中央改札 交響曲 感想 説明

死に抗う
蟲田


 ルシードの剣がバチバチと放電する。剣に伝わりきらなかった魔力が放電しているのだ。しかし、ルシードは一向に気にせず、剣をズィープルに叩きつける。
「グオオオオオオォォォォォ!」
 ズィープルが悲鳴をあげる。ルシードはそのまま追加攻撃をかけようとするが、魔物の身体に深くめり込んだ剣が抜けない。
「この!」
「ばか!離れなさい!」
 バーシアの声に反射的に剣から手を離し、身を転がす。直後、ブンッ 魔物の丸太のような腕が頭上を通過した。
「オラァッ!」
 ビセットがルシードと入れ替わるように、ズィープルの前に立ち塞がり攻撃を仕掛ける。さらに、バーシアが一息に3つの攻撃を仕掛ける。『連撃』である。ズィープルの巨体がぐらりと傾く。
「ルーティ、フローネが水属性で攻撃しろ!」
 好機と判断したルシードが指示を出す。
「スプラッシュ」
「ストリーム」
 この世の裏の法則によって引きずり出された水流が、ズィープルに襲い掛かり打ち倒した。
「ら、楽勝だぜ、楽勝…。」
「息切らして言うセリフじゃないね、ビセット…。」
「るせ〜な〜…。」
 強がりを言うビセットを茶化すバーシア。しかし、息を切らしているのはビセットだけではない、みな体力も魔力もそこをつきかかっている。古の魔法で生まれた魔物はそれだけ強敵だった。しかし、事件はまだ解決したわけではない。
「まだ、終わってねぇ。いくぞ・・・。」
 ルシードはメンバーと自分自身を鼓舞すると、彼の消えたドアを開けた。

〜〜〜「死に抗う」〜〜〜

 そこはブルーフェザー事務所にある作業室と実験室をいっしょにしたような部屋だった。部屋の中央には、特殊な塗料でかかれた魔法陣の中にいくつものチューブやケーブルに繋がれた2mほどの水槽が安置されていた。
さまざまな機材から漏れる鉄と油の臭いと、魔法触媒からの独特の臭いが入り混じるなか、男がこちらに背を向け装置を操作していた。
「ステラン・ゲールド…!」
「・・・!」
 ルシードに名を呼ばれた男がビクリと肩を震わせた後、ゆっくりと振り返った。男、ステラン・ゲールドはけっして犯罪者のように見える男ではなかった。なで肩の細身で色白身体を動かす姿より、ペンを握っている姿が似合うそんな男だった。
 その男が妻を甦らせるためならと、ブルーフェザーにズィープルをけしかけた。
「ルシードさん・・・。まさか、ズィープルをもう・・・」
「ここに俺たちがいるって事は、そういう事だろ。」
 ルシードは腰から銃を抜くとステランに向けた。
「手を上げて装置から離れろ。抵抗するなよ、あんたを撃ちたくねぇ。」
「ブルーフェザーか…。本当に人の噂とはいい加減なものだ。あなた方はたいしたものですよ。」
「ほめてくれてありがと。」
 一番すばしっこいルーティが右から回り込みながら答えた。
「ステラン、あんたが言ってた魔法で死を超越するてのはその装置のことなのか?」
「ええ、そうです。肉体の蘇生は完成しています。あとはメラニ−の魂を呼び寄せるだけです」
「やめろ、無理だ。魂を呼び寄せる魔法も確かに存在する、だが、それは一部を復元しているだけの偽者で、決して生き返ってる訳じゃないんだ。」
「ステランさん…。もう、あきらめてください。」
「いや…もう遅い。」
「あ?」
 ルシードの人差し指に力がこもる。
「装置は…すでに起動させました。あなた方がズィープルの相手をしている間にね…。」
「な…なんだと!?」
「…死者の眠りを妨げるなんて。やめてください、ステランさん…!」
「…ムダだ、フローネ。もうステランには…おまえの声も届いちゃいない…。自分自身を止めることが出来なくなっちまってるんだ」
 みなの視線が中央に安置された水槽に向く。いつの間にか水槽は淡く明滅を繰り返している。ブゥン… 装置が低い唸り声のような音を発し、視界が蜃気楼のように曲がりはじめる。
「な、なんだ…空間が…歪む!?」
「きゃあっ!?」
「さあ、再び私の前に現れてくれ。愛する…メラニー…。」
 ステランの声に答えるかのように光があふれた。 プシュゥゥゥ! 水槽が左右に開き中に入っていた培養液が床を濡らす。ビチャリとルシードの靴にも培養液がかかる。粘り気のある培養液は血液を連想させ胃を刺激した。

