中央改札 交響曲 感想 説明

悠久自由曲〜魔道人形〜
蟲田


 怒気を含んだ声でルシードが言った。

「そいつは心を持っているのだ。なら、それ相応の扱いをしてやるのが筋ってもんじゃ

ねぇのか?」

 交通秩序保全部の海上勤務隊に勤めるジェスターは、ルシードの怒りの意味が分か

らないらしく怪訝な顔をした。
 直属の上司であるクランツ隊長の顔を見ると、困ったような顔をしているだけで何も

言わない。
 しょうがなく自分で口を開く。

「おいおい、何怒っているんだよ、たかが・・・。」
「たかがじゃねぇよ!おい、ブラスコ。こんな奴に付いていく事はねぇぞ。」

 ルシードが、自分が回収しにきたモノを渡すつもりがないらしい。と気付いてジェスタ

ーは腹を立てた。
 保安局の任務を遂行しようとしている自分が、非難されるいわれはない。

「なにを言っているんだ、ソレをこっちによこせ。」
「モノ扱いすんなっつってんだろ。」
「ケ、ケンカはやめてください・・・。」

 自分とルシードの言い合いに、ソレが仲裁に入ってきたので、自分とルシードは無言

のまま睨み合った。



『悠久自由曲〜魔道人形〜』



 緊迫した睨み合いの中。私、ブラスコがオロオロしていると、今いるブルーフェザーの

食堂に20才ほどのの女性が入ってきた。
 女性は短い銀髪をしっかりとセットし、保安局支給のスーツを着ていた。首には局士

部長の階級章が光っている。
 彼女はブルーフェザーの面々に挨拶をすると、間髪いれずにジェスターさんに向き直

る。
 
「なにをしているの?モタモタしないで。」
「あ、い、いえ。ルシードがコレを・・・」
「だから、ブラスコをモノ扱いすんな。」
「???」

 女性は一瞬怪訝な顔押したが、ゼファーさんに状況を説明してほしいと頼んだ。

「いや、俺よりもブラスコ本人に聞いたほうがいい。」
「本人ですか?」
「そうだ。」
「そうですか・・・」

 女性はこちらに振り向くと、私に名乗った。

「フィーノ・ランザー。シープクレスト保安局情報管理部の者よ。」
「初めましてブラスコと申します。」
「すまないが、ブラスコ。彼女に今までの経緯を説明してやってくれ。」
「わかりました。」

「ワタシの生みの親であるディケンズ博士の研究の集大成として開発された、完全独

立思考型魔導人形です。
 沈没船の引き上げの時、私自身が封印されていたカプセルが解放されてしまったた

め、30年ぶりに目覚めました。
 周りを見ると、フジツボや海草だらけで、ずいぶん驚いたのを覚えています。後で知

ったのですが、私が眠っていたカプセルを積んだまま船が沈没してしまっていたようで

すね。
 しばらく船内をさまよっていると、何かが壊れるような大きな音がしたので、音の方へ

向かってみると数名の人がケガをして倒れていました。
 何でも船の見物に来ていたら、空飛ぶ魚に襲われたと言っていました。
 それはまだ近くにいるとのことでしたので、近くの客間に閉じこもり、ケガ人を介抱し

ていたのですが、急に船内が揺れ初めてその部屋に閉じこめられてしまったのです。」

「そこに助けに行ったのが、オレとルシードってわけだ。」
「リーダーが指揮を放棄して、単独行動をとったんですか?」
「そうそう、ルシードってば一人で沈没船に入っていったんだぜ。」
「そーだよ、ずるいよねー、わたしだって中見てみたかったのに。」

 クランツ隊長さんの言葉を聞きフィーノさんが眉をひそめた。さらにビセットさんとルー

ティさんも非難の声を上げる。フローネさんも不満があったのか口を尖らせている。
 ルシードさんは、声に出して非難したビセットさんとルーティさんをポカリとぶつ。

「しょうがね―だろ、正規の訓練を受けてんのは、オレとゼファーだけなんだからよ。ド

シロートが出ていてもジャマになるだけだろうが。」
「・・・・・・。」
「まだ文句があるなら、スカウトの研修をもっと伸ばすんだな。」
「なるほど、そうかもしれませんね。それにしても・・・」

