詠唱する。だが・・・。
「フレイムブレード!」
 発動した魔法は剣と一体化し、刃に化ける。
「新たな技か・・・。色々と魅せてくれる!」
 剣を構え、不敵に笑うレンドリア。
「ならば、こちらも最高の一撃で応えよう!」
 気が爆発的に膨れ上がる。
「駆け抜けろ、死への道を!!」
 必殺技を発動させる。影が幾重にも走る。
「デッドリー・ドライブ!!」
 幾多の分身と共に駆けぬける。正面からぶつかり合い、お互いを大きく弾き飛ばしあう。
「どうやら、正解だったようだな・・・。」
 自機のダメージを見て呟くレンドリア。
「だが、デッドリー・ドライブでも無理だったか・・・。」
 そこには、ダメージこそ受けているものの、まだまだ健在なグランセイバーの姿があった。
「強敵、ね・・・。」
 衝撃で切った唇をなめ、呟く。
「後思いつく手段は・・・。」
 見ると、真っ直ぐこちらに向かってくる敵機の姿が・・・。
「そうだ!」
 それを見て、不意に閃く。
「フォースフィールド全開! 推進力フルパワー!!」
 射軸を向かってくる敵に合わせる。
「軸あわせ完了、アフターバーナー全開!!」
 アフターバーナーなどと言うものは存在しないのだが、後方に放たれる蒼い光が、擬似的にその役目を果たす。
「いくわよ! フォース・クラッシュ!!」
 矢のようなスピードで突撃を開始する。
「デッドリー・ドライブ!!」
 再度、必殺技の衝突が起こる。
「がは!!」
 今度は、セイクリッド・エッジが一方的に、大きく跳ね飛ばされる。跳ね飛ばされ、自分の母艦に衝突する。双方に、馬鹿にならない損害を与える。
「結構、いい感じかな?」
 手応えから、そう評するシンディ。
「見、見事だ・・・。」
「それはどうも。」
 体勢を立てなおしながら言う。
「今回は、私の負けのようだ。」
 こちらも、体勢を立て直しながら言う。
「ここは退かせてもらう。次は、指揮官としての貴公の実力を見せていただこう。」
「はいはい。」
 止めを刺しに走ってもいいが、大部隊でも出された日には面倒でしょうがない。指揮官を叩いたからと言って烏合の衆になるとは限らないことは、銀翼突撃部隊が証明してくれた。要は練度の問題である。
「いつでも、相手になってあげる。」
 それだけ言い捨てると、シンディもグレイロックに帰還したのであった。
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