「ああ・・・、メラニ−」
 ステランが水槽の正面に立つと、水槽から女がフラフラと出てきた。儚げな目立たないタイプの美人といえる女。顔色は真っ白だが確かに歩いている。
 女はそのままステランに近づいて、縋り付くように抱きつく。
「メラニー、メラニ−」
 ステランも女をしっかりと抱き締める。
「え、あ。もしかして成功・・・」
「ウッソ、マジ?」
「うわっ、すっげー」
「まるで奇跡みたい。」
「・・・・・・」
 ブルーフェザーのメンバーも奇跡の成功に喜び、胸をなでおろした。しかし、
「う、うぅ」
「どうしたんだい、メラニ−。」
 女が苦しみだした。ステランが女の顔を覗き込もうと身を屈めると・・・
「う、ああああああ!」
 女が叫び声を上げ、ステランを押し倒した。そのままステランにのしかかり首に噛み付こうと口を開く。  パッン!  乾いた音と共に女の胸に穴が開いた。どす黒い液体が飛び散り、女の体がステランから離れると、さらに誰かが女を突き飛ばした。
「メラニ−!!」
「さがりなさい、アンタ」
 おもわず叫んだステランの服を掴み、強引にさがらせるバーシア。女を突き飛ばしたのはバーシアだったらしい。 パッン!  ルシードが発砲しながら前進する。弾丸が命中して女が仰向けに倒れた。
「ビセット、ルーティ、ステランを連れて行け」
 感情を押し殺した声でルシードが言った。
「ル、ルシード」
「でも・・・」
「これはもう・・・人間とはいえねぇだよ」
 女、かつてメラニ−と呼ばれていたものは、心臓を打ち抜かれ痙攣しながらも立ち上がろうとしている。
 これは黒魔術の類だ、そうルシードには見当がついた。まだ魔法がありふれていた時代においてすら、邪法とされ恐れられた死者を操る禁断の魔法。その中には蘇生魔法の研究途中に生まれ、あまりの禍々しさから敬遠され封印されてきた副産物や未完成呪文も含まれている。ステランの装置のもまた死を超える事は出来ず生きた屍を作り出しただけだった。
「はやくしねぇか!」
動けないでいる二人にルシードが怒鳴り声をあげる。
 ガチリ、ルシードは『死せるもの』の頭部に狙いをつけた。
「やめろ!」
 メラニ−がルシードの腕にしがみつきそのままもみ合いになる。その間に『死せるもの』は立ち上がりフラフラと周りの様子を窺って・・・。
「どけっ!」
ルシードがステランを突き飛ばすのと、『死せるもの』が飛び掛ってきたのはほぼ同時だった。打たれた人間とは思えないスピードで飛び掛られルシードは背中から倒れた。『死せるもの』は、ルシードに覆い被さり、押し退けようとするルシードの手を掴み。お腹をすかせた子供がフライドチキンを食べるかのようにガブリッと噛み付いた。
「―――ツ」
 肉の一部を噛み千切られ血が溢れ出してくる。ルシードは痛みのあまり持っていた銃を取り落とした。
「ルシード!」
 駆け寄ったバーシアに蹴り飛ばされ、『死せるもの』は、ようやくルシードから離れた。中間達がルシードと『死せるもの』間に割ってはいる。
「センパイ、傷を」
 フローネが回復魔法で傷を癒す。
「どうすんの、ルシード?」
「撃たれても平気って、結構厄介かもよ。」
 見ると『死せるもの』は、口と手についたルシードの血を舐めている。アンデット系の魔物に多いように吸血の習性があるのかもしれない。
「フローネ、ゾンビを倒すにはどうしたらいい?」
「映画と一緒です、頭を打ち抜くか、炎で・・・」
「なるほどね。ビセット」
「おう、フレイム!」
 ビセットの火炎により『死せるもの』が炎につつまれる。
「ギャッ」
 『死せるもの』は、悲鳴をあげると炎につつまれたまま一目散に逃げ出した。
「わ!」
「しまった!」
「たいへん、追っかけようルシード」
「当たり前だ。」
 が、ルシードの意志に反して膝から力が抜ける。手を着くこともままならず、無様にコンクリートが剥き出しの床に転がる。体が痺れて思うように動けない。
「なんだ・・・」
「センパイ、動かないで下さい。」
 フローネには心当たりがあるらしい。無線でゼファーと短くやり取りすると、ノーマライズの呪文を唱え始めた。
「フローネ、ルシードどうしちゃったの?」
「麻痺毒よ、ルーティちゃん。グールには爪と歯に麻痺毒があるの」
 フローネの魔法が聞き始めたのか徐々に麻痺が引き始めた。と、そのときステランが走り去ろうとした。
「おい、まてよあんた。」
 ビセットが逃がすまいと手を伸ばすと・・・  パッン!  ステランが銃を握っていた。保安局から支給されるタイプの回転式拳銃、いつの間にか拾い上げていたらしい。ステランは天井に向けていた銃口を、ガクガクと震えながらもこちらに向けた。
「すいません、皆さん。すいません。」
「ステランさん…!!」
「ありがとう…フローネさん。あなたには、申し訳ない気持ちで一杯だ。本当にすいません。ですが、どうかそこを動かないで下さい。」
 ステランの手は震えていて、今にも引き金を引いてしまいそうだ。数メートルも離れていれば当たりはしないだろうが、飛び掛るのは危険すぎる。ビセット達が動けずにいると、ステランは地下室から出た。
ビセットとルーティがすぐに追いかけたが付近の路地は入り組んでおりステランの姿は見当たらなかった。
「ゴメン、ルシード。」
「いや、仕方ねぇ。」
 まずい料理を食べさせられたような顔をした、ルシードは無線に向かって話し掛ける。
「おい、ゼファー。あのグールの行きそうな場所はわかるか?」



