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テオリア星系戦記 第19話 雌伏
埴輪


「やられたか・・・。」
「見事にやられましたね。」
 一帯の索敵、通信を封鎖されたことに気がついたレンドリアとその副官が、ポツリと呟く。
「敵も、やたらと御茶目なまねをする。」
「余裕ですね。」
 ハズレ、と大きく表示されたモニターを見ながら呟く。
「デコイのパターンは、分かるか?」
「解析は、完了しました。ただ・・・。」
「ただ?」
 担当者が言葉を濁すのを聞き、怪訝な顔をする。
「解析が完了した瞬間に・・・。」
 と言って画面を拡大する。
「・・・完全に遊ばれてるな。」
「向こうも全面衝突する気はない、ということでしょう。」
 画面には、お疲れさま、と表示されていた。語尾にはハートマークつきで、ご丁寧にキスマークまで表示されている。やたら巧妙に組まれたプログラムで、発動するまで分からなかった。
「どのみち、しばらく索敵はまともにできんのだろう?」
「もっとも、向こうもまともに行動は出来ないでしょうけどね。」
「だとしても、AS‐19だけは警戒しておけ。あの機体は従来の方法で索敵をしている訳ではないからな。」
 遠距離の火力こそ4機の中では大した物ではないが、武器が不確定なのでどう化けるか予想もつかない。
「了解しました!」


「さて、とりあえず嫌がらせの第1段階は成功か。」
「だけど、こんな事を続けても、そのうちネタがきれるよ?」
「戦力的に負けてるのはこっちだからなあ・・・。」
 コンビネーションも火力も確かにこちらが上ではあるが、数が違う。しかも、戦艦を破壊するとかボスをしとめる、とかをやってもけりがつくわけではないのだ。
「じゃあ、もうちょっと悪戯してくるわ。」
 ジャミングが効いているこの状況で動けるのは、グランセイバーだけである。
「ほいよ、行ってらっしゃい。」
 長い筒を担いで、グランセイバーが出撃する。しばらく、光学モニターにはビームの光がいくつも映し出される。
「おうおう、派手に暴れて。」
 グランセイバーからの映像をモニターに映し出す。どうやら、シンディはわざとかすめるようにロックバスターを連射しているようだ。しかも、ついでに的確に相手のトラップを潰している。
「むこうさんも、よく我慢してるもんだ。」
「下手に反撃出来ないからでしょ?」
 相手がこれだけちょこまか動いてると、戦艦の主砲で迎撃しようとするのはエネルギーの無駄にしかならない。ましてや、レーダーなどが全く働いていないのだ。かと言って、艦載機を出したところで、ジャミングがきつすぎて、レンジ外からいいようになぶられるだけだろう。
「まさに、いやがらせだな。」
 アクセルが妙に感心して言う。
「お、帰って来る。」
「ただいま〜。」
「おかえり。」
 シンディにしては、妙に大人しかった。
「直撃させても、よかったんじゃないの?」
 シェラが、みんなを代表してそう聞く。
「まあ、あれはこそこそするな、って言う合図みたいな物だったからね。」
 物量でぶつかれば負けるが、この手のひねくれた勝負ならこいつらの右に出る物は居ない。
「そろそろジャミングの効果が弱くなる頃かな?」
「じゃあ、次はシェラの番だな。」
「はいはい。」
 こうなれば、毒食らわば皿までだ。
「おやつ用意しといてね。」


「新たな機影が現われました!」
 ようやくジャミングの効果が薄れ、レーダーがまともに働き出した頃、凄まじいスピードで飛びまわる影を複数捉えた。
「相手は?」
「AS‐15のようです!」
「戦艦では分が悪いな。迎撃部隊を出すか?」
 呟いた瞬間、反応が一気に増える。
「AS‐15と思われる反応、30を確認しました!!」
 その言葉にいやな予感がする。
「防御スクリーン全開! 総員、対ショック防御!」
 全ての影からロックバスターの光が飛ぶ。ダメージ自体はグランセイバーから受けた体当たりのほうが上だが、被害がバカにならないという点では変わらない。凄まじい衝撃に艦全体が大きく揺れる。
「被害状況は!?」
「ハッチが一部損傷!」
「副砲のエネルギー伝達系に異常発生!」
 小破、と言っていい程度の損傷がどんどん報告される。
「質量のある幻影か・・・。」
「どうやら、地の利と補給能力のぶん、こう言う戦いはこっちが不利のようですね。」
「いや、喧嘩をしかける相手としかける方法を間違えた。」
 こっちが性にあわないと感じる程度には、相手の性にもあっていないだろう。
「次に何かされる前に、1度相手と話してみるか。」
「どうやって、ですか?」
 その言葉を聞いたレンドリアは、小さく苦笑を浮かべる。
「剣を交えることに勝るコミニュケーションの方法など、我々が持っているのか?」
「お、おやめください!!」
 セイクリッド・エッジの修理は、まだ完全ではない。相手の必殺技をもう一度食らって、無事である保証すらない。
「誰が一人で行く、といった? 強敵に最大の戦力をぶつけるのはセオリーであると同時に、最低限の礼儀であろう?」
「了解しました。」


