剣鬼の少女 第三話 「冤罪〜ジョートショップ本格始動〜(前編)」
自警団第一部隊隊長リカルド・フォスターは今回の任務について考えていた。
今回の不本意な任務をどう遂行するかについて。
(彼女が抵抗したとしたら…我々で捕らえられるか?)
この任務に同行しているのは三人のみ。自分直属の部下、アルベルト・コーレイン、第三部隊隊長カール・ノイマンとその部下カイン・ノクターン、自警団でも屈指の実力者たちである。このメンバーなら相手が桁外れの化け物でもない限り捕縛できるだろう。
逆に言えばこのメンバーが必要なほどの相手だと言うことでもある。そしてそれが(リカルドからすれば)このような事件を起こさないであろう人物ならば尚更不本意に感じる。
「アリサさん、彼女はいつごろ帰ってくるんですか?」
リカルドは彼女、この店の主であるアリサ・アスティアに尋ねた。
「もうすぐだと思います。けどリカルドさん、私は彼女がその様な事をするとはとても思えないのですけれど。」
リカルド本人も同感である。彼女と言う人物を考えるとまずやらないだろうし、したとしてもこの様なすぐに見つかる隠し方はしないだろう。何度か話して分かったが、彼女はこの様な事に関しては頭が回りそうだ。
「しかしアリサさん、目撃証言と物的証拠が揃っている以上我々としては彼女を捕らえるしかないのです。」
「でも…!」
そこに「彼女」サガ・シューティングスターが帰ってきた。
「…自警団が何の用件ですか?」
「あ、ホントッス〜、何のご用っスか〜?」
サガがアリサの目の代わりをしている魔法生物のテディと共に質問を発する。
「サガ・シューティングスターさんだね?」
今迄口を閉ざしていたノイマンが尋ねる。
「はい、貴公は?」
「失礼、私の名はカール・ノイマン。自警団第三部隊隊長だ。昨夜フェニックス美術館から美術品が数点盗まれたと言うことを知ってるかね?」
頷くサガ。ノイマンは口調を変えてこう言った。
「サガ・シューティングスター!フェニックス美術館盗難容疑で逮捕する!…これが逮捕状だ。」
思いもしなかった事態に二人(?)が驚く。
「サ、サ、サガさん!そんな事したっスか!?」
「もう証拠も出たということですか?」
冷静になったサガに質問されリカルドが答える。
「うむ、君のベッドのすぐ隣に見つけてくれとばかりにね。それに美術館から出てくる君を見たという目撃証言も何点か取れた。」
「…私だったら証拠を残すようなことはしませんけどね。」
「テメェ!ふざけたことを…!」
アルベルトが激昂して掴みかかろうとして動こうとしたとき…
「よさないか!アル!」
リカルドに止められた。
「部下が失礼した。さてサガ君、自警団まで君を連行したい。断ってもいいがそのときは力ずくで、ということになるが?」
そういわれサガは考え始めた。
(4対1…数でも負けるし、隊長さん達は強そうだし…何よりここで暴れたらアリサさんにも迷惑がかかる。仕方ない…)
「分かりました。牢屋でも処刑台でもお好きにどうぞ。」
「エンフィールドに死刑制度は無いよ。故に君が行くのは独房だ。」
リカルドが苦笑しながら答える。
「ちょっと待ってくださいリカルドさん!サガはそんな事する子じゃありません!何かの間違いです!」
「大丈夫ですよ、アリサさんすぐ釈放されますから。ちょっと待ってってください。」
「でも…!」
「じゃあ、行ってきます。」
アリサを安心させるためにそういってサガは連行されて行った。
〜自警団事務所の一室〜
「ノイマン隊長…俺は納得できません。彼女がこんな事するなんて思えません。」
カインがノイマンに向かい不服そうに言う。
「私とて同じだ。だが我々が動くことはできんのだ。」
「しかしっ…!」
「だが休職した部下が何をしようと私の知ったことではないな。」
その言葉にカインが目を輝かす。
「もし彼女が追放されなかった時には手続きをしよう。力になってやれ。」
「はいっ!」
「しかしずいぶん気にしてるようだな。…惚れたか?」
カインが顔を真っ赤にしながらなにやらゴモゴモとやってる。
「早く孫の顔が見たいものだな?」
ノイマンは我が子とも言える青年に意地が悪そうな笑顔でそう言った。
「た、隊長〜。」
カインは真っ赤になりながらうつむいた。
〜自警団事務所地下〜
「…それでアルベルト、私はこれからどうなるの?」
牢の中でサガはアルベルトに聞いた。
「いけしゃあしゃあと…!まぁいい、お前の場合はよくてこの街を永久追放、悪くて終身刑だな。」
「だったら追放の方がいいな、他の街ででも働いてアリサさんに仕送りとかできるもの。」
「おい、さっきアリサさんにすぐ戻るとか行ってた割にはあっさりと受け入れてるな?」
「アレは心配させないための方便だから。」
「ちゃんと考えてたんだな。」
「当然でしょ、…あ、リカルドさん、事情聴取ですか?」
とサガが降りてきたリカルドに気がつき尋ねた。
「いや、罪状の審議は終了し後は処分の決定待ちだ。」
「そうですか。」
大して残念そうでも無くサガはうなずいた。
「だが君に対しての保釈金がアリサさんから支払われた、出たまえ。」
「保釈金!?一体どれくらい!?どうやってそんなお金を!?」
「君の場合は窃盗罪と偽証罪だから10万ゴールド、資金はジョートショップの土地を担保にしたそうだ。」
「「なっ!?」」
サガとアルベルトがその言葉に驚く。
「「どうしてアリサさんは「私」「こいつ」なんかのためにそんなことを!?」」
二人が同時に聞く。…息の合った奴らだ。
「今からあけるから外で待ってるアリサさん本人に聞いてくれ。」
カチャンッ! ダッ! ドンッ! ゴスッ! ダダダッ!