 そこでビセットさんとルーティさんの方を向き、咎めるように言う。

「それにしてもマーシュ局士、ワイエス局士、あなた達は上司に対しての口の利き方が

出来ていませんね。」
「え、その。」
「ほ、本人が気にしないって言ているので。ひ、必要ないと思います。」

 フィーノさんは不愉快そうにビセットさんとルーティさん一瞥したが、ルシードさんがう

なずいたのを見ると、それ以上何も言わなかった。基本的に現場の方針には干渉しな

い主義らしい。



「クランツ隊長さん達と沈没船を脱出した後、ブルーフェザーの皆さんが空飛ぶ魚(魔

物:キラニア)を倒すではあの場にいたのですが。
 その後は昼間は図書館、夜は酒場などを回って人間について観察していました。
 そして今日、ブルーフェザーの皆さんに再会して。ここに案内されたのです。」
「人間を観察?何を調べていたの?」
「それは人間の感情です。」
「感情・・・?感情がほしかったの?」
「はい。もっともルシードさんは、ワタシにはすでに感情があるとおっしゃってくれました

が。」

 ワタシがそう話を締めくくると、ルシードさんはフィーノさんにうったえるように言った。

「これでわかっただろう。ブラスコはれっきとした人間だ。」

 フィーノさん少し考えるような仕草をしたあと、クスッと笑った。そして、口調まで変え

て言った。

「人間以外にも優しいのは相変わらずのようね、一年ボーズ。」
「?」
「あなたは覚えていないでしょうけど、私が3年の時の時保安学校で何度か見かけた

わ。」
「アンタなんて知れねぇーぞ。」
「でしょうね、何度か体育館の裏で、私には見えない何かと話しているのを見かけただ

けですもの。名前を知ったのは、ゼファー先輩があなたを推薦したときだったわ。」

 そんなものわかるはずがない、ルシードさんは憮然とした。
 しかし、ゼファーさんを「先輩」と呼ぶところを見ると、ゼファーさんとは保安学校時代

からの知り合いのようだ。

「ま、そのへんの話は別として。」

 フィーノさんは表情と口調を戻し、私の方を向いた。

「ブラスコでしたね。悪いがあなたを人間として向かえることは出来ません。」
「そんな!ブラスコさんはちゃんと心を持ってるんですよ。」

 フィーノさんの言葉にフローネさんが思わず声を上げた。

「ええ、そのようですね。でも、その心(ソレ)が人間に対して悪意や敵意を持っている場

合はどうするつもりです?」
「ブラスコさんはそんなこと思いません!!」
「はい、私は人に対して攻撃できないように作られています。」
「言葉だけでは信用できないわ。アナタには保安局に来てもらい、危険がないか検査

を受けてもらいます。」
「そんな!!」
「議論するつもりもありません。」

 フィーノさんは取り合わず、私についてくるように促した。

「ちょっとまて。」
「なんですか?アトレー准等官。」
「検査ってのは何をするんだ?」
「さぁ、私は専門家ではないので、そこまでは・・・」
「・・・・・・・。」

 ルシードさんは一瞬考えるように目をつぶると、決意したように言った。

「ブラスコ、どうしたいか自分で決めろ。」
「アトレー准等官、あなたまでトリーティア局士のような考えをお持ちですか?」

 フィーノさんは言いながら、フローネさんをちらりと見たが控えにも好意的な視線では

なかった。
 そう、夢ばかり追いかけ、現実を知らない相手を嘲笑する類の視線である。

「悪意や敵意を持ってねー人間がいるかよ。今は大丈夫だろうが、その内ソレを持つよ

うになるかも知れねぇ。ソレが心ってもんだ。」
「でわ、なぜ?」
「いまは大丈夫だつったろ。今のブラスコをどうこうするってのは、感心できねぇ。」
「もし彼が悪意や敵意を持って人間を傷付けたら?」
「その時はその時で捕えるなりなんなりすりゃいいだろ。何もしてねぇヤツに脅えるほど

