中央改札 交響曲 感想 説明

異郷へ 3.状況確認
埴輪


 ほかに落ち着ける場所もない、という理由から、一行は十夜のマンションに場所を移した。
「で、そっちの状況は?」
 アインが切り出す。
「どこから話そうかしら・・・。」
「まずは言葉の定義からいこう。カレイドフェノムだとかSC空間だとか言われても分からない。」
「そうね。SC空間については、イデア理論の詳細から解説が必要だけど・・・。」
 それを聞いた紅蓮が、首を横に振る。
「そいつは必要ない。イデア理論っていうのは、ようするに互いに認識として定義の受け渡しをすることで、その物体としての固有情報を確定する、って奴だろ?」
「まあ、そんな所ね。」
「すげえ。あんな訳のわからねえ理論を、そこまでさくっと約すとは・・・。」
「ま、こいつはさっきのアインの話を俺なりにまとめたんだけどな。正直、物理魔法とか錬金魔法の理論よりは単純だ。」
 魔法、という言葉に眉をひそめる理子。
「SC空間についても省こう。要するにさっきの空間のことだから。と言う訳で、それ以外の言葉の定義をお願い。」
「じゃあ、オーギュメントからいくわね。オーギュメントとは、私たちが使ってる道具のこと。これでSC空間を作り出す事が出来るの。それでSC空間内でオーギュメントによっておこすことが出来る特殊効果を、私たちはカレイドフェノムと呼んでいるの。」
「たったそれだけの物だったら、なんであの鎌みたいな目立つ形したものがあるんだ? あれじゃあ、私は不審人物だ、って明言してるようなもんじゃないか。」」
 アインの単刀直入な質問に、苦笑を持って返す。
「オーギュメントは、基本的にセンターコアの能力を最も効率的に引き出せる形状をしてるの。」
「何となく読めた。どーせ、曰付きのシロモノの固有情報やらなんやらをコピーして、その形質からエネルギーを引き出してる、とか言うんでしょ?」
「そういう事。」
「ってことは、誠志郎の奴みたいに、必ず武器の形をしてるとは限らないわけだ。」
「そういうこと。」
 それを聞いた朋樹が、怪訝な顔をする。
「曰付きのものがベースになってるんだったら、どうして武器の形をしてるとは限らないの?」
「武器でなくても、戦闘において有用な能力を持ってる可能性はある。たとえばそれを持っていれば、どんな難しい判断も決して間違えなっくなる、ってものがあったとする。決して間違えないってことは、それを持っていれば戦闘でどう言う攻撃をどこに叩きこめばいい、と言うことも間違えないわけだ。」
 アインの説明に、妙な顔をする誠志郎。彼の持っているバルバドスは、見事にアインが言うようないわくを持っている。
「なるほどね。」
「さて、みんな納得したところで次にいこうか。僕達を襲ったあれは?」
「私たちは、ディゾナントと呼んでいるわ。自律機能を持った、オーギュメントの簡易版みたいな物ね。」
「簡易版と言うことは、SC空間の展開とカレイドフェノムの使用、それから通信と与えられた指示に対する簡単な判断が出来る、って考えていればいいんだね。」
「そんな所よ。」
 次の質問に移る。質問すべきことは、いくらでもある。
「さっきの戦闘で、連中をつぶしたところにこれが落ちてたんだけど、この宝石もどきは何?」
 謎の物体をいくつか見せて言う。
「これは、オーパスよ。」
「どう言うシロモノ?」
「さっき話した、曰付きの物の固有情報をコピーした物よ。これをオーギュメントのセンターコアにセットすることで、カレイドフェノムを発生させるの。組み合わせで、発生するカレイドフェノムの中身が決まるわ。」
「感じから言って、色が重要みたいだね。」
 アインから、とことん油断ならないものを感じてしまう。間抜けそうな顔をして、観察力と物事の理解力、どれも今まであった相手の中ではダントツである。
「で、こいつの使い道はカレイドフェノムの発生源だけ? そんなもんになるんだったら、オーギュメントのパワーアップに使えそうなもんだけど?」
「あら、よく分かったわね。オーギュメントにオーパスを吸収させることによって、オーギュメントを強化することが出来るわ。」
「それを敵は知ってるの?」
「いいえ。オーギュメントに付いての資料は、全て破棄してきたわ。」
「さて、いつまで相手が気がつかないことやら。」
 相手も馬鹿ではない。モノがある以上、いつかは気がつくだろう。
「じゃあ、定義のついでにもう一つ。オーギュメントは全部でいくつ?」
「12個よ。」
 そこで、とりあえず休憩に入る。カスミとウェンディが一緒にお茶を用意していた。


