中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第一節『発端』
風倉天覇


そこはエンフィールドと言いました


その街はかつて栄えた王国の首都、そして王都の衛星都市として有名な街でした


しかし、五十年前に起きた戦争


そう、『大陸戦争』の際に王都や他の衛星都市諸共魔法兵器により消滅しました


しかし、人々は、エンフィールドを愛した人々はその街を再び作り上げました


前のエンフィールドと比べ物にならないくらいにまで大きくしました


その街の中で私たちは今を生きているのです―

                             『エンフィールド史 序文』




悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第一節『発端』





「・・・・・・・・・はぁぁぁ・・・」
そこはエンフィールドの西南にある自警団の事務所。
正確にはその地下の牢獄であった。
「退屈だぁぁぁ・・・・」
青年は牢獄に設置されている椅子に寝転がり、
天井を焦茶色の瞳で見ながらヤル気なさげにため息をつく。
それもそのはず。
青年は窃盗で捕まり、この牢獄に放り込まれたのだ。
しかし、青年は窃盗などしていない。
それは真実だ。
だが、この街の美術館、フェニックス美術館で窃盗事件があったのもまた真実だ。
「しっかし・・・何でやってもないような事で捕まらなきゃいけないんだよ・・・はぁぁぁ・・・・・・」
青年は腹部の上に乗せるように置いてあった手を頭まで持って行き、
その手で青年の茶色の髪を梳く。
「本当に誰だよ・・・わざわざ俺の部屋に盗んだもん置いてくような物好きは・・・」
そんな風に愚痴を零している時、一人の来客が来た。
来客は黒髪、黒瞳、ほうき頭で背が高く、顔は質実剛健を思わせるが、ほのかに化粧の香りがした。
青年は来客を見て顔を歪める。
「んぁ・・・んだよ、アルベルトか・・・・・・ちっ、煩いのが来たな・・・」
「誰が煩いって?」
来客―アルベルトはその鋭い眼で青年を睨み付ける。
「んなもんお前に決まってんだろうが」
「んだと!?」
アルベルトは手にしていた槍を青年に向け構える。
「ばーか、牢屋の中に入ってる奴に槍構えるか、普通?」
青年は相手を馬鹿にしたような、否、馬鹿にした笑いを浮かべながらアルベルトを挑発する。
「こんのっ・・・・・・!」
アルベルトは激昂し、鉄格子さえなければ今にも青年に襲い掛からんとせんばかりの勢いだ。
「へっ、どうせ俺を馬鹿にしに来たんだろ・・・でも、お前の方がよっぽど馬鹿だと俺は思うけどな」
しかし、その勢いは急速に収まってゆく。
「ちっ、今回はそんな事で来たじゃねぇよ・・・」
するとアルベルトは腰についている鍵の束を取り、牢屋の鍵を外し、扉を開けて一言―
「おら、外に出なルーカス」
青年―ルーカスはその一言に一瞬だけ驚き、次の瞬間立ち上がって―
「・・・俺の無罪が証明されたのか!?」
嬉しそうな大声でアルベルトに向かって言った。
だが、アルベルトの対応は―
「ちげぇよ、ばーか―」
そして
次のアルベルトの一言で
ルーカスは表情を一変させた。
「―だけど、何でアリサさんはこんな奴に保釈金なんか・・・・・・」
「アリサさんが・・・?」
そして、次の瞬間アルベルトはルーカスの胸倉を掴んで―
「良いか、ルーカス・・・もし、もしもだ・・・アリサさんに何かあってみろ・・・その時は・・・お前を殺す!」
アルベルトはルーカスを見下ろすように(背丈的には見下ろしている)言った後、背を向けた。
ルーカスは数瞬の間その場で硬直していたが、すぐに気を取り戻すと外へと走っていった。