 開けっぱなしになっていた扉をくぐり、ブルーフェザーはゲールドの邸宅に入り込んだ。邸宅は以前訪れたときのまま家具が散乱していた。ゼファーによればグールは欠損している自分自身を取り戻すため、自分が死んだ場所や縁の深いところに戻るらしかった。そして、メラニ−・ゲールドのなくなった場所、ゲールドの邸宅たった今たどり着いた。
「ステランさんは?」
「さあな・・・」
「あ、ルシードあそこ!」
 ビセットの声につられて見ると、2階へと上がる階段の手すりに手形の血痕がついていた。
(俺に噛み付いたときのか・・・)
 ルシードは2階にも数部屋あることを思い出た、部屋を周っている内に逃げられる可能性もある。
「よし、二階に上がるぞ。ビセット、ルーティはここを固めておけ」
「わかった」
「うん」
「バーシアは、裏にまわってベランダから逃げられないように見張ってくれ、非常用の梯子があった筈だ」
「あいよ」
「フローネ、いけるな」
「・・・」
 フローネは黙って頷いた。



音を極力立てずに階段を上った二人は一番手前のドアを開けた。所狭と本が散らばっていたが、ステランは見当たらない。直ぐに次のドアに向かう。
(次は寝室か)
 ルシードが覗き込むと、ベットに背を預けるように数ヶ月前に死んだはずの女が寄りかかっていた。眉間には小さな穴。
ステランはその手前で仰向けに倒れている。こちらには見た目には外傷がない。
フローネが叫んで、駆け寄って抱き起こす。
「ステランさん!ステランさん!」
「落ち着け、眠っているだけだ。」
「あ」
 フローネが呼吸を確かめると規則正しい寝息を感じた、確かに眠っている。
「よかった、ステラ・・・ンさ・・・ん」
「おい、フローネ」
 フローネがパタッと横になり眠ってしまった。それに気を取られたルシードも突然睡魔に襲われた。
(これはスリープの魔法!息を吸うな!抵抗力を上げろ!)
 手で口元を覆い、ベランダを力いっぱい開けた。魔法の睡眠ガスを作り出すスリープの魔法はこれでやり過ごせるはずだった。極力息を吸わないように注意しながら身構える。魔法があるという事はソレを唱えたもの近くにいることになる。
「誰だ!出て来い」
「久しぶりですね、会いたかったですか?」
 ルシードは声に振り向き、そしてそのまま言葉を失った。いつの間にか寝室の出入り口に現れた女に目を奪われたのだ。黒髪を腰まで伸ばし、身にまとっている影の民の民族衣装が、全身から溢れ出す神秘的な雰囲気をいっそう強めている。ただ、ルシードの記憶にある彼女は自分にこんなに敵意を向けてきた事はなかった。しかし、ルシードは敵意を浴びながらも、彼女はこんなに小柄だっただろうか?と場違いなことを考えていた。こちらの呆気にとられた表情を見た女おかしかったのか女はニヤリと笑った。
「どうしました?感動の再会ですよ。もう少し喜んだらどうです?」
ようやく口が動きはじめる。
「感動の再会ね・・・、ああ、そうだな。俺にとっては、な」
「ええ、わたしはあなたをさほど必要とはしていません」
「なら、どうしてここにいる」
「それよ」
 女がスッと指差したのはメラニ−の死体だった。
「その失敗作の処分をしにきました。やはり、その男には撃てなかったので。覚悟が半端なんですよ」
 逆に食い殺されそうになっていたところを助けてやったと、女はおかしそうに笑いながら、右手に持った拳銃を振った。22口径回転式ステランが持ち去ったものだ。
「失敗作?てめぇ、ステランと組んでいたのか」
「それほど深い協力関係ではないです。ほとんど一方的に知識を分けてあげただけですからね。おかしいでしょう、魔法の素人がたった半年で蘇生魔法の真似事できるわけがありません」
「だが、協力者がいればそれも可能ってワケだ。ステランに知識を与えてなにをたくらんでいる」
「なにも・・・。ああ、しいて言えばあなたが望んだことよ」
「俺が望んだだと!ふざけるな!」
 相手を睨みつけ、力を溜める。
「やめましょう。わたしには争う理由がありません」
「そっちになくても、コッチにはあるんだ!」
『デットリー・ウェッジ』
 溜め込まれた力が無数の紫色の楔になり女に襲いかかる。が、 女が軽く手を振っただけで、ジュッと音を立てて楔が消えた。
「・・・!?」
「無駄です。忘れましたか?影の民は浄化能力に優れているのですよ。負の波動などこのとおり・・・」
「チッ!」
「こうなっては、しかたありません、今度はこちらから・・・」
 身の危険を感じてさがり、自分に迫ってくる紫色の楔を見たのを最後にルシードの意識は途切れた。




