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テオリア星系戦記 第18話 哨戒
埴輪


「へー、今度シュヴァイクがリニューアルされるんだって。」
 パワードシェルのカタログをめくっていたシェラが、そんなことを口走る。
「さすがに、あれももうロートルだからね。」
「しかも、正規の状態で動いてるやつなんざ、1機もないって噂だしな。」
 同じくカタログをめくっていたグレイが口を挟む。
「あ、聞いた事ある。なんか、即席のサブジェネレーター載せて、ロックバスターを撃てるようにした奴とかが、頑張ってるんだって。」
 3発撃てば暴発の可能性がある、というモジュールの欠陥はすでに克服されているが、所詮は即席のジェネレーターである。3発も撃てば、ジェネレーター自身が爆発する可能性がある。
「数投入できる売りを生かして、随分むちゃやってるみたいだよ。」
 2発撃っては次のと交代し、もしくは強制冷却剤をぶちこめるだけぶちこんで6連射、などという荒業を行って、なんとか前線を持たせているのが現状である。
「こりゃまたすげえな・・・。」
「なに?」
「60ミリスナイパーライフル、だと。」
 生身では小さな大砲ぐらいの口径でも、パワードシェルには塵同然である。
「ちょっと見せて。」
 興味を引かれたシンディが、グレイの見ていたカタログを見せてもらう。
「なに、これ・・・。」
「な、すげえシロモンだろ。」
「バレルの長さが30メートルって、こんなもので射軸が安定するの?」
「するんじゃねえか?」
 弾速を稼げるだけ稼いで、破壊力を伸ばそうと言う考えらしいのだが・・・。
「第一、このバレルの長さを全部加速に生かそうって言うんだったら、相当な爆圧がなきゃいけないけど、たかが60ミリぐらいの弾頭でその爆発に耐えられるの?」
「実際に有効なのは、せいぜい半分ぐらいの距離だろうな。だが、結構効果はあったみたいだぞ。ブツが小さいから、デブリと区別がつきにくいし、15から20メートルも加速に生きてりゃ、弾速は相当なもんだ。連中がバリア系のシステムを発動させる前にダメージを与えられてるみたいだな。」
「問題は、こんなもので何発も攻撃は出来ない、ってことよね。」
 流れ弾1発で使い物にならなくなるし、こんな目立つ構造物を見逃す馬鹿は射ない。
「後はリニアレールガン、か。」
「インパクトキャノンを無反動で撃てる、っていうのが売りみたいね。」
 だが、さすがに先ほどのライフルほどのインパクトはない。
「これ、全部現場で作ったものを再設計して売り出してるもんだな。」
「手抜きね・・・。」
 呆れるシンディ。
「ま、現場の意見も無視はできねえ、ってことだろ?」
「そんなもんかしら?」
「そんなもんだろ。」


 哨戒任務中のアルは、奇妙な反応を拾った。
「パターン適合、無し。」
 SOSとも違う、だがどこの軍の信号とも違う物だ。民間で使われているものでも無い。
「デコイを射出するか・・・。」
 射出したデコイが消滅する。センサーでチェック。どうやら囲まれているらしい。通信妨害。
「実力で跳ね除けろ、ということか。」
 マントを翻し、最も敵反応の密度が高い場所に突っ込んでいく。
「甘いな!」
 飛んでくる破壊光線を全て回避し、トラップを次々破壊しながら進んでいく。
「妙だ・・・。」
 手応えがない。無さすぎる。
「と言うことは・・・。」
 後に何かがあるはずだ。迷わずスロットルを全開にする。瞬時にして、秒速12万キロまで加速される。ちょっと接触しただけで、どんな構造物でも道連れに消滅できる速度だ。最も、それで壊れないための装備がいくつも施されているが。
「あれが、罠か・・・。」
 エネジーソードの刃を収める。
「斬ってみるか・・・。」
 目の前に現われた巨大な球体に、速度を落さず接近する。
「ヴァニッシュセイバー、起動!!」
 パワードシェル大の刃が現れる。
「斬空剣!!」
 そのまますれ違うように斬り捨てる。
「中途半端に、脆いな。」
 時空そのものを切り裂く刃を受け、あっさり両断される。背後で爆発。前方からミサイル。射軸をずらしてかわし、そのまま振りきる。
「本気で手応えがない。」
 新たに現われた球体をぶった切りつつ、ひとりごちる。
「とりあえず、帰ってから考えるか。」
 この後、アルが斬った球体は14個だった。