「アリサさん!」
ルーカスは外に出て自分の命の恩人を見つけると、その人の名前を呼び、
そしてその人の許まで駆け出す。
そして、目の前まで来ると―
「アリサさん、アルベルトが言ってたけど・・・保釈金ってどういう事ですか!?」
ルーカスはアリサの肩を掴み、聞こうとする。
しかし―
「ルーカスさん、そんなに強く掴んだらご主人様痛がるっス!」
アリサの足元にいる魔導生物がルーカスに向かって言う。
「あ・・・すみません、アリサさん・・・」
ルーカスはバツの悪そうな顔をしながらアリサの肩から手を離す。
「良いのよ、ルーカスクン・・・」
アリサは微笑を浮かべる。
「そ、それよりアリサさん、あの、保釈金ってどういう事ですか!?
それにその保釈金って一体どんぐらいなんすか、その保釈金って?」
ルーカスはそれを聞こうと躍起になった。
何せ、ジョートショップはお世辞にも景気がいいとは言えず、
ルーカスが来るまでは開店休業状態だったと言っても過言ではない。
しかし、そのルーカスが来た所で結局の所食い扶持が増える訳でもあるから
今までも何とか食べて、それでほんの少しだけ余裕が生まれる状態だったのだ。
「それなんだけど・・・・・・」
アリサは表情を曇らせ、口ごもってしまう。
そんなアリサに代わってアリサの足元にいる魔導生物―テディが答える。
「ご主人様はルーカスさんの保釈金の10万Gを
ジョートショップの土地と建物を担保にしてお金を借りたっス!」
「な・・・・・・!?」
ルーカスはその言葉に唖然とした。
「ごめんなさい・・・でも、ルーカスクンを保釈するにはどうしても10万G必要だったから・・・」
「俺の為って・・・それより、10万Gなんて大金返す当てとかあるんですか!?」
「ルーカスクン、それなんだけど・・・」
「あるんですね?」
アリサは頷くとルーカスに説明を始めた。
「さっきお役所の人に聞いて来たんだけど・・・
一年以内に、住民の大多数の支持を集めると、再審を請求できるんですって」
「再審ですか・・・?」
「えぇ、しかも、それで無罪になれば、保釈金も返還されるのよ」
それを聞いてアリサの足元にいたテディは嬉しそうな声で言う
「さすがご主人様!頭いいっス!」
だが、そのアリサの返答にルーカスは―
「で、でも、もしそれで支持を得られなかったり、
再審で有罪だったりしたら・・・その時はどうするんですか?」
「ど、どうするっスか、ご主人様?」
テディも先ほどとは打って変わって不安な声でアリサに聞く。
「その時は・・・その時に考えればいいのよ」
「で、でも・・・」
「土地のことは本当に気にしなくていいの、
あなたが来てくれなければ・・・・・・お店はとっくにつぶれちゃってたでしょうから・・・ね」
「アリサさん・・・」
ルーカスは半ば涙目になる。
そして―
「分かりました、やりましょう!」
ルーカスは拳を作りその拳で涙を拭い決意する。
「でも、何をやるんスか?」
そのルーカスの足元でテディが不安そうにルーカスを見る。
「何をって、ジョートショップ以外に何があるんだよ?」
そう言いながらテディを持ち上げるルーカス。
「ジョートショップをっスか?」
「そ、今のジョートショップは休業状態だからな・・・
それを繁盛するまで持ち上げれば俺の信用はアップ、
おまけに金も入るって寸法さ・・・いい案でしょ、アリサさん?」
ルーカスはテディを頭の上に乗せ、アリサを見る。
そしてアリサは―
「えぇ、その手で行きましょう!」
微笑みながらルーカスの案に太鼓判を押した。





「で、まず始めに店員探しだな」
「店員探しっスか?」
アリサと別れたルーカスはテディを頭の上に乗せたまま街を歩いている。
「俺一人じゃ出来ることに限りがあるしな」
「でも、家にそんな余裕あるんっスか?」
「一応な・・・まぁ、そうは言ってもたくさん余裕ある訳じゃないし・・・
店員を雇ったとしても3、4人が限度かな」
「そうなんスか・・・・・・で、誰を雇うっスか?」
「ん・・・取り合えず男手がいる・・・そんでもって俺が足で使えるような奴・・・」
そう言いながら辺りを見回すルーカス。
「・・・・・・そんな都合の良い人っているんスか?」
「ん〜・・・一応心当たりは―って、居た居た!」
ルーカスは一人の青年を見つけると彼の方へと小走りで行く。
「おーい、アレフー!」
青年―アレフは小走りで寄ってくるルーカスに気付く。
「よぉ、ルーカスじゃないか、何だ、脱獄でもしたのか?」
アレフは笑顔でサラッと失礼なことをルーカスに言う。
そして言われたルーカスはというと―
「はははー♪」
  ドギュンッ!!
幕ノ○一○並みのリバーブローをアレフに撃ち込む。
「げぶっ!?」
アレフは余りの痛さに膝を付き、屈み込む。
「阿呆、俺がそんな事するとでも思ったか?」
拳を握りアレフを睨み付けるルーカス。
「すると思ったから言ったんじゃないっスか?」
その頭の上で余計な事を言うテディ。
  ベシッ
そんなテディをルーカスは叩き落とした。
「痛いっス・・・」
テディは地面に蹲って鼻を押さえている。
「うるせぇ」
「うぅ・・・で、俺に何か用なのか?」
アレフは腹部を抑えながら立ち上がり、ルーカスに話しかける。
「うむ、非常に重要な話があってな・・・・・・」