「覚えていない?」
「ああ、ステラン・ゲールドはそういっていた」
 一週間後、ブルーフェザー事務所でルシードとゼファーはそんな会話をしていた。女の楔をくらい、気を失ったルシードが目を覚ましたのは数分後だった。女の姿は既になく、ルシード宛のメセージが残されていた。ルシードが他のメンバーを起こし(ビッセット達も眠らされていた)ステランを起こし、そのまま身柄を確保した。目を覚ましてもステランは再び妻を失ったショックで、数日間何一つ語らなかったが、主にフローネの働きで少しずつ事件の真相を語りだした。
「まさか、ステランの協力者が直接言ったんだぞ。ステランに魔法の知識を与えたのはわたしだって」
「説明が足りなかったな。ステランが覚えていないのは、その人物の個人情報だ。」
「あ?」
「協力者がいたことは覚えているそうだが、何処であったかどのような人物であったかは不明との事だ。」
「どうゆうことだ?」
「魔法かあるいは催眠術で記憶を操作されたと考えるべきだ」
「なるほどね。抜け目のねぇヤツ」
「・・・ルシード」
「あん」
「ステラン・ゲールドの協力者は細身の影の民だったな?」
 ゼファーは静かにこちらを見つめていった。ルシードも何もいわずに頷いた。無意識にルシードの手はコートのポケットを触っていた。
「彼女か」
「ああ」
ポケットの中、小さなメモ用紙には荒々しい筆跡でステランの協力者からのメセージが書かれている。

『捕まえてみせなさい。ルシード・アトレー』





後書き
 最後まで、読んでいただいた方、ありがとうござました。作者です。
 「死に抗う」テーマ重。まあ、4C-2初プレイ時のステランの質問に答えは、死とは絶対的なものなのでしょうか? 同意  魔法で死を超越する。「…どうだろうな?」てな、答えをした覚えがあります、作者自身はこの手の問題は考えるだけ無駄と考えています今のところ。幽霊や悪霊は見た事ありませんし、霊という存在があったとしてもそれはあくまで人の残骸。遺髪や遺品のたぐいと考えて丁重に葬る程度の対応でいいんじゃないかなと思っています。(ルシードは誠意を見せすぎ)
それにしてもステラン氏、4C-2の時点で立ち入り禁止区域への不法侵入、業務上過失傷害、公共物破損・・・結構悪党じゃない?この人。
それでは機会がありましたらまた私の駄文にお付き合いください。最後にもう一度、皆さんありがとうございました。

2007年 原作 悠久幻想曲3 PerpetualBlueより  「悠久自由曲PB 死に抗う」 蟲田
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