鍵を開けるや否やサガはすぐ近くにいたアルベルトを突き飛ばし走り去った。
「修行が足りないようだな。」
リカルドは壁にぶつかって気絶しているアルベルトに向かってつぶやいた。
〜自警団事務所前〜
サガが走って出てくると出口のすぐ近くにアリサとテディがいた。
「あぁ、無事で良かったわサガ、ひどい事されなかった?」
「大丈夫だったッスか?」
「えぇ…じゃなくって!どうして私なんかのために土地を担保にしてまで10万ゴールド払ったんですか!?」
「罪状が確定してしまうと何をやっても手遅れだって聞いたから…」
「でも…!」
「それにね。」
アリサは慈愛に満ちた顔で言った。
「私にとって貴女は『なんか』じゃないわ。」
「え…?」
「私とあの人の間には子供が生まれなかったけど。貴女が私の作ったご飯を食べて『おいしい』って言うたび…、貴女の服を洗ってあげて『ありがとう』って言われるたびに『娘がいたらこんな感じかしら』って思ってたのよ。たった一月しかたっていないけど私は貴女のことを娘だと思っているわ。」
「アリサ…さん…」
「子供のことを想わない母親はいないわ、あの人との思い出が詰まったジョートショップも大事だけど『娘』の方が私には大事。」
アリサが言い終えて見るとサガは涙を流していた。
「サ、サガ?どうしたの?」
「嬉しいんです…記憶が無くて…何もかもが不安で…アリサさんと接していると…母親ってこんなのかな…って思えて…でも私なんかがって思って…なのにそう言って貰って…。」
そういうとサガはアリサの胸に飛び込んで静かに泣き始めた。
アリサは胸の中で泣いているサガをそっと抱きしめた。
「ねぇ、サガ。ひとつお願いしてもいい?」
「はい…」
「これから私のこと『お母さん』って呼んでくれないかしら?」
「え…?」
「お願い。」
「お母さん…お母さん…うわぁぁぁぁぁぁん!!」
サガは声を上げて泣き始め、アリサはサガが泣き止むまでずっと抱きしめていた…。
血が繋がらない二人が『親子』になった瞬間であった…。
少し離れた場所でその光景を見ている者たちもいた。
「なぁ、アルベルト、お前サガに何か言うことがあったんじゃないのか?」
「馬鹿言え、今あの二人に何か口はさめるか。」
「うぅ、ボク忘れられてるっス。」
後編へつづく
なかがき
焔(以下H):は〜い!今回は相方が休みなので代わりにカインくんが相方です!
カイン(以下K):あのいい場面の後にこれかい。
H:いいからプロフィール紹介しろ!
K:え〜と、カイン・ノクターン19歳、自警団第三部隊隊員、175cmの75kg
子供の頃別の街でノイマン隊長に拾われて現在に至る。
H:サガみたいに特殊な背景も無いし特殊能力も無い。両親はテロに巻き込まれて死亡、妹が別の街の叔父夫婦の許に住んでて毎月仕送りしてるため貧乏生活を送ってる。
K:そうだったのか。アルベルトみたいだな。
H:ちょっと違うがな。容姿は2ndの主人公まんまです。
K:ちなみにサガとの実力差は?
H:………。
K:おい、何だその沈黙は?
H:さて、皆様後編でお会いしましょう!
K:答えろこらぁぁぁぁ!分散連撃!ジ・エンド・オブ・スレッド!!
H:改造人間をなめるなぁ!オクトパステイル!シザーハンド!!
馬鹿二人(一人と一匹?)の戦いは続く…