「つまり、一年以内に再審が行われなかったり有罪になったりすると―」
「俺は終身刑か追放、アリサさんは路頭に迷う、って事になっちます訳でさぁ」
ルーカスは道の脇でアレフにこれまでの事情を事細かに話した。
「そうっス、ご主人様が路頭に迷うことになるっス!」
テディが少し大きな声でアレフに言う。
ちなみにテディは既にルーカスの頭の上だ。
「うーん・・・お前の事は別にしても、アリサさんが路頭に迷う事になるのは俺として許せんなぁ・・・」
「と、言う事は?」
「よし、その話、協力してやろうじゃないか!」
「恩に着る!」
ルーカスはアレフの手を両手で握る。
「その代わり、今度女の子紹介しろよ♪」
「・・・・・・あははー♪」
その直後、先程と同じような音がその場に響いたのは言うまでもない。





「さてと・・・次はだね・・・」
「誰を誘うっスか?」
ルーカスの頭の上に乗っているテディがルーカスに聞く。
「ん・・・取り敢えず男手は確保したから・・・ん〜・・・」
ルーカスは頭を捻りながら考える。
「考えてなかったっスか?」
「・・・テディ、もう一回落とされたいか?」
「え、遠慮するっス!」
「で、本当にどうするんだ?」
テディとの一連のやり取りを見ていたアレフがルーカスに話しかける。
「ん〜・・・どうすっかな〜・・・」
再び頭を捻るルーカス。
しかし、それを邪魔する音が―
  グゥ〜ッ
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その場を静寂が包む。
「取り敢えず・・・飯にするか」
ルーカスのその一言に一人と一匹は頷き、この街唯一の酒場兼宿屋であるさくら亭に入っていった。



  カランカラン
「いらっしゃい、アレフ、テディ!」
さくら亭に入ると、まず一番最初にさくら亭の看板娘であるパティが挨拶をする。
そして、それに笑顔で返す。
「よっ、邪魔するぜ」
「お邪魔するっス!」
「・・・・・・おい」
ただ一人、挨拶されなかったルーカスを除いて。
「何、あんたもいたの?」
「テディに挨拶する時点で気付くだろ、普通?」
「はいはい、分かった分かった」
その対応に少しムッとするルーカス。
だが、それは抑える。
2人はカウンターに座り、奥にアレフ手前にルーカスと言う形だ。
テディはルーカスの頭の上から降り、カウンターの上に座る。
「・・・・・・まぁ、良い・・・取り敢えず俺は・・・サンマ定食」
「俺はそうだな・・・日替わり定食を」
「僕はサンドイッチが良いっス!」
「はーい、ちょっと待っててね」
各自の注文を受けたパティが厨房へと入って行く。
「で、どうするんだ?」
アレフがルーカスの方を見る。
「ん〜・・・どうすっかな〜・・・」
先程と同じ台詞を吐きながら唸るルーカス。
そこに―
  カランカラン
ルーカス達がさくら亭に入ってきた時と同じ音がした。
ルーカス達が入り口に目をやると、そこには―
「おや、ぼうやとアレフじゃないか?」
「ふみぃ〜、こんにちわぁ」
そこにはさくら亭に寝泊りをしている腰にナイフを差した女戦士と
酒飲みで可愛い物好きのライシアンの家に世話になっている猫耳少女の姿。
「よぉ、リサにメロディとは・・・これまた珍しい組み合わせだな」
女戦士―リサは苦笑する。
「公園で散歩してたんだけどね・・・メロディがここに用があるって言ってたから・・・付いて来ただけさ」
「メロディは・・・由羅の酒か?」
「うん、おねーちゃんのおさけを買いに来たの」
「・・・・・・まったく、あの飲兵衛は・・・はぁ・・・」
ルーカスは呆れた様にため息をつく。
「ま、確かに由羅は呑み過ぎの気があるけどね・・・」
そう言いながらルーカスの隣に座るリサ。
そのリサの隣にメロディが座る。
「なぁ、ルーカス」
「ん、何だアレフ?」
「折角だし、リサを誘ったらどうだ?」
「ん〜・・・そうだな・・・リサか・・・悪くはないな・・・」
「ぼうや、何の話をしてるんだい?」
リサがアレフと話をしているルーカスに問いかける。
「ん、実はだな―」



