中央改札 交響曲 感想 説明

<悠久組曲> 学園祭編 その零(ゼロ)hiro


 ――生徒会室。
「これで、全部だよ」
 どさり。
 両手いっぱいの書類を机に置くマリア。
「ええ。ありがとう」
 その机――本来ならば生徒会長が座するはずのその執務机には、副会長の総司がいた。
なにやら書類とにらめっこしている。
「こんなのもの、なんに使うの……?」
「ん〜? それはですね――」
 ちゃかちゃかとメモ用紙に記入し、また書類を瞥見(べっけん)してはメモ用紙――こ
れの繰り返しをしている総司に、マリアが純然と疑問をぶつけてくる。
 どうやら彼女、自分が『どんなもの』を総司に渡したのかわかっていないらしい。
「学園祭の予算、少ないと思いませんか」
「それっていくら?」
「……マリア、あなたそれでも生徒会役員のひとりなんですか?」
 ペンの走りを止めて、総司があきれたようにマリアを見た。愛敬のある彼女の顔が、ふ
くれる。
「なによぉ、バカにして!」
「古株でしょうが。何年ここにいるんですか」
 入学時からだから、今年で四年目だ。
「マリア、面白ければそれでいいんだもん!」
「ええ、まったくもってその通りです。マリアとは、そこだけは接点がありますね」
 と言っても、直情径行のマリアと深謀遠慮の総司では、「面白ければいい」の意味合いに
差がありすぎるが。
「定例の学園祭の予算は、決まって二百万です」
 これを多いとみるか、少ないとみるか。
「ふぅん。まあまあじゃないの……?」
「たしかに、並の学校ならそれで事足りるでしょうね」
「ここだって並じゃない」
 けろりとして、マリア。
 いつも魔法による災害を発生させている少女の言っていいセリフじゃない。
「自覚が足りないみたいですね、マリアには……」
「な、なによ……」
「あなたのおかげで、誰が泣いてると思ってるんですか」
 後片付けをする、生徒会役員だ。マリアはのぞくが。これのせいで、一年間分の生徒会
予算の四割は削られているらしい。
「そうやって並じゃない生徒がいるおかげで、お金がいくらあっても足りてないのが現状
なんですよ――……なんですか、その目は」
「別に」
 他人事めいて言うほど、総司も並ではない。マリアがジト目になったのもうなずける。
「学園祭では部活ごとに、学年ごとに、クラスごとに予算配分しなければならないわけで
す。それに並じゃない人達を加味すると、二百万じゃお手上げですよ。だからこそのコレ」
 マリアが持ってきた書類のタバをひらひらとしてみせて、総司がうそぶいた。
「ふふ。ブラックボックス、閻魔帳――それに類する代物。この学園にとってはね」
 ククククク、とノドで笑う。
「これさえあれば、教師なんて敵じゃありません。校長すらも」
「だから、それがなに?」
 じらす総司に、マリアがツンケンしながら聞いてくる。
「この学園の会計帳簿なるものですよ」
「そんなもんで、なんで先生が敵じゃなくなるのよ」
 もっともな見解だ。マリアらしい。
 しかし総司や、彼に肩をならべるほどの頭の回る少数の生徒の手に渡れば、教師側にと
ってこれは大問題に発展する。
「――ここ、ここを見てください」
 総司の指差した種類の項目のひとつに、『接待』がある。
「なに、これ? なんでこんなもんにこんなに使ってるの……?」
「さてね。なにかのスポーツでもやったんじゃないですか。俺は貧乏人だからそんなとこ
ろには行けませんけど、それくらい使うものなんじゃないですか?」
 ここだけで、何十万と支出している。
 「ゴ」がつくスポーツだ。
 ちなみに一週間に一度、校長がそういう場所に向かうところを何人かの生徒が目撃して
いて、それが総司の耳にも入っている。
「それにここ。こことここも。あ、これもですか」
 次々に、会計帳簿のおかしな点をあげていく。
 総計で三百万くらい、教務とは無関係なことで排出されていた。
「このムダになるお金、どうせなら生徒のために使った方がいいと思いません?」
 まだすべてを呑み込んでないマリアは、それでも反射的にうなずいた。
「これを材料に、先生方と話し合いをします。三ヶ月後に迫った学園祭を、俗世なお金と
いう後顧の憂えをなくしておこなった方が気が楽でしょう?」
 こんな言い方じゃ、マリアには半分もわからない。
「総司、それは脅しだぞ」
「――ゼファー先生、いつからそこに?」
 つい話に夢中になっていたらしい。その接近に気づかなかった。ゼファーの気配の消し
方がうまかったってのもあるが。この先生も、並じゃないひとりだ。
 細面には、ポーカーフェイスが張りついているのが常だが、いまのゼファーには笑みら
しきものが浮かんでいる。
「脅しとは穏やかじゃないですね、どうせなら「ゆすり」と言ってくれないと」
「それも同じだ、総司。素直に恐喝と言った方が利口だぞ。まだ幾分センスらしきものを
感じるからな」
「それは……! 俺としたことが……やはり、ゼファー先生にはかないませんね」
「いや、俺は一般常識から照らし合わせて、それに該当する――」
 ここからはもはや普通人では太刀打ちできない論弁の世界なので、割愛させてもらう。
 そばで聞いていたマリア、はじめは不可解そうにしていただけだったけど、だんだんつ
まらなくなってきたのか眉をひそめ出し、ついには、
「ふたりして、なにゴチャゴチャわけわかんないこと言ってんのよ!」
「――おっと、おまえの存在をすっかり忘れていたな」
「いたんですね、マリア」
 失敬な物言いである。
 ガスでも注入された風船のごとく、マリアの顔がふくらみ出す。そのまま浮かんで、天
井に頭でもぶつけたら愉快だろうが。
「なによなによ……! ちょっと頭がいいからって!」
「別に、あなたが馬鹿とは言ってませんよ」
 キッ!
 混じりっけゼロの怒りを投げつけてくる。
 この純粋さが、マリアのマリアである由縁なのだ。これに気づきさえすれば、マリアに
好感を持てる生徒が何倍にも増すだろう。
「総司」
 ゼファーがうながす。謝った方がいいと。
「――ごめんなさい」
「…………」
「この帳簿のお返しに魔法書、貸す約束ですよね? あした持ってくるつもりでしたけど、
きょう取りに帰りますよ」
「え、本当に?」
 総司、こくりとうなずく。
「やったーー! ゼッタイだよ? 約束だからね!」
 一喜一憂。
 ころころと表情がよく変化する少女だ。
 ゼファー、小躍りするマリアを横目にし、
「おい、総司。魔法書とはどんなものだ」
「心配無用ですよ。どうせ、マリアにはわかりません。マスタークラスの魔術師が半年が
かりでやっと解読できるような難読な書物なんでね」
 ついでに言うと、総司はそれを二週間で読破している。
「――おまえの家は、錬金術の宗家だったな。だとしたら、マリアにはムリだろうな」
 マリアの得意なのは精霊魔法だ。計算や研究の入り用な錬金魔法は、マリアの肌には合
わない。でも魔法書と聞けばなんでも欲しがる彼女は、総司の実家がうらやましくてしょ
うがない。魔法関連の書物がおさめられた、小型の図書室なるものがあるからだ。
 ここで総司、思い出したようにゼファーに、
「それで先生。何の用なんです?」
「――これだ」
 ゼファーが、紙切れを差し出す。
 それは申請書だった。生徒会になにかしらの申し入れがある場合、これに記入し提出す
るのだ。実行するかどうかは、生徒会のみの審議か、または緊急の全校集会が開かれ決め
られる。
 黙読した総司が目の下あたりを引きつらせ、ゼファーは「うむ」とアゴを引き、
「よろしく頼む」
「……いや……これはちょっと……」
 歯切れが悪そうに、総司が答える。
 書いてあったのは、新たなクラブの発足だったのだが……
 喜びの踊りからかえってきたマリア、その申請書を読んで、
「盆栽部ぅ? なにそれ〜」
「……いけないか。真っ当な部だと俺は思うが」
「誰が入るのよ、そんな根暗なところ!」
「根暗、だと……? マリア、おまえには盆栽のなんたるかがわかっていないようだな。
よし、まずはおまえが部員第一号だ。みっちりと教授してやろう」
「やーよ! マリアは卒業するまで生徒会なんだから」
「たまには種類の異なる部活動も経験しておいた方がいい。盆栽部が正式に受理されるの
はいま少し時間がかかるだろうから、まずは俺の担当する将棋部に来い」
 なんかもう決定しているみたいだ。
(こんな部、どないせーゆーんじゃ……)
 思わず総司の胸中で、関西弁にもなってない関西弁がつぶやかれる。それを見取ったの
か、ゼファーがうかがうようにして、
「ダメ、なのか?」
「……――はっきり言うと、ダメです。大がつくほどダメです」
「なぜだ……」
 ショックを受けて、ゼファー。
「ただでさえ学園祭の予算でキツイのに、そんな部をもうけるお金はありません。――言
っておきますけど、一生きませんから、そこに割くようなお金は」
 現実ってのは、シビアなのだ。
 ゼファー、ため息をつき、
「そうか。ならば、あきらめるとしよう」
「そうしてくれると、助かります」
「理事長の一人娘を物でつって、学園の重要書類を盗んでこさせたことも、この胸の奥に
しまっておくことにしよう」
「…………」
「――――」
 見詰め合ったふたりが、ふいに笑い出す。
「まさに恐喝ですね、ゼファー先生」
「うむ。まさかこの場で実践できるとは考えてもみなかったがな」
「……わかりました。認めましょう。そのかわり――」
「ああ。聞かなかったことにしよう。それに、いささか校長たちの振舞いにも度が過ぎた
ものを感じていたからな。彼らには、いい薬になるだろう。たっぷりと絞り取ってやると
いい」
「はい」
 おっかないやり取りをするふたりに、マリアが、
「なんかここって、悪の組織みたい」
 と、正鵠を射たことを言ったのだった。