「さて、じゃあ次に、そっちの今の状況を教えて欲しい。」
「それこそ、どこから話したらいいのかしら・・・。」
「まず、君達が何に狙われているか、何故狙われているか。経緯については、そんなに詳しくなくてもいいから。」
 それを聞いて、ますます考えこむ理子。経緯として、どうしても自分たちの起こした事件についてはなさなければいけない。何故おこしたのか、についても。
「そうね。最初から話すわ。」
 カスミの父、アインハルト博士がイデア理論を発見した経緯、ダイスに、平和を守るためには兵器も必要だと説得されたこと。その後の紆余曲折と、アインハルト博士の死。
「で、それが嫌になって騒ぎを起こして脱走した、と。」
「ええ。私自身、ダイスにいることに身の危険を感じていたし、ね。」
「薮蛇だったんじゃねえか?」
「だとしても、いずれカスミさんが狙われていたわ。」
 その言葉を聞いて考えこむアイン。
「そのダイスっていうのは、どれぐらい大きいの?」
「世界中に支社を持っているし、報道機関や警察機構にも影響力があるわ。」
「全部が全部、敵になってるわけ?」
「いいえ。今のところは日本支部だけよ。」
 どうやら、一つの支部が独断で動いているらしい。
「なるほど。」
 呟いて立ち上がる。
「ちょっと、相談してくる。」


「どうする・・・?」
「手を貸すしかないね。不可抗力とはいえ、バッチリ巻きこまれてる。」
「そうか・・・。」
 アインの言葉に、がっくり肩を落すルシア。
「しかし、ダイスか・・・。」
 紅蓮が、難しい顔をしてる。
「そんなに厄介か?」
「ああ。言うなれば、マリエーナから出られない時に、マリエーナ全体を敵に回すようなもんだ。」
 少し考えて、アインが口を挟む。
「そうでもないと思うよ。聞くけど、ダイスって企業は、全員が全員非合法なことをやってるわけ?」
「違う、はずだ・・・。」
「つまりは、僕達が何をしても、向こうは表沙汰には出来ないわけだ。それに、僕達にはもう一つ、強みがある。」
「なんだ?」
 強み、というのが分からない。
「紅蓮と朋樹以外は、こっちにはなんのしがらみも持ってないってこと。つまり、どれほど暴れても問題にはならない。」
「ちょっ、ちょっと待て、アイン・・・。」
「分かってる。堅気の人にゃ、迷惑はかけないよ。」
 いまいち安心できないことを言う。こいつが言う迷惑、というのがイマイチどのレベルか読めないところも原因の一つである。
「まあ、なんにしても所詮は長くて半年だ。何をしたところで騒ぎが最高潮に達した頃には、僕達はドロン、だ。」
 無茶苦茶である。
「不可抗力とはいえ、こいつを敵に回したダイスとかいう連中に、深く同情する・・・。」
 禅鎧が、苦笑しながら言う。
「全くだ・・・。」
 ルシアのげんなりした表情が、その場にいたエンフィールド組の気持ちを代弁していた。