「つまり、一年後に有罪になったり、再審事態が行われなかったら?」
「そ、俺は終身刑か追放、アリサさんは路頭に迷う・・・そんなのは流石に勘弁、って訳」
ルーカスは目の前に置かれたサンマに箸を伸ばしながらこれまでの経緯を話した
「それは流石にほっとけないねぇ・・・」
「それじゃあ・・・!」
ルーカスは箸を止め、リサを見る
「よし、協力してやろうじゃないか!」
「ありがとう、リサ!」
箸を置き、リサの手を握るルーカス
「お、おい、ぼうや」
その対応に少しだけ頬を染めるリサ
「ルーカスさん、これで二人目ですけど・・・三人目はどうするっスか?」
パンの破片を口の周りにつけたテディがルーカスに問いかける
「ん・・・そうだな・・・」
ルーカスはリサの手を離し、テディを見る
「ん〜・・・あたしも協力してあげたいのはやまやまだけどな〜・・・」
カウンター越しにいるパティが少し唸りながら頭を抱えている
「パティはここがあるから無理、って所だろ?」
「そういう事・・・でも、こっちが忙しくなかったり、休みだったりする時で良かったら手伝うわよ?」
「良いのか?」
「えぇ・・・でも、アリサおば様の為に手伝うんだからね、勘違いしないでよ!」
「それで十分だって」
ルーカスはニッとした笑みを浮かべる
「で、本当にどうするんだ?
パティの協力はあってもこっちが忙しいくない時ったって、そっちの方が少ないと思うぜ、俺は?」
そこにアレフの鋭い意見
「確かにそうなんだよ・・・どうすっかな・・・?」
「ねぇ、ルーカスちゃん」
頭を悩ますルーカスにメロディが声をかける
「ん、どうしたメロディ?」
「メロディもルーカスちゃんにきょうりょくしたいのだぁ!」
「メロディが・・・?」
ルーカスは箸を止め、熟考し始める
「おい、ルーカス・・・流石にメロディはやめたほうがいいんじゃねぇか・・・?」
「そうだね・・・メロディには悪いけど・・・・・・」
アレフとリサがルーカスに耳打ちする
「うーん・・・・・・」
ルーカスは更に頭を悩ませる
しかし―
「ふみぃ・・・だめなのぉ・・・?」
メロディの涙目を見たルーカスは―
「OK」
即断した
「ふみゃあ〜♪」
メロディは喜び、飛び上がる
しかし、ルーカスの隣に座っているリサとアレフはルーカスを問いただそうとする
「な、ルーカス!?」
「ちょ、ぼうや!?」
「いや〜・・・・・・メロディにあんな目されたら・・・・・・ねぇ?」
バツの悪そうな顔をするルーカス
リサとアレフは目を少しの間合わせた後、ため息を付いた
「まぁ・・・ぼうやが決めた事だし・・・良いか・・・」
「そうだな・・・・・・」
「ま、兎に角・・・これから迷惑かけるが・・・よろしくな、皆」
微笑みながら周りを見る
「ま、頑張ってやるよ」
「暇な時だけだけどね・・・私は」
「ま、頑張ってやるよ」
「ふみぃ、がんばるのだぁ〜!」
皆が笑顔で肯く






そしてここから悠久なる交響曲が始る・・・
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