<あとがき・ゼロ>

 ゲームの組曲やっていて、恐ろしい新事実を知ってしまいました。
 マリアが生徒会の副会長だったんですね……!
 アレフが生徒会長なのは最初から知ってましたけど。
 こんなムチャクチャな娘が副会長になれる学校っていったい!?
 さすがは悠久幻想曲なだけはあります。あなどれませんよね?(^^)

 なんだかSSではマリアの代わりに副会長してる総司くんが大活躍? 
 っていうか大暗躍?
 ゼファーが出せたのが嬉しかったですね、今回は。

 ともかく。
 もしかしたらこの学園祭編、長くなってしまうかもしれません。
 予定だと、前中後編くらいで終わらせるつもりだったのに。
 いまだかつて、ボクの予定が予定どおりに進んだことは、一回くらいしかありませんけ
どね〜。
 だいたいにして、この総司の一シーンだけでこんなに使うのが間違ってますよ。
 ここは短くして、とっとと準備のシーンでも書けばよかったのに。
 そうしたらそこの準備を前編にして、中編と後編とで祭りを楽しむ話。
 それで一件落着〜、ってなったはずなんですけどね。

 もう、長いな〜。
 あとがきは短くスマートにしたいのに。
 なるべく早く終わらせますよ。全体の構成が多少イビツになってもね。
 それじゃ〜。
中央改札 交響曲 感想 説明