「とりあえず君達に協力はするよ。ただ、色々と準備が必要だ。」
「準備?」
「僕達は期間限定だ。期限内に終らせないと困る。そのための準備だ。後、最低2ヶ月、こっちで生活出来るようにもしときたい。」
「期限内って・・・。」
 2ヶ月以内に終らせる、と言っているのだ。
「そんな無茶な・・・。」
 守りの戦い、というのは攻めの戦いよりも難しい。
「簡単だよ。相手は企業だ。あくまで利潤を求めなければいけない。だったら、オーギュメントを追っかけるのをやめなきゃいけないほどの赤字を出してやればいい。ディゾナントにしても、僕達みたいな一般人でも対処できることが分かれば、兵器としての価値は激減する。」
「一般人? お前が?」
「そうだよ。見て分からない?」
「どこが一般人だ、どこが!」
 思わず突っ込む十夜。
「この場合の一般人って言うのは、オーギュメントおよび、それに類する物を持っていない人間のことだよ。SC空間が展開されれば、無力になるはずの人間だ。」
「・・・やっぱり、お前は一般人じゃねえな。」
「そう? こんなに平凡なのに。」
「どこが平凡だ!」
 今度の突っ込みは紅蓮である。
「大体、SC空間を説得力なんぞと言うわけのわからない方法で退けといて、一般人もなにもねえよ。」
「何か問題でも?」
 大有りだが、こいつに言っても無駄である。
「まあ、実際のところ、プロがマシンガンでも持ってれば、ディゾナントなんて、なんの役にも立たないね。」
「どう言うことだ?」
「SC空間の展開にかかる時間が大体10秒ぐらい。10秒もあれば、マシンガンで大量殺戮ができる。腕がよければ、コアの当りに弾が飛ぶように、ってことぐらいはできる。」
「オーギュメントも同じこと、か。」
 オーギュメントの最大の弱点、それは使用者が人間である、という一点に尽きる。
「そう言うわけだから、そのオーギュメント、ちょっと借りていい?」
「何をするんだ?」
「目的は二つ。僕以外のメンバーがSC空間で行動出来るようにすることと、もう少し、オーギュメントに使い出を与えておきたい。」
 先ほどの件といい、今といい、こいつが何をしてもおかしくないような気がしていた十夜達。面倒になったので、大人しくうなずいておく。
「それともう一つ。あまった服とか、ない?」
 これの意図はさすがにわかる。
「女物はねえぞ。」
「ウェンディの分は、明日にでもなんとか調達するよ。」
「あの、私のことなら、それほど気になさらなくても・・・。」
「とは言っても、男物着せるにしても、雰囲気がちょっとね。」
 昔のつんけんしていた部分が和らぐと同時に、本来彼女が持っていたらしい家庭的な、どこかほえほえした雰囲気が表に出てきてしまっている。これでは、さすがに男物は違和感が大きすぎる。
「でも、調達するってどうやって?」
「十夜の部屋漁れば、日銭稼ぐ手段ぐらいいくらでも出てくるだろう。」
「そうかもしれないけど・・・。」
 確かに、魔窟と言ってもいいようなあの部屋なら、何があってもおかしくない。
「それはそうと、今日はもうさすがにこれと言った行動はしないとして・・・。」
 確かに、完全に日が暮れている。まあ、繁華街ならまだまだこれから、であろうが。
「明日は、どうするの?」
「ビショップ、という男を捜そうと思っている。どうやら、オーギュメント使いらしいんだ。」
 それを聞いた紅蓮が口を挟む。
「ビショップってことは、牧師だっけか?」
「さあな。」
 十夜に聞かれても困る。
「じゃあ、道具を作るのは夜にやるとして、先に日銭稼ぎの手段のほう、漁ろうか?」
「人の部屋を勝手に漁るんじゃねえ!!」
 無論、アインが聞く耳を持つわけがない。あっさりギターとキーボード、更にはスピーカーまで見つけ出す。
「後は発電機があれば、路上の弾き語りが出来るな。材料ぐらいはあるみたいだし、作るか。」
「なんでアインが電気系の知識なんか持ってるの?」
 その台詞を聞いた朋樹が、思わず突っ込む。
「知りたい?」
「知りたいような知りたくないような。」
「世界の構造から話すことになるけど、いい?」
「・・・やっぱりやめとく。」
 などと馬鹿話をやってるうちに、いつのまにやら発電機もどきを作り上げているアイン。どうやら、壊れた電気製品から無事なパーツを集めてつくったらしいが・・・。
「燃料も使わずに、どうやって発電する気だ?」
 思わず突っ込みを入れる誠志郎。
「まあいいからいいから。てな訳で実験。」
 余りパーツでつくった発光装置に燃料を使わない発電機(!!)をつなぎ、発電機を起動させる。低い唸り声と共に発電機が動く。発光装置のスイッチを投入。ランプがつく。
「電圧は・・・、結構いい感じかな。」
 どこから引っ張ってきたのか、テスタで電圧を測りながらアインが言う。
「じゃあ禅鎧、ちょっと稼ぎに行ってこようか。」
「わかった。」
 あっさり出かける二人。3時間ほどで10人分の食費10日分ほどを稼いで来たのであった。
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