オレは臆病じゃない。」
「なるほど、好感をもてる意見ですね。」

 今度は感心したようにルシードさんを見ていたフィーノさんだが、ルシードさんを試す

ように言う。

「残念ですがアトレー准等官、人間が皆あなたのように強い人間とは限らないのよ。そ

れにこれは本部の決定事項です。私たちは彼を連れて行かなければなりません。」
「ブラスコどうする?これはアンタが自分で決める事だ。どうしても行きたくねぇってんな

ら俺が守ってやる。」
「ルシードさん・・・」

 私の心は感謝の気持ちであふれた。

「そう、覚悟はあるようですね。」

 フィーノさんはそれ以上何も言わず私の言動を見守っている。

「皆さん本当にお世話になりました。とりあえず、今回はこの方について行きます。」
「ブラスコ」
「ワタシが行かないとこの方も困るでしょうし。」
「そうしてくれると助かるわ。法務執行妨害で保安局員にコレを向けるのはちょっとねぇ

・・・」

 フィーノさんそう言うと素早い動作で拳銃を取り出す。ワタシが拒んだ場合使うつもり

でいつでも取り出せるようにしていたようだ。

「やっぱりさりげなく構えてやがったな。」
「当然よ、一年ボーズ。私は仕事に個人的感情を持ち込んだりしないわ。」
「んだと!」

 ふたたび、学校の先輩が後輩をからかう口調になったフィーノさんにルシードさんが

噛み付く。

「大丈夫ですよ、ルシードさん。落ち着いて話せばわかってもらえますよ。」
「ふふ、ブラスコさんのほうがルシードさんよりしっかりしてるわね。」
「うるせぇ。」

 メルフィさんにまで言われ、ルシードさんはヘソを曲げた。キラニアと戦っていた時の

勇ましい姿とは似ても似つかない子供っぽい姿だ。

「フィーノさんでしたか?さあ、行きましょう。」
「ええ、いらしゃい。私たちに逆らわない内は歓迎します。」
「それでは皆さん、またお会いしましょう。」

 こうして私はブルーフェザーの皆さんと別れ保安局に行くことにしました。保安局で検

査(自分の設計図を書かせられたり、イロイロありました)受けた後、フィーノさんやクラ

ンツ隊長さんの推薦で保安局刑事調査部第二捜査室に配属される事になったのです


 驚いたことはフィーノさんもなにかと世話を焼いてくれることです。私がディック(ブラス

コの飼っているマモンガー)のことで騒動を起こした時も、減法一年程度で許してくれま

した。(メチャクチャ重い罰のなんだけど、ほとんどお金を使う機会のないブラスコは気

付いてないようね。経費削減、ラッキー。byフィーノ)
 人間のなかで暮らしていると、自分の生まれについて悩むことがありますがブルーフ

ェザーの皆さんが相談に乗ってくれます。
 ディケンズ博士、ワタシは今幸せなのだと思います。
 博士、ワタシを作ってくださってありがとうございます。



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後書き
 最後まで、読んでいただいた方、ありがとうござました。蟲田です。
 今回、書くのに苦労した点は、私が主人公(ルシード)と正反対の意見の持ち主だと

いう事です。(イブ、カタン、ブラスコ ファンの人怒らないで下さい。)
 あいにく私は魔道人形(ロボット)に関してはジェスター派の意見の持ち主で、仮ロボ

ットや人工知能に感情を持たせるにしても、ソレは人間の役に立つ機能であるべきだ

と考えています。ターミ○ーターやマト○クスの世界になるのは勘弁してほしい。
 しかし、ルシードにそんな事言わせるわけにもいかず、フィーノ・ランザーなるオリキ

ャラを使って逃げました。
 もう登場しませんが、フィーノはこんなキャラです。
 身長161cm 体重?kg 銀髪に白い肌で青い目
 保安学校(3年制)の成績は上の下程度、ゼファーより2年遅れで入学しているので

面識がある(ルシードは彼女の2年後輩)。本編にあるエピソードなどで、ルシードに魔

法能力があることをなんとなく気付いていた。
 相手に自分の趣味や価値観を押し付けることはないが、「お気のすむままご自由に

、ただし邪魔するなら容赦しませんよ。」と言い切るタイプです。職務には忠実だが人

情がわからない人ではないので、法や任務に反しない程度に相手を弁護する事が多

々ある。
 それではキャラ紹介はこのへんにして、また私の駄文にお付き合いください。最後に

もう一度、皆さんありがとうございました。


2005年 2月 14日 原作 悠久幻想曲3 PerpetualBlueより  「悠久自由曲PB 

魔道人形」 蟲田
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