「罠にかかった?」
「ああ。とりあえず突破してきたが・・・。」
「何か気になるの?」
「妙に手応えが無かった。」
 あれでは弱すぎる。
「とりあえず、記録を見せてもらえるかしら?」
「了解した。」
 克明に記された記録を見て、シンディも首を傾げる。
「まるで突破してくださいといわんばかりの配置ね。芸が無さすぎるわ。」
 本命は薄いところに居たのだろうか? だとしても、芸がない。あのレンドリアが、そんな芸のない真似をするだろうか?
「こっちを叩くのが目的じゃないみたい・・・。」
 そこまで言って、何となく目的がわかる。
「そうか、データ収集、か。」
「今更か?」
「それをする理由があるわ。前回の一騎打ち、どうやら私は勝ちすぎたみたい。」
「警戒されているわけか。」
 小さくうなずくシンディ。
「あともう一つ。挑戦状ね。」
「挑戦状?」
「ええ。あっちの将軍様はこういってるのよ。私達の居場所はいつでも把握しているぞ、って。」
 哨戒中にトラップに引っかかる、ということはそういうことだ。
「向こうはいつでもこっちを攻撃できる。それをわざわざこっちに知らせてくれたみたいね。律儀な話だと思わない?」
 そう聞かれても、答えようがない。
「さて、普通ならプレッシャーを感じてあげなきゃいけないんでしょうけど・・・。」
 少し考えこんで、通信機のスイッチを入れる。
「アクセル中将、ブリーフィングルームへお願いします。」
 5分ほどして、アクセルがやってくる。気を効かせてか、グレイとシェラも一緒である。
「わざわざ階級で呼ぶってことは、厄介なことが分かったんだな。」
「ええ。」
 アルの持ちかえった映像資料をもとに、何をそれほど気にしているか説明する。
「こっちにプレッシャーを与えてるわけか。」
 予想以上に深刻な事態に、思わず唸るアクセル。
「方針を決めておく必要があります。」
「方針、か。」
 思わず考えこむ。
「お前さんは、どう考える?」
「根比べ、なんかどうでしょう?」
「何もしない、って事か?」
「こっちと向こう、どちらがより補給が厳しいか、です。」
 実際のところ、グレイロックほど物資の充実している戦艦は他にはない。予備のハンガーなどというものが存在する戦艦は、グレイロックだけであろう。
「向こうが補給で戻ったらどうする?」
「その時はその時です。」
 シンディにしては消極的に見える。
「えらく消極的だな。」
「あら、根比べとは言いましたが、何もしない、とは一言も言っていませんよ。」
「なんか、悪いことを考えてるだろ?」
「いけませんか?」
 そのやり取りを効いて、背筋が寒くなる3人。
「一体、何をやるんだ?」
「出来るだけ精密なデコイを出して、それにまぎれて罠を潰すとか、あと・・・。」
 指折り数えていく。
「要は、向こうが逃げるか、攻撃せざるをえない状況に追いこんでやればいいんです。」
「いたぶりあい、か・・・。」
 不毛である。
「まあいい。だったら甥から預かってるもんがある。まだ試作品で一つしかないが、一丁つけてみよう。」
「どんなシロモノ?」
「本番まで待て。・・・そうだな、シュツルムプリンツェズィンが適任か。」
「え? アタシの機体?」
「なんか問題があるのか?」
 それに慌てて首を振る。
「そうじゃないけど、こういうのって、いつもシンディの機体だったから。」
「あれにゃ、つける意味がねえんだよ。」
「ほへ?」
「ま、使ってみりゃ分かる。」
 そのやり取りに割りこんで、シンディが質問を出す。
「ロックバスターは、用意できますか?」
「問題ないが、なんでだ?」
「広範囲に攻撃が出来る、低出力の兵器があった方がいいと思います。」
「低出力、ねえ・・・。」
 実際、ロックバスター如きでは、AS−1シリーズは全くダメージを受けない。受けないのだが・・・。
「その台詞、泣いてる奴が一杯いるぞ・・・。」
「仕方がありません。出力で比較すれば、間違いなく低出力になってしまうのですから。」
 比較対象が間違っている。
「誰だ、こんな娘に育てたのは・・・。」
「ライル・マクガルド大将閣下・・・。」
 言わずもがな、である。シュツルムプリンツェズィンの改装が終り、嫌がらせが本格的に始まったのは翌日のことだった。
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