「どうやら、こっちの勝ちみたいね。」
 グランセイバーに乗りながら、シンディが言う。
「だが、厄介と言えば厄介だぞ?」
 アクセルが突っ込む。実際のところ、当初の問題は一切解決していない。
「相手のフィールドで戦う気なんて、さらさらないんだろう?」
「ええ。相手が質と数で勝負するなら、こっちは数が生きない戦い方に持ちこむだけよ。」
「いつぞやのように、ジリ貧にならなけりゃいいんだがな。」
「努力はするわ。」
 それだけ言い残して出撃する。
「AS−15シュツルムプリンツェズィン、行ってきまーす。」
「AS−17フェストハルゲン、出撃する。」
「AS−13デューブレイド、出る。」
 気負いもなにもない台詞と共に、残りの3人も次々と出撃する。
「晩飯はいいもん用意しておいてやるからな。」
 のんきな台詞と共に4人を送り出す。まるで遠足にでも行くかのような雰囲気だ。
「さて、飯は何がいいかねえ。」
「中将、そう言う問題では・・・。」
「どーせ、当分こっちの出番はねえんだ。」
「はあ・・・。」
 本気で食材のリストを開くアクセル。
「もう、好きにしてください・・・。」


「とりあえず、レンドリアは私が押さえるから、残りをお願い!」
 びっちりと隙間無く陣を組んだ相手を見て、簡潔にそれだけ指示を出す。
「了解!」
 返事と同時に、シュツルムプリンツェズィンの反応が増える。
「飯までにけりつけるぞ!!」
 フェストハルゲンがレールガンをかまえる。
「雑魚は引きうけるが、どうやってボスまでたどり着く着だ?」
 デューブレイドがタイミングを測る。
「正面から突っ込む!」
「・・・・・・。」
 聞いた俺がバカだった、という沈黙である。
「そう言うわけだから、間違っても第1射に引っかかっちゃ駄目よ!」
「了解・・・。」
 アルの返事を待たずに、一気に加速するシンディ。大きく散開する残り3機。散開した瞬間、グランセイバーの進路を光の束が通過する。
「全く、もう少し大人しい方法は取れないもんかねえ。」
 グレイが呆れたように呟きながら、レールガンを連射する。その援護を受けながらシェラとアルが敵陣にきりこむ。瞬く間に数機分の反応が減る。
「やっぱり、俺達にはこっちのほうが性にあってるな。」
 呟きながら、グレイは速攻で撃ち尽したレールガンを捨てた。


 AS−19が真正面から突っ込んできたとき、彼等は勝利を確信した。いくらあのフィールドが強固でも、これだけの攻撃を同時に受ければ、まずもつはずがない。
「やったか!?」
 半分確信しながら呟く。次の瞬間。
「避けろ!!」
 レンドリアが叫ぶ。4機、爆発する。奇跡的に攻撃を回避した1機も、フィールドに触れて半壊した上、大きく弾き飛ばされてしまう。
「どうせ無事だろうとは思ったが、まさか無傷だとはな・・・。」
「あたりもしない攻撃で、普通ダメージは受けないでしょう?」
「全部、かわしたか・・・。」
 どうやら、また一段と腕が上がったらしい。
「そもそも、あれだけの数の銃口に、自分から突っ込んでいける度胸がすごいな・・・。」
「相棒を信じてるから。」
 数合斬りあう。切り結び、離れる。
「それより、そんなぼろぼろの機体で、いつまでこんなところをうろついてる気?」
「やはり、貴公の目は誤魔化せんか・・・。」
「そりゃ、ね。」
 飛んできたビームをフォースソードで叩き落しながら言う。
「今引っ込むのなら、見逃してあげる。」
「ほう?」
「別段、私は殺し合いが好きなわけじゃないから。」
「それは初耳だ。」
「あのね・・・。」
 さすがに、微妙に頭にくるものがある。こいつらが来なければ自分はこんな所で暴れてはいないのだ。
「私は、あなた達が来なければとっくに退役してたはずなの。」
「それは、私にとっては幸運だったかもしれんな。」
「どう言う幸運よ・・・。」
「好敵手と呼べる相手に巡り会えた。」
 大技をゼロ距離で放つが、完全にかわされる。
「さすがに、このセイクリッド・エッジで相手をするのは失礼なようだ。ここは引かせてもらおう。」
 どうしても、反応が遅れる。前回のダメージは、制御系に致命的な被害を及ぼしているようだ。
「出来たら2度と、敵として私の前に立たないでほしいところね。」
「それは無理な相談だ。」
 そのまま、生き残った部下をすべて回収して立ち去る。
「ああ言う相手との殺し合いは、正直2度とごめんなんだけどな・・・。」
 痛めつけるだけ痛めつけた相手の姿を見送りながら、シンディはそう呟くのであった。
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